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橋下徹「日大アメフトと財務省の共通点」

プレジデントオンライン / 2018年6月6日 12時15分

写真=iStock.com/solidcolours

ラフ・プレーについて日本大学アメリカンフットボール部の前監督や前コーチは直接的な指示を出したのか、出さなかったのか。当人たちは否定したものの、第三者である関東学生アメリカンフットボール連盟の規律委員会は「指示していた」と認定。一方、公文書の書き換え問題で内部調査の報告書を出した財務省は、安倍晋三首相の発言が改ざんのきっかけだったことを否定した。ふたつの問題の共通点とは。プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(6月5日配信)より、抜粋記事をお届けします――。

■日大問題と財務省文書改ざん事件の共通点

日本大学の対応がグダグダで、アメフト部の前監督内田正人氏は、学校法人日本大学の常務理事を辞任することになった。関西学院大学の被害学生と日本大学の加害学生との間には和解が成立し、被害学生側は加害学生が刑事処分に付されないよう意思表明し、今は、内田氏、井上奨(つとむ)前コーチの刑事手続きと、田中英寿理事長の対応の悪さに焦点が当たっている。

内田氏や井上氏は、ラフ・プレーを直接指示したことはないと主張していたが、関東学生アメリカンフットボール連盟の規律委員会は、内田氏の主張を虚偽と認定。内田氏や井上氏が、ラフ・プレーを指示したことを認定した。

これが第三者的な者が調査をすることの威力でもあり、恐ろしさでもあるんだよね。第三者が調査すると単なる調査にとどまらず、事実認定までするのが普通。当事者の主張がどうであれ、第三者が収集した事実や証拠を基に、事実関係がどうであったのかを判断しちゃうんだ。つまり裁判官と同じこともやってしまう。

調査は検察官の捜査みたいなものだから、検察官と裁判官が合わさったようなことをするのが第三者調査。

安倍政権が森友学園問題や加計学園問題で第三者調査を避ける理由もここにある。昨年2月に森友学園問題が国会で浮上して、安倍晋三首相は3月には会計検査院で検査してもらう方針を示した。会計検査院は憲法上、内閣から独立した組織であるので(憲法90条 会計検査院法1条)、第三者調査のような感じがするけど、事実の全体解明をするための機関ではない。あくまでも違法・不適切な「会計」を「指摘」するまでが仕事。当事者が色々な主張をしているときに、事実はどうであったのかをズバッと認定することはやらない。

だから会計検査院は森友学園問題について、国有地売却の際の値引きに根拠が不明確であることの「指摘」までしかできなかった。財務省は相も変わらず適正な手続きでの値引きだったと言い張るので結局事実解明は藪の中。会計検査院は、自ら集めた証拠を基に、財務省の主張に反してでも、事実はこうだ! とズバッと言い切ることはできない。

■検察の捜査が「究極の第三者調査」ではない理由

また、政府与党や自称インテリの一部が、検察の捜査こそが究極の第三者調査なのだから、あえて第三者調査をする必要はないと主張し続けていた。今般、検察は森友学園問題について財務省の官僚を全員不起訴とした。値引きや文書改ざんについて違法性を認めなかった。このことを基に、政府与党や政府与党を擁護する自称インテリたちは、「ほら見てみろ、森友学園問題は何の問題もなかったんだ!」とドヤ顔になっている。

これは安倍政権の作戦勝ちのところがある。世間は、検察が不起訴にしたことで、森友学園問題には何も問題がなかったと感じるかもしれない。しかし、それは違う。検察はあくまでも刑事罰を下すことができるかどうかを判断したまでで、今回は刑事罰は下せないという結果になったに過ぎないんだ。

刑事罰を下すには、よほどの違法性が存在することが必要になる。ちょっとしたミスで刑事罰を下すわけにはいかないからね。

今回は、あくまでも刑事罰を下すだけの違法性はなかったというだけで、会計検査院が指摘したように、国有地売却の際の値引きは杜撰極まりなかったことに間違いはない。後に行われた決裁文書の改ざんや、記録の廃棄も杜撰極まりない事務処理で言語道断だ。検察の不起訴処分によって、これら財務省の杜撰さに対する批判が、全て吹っ飛んでしまうようなことがあってはならない。不起訴処分は、あくまでも官僚個人に刑事罰を下すほどの違法性がなかった、ということだけあって、財務省の杜撰な行為は政治行政上、国民を裏切ったとんでもない行為であったことを忘れてはならない。

もし森友・加計学園問題が、政府与党とは無関係のいわゆる第三者が調査していたらどうなっていたか? 安倍政権の主張とは異なる事実関係をバンバン認めていたかもしれない。

(略)

■なぜ調査報告書のつじつまが合わないのか?

そして、財務省が、森友学園問題をめぐる公文書改ざん事件についての内部調査報告書を6月4日に発表した。かなり詳細に書かれているけど、肝心のところは逃げている。それは、佐川宣寿前国税庁長官(当時の理財局長)が、なぜ部下に文書廃棄や文書改ざんの(暗黙の)指示を出したかについての動機だ。

理財局が文書廃棄や文書改ざんに動いた目的は、国会からの厳しい追及を回避するためや、佐川氏の国会答弁に合わせるためとしているが、では、そもそもなぜ佐川氏がそのような指示をしたのか。麻生太郎財務大臣は「それが分かれば苦労しない。そこが分からない」と無責任に言い放つ。ここを確定するのが調査の最大の目的のはずだ。このような意味で、今回の財務省の調査報告書は全く使い物にならない。

なぜ「分からない」のか。それは素直な事実関係の見方を否定するからだ。財務省の報告書は概ねきちんとしたものになっているが、最重要の一点について、つまり「安倍晋三首相が昨年の2月17日に『もし私や妻が関係していたなら私は国会議員や総理を辞める』と言い放ったことで、佐川氏が文書廃棄や文書改ざんに動いた」という事実について否定するから、全てのつじつまが合わず、麻生さんが「分からない」という言葉を発することになるのである。

自然な事実関係を否定すれば、全てがおかしくなる。逆に、この一点を認めれば、この調査報告書は全体のつじつまが合ってくる。

これは日大アメフト問題と全く一緒だよね。内田氏や井上氏はラフ・プレーの指示は出していないと言い張った。しかし関係者の証言や客観的な事実から考えると、内田氏や井上氏の主張は不自然極まりない。だから、関東学連の規律委員会は、内田氏や井上氏がラフ・プレーの指示を出したという認定をし、それで全体のつじつまが合うようになった。

■安倍政権が、会計検査院や検察ではない、事実関係の解明を担う第三者調査を拒む理由

財務省の文書改ざん事件において、財務省の調査だけでは不十分だ。肝心の佐川氏の動機の部分が不明瞭なままでは調査の意味がない。ここは関係者の証言や客観的な事実から、社会通念に照らしてズバッと、全体としてつじつまの合う事実関係の認定をしてくれる第三者調査が必要なところだ。

今回の調査報告書は、ギリギリのところは守る役所お得意の言い訳文書みたいなものだ。だから国民もスッキリしないし、当の麻生大臣でさえ、肝心なところは「分からない」となってしまう。麻生さんだって無責任極まりない。自分で分からないなら、分かるようになるために、調査の陣頭指揮を執るべきだ。今回は第三者調査ではなく、財務省自体の調査なんだから、麻生さんが直接指揮命令を下して調査をする責任がある。

当の大臣が「分からない」なら国民が分かるわけないじゃないか! 麻生さんは、ここは普段の親分肌を脱ぎ捨て、国民の代表として、財務省という組織に厳しく指揮命令を下し、麻生さん自らがスッキリ全てが理解できるような調査報告にすべきである。しかし、それが困難だからこそ、第三者調査が必要になるんだ。

だいたい、財務省というところは、福田淳一前事務次官のセクハラ騒動のときに、週刊誌や被害者側から決定的な証拠とともに事実を突きつけられるまで、福田氏のセクハラの事実を明らかにすることができなかった役所だ。福田氏が否定している以上、それ以上のことは何も言えないとしていたんだよ。財務省は、所詮、自らの不祥事についてはこの程度の調査能力しか持っていない。森友学園問題をめぐる財務省の杜撰・不適切な様々な対応も、報道で次からに次に指摘されてから、財務省が追認するというお粗末な状況だった。そもそも佐川氏などがあれだけ、国会で嘘を言い続け、国会ではそのおかしさを野党から指摘され続けても、1年にもわたって何の事実解明もできなかった財務省。

ほんと腹立つのは、財務省は、自らの不祥事を認めることは、決定的な証拠を突きつけられるまではやらない。積極的に事実関係の調査もしない。しかし言い訳をすることになると、テキパキと調査報告書をまとめるんだよね。これは財務官僚の証言なども同じ。自分の不祥事に繋がることになると、証言拒絶や、「記憶にございません、記録はありません」の答弁をするけど、言い訳をすることになると、鮮やかに記憶が蘇り、弁舌が活性化する。

今回の調査報告書をまとめる力があるのであれば、なぜ1年前から、きちんとした調査をしなかったのか。役職組織が調査に消極的なときこそ、強烈な陣頭指揮をとって調査に臨むべきは政治家の責任だ。まさに麻生大臣や安倍政権の責任の根源は、この調査を会計検査院や検察に丸投げし、自ら積極的にしなかったことにある。

このような財務省や安倍政権の調査能力を見れば、関係者の証言や客観的事実から、社会通念に照らして全体としてつじつまの合うようにズバッと事実関係を認定してくれる第三者調査が必要なことは明らかだ。まさに内田氏や井上氏の主張を虚偽と断定し、自然な納得感のある事実認定を下した関東学連規律委員会のような調査がね。

このように事実関係を明確に断じることが第三者調査の威力でもあり、調査される側が最も恐れるところなんだよね。安倍政権が、財務省の不祥事について頑なに第三者調査を拒む理由はここにあるんだろうね。

(略)

(ここまでリード文を除き約3800字、メールマガジン全文は約1万2400字です)

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.106(6月5日配信)を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【学校スポーツ改革】本丸は夏の甲子園! 日大アメフト問題を好機に全面改革だ!》特集です!

(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 写真=iStock.com)

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