突っ込みのないブレストで名企画は出ない

プレジデントオンライン / 2018年5月24日 9時15分

佐渡島庸平さん(左)と高橋晋平さん(右)

企画づくりの定番「ブレスト」。参加者同士の批判を禁じたうえで、次々とアイデアを出していく手法だ。だが、バンダイで「∞プチプチ」などのヒット商品をつくった高橋晋平さんは「企画づくりは一人から始めないとダメだ」という。また編集者として『宇宙兄弟』など数々のヒット作を担当した佐渡島庸平さんは「ブレストでは誰かが責任を持ちたいアイデアが出てこない」という。企画の達人同士の対談をお届けしよう――。(第2回、全3回)

■コンテンツは「波紋的」に広がっていく

【高橋】佐渡島さんは担当編集として『ドラゴン桜』や『宇宙兄弟』を世に出したヒットメーカーですよね。ヒットする企画を生み出すには、なにが大事なんですか。

【佐渡島】今、僕は「コンテンツは波紋的に広げないとダメだ」って言い方をしています。

【高橋】波紋ですか。

【佐渡島】まず自分のまわりにある小さなコミュニティに企画を出す。反応がよければ、波紋のようにコミュニティの中で評判が広がり、ある段階からはさらに外のコミュニティにも評判が伝わる。そうした波紋はどんどん大きくなっていくはずです。

今までのビジネスって、社内で波紋を起こせていないのに、無理やりその企画を市場に出してみて、初速がよければ「波紋が起きた」といえるし、ダメだったら終わり、みたいなやり方でしたよね。要は、よくわからない遠くの池に無理やり石を投げて、波紋が起きるかどうか試していたんです。そうじゃなくて、もっとクリエイター自身が、企画を投げたらすぐに反応が返ってくる身近なコミュニティを持っていたほうがいい。

【高橋】自分のまわりにあるコミュニティが大事ということですね。

【佐渡島】はい。かつては会社がコミュニティになっていましたが、いまは社員に業務上の役割しか求めていないことも多い。でも、人はコミュニティに所属していないと成長機会を失うと思うんです。

■「企画づくりは一人から始めないとダメだ」

【高橋】コルクでは会員制の「コルクラボ」というオンラインコミュニティで、月2回はオフラインの定例会を開いていますよね。それも波紋を作っていくためのコミュニティですか。

【佐渡島】最終的にはそうしたいなと思っています。ただ「ヒットの仕掛けを作るために集められた」だと、メンバーは別に面白くないじゃないですか。だから僕がやることにみんなが協力してヒットさせるんじゃなくて、参加しているメンバーがコミュニティに何かを投げ込んで、その中で話題になれば波紋が広がって売れる、という形を目指しています。僕だけじゃなくて、メンバー全員がラボに企画を投げ込める状態を作りたいんです。

【高橋】今、メンバーは何人くらいですか。

【佐渡島】今はまだ120人ですね。

【高橋】仮にそこで120人全員が「すごい」となった企画が生まれたら、その先に行けるということですか。

【佐渡島】行きやすいでしょうね。そもそも、120人程度を興奮させられないものは無理だろうなと思います。

【高橋】コルクラボ内のプロジェクトって、まず一人がやりたいと言って企画を投げ込み、それに対して「私もやりたい」「一緒にやんないか」みたいに参加者が広がっていくんですか。

【佐渡島】そんな感じですね。

【高橋】ですよね。僕が著書『企画のメモ技』で言いたかったのは、「企画づくりは一人から始めないとダメだ」ということです。会社って、「ブレストしましょう」「みんなで考えよう」とかなんとかいって、人を集めようとするんですけど、それだけでは絶対何も起きませんからね。

■「縦」の思考法ではとにかく否定していく

【佐渡島】ブレストって、誰かが責任を持ちたいアイデアが出てこないんですよ。

【高橋】ですね。だからブレストで成功するには、まず問いの設計が大事。問いがダメだと何も起きない。

【佐渡島】ある人が、自分の持っているアイデアをよりブラッシュアップするためにブレストするんだったら、成立するんですけどね。

【高橋】まさにその通りで、ブレストって自分のためにやるんですよ。壁打ちというか。ブレストでは「否定禁止」というルールが有名ですが、僕はそうじゃないと思うんですよ。正しくは「否定されても傷つかないような雰囲気」。その上で、「それは違う、それはもっとこうしたほうがいい」っていう意見に対して、発案者が「どうすりゃいいんだ」って迷うようなら、そのアイデアはそんなに強くない気がします。

【佐渡島】僕、いま思考法を「横」と「縦」の2つにわけているんですよ。「横」の思考法はブレスト。課題解決型の思考法です。お題があって、どうやって解決するのかを探す。無限にアイデアを出して、その中から勝てるものを採用する。アイデアをいっぱい出すためには、否定しないほうがいい。誰も否定しないから、たくさんの人数がいてもいい。

もうひとつが「縦」の思考法です。こちらはとにかく否定していく。そもそもこの企画にどういう意味があるの? 誰がよろこぶんだっけ? そもそも考えるに値するの? なくてもいいんじゃない? とやる。アイデアに対して、徹底的に否定を続けても、耐えられるだけの強度があるかを確かめていくわけです。

【高橋】ひとつの企画に対して、両方の思考法でもんでいくんですね。

【佐渡島】そうです。横、縦、横、縦……と交互に繰り返していきます。ただ、それを同じ日に同じメンバーでやろうとすると、うまくいきません。縦の思考法の否定は企画をよくするためなのですが、10人も集まれば、ここぞとばかりに「あいつに言ってやろう」という空気になっちゃいます。だから縦の思考法は、本当に信頼している少人数でやる。横の思考法は誰がいてもいいですが、その代わり「否定禁止」のルールは守ってもらいます。

■ブレストは「突っ込める」空気が大事

【高橋】一般的に、横の思考法が「拡散」、縦の思考法は「収束」と呼ばれているものですか。

【佐渡島】というより、拡散と収束をまとめて横の思考法でやり、収束したものを縦の思考法で意味を問いかけていくイメージですね。

【高橋】問いかけでもあり、突っ込みでもありますね。僕はどちらかというと、「率先して変なことをいうやつ」と思ってもらえているんですけど、それでも初めての現場では、「こいつ、すげえことを言うんじゃないか」と構えられちゃうことがあります。そうなるとブレストが機能しなくなるので、とにかく率先して超普通のことを言うか、めちゃくちゃなことを言うように心がけているんですよ。それでバカなやつだと思われる(笑)。

【佐渡島】マンガ家と編集者の打ち合わせもそうです。編集者はマンガ家のアイデアを広げる係なので、マンガ家が絶対採用しないような極端な意見を言うのがいいんですよ。たとえば、次回全員死んじゃったらどうなります? とか。

【高橋】ああ、僕の役割と同じだ。

【佐渡島】ただ、役割に関してはケースバイケースの部分もあって、『ドラゴン桜』の場合は、僕ら編集者が「できるだけ現実的な勉強法が必要です」と主張して、作者の三田紀房さんが「そんなの面白くないじゃん」と超極端な意見を言っていました。それをストーリーに落とし込むために、僕らは「三田さん、そういう風に演出したいのであれば、こうすると現実的な勉強法になりますね」と言って、超極端に走った三田さんをちょっとだけ戻す。そんな感じで毎回の勉強法が決まっていました。そういう意味では、チームには常に極端なことを言う人と、戻す側の人と、それをまとめる人がいるのがベストですね。

【高橋】佐渡島さんは世間的には「カリスマ編集者」みたいに思われているじゃないですか。それはコルク社内でもそうだと思います。そうなると「この人の言うことは全部聞かなきゃ」と思われがちじゃないんですか。

【佐渡島】難しいところです。僕は社長なので、意思決定したあとの指示は聞いてくれないと困るんですけど、意思決定する前のことに関してはちゃんと議論が起きないと、会社として衰退していく。それもあって、今コルクラボではみんなタメ語でしゃべるようにしているんですよ。タメ語だとみんな突っ込んできます。先週は高校生の子が「佐渡島さんの文章は読点が多すぎるんだけど、なんで?」って聞いてきましたよ(笑)。

【高橋】おもしろいですね。そうした突っ込みが、企画を深めることに役立ちますね。

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高橋晋平(たかはし・しんぺい)
クリエイター
1979年生まれ。2004年東北大学大学院情報科学研究科修了、バンダイに入社。「∞(むげん)プチプチ」など、バラエティ玩具の企画開発・マーケティングに約10年間携わる。2014年に退社し、株式会社ウサギ代表取締役に。近著に『一生仕事で困らない企画のメモ技(テク)』(あさ出版)がある。
 

佐渡島庸平(さどしま・ようへい)
編集者
1979年生まれ。東京大学文学部を卒業後、2002年に講談社に入社。週刊モーニング編集部にて、『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、などの編集を担当。2012年に講談社を退社し、クリエイターのエージェント会社、コルクを創業。近著に『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE. 現代の孤独と持続可能な経済圏としてのコミュニティ』(幻冬舎)がある。

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(クリエイター 高橋 晋平、編集者 佐渡島 庸平 構成=稲田豊史 撮影=プレジデントオンライン編集部)

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