高給の人も薄給の人もアマゾン愛着の理由
プレジデントオンライン / 2018年5月18日 15時15分
15兆円超といわれる日本のEC(電子商取引)市場の中で、覇権を争うアマゾンと楽天。今後も拡大を続けていくであろうEC市場のトップに立ち、覇者となるのはどちらか。「プレジデント」誌(2018年6月4日号)は調査会社「エモーションテック」と協力して、アマゾン・楽天ユーザー2388人にアンケートを取り、ECサイトの最新事情に詳しいフリーライターの山野祐介氏にデータの分析と今後の展望を予想してもらった――。
■楽天とアマゾン、ユーザーはどっちに愛着感じるか
今回の調査では、男性の67%、女性の50%が楽天よりアマゾンのほうが好きだと回答しました。男性ユーザーは商品説明が簡素なアマゾンを好み、女性ユーザーでは、楽天が主軸とするポイントサービスに家計のやりくりなどにシビアな主婦層が反応しているとも考えられます。
またアンケートの中で、最も顕著な差が表れたのは、各サービスが提供する有料会員の加入率です。アマゾンをメインに使うユーザーの37%がプライム会員だったのに対し、楽天をメインに使うユーザーのうち13%だけがプレミアム会員という結果が出ました。
楽天・アマゾンともに有料会員の年会費は3900円(税込み)ですが、アマゾンのプライム会員はアマゾン発送の商品であれば送料無料となり、地域限定なものの1時間以内に商品が到着する“プライム ナウ”などが利用できるメリットがあるほか、動画や音楽の見放題、聴き放題サービスも利用できます。対する楽天は、かかった送料がポイント還元されるサービスが目玉。そのほか、楽天TVや楽天トラベル、楽天ブックスといったサービスで付与されるポイントが2倍になるメリットもあり、楽天がポイントを主軸としていることが読み取れます。
しかし、送料にユーザーがいくら支払っているかといえば、送料がポイント還元される楽天よりも送料が無料となるアマゾンのほうが優れていることになります。そのうえ、アマゾンのほうが無料で付帯するサービスも多く、有料会員の分野ではアマゾンに軍配が上がるでしょう。
逆に、差がつかなかった項目としては「アマゾンで検索をして楽天で購入したことがありますか?」という設問。アマゾンユーザーも楽天ユーザーも約3分の2がアマゾンで検索をかけて目当ての商品を見つけ、楽天で購入する、という経験をしているようです。なぜユーザーはわざわざ2つのサイトを横断して購入するのでしょうか。こういった点を読み解くため重要になってくるのが、NPS(ネット・プロモーター・スコア)という数値です。
■楽天ユーザー「ポイントは貯まるが、使いやすさに不満」
NPSとは、企業への愛着や信頼を数値化したもの。顧客満足度と比較されがちな数値ですが、プラスであればあるほど、企業の収益性に直結するといわれています。
アマゾンのNPSはマイナス17.7%であるのに対し、楽天はマイナス35.9%。倍の差のスコアが出ています。エモーションテックによると、日本のウェブサービスの平均スコアはマイナス28%ほど。アマゾンは顧客の信頼を得ているといっても過言ではないでしょう。また、プライム会員に絞ったNPSだと、プラス8%という高得点を得ており、それがアマゾンへの囲い込みにつながり、ひいては利益にもつながっていることがわかります。
逆にNPSが平均以下の楽天は、不満を抱えながら使っているユーザーが多いことがわかります。プレミアム会員ユーザーのNPSもアマゾンの平均値より低いマイナス19%です。
調査では、楽天ユーザーの多くがポイントの貯まりやすさや商品の豊富さに魅力を感じているという結果も出ました。その半面、サイトのデザインや商品比較のしやすさにはネガティブな感情が出ています。つまり、「アマゾンで検索して、楽天で購入する」というユーザーは、「楽天は目当ての商品が見つけづらいから、アマゾンで商品を検索してポイントの貯まる楽天で買う」という行動を取っていると推測でき、楽天ユーザーもアマゾンのUI/UX(ユーザー体験)は秀逸だと認めているといえます。
アマゾンユーザーも同様に、欲しい商品を吟味し、価格が同額でお急ぎ便などを使う必要がない商品であればポイントの付く楽天で購入する、という行動を取っているのでしょう。
ポイントというメリットが目立つものの、楽天のサービス内容には改善の余地が大きいです。前述のように、ポイントによってユーザーをつなぎ止める戦略を取ってきた楽天ですが、エモーションテックによると、「ポイントの貯まりやすさには魅力を感じるが、ポイントの使いやすさには不満を感じている人」が相当数いるとの分析結果も出ています。
■楽天のアプリは通知も多く、煩わしい印象
楽天のスーパーポイントアッププログラムに代表される、アプリの利用や楽天カードの使用によってポイントの付与倍率が増加するシステムはお得感を生み出してはいますが、割り増しで付与されたポイントは有効期限が短く、用途も限定されているため、ユーザーはこのポイントを失効しないうちに限られた対象サービスで消化しなければならず、ポイントによってつなぎ止めたユーザーがポイントの消化によってストレスを感じている、というジレンマが起こっていると推測されます。
また、メルマガ等による情報配信に強いストレスを感じているユーザーも。ポイント倍率を上げるためにはスマホに楽天市場アプリをインストールし、そこから購入する必要がありますが、楽天のアプリは通知も多く、煩わしい印象を受けます。
さらに、楽天はポイントの付与率、付与上限にランク制を導入しており、ポイント倍率と付与上限が高いランクを維持するためには定期的に楽天で買い物をする必要があります。こういった自社サービスへの過剰な囲い込みもストレスを生み出す一因でしょう。
対照的にアマゾンは、「ポイントは貯まりやすいと思わないが、使いやすいと感じている人」が一定数いるという結果が出ています。
一部の商品を購入した際に付与されるアマゾンポイントは、1ポイント1円として現金と同じように使用でき、ポイントの増減がない買い物でも有効期限は延長されます。楽天のようなお得感はありませんが、倍率を上げるためにアプリを使ったり、ランクを維持するために買い物をしたりといった煩わしさもありません。ポイントの貯まりやすさを重視するユーザーも楽天に比べて少なく、あくまで付けば嬉しいサービスといったポジションを確立していると思われます。
■アマゾンに愛着、年収350万未満の人も1000万以上の人も
また、ユーザーの年収別にNPSを見てみると、アマゾンユーザーは年収が上がれば上がるほどNPSが高まる傾向にあり、とくに年収1000万円以上はプラス6%と、かなり高い数値を出しています。「実質的な価格を気にしなければ、アマゾンのサービスは使い勝手がよい」ということが読み取れます。年収1000万円以上の楽天ユーザーでもNPSはマイナス36%と楽天全体の平均値程度なことを考慮すると、価格以外の面ではアマゾンに軍配が上がっているといえるでしょう。
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NPS(ネット・プロモーター・スコア)は世界的コンサル会社「ベイン・アンド・カンパニー」のフレッド・ライクヘルド氏により考案された。NPSの数値が高いほど顧客のロイヤルティーが高いことを意味し、従来の顧客満足度より収益との相関性が高いとされる。エモーションテックによると、ウェブサービスの平均は約-28%で、アマゾンのスコアは極めて高い。またアマゾンは利用者の年収が高くなるとNPSも高くなる傾向にある。
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しかし、アマゾンの快適さを支えている一因である、プライム会員向けの即日配送サービスは配送業者の負担が大きく、2017年にはヤマト運輸がアマゾンの同サービスからの撤退方針を表明しています。現在はヤマト運輸のほか、丸和運輸機関が参入していますが、配送業者が即日配送に耐えられなくなったとき、NPSは低下し収益にも陰りが出る可能性があるため、対策を練る必要があるでしょう。
よくも悪くもポイントシステムに依存している楽天は、不安要素が多いです。楽天ユーザーが楽天のUI/UXや配送といった点に魅力を感じていないことはデータからも明白ですから、アマゾンのように優れたUI/UXを持つサイトが楽天と同水準のポイントサービスを開始すれば、ユーザーがそちらに流れるのは時間の問題です。
また、ポイント還元率が高いものの、楽天に比べUI/UXや商品数で劣るサイトもあります。Yahoo!ショッピングはその典型例で、月額およそ500円のプレミアム会員であれば常時5%還元、ソフトバンクまたはワイモバイルの携帯電話を持っていれば10%還元、さらにキャンペーン日が重なれば15%超の還元率と、楽天よりも容易に高い付与率を実現できます。
こうしたサイトが使用感を改善してきた場合、ポイントに支えられている楽天は対抗する手段がなく、顧客が流出するおそれがあり、楽天にとってはUI/UXと還元率、両面からも脅威が迫っている状況です。楽天は大きく舵を切らなければいけないときが迫っているのかもしれません。
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フリーライター
ECサイトやスマホの最新事情に詳しい。月刊誌で連載中の「1週間食費0円生活」では、さまざまなECサイトのポイント制度やキャンペーンを駆使し、効率よくポイントを貯めて、生活費を浮かせる方法などを紹介している。
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(フリーライター 山野 祐介 写真=iStock.com)
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