世界で最もヤバい起業家の「投資7か条」
プレジデントオンライン / 2018年5月21日 9時15分
※本稿は、トーマス・ラッポルト『ピーター・ティール 世界を手にした「反逆の起業家」の野望』(赤坂桃子訳、飛鳥新社)の一部を再編集したものです。
■「成功は運か実力か」論争は無意味
ピーター・ティールの成功はまぐれなのだろうか? たまたま幸運だっただけでは?
毎度おなじみの「成功は運か実力か」論争は無意味だとティールは言う。たとえばフェイスブックの成功が運か実力かを確かめるには、1000とおりの条件でフェイスブックを創業し、それが何度成功するかを実験しなければならないからだ。言うまでもなくそんなことは不可能だ。
■その1:徹底的に絞りこめ
スタートアップ投資家の多くは、いわゆる「スプレー・アンド・プレー」戦略をとる。つまり「じょうろで水を注いで(スプレー)、あとは祈る(プレー)」だけだ。投資先と創業者をよく知らないのにむやみにカネをばらまき、そのどれかが芽を出して、全ポートフォリオの利回りが上向くのを祈っているのだ。だがそれでは宝くじを買うのと同じで、創業者と投資家の双方にとって害だ。ピーター・ティールにとってそれは無能の証しである。
ティールのVCであるファウンダーズ・ファンドのポートフォリオは、5件から7件の投資案件で構成されていて、他のVCとは比べものにならないほど少ない。しかもその投資先は「数十億ドル規模」に成長する可能性がなければならない。それがティールの考える投資だ。
彼は『ゼロ・トゥ・ワン』で自分の投資体験について述べている。
「2005年に組んだファンドの中で最高の投資となったフェイスブックで、僕らは他のすべての案件の合計よりも多くの収益を得ました。2番目によい成果を上げたパランティアへの投資では、フェイスブック以外のすべての案件の合計を超える収益を得ています」
ティールは、創業者とビジネスモデルを評価できる少数のスタートアップに絞り、そこに集中的に投資している。
このやり方は伝説の投資家ウォーレン・バフェットと同じだ。バフェットも多角化をよしとしない。ある企業のやり方が納得のいくものであれば、彼はその企業を中心にポートフォリオを組む。バフェットも、すぐれたポートフォリオは10銘柄以下で構成されるべきと考える。20以上の銘柄を組み入れたポートフォリオをバフェットはハーレムにたとえる──こうなると一つ一つの銘柄(女性)をよく知るのは不可能だからだ。
■その2:守備範囲を固めろ
投資は自分が本当に理解できるものに、現地の事情を知りつくしている場所でだけ行うこと──これもバフェットの鉄則だが、ティール同じ原則で行動し、しかもさらに範囲を絞っている。彼は2011年にスタンフォード・ロイヤー誌のインタビューで、半径20マイル(約30キロ)の範囲を検索すれば、5割のヒット率で最寄りの有望テクノロジー企業を見つけられるはずだと発言している。
ここで見逃せないのは、彼が言う半径範囲の中心はシリコンバレーであり、スタンフォード近辺だということだ。ティールにとっては、このエリアはソーシャルネットワーク効果がうまく機能している。シリコンバレーでは主要な全プレーヤーが非常に狭いエリアで互いにつながっている。ティールはそれを投資に活かした。他の多くのシリコンバレーのファンドも、半径100キロ以内で投資している。企業と創業者をつねに視界に入れ、無駄な移動で時間を浪費しないためだ。
逆にティールは、中国のような国々への投資は、どれほど魅力的であっても断っている。現地事情に明るくないからだ。
■その3:長期的視点を持て
ティールにとって、世界をゼロから1に変える投資は、新しい何かをつくりだすための前提だ。伝統的なリスクキャピタル業界がだめになった理由も、実はここにある。
![](https://president.jp/mwimgs/6/9/200/img_6906ed8528bab81b9470282bed5e8d3028138.jpg)
この10年間というもの、多くのリスクキャピタル企業は投資でプラスの利益を出せなかった。たいていの投資家は、イノベーションが少ないとこぼしつつ、真のイノベーションを避けて通っている。安全な馬にまたがって、二番煎じのカメラアプリやSNSに投資しているのだ。
だがこうした模倣製品からは、高い利回りは期待できない。それに対してティールのファウンダーズ・ファンドは、会社が軌道に乗るまでに数年かかるが、もし成功すれば非常に大きな価値を発揮する会社に賭ける。
真のイノベーションだけが投資の成功をもたらす。だが、イノベーションには時間がかかる。だからティールのようなベンチャーキャピタリストは、投資した企業がその強みを十分に発揮できるようになるまで、何年もがまんして待つ必要がある。
■その4:隠されているドアから入れ
ティールは逆張り屋を自認しているばかりでなく、実際そのように行動している。ドットコム・バブルがはじけた直後の2004年という最悪のタイミングで、エンドユーザーを対象にしたBtoCのインターネット企業フェイスブックに投資したのがいい例だ。
2004年にティールが立ち上げたデータ解析企業、パランティアの創業時も、当初は実質的に自己資金だけではじめなければならなかった。他のベンチャーキャピタルは、BtoBで、しかもCIAをはじめとする閉鎖的な政府機関と取引をしようというインターネット企業に将来性があるとは考えなかったからだ。ティールは2度にわたってベンチャーキャピタルの常識をくつがえしたことになる。
現在フェイスブックの企業価値は数千億ドルで、世界トップ10にランクイン。パランティアの企業価値は200億ドルに達しており、シリコンバレーの非上場企業のトップ3に食い込んでいる
トレンドとは逆に投資し、すぐれたイノベーションを認め、適切なタイミングを見定めることでしか、法外な利益を上げることはできない。隠されているドア、脇にあって誰も入ろうとしないドアから入れとティールは言う。人が殺到しているドアは避けよう。
ちなみにこの点もバフェットと同じだ。「他の人間がパニックに陥っているときに買い、他の人間が貪欲になっているときに売れ」──バフェットのシンプルな公式である。多くの投資家はその逆の行動に出て、最高値で買い、パニックになって底値で売る。バフェットは2008年のリーマンショック時のように、市場が崩壊しているときこそ積極的に行動に出る。
■その5:バズワードを避けろ
スタートアップとベンチャーキャピタルの世界は、「破壊的」「バリュー・プロポジション」「パラダイムシフト」といったバズワードであふれている。ティールはこうしたバズワードを、ポーカーの「テル」を例に引いて説明する。
テルとは、プレーヤーの行動の変化や癖のことだ。それを見て、プレーヤーの手持ちの札を想像することもできる。手練のプレーヤーは、これを逆に利用してブラフをかける。バズワードを多用して煙に巻く連中がいたら要注意で、すでに類似のテーマを手がけている人間が背後に大勢いると考えていい。
ティールは将来のトレンドについて質問されることを嫌う。自分は予言者ではないし、そもそもトレンドというものは過大評価されていると彼は言う。バズワードを連発する人間に会ったらさっさと逃げたほうがいい。賢い投資家は自分だけの羅針盤を持っていて、万人が認めるメインストリームからは距離を置く。
■その6:自分の足で立て
2002年にペイパルをイーベイに売却して、ティールは5500万ドルを手にした。文字どおり一夜にしてリッチになったわけだが、シリコンバレーではよくある話だ。ティールにとってこのカネはより大きな自由を意味していた。彼はこれを自社と、フェイスブックやパランティアのようなスタートアップに投資し、さらなる成長を遂げた。
ティールはシリコンバレーに戻ってからヘッジファンドを立ち上げ、自分が投資家に向いていると気づいた。必要な財力を得た彼は、もっとも得意でもっとも価値を創出できる仕事、すなわち投資にふたたび専念する。
■その7:固い友情
ティールにとって最大の財産は、長年培ってきた固い友情だ。ティールはペイパルでもパランティアでも自分の投資会社でも、スタンフォード時代の友人と共に仕事をしている。
冷淡と思われがちなビジネスの世界に友情は似つかわしくなく、コーポレートガバナンスが厳しくなっている中で、「派閥」をつくることは否定的にとらえられがちだ。ティールの場合は、自らの経済的な自立性とビジネスモデルによって、こうしたやり方が許されている面はある。彼は自分のそばに気心の知れたパートナーがいるときに、力を発揮するのである。
ティールの投資7か条、いかがだっただろうか。ぜひみなさんも参考にしてほしい。
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起業家、投資家、ジャーナリスト
1971年ドイツ生まれ。世界有数の保険会社アリアンツにてオンライン金融ポータルの立ち上げに携わったのち、複数のインターネット企業の創業者となる。シリコンバレー通として知られ、同地でさまざまなスタートアップに投資している。シリコンバレーの金融およびテクノロジーに関する専門家として、ドイツのニュース専門チャンネルn-tvおよびN24などで活躍中。他の著書に『Silicon Valley Investing』がある。
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(起業家 トーマス・ラッポルト 撮影(ピーター・ティール)=Manuel Braun)
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