ウソがはびこる政権を、誰が支持するのか
プレジデントオンライン / 2018年6月8日 9時15分
2018年6月4日、記者会見で頭を下げる(左から)財務省の太田充理財局長、矢野康治官房長、伊藤豊秘書課長。学校法人「森友学園」への国有地売却をめぐる決裁文書改ざんなどの問題に関する、同省の内部調査結果と関係者の処分について発表した(写真=時事通信フォト)
■安倍首相は本当に責任を痛感しているのか
NHKのクイズバラエティー番組『チコちゃんに叱られる!』で、キャラクターのチコちゃんが顔を真っ赤にして怒鳴る場面がある。「行政府の長として責任を痛感している」と何度も繰り返す安倍晋三首相に対して、思わずこのチコちゃんのように怒鳴りたくなる。
安倍晋三首相は6月5日、公文書管理に関する閣僚会議を官邸で開き、森友学園をめぐる財務省の文書改竄や自衛隊の日報隠蔽などの不祥事を踏まえ、全閣僚に再発防止策の取りまとめを指示した。
前日の4日には、財務省が「改竄問題の調査報告と処分」を発表しているが、この調査報告と処分も、閣僚会議も、管理強化に取り組む安倍政権の姿勢を国民にアピールするのが狙いだ。
閣僚会議で首相は「反省すべきは真摯に反省し、公文書管理の適正を確保するため、必要な見直しを政府を挙げて徹底して実施する」とも語っていたが、安倍首相自身、本当に責任を痛感し、反省しているのか、大いに疑問である。
森友学園への国有地売却をめぐる財務省の決裁文書改竄、加計学園の獣医学部新設をめぐる疑惑など、安倍政権の一連の不祥事の根底には「安倍1強」による長期政権の弊害が横たわっている。
そのことを安倍首相はまったく理解していない。少しでも理解していれば、与党の「これで区切りがついた」と幕引きを期待する声に対し、首相として異を唱え、霞が関の官僚に「私に尽くすのではなく、国民に尽くしてほしい。国民の公僕という公務員の在り方を忘れてはならない」と説いているはずである。
■読売社説がなぜか「ぱっとしない」理由
財務省は4日、調査報告書を発表し、理財局長だった佐川宣寿・前国税庁長官が改竄を指示していたと認定した。そのうえで「停職3カ月相当」の懲戒処分として、佐川氏の退職金を減額した。このほか20に対し、停職、減給、戒告などの処分を下した。
トップの麻生太郎財務相は監督責任を問われて給与の1年分を自主的に返納する形となった。ただし財務相の職にはそのままとどまる。
ここで各紙の社説を読み比べてみよう。
6月5日付の読売新聞の社説は、「財務省処分」「再発防止で信頼回復を急げ」と見出しを付け、「財務省は、失墜した信頼を回復できるか。再発防止へ、重い課題を背負ったと言えよう」と書き出している。
「失墜」「信頼」「再発防止」「重い課題」と並べ立ててはいるが、どこかぱっとしない。なぜだろうか。
■「廃棄や改竄の背景に首相への配慮」と読売
読売社説はこう指摘していく。
「旧大蔵省時代の1998年に起きた『接待汚職』以来の深刻な不祥事である。大規模な処分を実施したのは当然だ」
「佐川氏は国会答弁で、問題の国有地売却に対する政治家の関与を否定し、交渉記録は廃棄したと明言していた。決裁文書には、安倍首相の昭恵夫人や複数の政治家の名前が記載されており、佐川氏らは、それらを削除した」
「安倍首相は、自らや夫人が取引に関与していた場合、辞任すると国会で答弁した。廃棄や改ざんの背景に、首相答弁への配慮があったと見られても仕方がない」
大規模な処分といえるかは疑問だが、処分は読売社説の指摘通り「当然」だ。「首相答弁への配慮」という指摘もうなずける。
■「扱い」をみても、読売社説だけが異例
さらに読売社説はこれまでの麻生氏の対応と今後の続投に触れる。
「麻生氏は、改ざんについて『財務省全体で日常的に行われているわけではない』と述べ、組織ぐるみではないとの見解を示した」
「理財局トップから幹部、職員へと、文書の廃棄や改ざんの方針が伝えられ、実行されていった。これを組織ぐるみと言わずして、何と言うのだろうか。麻生氏は認識を改めるべきだ」
「麻生氏は財務相にとどまるのなら、先頭に立って組織風土の刷新に取り組まねばならない」
読売社説が指摘するまでもなく、今回の改竄はだれが見ても組織ぐるみそのものである。新聞の社説として麻生氏の発言に反論して当然だ。
しかし読売社説は冷めて見える。どこかぱっとしない。どうしてなのか。
理由は簡単だ。本気で安倍政権の非を正そうとする気がないからだ。本来、麻生氏の続投に対しても「組織風土の刷新」ではなく、引責を促すのが筋だ。
社説の扱いをみれば、違いは一目瞭然だ。全国紙のうち朝日新聞と毎日新聞は、文書改竄問題を1本の大きな社説で扱っている。産経新聞と日経新聞はともに半本ではあるものの、1番手の社説のテーマとして取り上げている。これに対し、読売だけは半本の2番手扱いなのである。ちなみにいずれの社説も6月5日付である。
■「麻生氏は速やかに辞任すべきだ」と朝日
読売に対し、朝日社説は歯切れよくこう書き出す。
「国民共有の財産で、歴史の記録でもある公文書を改ざんし、廃棄する。国民を代表する国会でうその答弁を重ね、立法府による行政監視の役割を骨抜きにする。その問題の重大性に、この政権が真摯に向き合っているとはとても言えない」
朝日社説は財務省が発表した「改竄問題の調査報告と処分」についてこう書き進める。
「責任を官僚組織の一部に押し込め、問題が政権全体に及ぶのを回避しようという狙いは明らかだ。国有地の大幅値引きの経緯は今回の調査の対象外であり、疑惑の全容解明には程遠い。これでは、失った信頼を回復するどころか、政治不信に拍車をかけるだけだろう」
さらに「この問題を軽視する発言を繰り返してきた麻生氏の下で、行政への信頼回復や財務省の抜本的な立て直しが実現できるとは到底思えない。麻生氏は速やかに辞任し、新しい大臣の下で財務省は出直すべきである」ときっぱりと言い切る。
実に分かりやすい。
■「国の中枢でうそがはびこり、それを正すことができない」
次に安倍首相を批判する。
「麻生氏の続投を許した首相の責任もまた重大である。秋の自民党総裁選で3選を果たすためには、党内第2派閥を率いる麻生氏を敵に回せない。政権発足以来、副総理として支えてくれた麻生氏が閣外に去れば、政権・与党内の力関係が不安定になる――。政治的なけじめより、そんな自己都合を優先させた判断ではないのか」
これも納得できる指摘である。最後に朝日社説は安倍政権にとどめを刺す。
「国の中枢でうそがはびこり、それを正すことができない。しかるべき立場にある人間が責任を引き受けない。それは、一政権の問題を超えて、人々のモラルに悪影響を与え、社会全体の規範意識を掘り崩しかねない」
なるほどその通りだ。
■「他紙との違いが際立つのが読売の論調」
ところで毎日新聞(6月6日付)はオピニオン面で「社説を読み解く」という記事を載せている。ここで論説副委員長が、加計学園問題について「他紙との違いが際立つのが読売の論調である」と指摘し、こう書いている。
「首相の面会が焦点だった予算委員会審議を受けた5月29日社説は『繰り返しの論議に辟易する』との見出しだった。『明確な根拠も示さず、疑惑をあげつらう野党と、粗い対応で混乱を招いた安倍首相の双方に責任があろう』と双方を同列に並べ、国会での疑惑追及に『同じ議論の繰り返しには辟易してしまう』と嫌悪感すら示した」
「読売は愛媛県が文書を国会に出した際も、政府と対立構図に見えるとして『違和感を拭えない』と評し『国会の混乱に幕を引く時だ』(5月24日)と主張した」
この加計新疑惑については、沙鴎一歩も5月25日、プレジデントオンラインで「これだけウソを並べる政権が戦後あったか」「愛媛県と安倍首相 どっちが本当なのか」という見出しを付けて書いた。
その書き出し部分を要約して挙げておく。
「愛媛県が5月21日、新たな記録文書を国会に提出した。その文書の中から『加計孝太郎理事長が、安倍首相と2015年2月25日に面会し、安倍首相がいいねと語った』との記載が見つかった。安倍首相はこれまで国会で『加計理事長から獣医学部新設の相談を受けたことは一切ない。獣医学部新設計画を知ったのは加計学園が事業者に決まった2017年1月20日』と説明していた。加計新文書と安倍首相の説明は大きく食い違う」
毎日の論説副委員長が指摘を待つまでもなく、やはり加計問題における読売の論調は安倍政権擁護が目立つ。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)
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