日本の過疎地を救う「ドバイ化」の具体案
プレジデントオンライン / 2018年5月8日 9時15分
*本稿は、玉川陽介『常勝投資家が予測する日本の未来』(光文社新書)の一部を抜粋・再編集したものです。
■地方が生き残る唯一の方法
日本の過疎地は、インフラを整備し、町おこしをして集客し、都市化することを考えている。目指すゴールは東京や大阪か。もしくは、人口を増やして県庁所在地の地位を得ることか。
しかし、未来を真剣に考えればそうすべきではないのは明らかだ。過疎地は、東京ではできない先進的な取り組みを実験するフロンティア地域となるべきだ。テクノロジー、金融、社会システムなど多くの領域で、過疎地をサンドボックス(実験場)化して、未踏の新規事業を推進する。経済的に自立できるシステムは何でも試すことができるようにしたらいい。一方、問題が起きたらすぐにやめればいい。
なぜ地方や過疎地がそれに適しているのか。過疎地で展開すべき挑戦的なプロジェクトとは、マック・ブックひとつでできるような、ちょっとしたウェブサイトやコミュニティの立ち上げではない。条例、村役場のデータ、交通規則、電車やバス、空港の運用、田畑の使い方、建築の許認可のような社会システムを単一の事業者にゆだね、すべてを改革するような大がかりなプロジェクトだ。新しい国をひとつ作るような試みだといっても過言ではない。
これを東京でやろうとすれば不可能なことは容易に想像がつく。東京や大阪の街を大規模に巻き込んだ実験で失敗が続けば、多くの問題がある。だが、過疎地で宅配ロボットを走らせ、自動運転の実験道路を整備し、バイオマス発電所を建設し、無人の村役場を作ってみるなどは可能だろう。
過疎地には高齢者も多くいるため、ヘルスケア事業には欠かせない健康管理データを、大量に取得することもできる。個人情報の扱いについても例外を定めればいいだろう。過疎地に限り、外国人はビザなしで誰でも住めるようにしてもよい。ただし、地方を外国人に占拠されないよう、土地や会社は日本人の所有に限るべきだ。
このように、私企業主導でミニ国家を許可するならば、世界中から都市計画のプロポーザル(競争入札における計画の提案書)が集まるだろう。これは、まったく非現実で検討に値しない話だろうか。
■砂漠を大経済都市に変えた海外の成功事例
実は海外では、このような試みはすでに多く行われている。
アラブ首長国連邦(UAE)にはマスダールシティという、砂漠の真ん中に突如として現れた実験都市がある。これは、ゼロエミッション・シティ(廃棄物の出ない街)を標榜し、地域内のエネルギーを循環のみで持続可能な街を建設するという挑戦的な試みだ。
中東の石油依存の構造を考えれば、石油を燃やさずに持続可能な街が成立することを証明できれば、それは画期的な実験成果だ。現場には、膨大な数の太陽光パネルが設置され、また、風通しを考えた建物の設計をすることにより避暑効果を得るなど、環境に配慮した街並みとなっている。
ほかにも中東には、ドバイ、YASアイランド(アブダビ)など、革新的な国策開発プロジェクトが多くある。例えば、ドバイでは、巨額の石油マネーで砂漠を新規開発し、まったく何もない場所から中東地域のハブとなる大型都市を作り上げた。すべての施設は「世界最大」と「世界最高」にこだわり、世界の人々を魅了するために作られたものだ。その結果、多くの人が住み、毎年、日本のインバウンド外国人の数倍もの観光客が訪れ、商業が活性化することとなった。何もない砂漠を大規模な経済都市に「用途変更」したために、無価値であった砂漠に、東京・港区を超える地価が付くことになったのだ。
ギャンブルの禁止されている首長国ドバイだが、このプロジェクト自体が国の存亡を賭けた大博打(ばくち)だったはずだ。2009年のドバイ・ショックでは、一度、その賭けに負けたともいえる。しかし、最終的には持ち直し、石油の枯渇による経済崩壊を避けることができた。そして、今後は、自ら開発した不動産の大家さんとして、世界中のビジネスパーソンから家賃と施設利用料を徴収して生き続けることとなったのだ。
このビジネスモデルは、「丸の内の大家さん」こと三菱地所グループを見ても分かる通り、非常に手堅く、継続性の約束されたものだ。ドバイは成功を収めたといえよう。
■第二のドバイを目指すマレーシアの国境都市
アジアでも各国の挑戦は続いている。マレーシアにはイスカンダル・プロジェクトという壮大な開発計画がある。同プロジェクトではマレーシアとシンガポールの国境都市・ジョホールバルに、シンガポール並みの先進的な都市を創ることをテーマに掲げている。
マレーシアのもくろみはこうだ。現在のマレーシアは、沿岸部の場所貸しと、機器の組み立て、事務作業など低レベル労働の請負でちょっとした外貨を稼いでいる。しかし、この労働集約型ビジネスモデルには限界を感じており、石油や森林資源が豊富にあるうちに、コンテンツやメディアなど、知識集約型産業に経済構造の転換を図りたい。そのために、映画の撮影スタジオなど知的産業系の施設を政府の肝いりで建設した。外資も説得して、レゴランド、サンリオ・ハローキティタウンなどを誘致した。
しかし、このプロジェクトは仕切りが悪かった。おおよそすべてが当初のもくろみ通りにはいかなかったため、現在は作戦を変更。リタイアしたシンガポール人や中華系移民を受け入れて人口と消費を増やし、マレーシア経済を少しでも活性化させることを目的とすることに変えたように見える。アジアでは人口を増やすことが手っ取り早く経済を活性化する切り札だと信じられている。それに沿ったリカバリ・プランだろう。
では、リタイアした移民をどのような仕組みで受け入れるのだろうか。移民に慣れない日本の読者には説明が必要だろう。実は、中国人の多くは、資金さえ許せば中国よりも空気がきれいで生活の質が高い、国外で老後を迎えたいと考えている。中国のアッパー・ミドル層では、超富裕層しか受け入れを許さないシンガポールには手が届かなかった。その点、マレーシアは地理的にも近く、予算感も手頃であり、彼らにとっては「手の届く」老後の移住先なのだ。
イスカンダル・プロジェクトは、当初に描いた青写真のような華々しい完成を迎えることはないだろう。開発規模は大幅に縮小されるに違いない。それでも、移民受け入れプロジェクトとして開発が進んでいる「フォレスト・シティ」のように、好景気のシンガポールや中国からあふれ出た、人や金を受け入れるという目的においては、一定の成功を収める可能性はあるだろう。
これらの国策プロジェクトのように、日本にも世界に向けて発信できる夢のある先進的なプロジェクトが必要だ。日本の過疎地にはドバイのような挑戦が必要なのだ。
■日本の成功例、八郎潟プロジェクト
実は、日本でも昭和の時代には、過疎地発の画期的なプロジェクトが存在した。秋田県の八郎潟干拓は日本の産業史のなかでも面白いプロジェクトだ。教科書にも載っている通り、広大な湖を埋め立てて、田んぼを作り、あきたこまちの大規模生産工場にした。日本各地でほそぼそと行われている小規模な稲作は効率が悪い。広大な農耕地を大型機械でサクサクと耕作して、日本人の主食を効率良く大量生産しようというプロジェクトだ。
初期は、県外から入植者を募ったそうだ。というのも、八郎潟近辺にもとより住んでいた農家は、地盤の悪さを懸念してか、あまり興味を示さなかったらしい。筆者の空想にすぎないが、第1団が挫折したディストレスト(行き詰まったプロジェクトの経営権など)を安く拾った地元民もいたのではないか。昔から、情報の非対称性とディストレストは利益の源泉だ。
さて、県外から一攫千金を夢見て新天地に入植した移民たち。地元民の予想通り、最初は苦難の連続だったようだ。だが、国からは1ユニットあたり15町歩という広い耕作地を与えられ、15年ほど地代を払い続ければ土地は自分のものになるという「おいしい」約束もあった。
これが現在では、1ユニットあたり年間売り上げ2000万~2500万円、手取りは1000万円にもなる高利回りの耕作地に化けている。さらに、いまこの土地を売れば1億円を超える現金を得ることもできる。大潟村の所得や資産は、東京の高級住宅街にも匹敵する。そのため、村の家々は広くてこぎれいで、たまには高級車が駐まっていることもある。
大潟村の干拓記念館には、その成功への軌跡が展示されている。昭和の高度経済成長期までは困難が続いたプロジェクトであったことが読み取れるが、平成元年くらいからは村にエンターテインメント施設を増やすなど、計画に余裕が見られる。また、1997年(パソコン黎明(れいめい)期)には、すでに村に独自のインターネット網が導入されたようだ。この頃には、すでに予算が余っていることがうかがい知れる。干拓プロジェクトは利益超過となり、昭和のうちに成功を収めて現在に至るわけである。
■経済合理性で人は移動する
このような魅力的な国策プロジェクトを再び地方が作るべきである。東京から引っ越してでも勝負したくなるような挑戦的プロジェクトを地方経済の原動力にできれば、それが一番良い。
人は経済合理性のある選択肢を選ぶ。儲かりそうな話が転がっていれば東京からも多くの人や企業が拾いに来るだろう。現在、隆盛を極めるビットコインを採掘するためにコスト(電気代)の安いアイスランドまで行く、という話すらある。ビットコインなどよりも、地方創生プロジェクトに投資妙味があると思えればいいのだ。福島の復興しかり。地方はすぐににぎやかになる。
なぜ八郎潟時代の昔の日本人にはできたことが、いまの日本人にできなくなってしまったのだろう。「結果平等」「少数意見より多数決」「戦わない」「博打を打たない」「コンプライアンス」。このような社会の常識ともいえるキーワードを再考するときが来ているのかもしれない。
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1978年神奈川県大和市生まれ。学習院大学卒。学習院さくらアカデミー講師。大学在学中に統計・情報処理受託の会社を立ち上げ、28歳のときにM&Aにより上場会社に売却。その資金で世界の株式、債券、不動産などに投資する個人投資家となる。世界20カ国以上で銀行と不動産市場を調査し、経済誌などへの執筆も行う。主な著書に『不動産投資1年目の教科書』(東洋経済新報社)、『Excelでできる不動産投資「収益計算」のすべて』(技術評論社)などがある。
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(コアプラス・アンド・アーキテクチャーズ代表取締役 玉川 陽介 写真=iStock.com)
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