60代継続雇用の薄給を嫌う人は老後破綻

プレジデントオンライン / 2018年5月22日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/maurusone)

「65歳定年企業」が増えつつある。中には給与の激減を嫌って、「60歳で引退」を選ぶ人もいるようだが、これは非常に危険だ。ファイナンシャルプランナーの山崎俊輔さんは「年金支給まで『無収入期間』が発生し、老後のマネープランを崩壊させるリスクがあります」という。ゆとりある老後のために「超重要」という60代のベターな生き方・働き方とは――。

■あなたの引退シナリオは? 人生の収支は「60代」で決まる

「あなたとお金の生存戦略」を考える本連載。今回は「ラスト10年の働き方」を取り上げます。社会人の「ラスト10年」とは「50~60歳」ではありません。時代状況を踏まえると、その次の10年、つまり「60~70歳」が現役期間として考えるべき最後の10年間になろうとしています。

まだ「60歳定年」というイメージを持つ人がいるかもしれません。年金支給開始は段階的に65歳に近づいていますから、60歳を引退年齢にすると、「無収入の5年間」が生じます。その空白を避けるため、政府は65歳まで継続雇用などで働ける環境づくりを進めています。政府はさらに65歳以降の雇用環境整備にも着手する方針です。

「人生100年時代」において、「65歳引退」も徐々にリスクの高い選択肢になりつつあります。今回は「ラスト10年の働き方」をケース別に考えてみたいと思います。

▼高齢者の夫妻世帯は「毎月5.5万円」の赤字

まず、確認しておきたいのは「老後にいくら必要なのか」ということです。

総務省の「家計調査」(2017年)によると、高齢者夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみ)の1カ月の実収入は公的年金など約21万円である一方、食費・交通通信費・交際費・教養娯楽費などの支出は約26.5万円。つまり月5.5万円の赤字になっています。公的年金は老後の安定収入として期待できるものの、老後の生活には不足をもたらしていることが分かります。

月5.5万円の不足も長いセカンドライフを通じて考えると大きな金額です。女性の65歳平均余命(約24年)を考えれば赤字はトータル1584万円、人生100年時代を想定して35年分を考えれば2310万円です。

これに対して、退職金水準はというと、加入企業の8割超が従業員500人以上の大企業に聞いた経団連の調査によると、大卒で2374.2万円。東京都が中小企業を対象に調べた数字では、大卒で1128.9万円が目安です。

前述した老後の不足額と照らし合わせると、退職金の存在が生活していく上で欠かせないことがわかります。これに加えて預貯金額があったりiDeCo(個人型確定拠出年金)の積立残高があればより余裕をもった老後になります。しかし、退職金に手をつける時期をできるだけ先延ばしすることが老後生活を決めるといっても過言ではないのです。

その上で、3つのケースを見ていきましょう。

■5年間の「無年金無収入」期間で老後崩壊へ一直線

▼最悪シナリオ:60歳まで高所得、60歳から無収入

まず紹介するのは最悪シナリオです。なぜ最悪かと言えば、「無年金、無収入期間を作る」からです。

特に、60歳まで高所得であったにもかかわらず、60歳で退職し、次の働き口がない(あるいは、働こうとしない)まま65歳まで日々の生活費を退職金・預貯金などからの取り崩していると、人生の収支は大きく悪化します。老後プランの根幹が揺らぐことになるのです。

無収入になっても、人は自分の消費スタイルをそれほど大きく変えられません。年400万円(月約33万円)を預貯金から取り崩した場合、5年間では合計2000万円。退職金はほとんどなくなってしまうことになります。老後プランは破綻寸前と言ってもいいでしょう。

さらに、65歳から亡くなるまでは、公的年金だけで生きていくことになります。生活費は年300万円(月25万円)以下におさえなくてはいけなくなるでしょう。現役時代に高収入で何不自由ない生活をしていた人からすれば、かなり窮屈な家計となります。

高収入だった人ほど仕事に対するプライドは高いので、60歳以降の継続雇用を拒むこともあるようです。しかし、それは老後の家計を考えれば「最悪シナリオ」なのです。

▼普通シナリオ:65歳まで継続雇用、65歳から年金生活

多くの人がセカンドライフのシナリオとするのは、この「普通シナリオ」ではないでしょうか。つまり、「60歳定年」「65歳まで継続雇用(低賃金)」「65歳から年金生活」ということです。

先ほども述べましたが、国が定める65歳までの雇用確保措置として企業は原則として継続雇用制度を採用しています。

この場合、60歳以降の賃金水準は60歳までのそれよりも引き下げられるのが一般的です。賃金の下がり具合に応じて「雇用継続給付金」(※)が雇用保険から支給されるものの、従前の賃金水準に回復するわけではありませんから、実質的には年収ダウンということになります。

※60歳以降の賃金が60歳時点の賃金の61%以下まで落ちた場合、65歳の誕生月まで月賃金の15%相当が雇用保険から支給される制度。61%超~75%未満でも一定の割合で支給される。

しかし、賃金水準が下がったとしても、家計が赤字にならない程度の収入をもらえるのであれば、待遇を不満として継続雇用を断らないほうがいいでしょう。なぜなら、無収入になると、先ほどの「最悪シナリオ」と同じ結末となってしまうからです。勤務条件の緩和(残業なし、週4日勤務など)を受け入れ65歳まで働き続ければ、その後の数十年の収支はグッと変わります。

繰り返しますが、「最悪シナリオ」で述べたように、65歳まで無収入で暮らすと退職金を使い切ることになってしまいます。公的年金がもらえる65歳まで働き続けることは「人生の収支をバランスさせるためのスタンダード」です。退職金を「老後の虎の子の財産」として65歳まで繰り越せるからです。

■年金繰り下げで月22万円が月31万円になる

▼最善シナリオ:60歳過ぎても正社員待遇、70歳過ぎまで働き年金増額

まだそれほど多くはありませんが「65歳定年企業」も増え始めています。厚生労働省によれば、定年年齢を65歳以上に設定している企業は17.1%、定年年齢の定めのない企業は2.6%でした。70歳以上まで働ける環境のある企業の割合は実は22.6%(中小企業:23.4%、大企業:15.4%)にも達しています。

高齢者雇用の環境は人材不足、ノウハウの引き継ぎなどの要請から改善が続いているので、現在の数字を未来の数字が上回る可能性は高いです。

60歳まで勤めた会社が、66歳以降も働ける環境を用意しているのであれば、これを利用することでセカンドライフの収支は大きく改善します。退職金の取り崩し開始を1年遅らせれば、退職金が底をつく期間も1年先送りできるからです。

また、公的年金を65歳から受け取らず、支給開始を遅らせる「繰り下げ」をすると受け取り額を増やすことができます。雇用による収入で生活費をなんとかやりくりできれば、1年間の受け取り留保で年8.4%の増額、70歳まで受け取らなければ年金額は年42%の増額になります。これは手元の財産を運用で殖やす以上の「価値」が生まれます。

年金繰り下げを行い、仮に月22万円の年金を夫婦で42%アップさせれば、月31万円に増額されます。これは年金生活夫婦の毎月の家計の不足を充足する規模の増額になるので、70歳以降は退職金などの取り崩しをほとんど行わず、長生きに備え、趣味や生きがいの予算を増やすことができます。

▼公的年金は受け取りつつ、65歳以降も働くという選択肢

あるいは、公的年金は受け取りつつ、65歳以降も働くという選択肢もあります。こちらの場合、年金増額はありませんが、「年金収入(賃金額によって在職老齢の調整あり)」+「賃金」の合計でやりくりできますから、その分、退職金の取り崩しを遅らせることができ、完全リタイア後の家計を大きく好転させることができます。

総務省の「家計調査年報」などによれば、一般的な年金生活夫婦は、年金収入だけでは家計をまかなえず年65万円ほど預貯金を取り崩しています。もし5年間長く働き、この取り崩しをゼロに抑えることができれば、70歳時点で資産減少のペースを325万円(65万円×5年)遅らせることができた、ということになります。

賃金収入があることで、さらに年20万~30万円(5年で100万~150万円)ほどの貯金ができたとすれば合計で500万円近くのアドバンテージを得て、以降のセカンドライフのやりくりに回せることになるわけです。

今のところ、公的年金制度を所轄する厚労省は、個人が自発的に受給開始年齢を遅らせる意向を持つ人々に向け、70歳以降の受け取り開始ならさらに増額を検討するなど、年金増額の選択肢を設ける方向にあるようです。

もはや「65歳引退」すら時代遅れになりつつあります。65歳以降も働けるのであれば、働けるだけ働くほうが老後人生を歩む上では有利です。チャンスがあるならぜひ活かして長く働きたいものです。

■老後に長く働けば働きがいアップ&家計も好転

▼30、40代から「最後の10年」の働き方をイメージしてみる

いくつかのパターンを示しつつ「ラスト10年の働き方」について考えてきましたが、30代から40代であっても、「ラスト10年の働き方」に思い巡らしておくことは決してムダにはならないと思います。少なくとも60歳になって初めてこのことを考えて、「65じゃなくて70まで働かなくちゃいけないの?」と絶句するような悲劇を回避できます。

「働かなくちゃいけないの?」と愚痴をこぼしながら想定より長く働くほど苦痛なことはありません。むしろ老後に長く働くことは働きがいを充足させ、かつ家計を好転させる大きな手段です。手元の資金と、健康と働く意欲のバランスを考えながら、いつまで働けるか、どれくらい稼げるかを考えてみてください。

(企業年金コンサルタント/ファイナンシャル・プランナー 山崎 俊輔 写真=iStock.com)

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