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橋下徹「米朝首脳会談を評論する愚」

プレジデントオンライン / 2018年6月13日 12時15分

写真=AFP/アフロ

6月12日、アメリカ・トランプ大統領と北朝鮮・金正恩朝鮮労働党委員長との間で、史上初の米朝首脳会談が開かれた。会談後の共同声明では、朝鮮半島の非核化を宣言したものの具体的な行動や検証については言及なし。これは日本にとってどういう意味を持つのか。プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(6月12日配信)より、抜粋記事をお届けします――。

■トランプのおっちゃんは知っている! 局面を動かす時こそ政治家・トップの出番だ

トランプのおっちゃんが世界を引っ掻き回している。今回のG7首脳会議では持論を譲らないし、G7での首脳共同宣言についても、米朝首脳会談が行われるシンガポールに発った後に、ツイッターで「俺はG7の共同宣言なんて承認していない」と発信。色々なところから聞いた話では、今回のG7会議はシナリオなしでのガチンコの激論だった模様。

これまでの状況を大きく動かす局面では、シナリオに沿った会議なんて全く無意味なんだよね。シナリオに沿った会議なんて、その会議以前に組織の担当者同士で話は決着しているわけで、それはわざわざトップが動かなくても組織の担当者レベルで解決できる会議であることを物語っている。つまり国の首脳が大きく局面を動かす話ではなく、組織の官僚レベルで解決できる話だからこそ、首脳会議ではシナリオに沿った会議で何とかなるということなんだよね。

(略)

この点、トランプのおっちゃんは、大統領就任後、ワシントンの官僚ではできないことを次々とやっているね。ワシントンの官僚のシナリオ通りにトランプのおっちゃんが動かないことは、もはや世界中に知れ渡っている。もちろんその中身については賛否両論、それもとてつもなく激しい賛否両論が沸き起こっている。それだけ動かそうとしている事態や局面、その変革が大きいということだ。

(略)

北朝鮮問題なんて、これは官僚組織の一担当者が扱えるレベルでないことは誰にも分かる。なんと言っても、まだ朝鮮戦争は継続中なんだよね。今休戦しているだけ。そして北朝鮮という超独裁国家において核兵器が着々と準備されているんだから。

こんな問題を解決するのに官僚組織の一部局、ましてや一官僚が対応できるわけがない。今回の米朝首脳会談については、特に新聞を中心に、出てくるわ出てくるわ、色んなインテリたちが持論を述べていた。でもね、ほとんどのインテリは、自分たちの領域と役割というものを分かっていない。

どの部分を政治家であり、国家のトップであるトランプのおっちゃんが担って、どの部分を専門家である官僚組織やインテリが担うのかの整理が必要で、まずそこをしっかりと整理するのが自称インテリの役割なんだ。トップと組織、政治家と官僚の役割分担論ね。ところが、政治家がやらなければならない領域にまで口を出して、トランプのおっちゃんのやっていることを全否定する自称インテリも多いね。

このように急展開で米朝首脳会談が実現することになったけど、米朝首脳会談が決定するまでは、また決定した後も、会談を行うトランプはバカだ、アホだと偉そうに罵っていた自称インテリが多かった。準備不足だ、戦略欠如だ、ともっともらしいことを言ってね。

でもこんな戦争にもなりかねない大きな問題を解決するのに、国のトップが会談する以外に、どんな方法があるというのか。

■準備不足を批判するより、世界を動かす大号令を評価すべき

今の時代、戦争による解決はご法度だ。であれば話し合いによる解決しかない。その場合に、どれだけの政府高官であろうと、所詮組織の一員同士が会っても、解決しないものは解決しない。北朝鮮問題の最重要事項について組織の一員が合意などできるはずがない。まずはトップ同士が会うことが全ての始まりだ。

準備不足だと批判するのは、後付けの批判。準備なんかどれだけやっても100%完璧なものなどできるはずがない。今の段階で、非核化への具体的プロセスなんて合意できるわけないじゃないか。こんな解決困難な問題で具体的に合意をしようと思えば、官僚組織をフル稼働させなければならない。さらに米朝だけではなく、韓国、中国、ロシア、それに日本の政府だってそれぞれフルに動かなければならない。

まさに世界を動かす大号令が必要なわけで、それが今回の米朝首脳会談。大阪都構想を公約に掲げて大阪維新の会で初めて選挙に臨んだ時も、大阪都構想の具体的中身がないと散々批判を受けた。その都度、「今回の選挙で勝てば、大阪都構想に向けての大号令を大阪府庁や大阪市役所に発することができる。具体的な中身は役所組織がフル稼働で作る」と説明したけど、誰もその意味を理解してくれなかった。結局最初の選挙から5年という月日がかかって大阪都構想の具体的な制度案が完成した。

大変革を伴う政治案を作るには、まずは局面・事態を動かす大号令、大号砲が必要なんだ。

(略)

トランプのおっちゃんは、大統領に就任以来、北朝鮮相手に色々と仕掛けて事態を動かすことにチャレンジした。世界的に批判を受けたこともあるけど、それでも軍事的圧力を加え続け、二次的経済制裁を用いて中国企業にも圧力を加える素振りを見せ、そして貿易戦争を中国に仕掛ける。あの手この手を繰り広げて、中国やロシアの重い腰を上げさせて、北朝鮮に対する経済制裁を実効的なものにしていった。北朝鮮という国の指導者に、チビでデブのロケットマンと罵ったかと思えば、友達になれることを期待していると、甘い言葉を贈る。まあほんと、達者だよね。こうやって事態を動かしていく中で、金正恩委員長が韓国を通じて、米朝首脳会談の打診を行なってきた。

トランプのおっちゃんは、ここがチャンスと見たんだろうね。米朝首脳会談を即決した。こんなことは政治家にしかできないし、政治家と言ってもトランプのおっちゃんにしかできないことだろう。世界的に、そして特にインテリから人気のあるオバマ前大統領は、「戦略的忍耐」という小難しい言葉を使って北朝鮮外交の方針としていたけど、これって結局「何もしない」ということ。だから事態は何も動かなかった。

米朝首脳会談を決める、事態を動かすというところまでは完全に政治家、国のトップの役割で、トランプのおっちゃんは、見事それをやってのけた。

今回の米朝首脳会談には中身がない、具体性がないと批判している人たちは、事態を大きく動かすことにチャレンジしたことがない人たちだ。まあ評論家の類だね。そして巨大組織を動かしたこともないのだろう。

事態を動かそうと思えば、チャレンジしかない。成功することもあれば、失敗することもある。しかしとにかくチャレンジしないことには、成功はあり得ない。今回の米朝首脳会談は、世界を動かすチャレンジであり、米朝のみならず、中国、韓国、ロシア、日本の各政府、各国の政治を動かすための大号令、大号砲なんだよ。中身は官僚組織がこれから詰めていく。行き詰まればその都度トップ会談で事態を打開する。これが北朝鮮非核化を実行するプロセスだ。

(略)

■日本は評論家になるな、他者の力を頼り過ぎるな、当事者意識を持って最悪の事態へ備えよ

アメリカ、トランプのおっちゃんにとっては、北朝鮮のICBM(大陸間弾道ミサイル)廃棄が実現できれば、とりあえずアメリカ本土を狙われることはなくなり、アメリカの利益を実現できる。その他の中距離ミサイルが存在しようが、核弾頭が残っていようが、ICBMさえ廃棄できれば、ぎりぎりアメリカの利益を守ることができる。そしてトランプのおっちゃんとしては朝鮮戦争の終結ができれば歴史的に名を残すことができる。

北朝鮮・金さんにとっては、ICBMの廃棄と引き換えに北朝鮮の体制保証さえ得られれば、自分の身を守ることができる。

ということで、北朝鮮がICBMを放棄して、朝鮮戦争を終結させるというラインで落ち着く、すなわち日本を射程に収める中距離ミサイルや、核弾頭は残るという日本にとっては最悪の収まり方を想定して、日本は、日本自らの対処方法を今から考える必要がある。

ところが今の日本の状況は、米朝首脳会談とその後が日本にとって最大の利益になるような進展を「願望・希望」し、第三者的に米朝会談の成り行きなどを「評論・予測」しているだけ。日本にとって最悪のことを想定して、その対処方法の選択肢を考え、実行することが、今の日本にとって一番重要なことだ。アメリカの力をうまく利用する必要はあるが、アメリカの力を頼り切ることは、もう終わりにしなければならない。

(略)

(ここまでリード文を除き約3300字、メールマガジン全文は約1万6400字です)

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.107(6月12日配信)を一部抜粋し、大幅に加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【トランプ流マネジメント】米朝会談実現! 評論している場合じゃない、日本は最悪の結果に備えよ!》特集です!

(前大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 写真=AFP/アフロ)

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