ディズニーを歩くだけでも楽しい人は一流
プレジデントオンライン / 2018年5月26日 11時15分
■ニンテンドーラボの「余白」の残し方
【高橋】4月20日、「ニンテンドースイッチ」をバイクや釣りざお、ピアノなどに変身させる段ボール製のキット「ニンテンドーラボ」が発売されました。任天堂のアイデアの豊かさには本当に驚きました。加速度センサーなどが内蔵されたコントローラーを、段ボールのパーツと組み合わせるだけで、遊び方がぐんと広がる。そこで遊び方の「余白」を残す、というのがすごいな、と。
【佐渡島】「余白」ですか?
【高橋】用意されたパーツだけでも楽しめますが、仕組みは段ボールですから、いくらでも自作することができるんです。新しい遊び方をみつけて、SNSで発信する人がたくさん出てくるはずです。この「余白」の作り方がうまい。カードゲームで言えば、全部真っ白なカードを渡されて遊べ、と言われても誰も遊べませんから。
【佐渡島】インスタグラムもそうじゃないですか。インスタがはやった理由は、写真の「よしあし」に対する余白がすごく大きかったからですよ。キレイな写真を褒めるだけでなく、写り込んでしまったものを見つける楽しさもある。フェイスブックよりも、余白の設計に遊びがありますよね。
■新しいじゃんけん「グーチョキパーダラピン」
【高橋】5月5日に「グーチョキパーダラピン」という新しいカードゲームを発売しました。5種類の手で戦う新しいジャンケンです。グーチョキパーの3種類に、グーチョキパー全部に勝つ「ピン」と、全部に負けるがピンには勝つ「ダラ」の2種類の手を増やしています。このときも遊び方の「余白」を残すことを心がけました。
ジャンケンに2種類の手を増やしただけなのですが、その結果、ほかにもいろいろなルールを増やすことができるんです。こう考えたのも、「ニンテンドーラボ」のように、最近のヒット商品はうまく余白を残していることが多いからです。
【佐渡島】僕は「余白の量を読む」のが、まさに「時代を読む」ということかなと思っています。テーマ自体が普遍的でも、「余白の量」は時代によって変わるんですよ。人々の文化度が上がると、その文化の中にいる人たち全体のクリエイティビティが上がるので。
【高橋】どういうことですか?
■料理はコースからアラカルトに進化した
【佐渡島】いい例は料理です。日本にもともとあったのは和食ですよね。そこにあるときイタリアンやフレンチが入ってきた。でも当時の日本人はイタリアンやフレンチの楽しみ方を知らない。だから、最初はコース料理を食べるんです。どんな料理があるのかもわからないので、外からきたものそのまま楽しむしかなかった。
でも、何度か食べると、「パスタがある」「ワインと一緒に楽しむ」といったことがわかってくる。日本人のクリエイティビティが上がるわけです。そうなると今度はアラカルトで食べる人が増えてくる。好きな料理を自分で組み立てられるようになったからです。すると街には、アラカルトを出すビストロみたいな店が増えてくる。つまり余白の量が増えたんです。
【高橋】おもしろい!
【佐渡島】『美味しんぼ』の初期には、おいしいイタリアンレストランの見分け方として「アルデンテでパスタを出す」というエピソードが出てきます。当時はアルデンテ(歯ごたえが残るゆで上がり)でパスタを出す店がなかったんですね。ほとんどの人は芯までゆでたナポリタンしか食べたことがなかった時代ですから。
【高橋】今は家庭のパスタだって、アルデンテで出てきますよね。
【佐渡島】自宅でイタリアンやフレンチを作る人も多いはずです。日本におけるイタリアンやフレンチの食文化は、余白が一切なかったコース料理の時代から、ホームパーティーができるまでに進化したわけです。
■ディズニーやイケアは考えなくても楽しく過ごせる
【高橋】料理以外にもたくさん例がありそうですね。
【佐渡島】誤解を恐れずに言うなら、「週末にディズニーランドに行く」というのは、クリエイティビティの高い楽しみ方だとは思えないんです。
【高橋】わかる気がします。
【佐渡島】ディズニーランドは楽しみ方を巧みに設計しています。コース料理と同じで余白がないんです。みんなと同じ順番をたどることになる家具店の「IKEA(イケア)」もそうですね。
【高橋】確かに余白がない。
【佐渡島】つまりディズニーランドやイケアは、あまり考えなくても楽しく過ごせる場所なんです。もちろん「コース料理」ではなく「アラカルト」で楽しんでいる人たちもいます。たとえば「ディズニーランドで一切アトラクションに乗らない」という過ごし方です。僕はそれこそがクリエイティビティだと思うんですよ。
■ギフト需要は「これ、一体なんだよ」で売れる
【高橋】本はどうなんですか?
【佐渡島】本というメディアの問題は余白が少ないことなんですよ。例外はあります。ユニクロの柳井正さんの『経営者になるためのノート』は、余白が広く取ってあって、ノートのように書き込める。自分が書き込むことで、はじめて完成する本なんです。
本に限らず、今までのコンテンツは完成品としての精度が重要でした。しかしインターネットが普及して以降、完成品の精度はほとんど意味を失いました。もう少し時間がたてば、精度の高い完成品なんて、スキャンして3Dプリンタから出力してしまえばすぐ手に入ってしまう。そうなると、本にせよ玩具にせよ、コンテンツそのものより、それに対して自分はどう考えたか、どう反応したか、どう使ったかが重要になります。
「ギフト需要」が典型的です。「これ、一体なんだよ」「なんで買ったんだよ」とそのタイミングで口コミが起きるから売れるんですよね。大事なことは、その商品がコミュニケーションの仲介役になれるかどうかなんです。
■「少年ジャンプ」が強かった理由
【高橋】マンガ作品における余白とは、どういったものでしょう。
【佐渡島】「少年ジャンプ」の作品は二次創作がいっぱいあるじゃないですか。なぜかというと、ジャンプ作品は無理やり人気を取っていかないと生き残れないから、話の展開を早くしたり、はしょったりして、物語に齟齬(そご)が起きる。その齟齬を埋めるために二次創作がいっぱい生まれるんです。
【高橋】余白を埋めるための二次創作というわけですね。僕、「ジャンプ」のマンガだと『キン肉マン』が大好きなんですけど、あれも余白ありまくりの話でした。
【佐渡島】それに対して「モーニング」の『宇宙兄弟』って、これ以外に楽しむ方法がない。はしょらず、描ききっているから。
【高橋】たしかに、『ドラゴンボール』の展開は荒唐無稽でも楽しめますけど、『宇宙兄弟』で適当に宇宙に行かれたら、たまったもんじゃない。
【佐渡島】そうなんです。「実はこんなことが裏でありました、ちゃんちゃん」みたいには作りづらい設計なんですよ。
【高橋】じゃあ『宇宙兄弟』の楽しみ方がコミュニティで盛り上がる場合って、二次創作ではなく純粋に「どこそこのエピソードが好き」とかいう感じなんですか。
■「当事者である」という感覚がファンを増やす
【佐渡島】そうです。誰が好きだとか、作者の小山宙哉さんの細かい遊びに気づけるかとか。いま『宇宙兄弟』のコミュニティでやろうとしているのは、全員が自分の夢を主人公・六太(むった)の努力に例えてしゃべれるようにすることなんです。「六太はこう努力したけど、私はこう努力してる」みたいにみんなの前でしゃべると、アドバイスをくれたり、応援してくれたりするような。
【高橋】なるほど、自分自身のコンテンツ化だ。
【佐渡島】ええ。世の中の人はみんな自分をコンテンツ化したいんですよね。家族と一緒にいて落ち着くのは、家族の中では自分が最強のコンテンツでいられるからでしょう。でも、外に出ると、「自分に興味を持つ人なんて、そんなにいない」という気持ちにさせられる。
【高橋】「当事者である」という感覚ですね。
【佐渡島】「ジャンプ」が強いのも、「余白」に加えて、「参加型」という構造をもっていたからだと思います。読者アンケートの結果で連載陣を入れ替えていきますし、人気投票で特定のキャラクターが上位に入れば、物語にもそのキャラが出てくるようになる。さらに少年誌では「ジャンプ」だけが「ジャンプフェスタ」というイベントを1999年から毎年開催しています。最近はネット企業がオフラインのイベントに力を入れていますが、「ジャンプ」はそれをずっと前から実践していたんです。
■インスタグラムとツイッターの決定的な違い
【高橋】僕が知る限り、玩具クリエイターや玩具メーカーの社員で、自分のコミュニティを持っていて、それを活用して商品を売っていく例は聞いたことがないですね。そういうことをやらなければいけない時代なんですか。
【佐渡島】やらなければいけないというよりは、できるようになった、ということなんですよ。最初に注目されたのはツイッターでした。でもツイッターは、言語による情報伝達のツールじゃないですか。だれもが文章を書くのが得意なわけではありません。
それに対して、インスタは写真一枚で情報伝達ができるようになりました。モデルやカメラマン、デザイナーは、ツイッターはしんどかったけど、インスタはうまく使いこなしていますよね。
【高橋】モデルやカメラマン、デザイナー以外で、インスタをうまく使っているケースってありますか。
【佐渡島】まだあまり参考になるものがないんですよ。だからこそ、その余白を埋めるクリエイターが出現したら、世界的にフォロワーがついてくるはず。これは未開の地だと思います。高橋さんにはぜひインスタを始めてほしいと思います。
【高橋】つくづく、余白って使いどころですね。僕も、いろいろ実験してみたくなりました。
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クリエイター
1979年生まれ。2004年東北大学大学院情報科学研究科修了、バンダイに入社。「∞(むげん)プチプチ」など、バラエティ玩具の企画開発・マーケティングに約10年間携わる。2014年に退社し、株式会社ウサギ代表取締役に。近著に『一生仕事で困らない企画のメモ技(テク)』(あさ出版)がある。
佐渡島庸平(さどしま・ようへい)
編集者
1979年生まれ。東京大学文学部を卒業後、2002年に講談社に入社。週刊モーニング編集部にて、『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、などの編集を担当。2012年に講談社を退社し、クリエイターのエージェント会社、コルクを創業。近著に『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE. 現代の孤独と持続可能な経済圏としてのコミュニティ』(幻冬舎)がある。
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(クリエイター 高橋 晋平、編集者 佐渡島 庸平 構成=稲田豊史 撮影=プレジデントオンライン編集部)
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