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最もヤバい起業家が政権中枢を目指すワケ

プレジデントオンライン / 2018年6月11日 9時15分

ピーター・ティールの近影(c)Manuel Braun

「世界で最もヤバい起業家」と呼ばれるピーター・ティール。決済サービス「ペイパル」創業者であり、投資家としても活躍するシリコンバレーの伝説的人物です。ペイパルは彼だけでなく、イーロン・マスク(スペースX)やリード・ホフマン(リンクトイン)ら名だたる起業家を世に出しました。今回は、2016年の大統領選でトランプ支持にまわり世間の度肝を抜いた彼の「真の狙い」に迫ります。

※本稿は、トーマス・ラッポルト『ピーター・ティール 世界を手にした「反逆の起業家」の野望』(赤坂桃子訳、飛鳥新社)を再編集したものです。

■トランプに「逆張り」したティールの勝利

2016年秋。ドナルド・トランプの勝利に多くの人が仰天し、シリコンバレーの大物たちはふさぎ込んでしまった。だがティールはちがった。その逆張り戦略がふたたび実を結んだのだ。彼は、ニュースや事前調査の予想は正反対だったにもかかわらず、ドナルド・トランプの勝利を疑ったことはなかったと述べている。

「トランプが勝つ見こみは低く見積られすぎていました。世論調査はトランプに票を投じた人々の存在をすくい上げていなかったのです。ブレクジット(英国のEU離脱)のときと同じ状況ですよ」

トランプの相手がヒラリー・クリントンではなく、バーニー・サンダースだったら、トランプは「勝つのは相当むずかしかったでしょう」とティールは述べている。

■トランプ選挙陣営のバイブルだった『ゼロ・トゥ・ワン』

突然ティールはトランプ政権で、テクノロジー分野の政策アドバイザーを務めることになった。大統領指名が行われた共和党全国大会で演説し、選挙戦を支援した苦労が短期間で報いられたのである。トランプの「スタートアップ」は、ほんの数か月でそれなりのビジネスモデルを確立し、破壊的政策によって世界最大の経済大国になることをかかげて始動した。

だがティールはどうやってこの椅子を手に入れたのか?

全国大会での印象的な演説と125万ドルの献金によって、彼はトランプの娘婿ジャレッド・クシュナーと妻イバンカ・トランプの注意を引きつけた。クシュナー夫妻はもともとティールをよく知っていた。ジャレッドの弟のジョシュアはオスカー・ヘルスの創業者だ。現在の評価額27億ドルのこのスタートアップは、高くて非効率な米国のヘルスケアは、もっとスリムで効率的でユーザーフレンドリーに設計できることを示した「希望の星」だ。ティールはこれまでにファウンダーズ・ファンドを通してかなりの額をオスカー・ヘルスに投資している。2016年に彼は4億ドルの投資ラウンドに参加した。このラウンドにはフィデリティやグーグル・キャピタルのような投資会社も加わっている。

著書『ゼロ・トゥ・ワン』の影響も大きかった。この本は選挙期間中、トランプ陣営の「バイブル」だった。スタートアップ、マーケティング、テクノロジーとグローバル化といったテーマに関するティールのメッセージは、選挙陣営にとって重要な「武器」だったのである。

■アップル、グーグル創業者らをトランプと「和解」させる

トーマス・ラッポルト、赤坂桃子訳『ピーター・ティール 世界を手にした「反逆の起業家」の野望』(飛鳥新社)

トランプのテクノロジー・アドバイザーという役割は、2016年12月半ば、すなわち大統領就任前の移行期にすでに世間が知るところとなった。シリコンバレーの大物たちとトランプとの間の溝を埋め、建設的な道筋をつけるために、ティールはトランプと、ティム・クック(アップルCEO)、ジェフ・ベゾス(アマゾンCEO)、ラリー・ペイジ(アルファベットCEO)、シェリル・サンドバーグ(フェイスブックCOO)、サティア・ナデラ(マイクロソフトCEO)、イーロン・マスク(テスラCEO)、アレックス・カープ(パランティアCEO)との会合を設定して、成功を収めた。

彼が成功したのはテクノロジー業界のトップたちとトランプを同じテーブルにつかせたことだけではない。トランプは出席者を「すばらしい人たち」と表し、「世界のどこを探してもあなたたちのような人はいない」と持ち上げて、力になれることがあれば何でもすると発言したのだ。選挙中にアップルとアマゾンを猛烈に非難したのとは大ちがいだ。

■「影の大統領」として腹心たちを送りこむ

オンライン政治メディアのポリティコはティールを「影の大統領」と名づけた。最近では彼に近いスタッフがそう呼んでいるらしい。多くのミーティングにも出席している彼は、政権でかなりの存在感を発揮している。

チェスの名手のティールは、自らのスタートアップの経験から、適切な人材を適切なポジションに配置する術を知っている。そうすれば、これまでのワシントンの「泥沼」がきれいに干上がり、彼が信頼するスペシャリストが枢要なポジションにつき、規制を緩和して、イノベーションの促進を図れるかもしれない。

ティール・キャピタルで参謀役だったマイケル・クラツィオスは、トランプ政権の副最高技術責任者(CTO)に就任した。副CTOはホワイトハウスの科学技術政策局と連携して、データ、イノベーション、テクノロジーといった課題を扱う。クラツィオスは、ティール・キャピタルに加わる前はティールの投資会社クラリウムの最高財務責任者(CFO)だった。

ミスリル・キャピタルのパートナーの一人だったジム・オニールは、当初は食品医薬品局(FDA)長官への起用が取りざたされた。FDAは保健福祉省の管轄下にある政府機関だ。オニールはブッシュ政権時代に保健福祉省で働いた経験もあるが、過去に、製薬会社は新薬販売前に(時間を食いすぎる)臨床試験を行う必要はない、「消費者に自己責任で使ってもらえればいい」と発言したことがある。

メディアは、オニールのようなリバタリアンを影響力のある地位に担ぎ出せれば、ティールにとっては大成功だと見ていた。しかし2017年5月、トランプは、より穏健なスコット・ゴットリーブを長官に指名した。

トレイ・スティーブンスについても触れておこう。スティーブンスは現在、ファウンダーズ・ファンドで官公庁相手のスタートアップを専門に担当している。彼は以前、国防総省の政権移行チームを率いていた。ペンタゴンで軍の調達プロセスについて質問するほど物怖じしない性格だ。

政府機関を多数顧客にかかえるティールのデータ分析会社パランティアは、軍の不透明な調達プロセスの問題で裁判を起こしている。裁判所は2016年10月に、パランティアが当初は除外されていた2億600万ドルの入札に参加する権利を認めた。フォーチュン誌ですら、2017年4月に13ページに及ぶ特集記事で、従来から取引のある軍需企業のみを優遇するペンタゴンのやり方を難じている。

■ティールの腹心、続々と政権周辺に

その他にティールがトランプの政権移行チームに送り込んだのが、ケビン・ハリントンとマーク・ウールウェイだ。ティール・キャピタル等で要職にあったハリントンは、米国家安全保障会議(NSC)の理事会に招聘され、商務省の空きポストに配属された。ウールウェイは財務省に配属された。ウールウェイは2000年からティールとつきあいがある。最初ペイパルで働いていたが、その後、ティールのヘッジファンド、クラリウム・キャピタルの経営責任者も務めた。

デイビッド・ゲランターは、トランプのサイエンス・アドバイザーの候補として話題になった。ここでもティールが裏で糸を引いている。ゲランターの専門はITで、イエール大学の有名教授だ。爆弾魔セオドア・カジンスキーが送りつけてきた手紙爆弾で重傷を負った被害者でもある。しかし彼がその名を知られるようになったのは、インターネットの意義と発展を予言したことによる。

90年代初頭の著書『ミラーワールド──コンピュータ社会の情報景観』(ジャストシステム)で、彼はすでにグーグル検索やグーグルマップのようなサービスについて言及している。また反知性主義の立場に立ち、愛国心と伝統的な家族観が崩壊したのは、知性偏重のせいだと主張している。もしもゲランターがサイエンス・アドバイザーのポストに就けば、前例のない人選になる。彼は物理学者でも生物学者でもなく、情報科学者だからだ。

ゲランターは気候変動の議論に対しては懐疑的だ。「人間が気候を変化させるという考え方は極端な仮説です」というのだ。彼からすると、気候変動を裏づける証拠は存在しない。ティールとゲランターは友人だ。ゲランターは、ティールが年に1度フランスのリビエラで開催する、すぐれた知識人や思想家たちを集めたカンファレンスにも出席している。

政権でのティールの動きに、まだしばらく目が離せない。

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トーマス・ラッポルト(Thomas Rappold)
起業家、投資家、ジャーナリスト
1971年ドイツ生まれ。世界有数の保険会社アリアンツにてオンライン金融ポータルの立ち上げに携わったのち、複数のインターネット企業の創業者となる。シリコンバレー通として知られ、同地でさまざまなスタートアップに投資している。シリコンバレーの金融およびテクノロジーに関する専門家として、ドイツのニュース専門チャンネルn-tvおよびN24などで活躍中。他の著書に『Silicon Valley Investing』がある。

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(起業家 トーマス・ラッポルト 撮影(ピーター・ティール)=Manuel Braun)

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