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超少子化シンガポールの将来が明るいワケ

プレジデントオンライン / 2018年6月20日 9時15分

シンガポールの合計特殊出生率は1.25。日本の1.42よりも低く、少子化が深刻な問題になっている。だが、国の将来は明るく、市民は老後に不安を抱いていない。なぜ日本とは状況が違うのだろうか。そのポイントは女性やシニアがいきいきと働ける仕組みづくりだ。共働き率9割、67歳まで賃金は減らない、というシンガポールの取り組みについて、現地に住むファイナンシャル・プランナーが解説する――。

■少子高齢化が深刻なシンガポールの知恵

ファイナンシャル・プランナーの花輪陽子です。私はテレビや雑誌でコメンテーターの仕事をしていますが、夫の転勤で、2015年に当時1歳の娘を連れてシンガポールに移住しました。シンガポールに住んでみると、日本よりも進んでいて快適で合理的なところが多く驚かされました。

何より驚いたのは、日本より深刻な少子高齢化社会なのに、労働力の確保、金融システムの発達、次世代の人材を作る教育などで、明るい未来を描けていたことです。拙著『少子高齢化でも老後不安ゼロ シンガポールで見た日本の未来理想図』(講談社+α新書)では、その賢くて合理的な小国の知恵を記しました。ポイントを絞って、その内容をご紹介したいと思います。

日本の2015年の総人口は1億2709万人、生産年齢人口(15~64歳)は7629万人ですが(平成27年国勢調査)、2060年には総人口は9284万人、生産年齢人口は4793万人にまで減少すると予測されています(国立社会保障・人口問題研究所の将来推計)。生産労働人口は実に約4割も減少することになります。「GDP=人口×一人当たりGDP」になるので、一人当たりGDPを向上させていくか、労働力となる人口を増やしていかないとGDPを維持することは厳しいのです。

厚生労働省によると、2018年4月発表の有効求人倍率は1.59倍で、この数年は仕事を探している人よりも、人を探している企業のほうが多い状態が続いています。高齢化社会に伴って労働力がますます不足することは目に見えています。日本人だけですべてをやりくりしようとするのには無理があり、シンガポールのように労働力の重要性をよく理解し、それに合わせた制度設計をする必要があります。具体的には労働力として、女性、高齢者、外国人労働者の活用をすすめることです。

シンガポールの合計特殊出生率は1.25(日本は1.42 2014年)と、日本より少子高齢化が深刻です。しかし女性やシニアが活躍でき、優秀な外国人労働者を確保することで、労働力人口減少の問題を解消しています。

たとえばシンガポールでは、女性が結婚・出産・育児のために労働市場からいったん退出する、いわゆる「M字カーブ」現象は見られません。保育所や外国人家事労働者の支えが充実しているからです。交通システムでは時間差で運賃が変動する混雑緩和政策をとっているため、ベビーカーでの通勤も苦になりません。

■女性、高齢者、外国人労働者で労働力を確保

シンガポール女性の「年齢階級別労働力率」を見ると、25~29歳で88.6%、30~34歳で83.3%、35~39歳で80.9%、40~44歳で78.1%が労働市場にいることがわかります。これに対して、日本はそれぞれ79.3%、71%、70.8%、74.3%。全年齢を通してシンガポールよりも女性活用が遅れており、30~34歳の「M字カーブ」が依然として存在することがわかります(国際労働比較データブック2016)。

その大きな要因は、シンガポールでは女性が働くインセンティブが大きいのに対し、日本では収入を扶養内に抑えようというインセンティブが働く制度設計になっているためです。

日本では2017年10月から育休の2年延長が施行されました。一方、シンガポールでは、出産の1カ月前まで働き、産後3カ月程度で復帰するのが一般的です。無痛分娩や産後ケア、オーガニックミルクが充実しており、保育園や外国人ヘルパーという受け皿が充実しているため、女性の早期職場復帰が当たり前になっています。

そもそもシンガポールには長期育休向けの給付がほとんどありません。このため育休期間が長期化すると収入が途絶えるため、生活が厳しくなってしまいます。さらに、CPF(Central Provident Fund:中央積立基金)という確定拠出年金のような仕組みがあり、育休が長引くと毎月の積立額が減るため、将来もらえる年金も減ってしまいます。その結果、おのずと早期復帰を選択するようになるのです。

一方、日本では産休に加えて育休があり、最長で子どもが2歳まで給付を受けられるようになりました(2017年10月から)。また、産休・育休中の社会保険料も免除になるのでゆっくり休もうというインセンティブが働きます。

シンガポールにも配偶者控除はありますが、収入上限が年間32万円以下と低く、控除額もわずかです。そのため、配偶者控除の範囲で働くという発想にはなりません。シンガポールでは専業主婦家庭でも保育園を利用することができますが、ワーキングマザーはより多くの助成を受けられるようになっています。

日本のように「勤め先がないと保育園を利用しにくい」ということもないので、出産を機に離職しても、保育所に子どもを預けながら再就職活動ができ、結果的に労働市場に戻りやすい仕組みになっています。また、「世帯収入が高いと保育園に入りにくい」ということもないので男性も女性も天井を考えずに働こうという意欲がわくのです。

■シニアが働くことができれば老後不安を減らせる

シンガポールでは働くシニアが増加しています。雇用主は67歳まで継続雇用を申し出る義務があり、65歳以上の労働力率は36%(日本30.2% 2014年)です。日本では継続雇用の際に賃金を大幅にカットされるケースが多いですが、シンガポールではガイドラインがあって大幅な賃金カットは認められていません。

日本では働きながら厚生年金を受け取ろうとすると、その間の年金が減額されることがありますが、シンガポールではそういったことはありません。高齢者が高い収入で働き続けるほど、老後の資金を確保することができ、年金不安を解消できる仕組みになっています。

また、シンガポールでは人口の4割が外国人労働者です。その大半は周辺諸国から来た、建築業、製造業、サービス業(外国人家事労働者など)などに従事する低技術労働者ですが、中間管理職、専門技術者、研究者、弁護士、医師、会計士などの高技術労働者を受け入れる仕組みも用意しており、富裕層や高技術労働者は永住権を取得しやすくなっています。

経済成長には資本、労働力、生産性が必要です。主に富裕層は資本に、高技術労働者は生産性に、低技術労働者は労働力に貢献します。そしてシンガポーリアンの雇用を守るために、中レベルの労働者のビザの支給は制限しています。治安を維持するためルールに従わない外国人は強制送還するという強硬手段もとっています。恣意的ですが、国にとってメリットのある者を選別して、異なる種類のビザを発行しているのです。

日本ではエンジニアの人手不足が深刻化していると言われていますが、シンガポールは優秀なエンジニアを積極的に呼び込み、給与やビザなどの条件面で好待遇を打ち出しています。米シリコンバレーではビザ厳格化から外国人技術者の流出が始まっていますが、賢い国は優秀な人材を海外から集める政策をすすめているのです。

内閣府は毎年20万人の移民を受け入れることで、合計特殊出生率が人口を維持できる水準に回復すれば今後100年間は人口の大幅減を避けられるという試算を出しました(2014年)。しかし、大量の移民の受け入れは国民の反発を呼ぶでしょう。必要な手だては、移民政策よりも、女性や高齢者の活用ではないでしょうか。日本より少子高齢化が深刻にもかかわらず、働き手不足を解消しているシンガポールから学べることはたくさんあるはずです。

日本は2060年までに高齢者1人を1.3人の現役が支えるという不安定な人口構成になるとみられています。「人生100年時代」はよろこばしいことかもしれませんが、時遅しとなる前に、国、企業、個人が一刻も早く対策に取り組む必要があるはずです。

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花輪陽子(はなわ・ようこ)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFP認定者
1978年、三重県生まれ。青山学院大学国際政治経済学部卒業後、外資系投資銀行に入社。退職後、FPとして独立。2015年から生活の拠点をシンガポールに移し、東京とシンガポールでセミナー講師など幅広い活動を行う。日本FP協会「くらしとお金のFP相談室」2011年度相談員

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(ファイナンシャル・プランナー 花輪 陽子)

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