「留学ビザ」で日本の医療費を食う中国人
プレジデントオンライン / 2018年5月23日 9時15分
■「日本の医療費が中国人に食い物にされている」
ある大富豪が「青いキリンを見せてくれたら、莫大な賞金を出そう」といった。
日本人は昼夜を問わず品種改良を重ね、青いキリンをつくった。
中国人は青いペンキを買いに行った。
これは『中国人vs日本人』(早坂隆著・ベスト新書)に出ているジョークである。
私だったら、中国人は日本人がつくったキリンを盗んで持って行ったとするのだが、それではジョークにならないか。
断っておくが、私は嫌中派ではない。観光旅行を含めて中国へは20回近く行っている。北京の胡同、三国志の時代を彷彿させる上海の朱家角、杭州の西湖から見た夕日、西安の屋台街など、中国ならではの街並みや味をこよなく愛する者である。
だが、『週刊現代』(5/26号、以下『現代』)が巻頭で報じている「日本の医療費が中国人に食い物にされている」を読んで、私の中にある振り子が嫌中側へやや傾いた。
■「明らかに観光なのに保険証を持っている」
『現代』の内容をかいつまんで紹介しよう。
日本語が全く話せない70代の中国人患者が息子と日本の病院にやってきて、脳動脈瘤の手術をした。自由診療なら100万円から200万円はかかる。だがくだんの患者は健康保険証をもっていたため、高額療養費制度が使えた。自己負担は8万円程度だったという。
この患者は、日本で働いていたのでも、日本語を学ぶために留学していたわけでもない。
だが、留学ビザを取得すれば、日本では国民健康保険(国保)に加入する“義務”があるため医療保険が使えるのだ。以前は1年間の在留が条件だったが、12年から3カ月に短縮された。日本語を学びたいといって申請すれば、70歳でも80歳でも取得することができるのである。
新宿の在留外国人がよく利用する国立国際医療センターの堀成美は、「明らかに観光なのに保険証を持っている『不整合』なケースは年間少なくとも140件ほどある」と語っている。
来日してすぐの留学生が病院を訪れて、高額な医療を受けるケースもあるが、「深刻な病気を抱えている人は留学してきません。もともと患っていた病気の高額な治療を求めて受診するケースでは、治療目的なのかと考える事例もあります」(堀)
■とりわけ需要が多いのはC型肝炎の治療
日本を訪れる中国人の間でとりわけ需要が多いのはC型肝炎の治療だという。特効薬のハーボニーは3カ月の投与で465万円かかるが、国保に加入して医療費助成制度を使えば、月額2万円が上限になる。
肺がんの治療に使われる高額なオプジーボは、点滴静脈注射100mgで28万円、患者の状態にもよるが1年間でおよそ1300万円かかる計算になる。
仮に100人の中国人が国保を利用してオプジーボを使えば、13億円の医療費が使われることになるが、高額療養費制度を使えば、実質的な患者の負担は月5万円、年間60万円程度で済むと『現代』は指摘する。
しかも、医療目的の偽装留学か否かを見抜くのは難しいと、外国人の入国管理を専門に扱う平島秀剛行政書士がいう。
「申請書類が揃っていれば年齢に関係なく、留学ビザを取ることができます。実際、高齢でも本当に日本語を学びたいという人もいますからね。厳しくやり過ぎると、外国人を不当に排除しているととられかねません」
ビザを取る方法はほかにもある。日本で事業をするといって3カ月在留すれば、経営・管理ビザがもらえ国保に入ることができる。
そのためには資本金500万円以上の会社を設立しなければならないが、500万円を一時的に借りて「見せ金」にし、ビザ申請のためのペーパーカンパニーを立ち上げればビザをもらえる。
そうしたペーパーカンパニーを立ち上げてくれる中国人ブローカーがおり、それとグルになって手引きする日本の行政書士もいるそうである。
■医療ツーリズムは日本の病院の「下見」
それだけ日本の医療が中国人たちに信頼されているということではある。中国人富裕層たちを日本に連れて来て、高額な健康診断を受ける「医療ツーリズム」が人気になっている。彼らは当然、自由診療である。
だが富裕層の中にもケチなやつがいて、治療費を安く抑えようと、日本の保険証を取得する中国人は少なくないそうである。医療ツーリズムを積極的に受け入れている医療法人の元理事がこう語る。
「私がいた病院にやってくる中国人富裕層は、医療ツーリズムなどで高額な健康診断を受けたのち、いざ病気が見つかると、会社を設立し、経営・管理ビザをとって日本で治療するのです。彼らにとって医療ツーリズムは日本の病院の『下見』なんです」
中国にいる知人が病気になったら、書類上はその会社の社員にして、就労ビザを取得させることもできる。
こうした手を使えば、誰でも日本の保険に入ることができるのだ。
始末が悪いのは、罪悪感などほとんどないということである。この元理事は、来日した中国人にこういわれたそうである。
「私の知り合いなんてみんな、日本の保険証を持っているよ。中国に住みながら持っている人もいる。私だって日本にいっぱい会社持っているから、保険証なんてすぐ手に入る。まともに正規のカネを払うなんて、富裕層のなかでもプライドが高い人か緊急性のある人だけですよ」
別に違法なことをやっているわけじゃない、日本の制度を利用しているだけだから、何がいけないのかといい放ったという。
■「特定活動ビザ」などを利用して日本に呼び寄せる
このままいくと、中国人の大半が日本の国保に加入する日が来るかもしれない。もちろんその前に日本が世界に誇る医療制度が崩壊しているのは間違いないが。
日本の企業に就職すれば、国籍に関係なく社保に入ることが義務付けられる。大企業であれば「健康保険組合」、中小企業の場合は「全国健康保険組合」。そうすると外国に住んでいる両親や祖父母を扶養扱いにすることができるそうである。
もし親族ががんになったら「特定活動ビザ」などを利用して日本に呼び寄せ、手術や抗がん剤治療を受けさせることができる。
その上、本国に戻っても治療を継続した場合は、かかった医療費を日本の国民健康保険が一部負担してくれる「海外療養費支給制度」まであるというのだから、アメリカ人などから見たら「天国」であろう。
日本の医療費は毎年膨らみ続け、15年度には42兆円を突破した。中でも75歳以上の後期高齢者の医療費は全体の35%を占め、15兆円にもなる。「団塊世代」が後期高齢者になる25年には、全体の医療費が54兆円に達するといわれている。
■保険制度に抜け道を作ってしまった日本が悪い?
そこで、医療費を抑制するため財務省は、75歳以上の高齢者で、現役並み所得者以下の人は、病院で支払う自己負担額を1割から2割に引き上げる案を、4月25日に示した。
当然、高齢者からの反発は必至である。これは、地盤沈下する財務省が、解散・総選挙をして三選をもくろむ安倍首相への嫌がらせだという見方もあるが、どちらにしても増え続ける医療費を少しでも抑えたいという思いが財務省にあるのは間違いない。
危機的状況にある医療費を、日本で暮らしているわけでもない中国人によって「タダ乗り」され、さらに拍車がかかっているとすれば、見過ごすわけにはいかないと『現代』は指摘している。
法務省によれば、17年6月時点で、日本の在留外国人の総数は247万人。そのうち中国人は71万人で、在留外国人の約30%になる。東京23区内でもっとも外国人が多いのは新宿区で、国民健康保険に加入している人は10万3782人で、そのうち外国人は2万5326人。
国保を利用している4人に1人が外国人なのである。もちろん正規に就職している外国人労働者も多くいる。中国人ジャーナリストの周来友はこう指摘している。
「利用できるものは利用するのが中国人の考え方です。中国人からすれば、保険制度に抜け道を作ってしまった日本が悪い。利用されて当然という感覚なのでしょう。日本はお人よしというか、『性善説』に立ちすぎているんです。誰もが3割負担で治療を受けられる日本の保険制度は素晴らしいものですが、外国人に悪用され、日本人自身が満足な医療を受けられなくなれば本末転倒です。これではだれのための保険制度なのかわからなくなってしまう」
■日本人でありながら十分な医療を受けられない人たち
厚労省は、偽装滞在の疑いがあれば、入国管理局に報告するよう、各自治体や医療機関に通達を出しているというが、そんなことで取り締まることはできないはずだ。
実は、こうした問題は昨年の5月24日にダイヤモンド・オンライン編集部がすでに報じているのである。それから1年。事態は何も変わっていない。
ここで中国人といっているのは、中国の中でも富裕層か比較的裕福な人たちのことであろう。留学するにしても、日本で起業するにしても、多額の賄賂を使い、渡航費用、滞在費も半端な額ではない。
まして、いくら安くなるとはいっても手術や投薬してもらうには、まとまったカネが要るが、それを払える人たちである。
もっと深刻なのは、日本人でありながら十分な医療を受けられない人たちが多くいることである。
少し前に、アンダークラスといわれる貧困層が、満足な医療も受けられず、健康を害していく厳しい現実があることを告発した本が出た。『新・日本の階級社会』(講談社現代新書)の著者である橋本健二・早稲田大学教授によると、アンダークラスの数は900万人にもなるそうである。
橋本教授は私にこういった。「アンダークラスは健康状態もあまりよくない人が多いですから医療費もかかる。それに健康状態が悪いのにもかかわらず、なかなか医療を受けることができないというようなことにもなりますから、社会全体の健康レベルが下がります」。
そんなに困っているなら生活保護を受ければいいという人がいるだろう。だが橋本教授の調べでは、日本の生活保護の捕捉率は15%しかないという。フランスなどは90%近いというのに。生活保護を必要としている100人のうち15人しかもらえていないのである。
■救うべきは医療を受けられない日本人
ここでは生活保護の問題点にまで言及する紙幅はないが、貧困のために重い病気を抱えていても医者にかかることができない、入院や手術を受けることができないのは、高齢者ばかりではない。
貧しいために結婚もできず、非正規のためにわずかな賃金しかもらえない若者たちも多くいるのである。
この人たちが年を取り、働けなくなれば、すずめの涙のような年金ではなく、生活保護に頼るしかなくなる。それはまさにディストピアの世界である。
自公政権は、富裕層や大企業には優遇策をとるが、このような貧困層を社会全体で助けていく仕組みづくりには熱意を示さない。橋本教授は、このまま格差が開いたまま行けば、近い将来、必ず階級闘争が起きるという。
『現代』が指摘しているのは、不正に医療費を使っている中国人を摘発せよということだが、それと同時に早急にやらなければならないことがある。
貧困のために満足な医療を受けられない日本人を救う手だてを、政府も役人もメディアも、一体となって考えるべきときである。そうしなければ、貧困大国ニッポンになり、病人大国ニッポンになること間違いない。(文中敬称略)
(ジャーナリスト 元木 昌彦 写真=時事通信フォト)
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