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橋下徹"米朝実現トランプ流の何が凄いか"

プレジデントオンライン / 2018年6月20日 11時15分

写真=朝鮮通信/時事通信フォト

史上初の米朝首脳会談実現を受けて、トランプ米大統領への賛否の声がかまびすしい。いったいトランプ氏のやり方のどこが凄いのか。橋下徹氏がずばり指摘する。プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(6月19日配信)より、抜粋記事をお届けします――。

■凄腕交渉人、トランプ氏のノウハウはこんなに役に立つ!

6月12日に史上初の米朝首脳会談が開かれた。これを受けて、トランプ米大統領の外交について報道が溢れかえっている。激しく賛否両論を沸き起こし、自称インテリたちは評論や解説で商売繁盛だ。僕もそのうちの一人だけどね。

(略)

トランプ大統領のことを嫌いな人はたくさんいると思う。でも好き嫌いを横に置けば、トランプ氏の政治的態度振る舞いは、実践的な交渉をする者にとって役立つことが多い。観念の世界に生きる者ではなく、現実の世界に生きる者には役立つことが多いんだよね。

ビジネスを進める上では、相手の好き嫌いはある意味どうでもいい。重要なことは成果を出すことだ。重要な成果を出すことのノウハウが、トランプ大統領の交渉術に存在するのであれば、トランプ大統領に対する好き嫌いは別として、そのノウハウはしっかりと学ぶべきだ。

(略)

交渉相手との個人的な人間関係を緊密にすることに関しては、トランプ大統領の実行力は神業だと思う。これは人間としてのキャラクターがもの凄く影響してくるけど、このキャラクターづくりもある種計算しながらやらないといけない。トランプ大統領もしっかり計算していると思う。

彼の特徴は、個人的な関係が必要だと感じた相手に対しては、特に直接対面した時には、徹底して相手を持ち上げる。ここまで言うかよ! というくらいにね。

(略)

通常、国家の指導者間では、儀礼的な態度振る舞いが主軸になる。まさに国家の指導者に相応しいとされる、お坊ちゃんお嬢ちゃん的な態度振る舞い。自称インテリたちが好むやつね。でもそれは、ほとんどが形式的・挨拶的な態度振る舞いで、事態を自分の方に有利に動かすことには繋がらない。ニコニコと挨拶する程度のこと。

しかし、国家間のものに限らずとも交渉で事態を自分の方に有利に運ぼうと思えば、これまで繰り返し指摘してきたように、「脅す」、「利益を与える/譲歩する」、「お願いする」しかない。

そしてトランプ氏のように、「脅し」を多用する交渉手法にとって最も重要なことは、脅しながらも交渉相手との人間関係はギリギリのところで維持していくという術だ。

これはとんでもない高度なテクニックで、普通はこんなことはできない。まさに神業。相手を脅せば、普通は相手との人間関係は崩れる、決裂する。そうなったとしてもなお力で押し込んでいくのは素人の交渉人だ。特に、国家の指導者間の関係では、最後には戦争になり得るからね。

最後にはきちんと交渉でまとめるのであれば、交渉の途中で相手と激しいケンカをしたとしても、決定的な人間関係の決裂にはつながらないような態度振る舞いが必要になる。

(略)

このトランプ氏的態度振る舞いは、真のプライベートな友人関係を形成するためのものではない。激しく交渉することを前提に、ギリギリのところで決定的な決裂を避けるための態度振る舞いだ。トランプ氏はビジネスマンだ。ビジネス上の付き合いと、プライベートな付き合いは別だと割り切っているのだろう。

ところが意外にも、自称インテリたちが忌み嫌うこういう態度振る舞いの方が、同じ境遇で苦労を重ねている非民主主義の国家の指導者たちと、真の友人関係を徐々に形成する可能性がある。利害得失で敵味方をはっきりさせる率直な物言いの方が、ワンマン経営者にウケがいいのと同じだね。観念の世界ではなく、現実に生きる人たちの多くは利害損失を日々気にして仕事をやっている。こういう世界では、自称インテリが好む、お上品で形式的な儀礼的態度振る舞いというものが、真の友人関係の形成につながることはまずない。

またトランプ氏は、個人的な人間関係の形成が必要だと感じたら、ポジションや格というものを気にせず、直接、対等な関係を築こうとする。まさに今回の金正恩朝鮮労働党委員長との会談における態度振る舞いがそうだよね。トランプ氏は世界最強のアメリカの大統領。金氏は東アジア最貧国の北朝鮮の指導者で、しかもトランプ氏の半分くらいの年齢。それでもトランプ氏は偉そうな態度や、さらに対等な雰囲気すら無理に出すことをせず、むしろ自分の方から下手に、親しみやすいような雰囲気を出していた。普通だったら、相手に弱さを見せないように肩ひじを張ってしまうんだけど、トランプ氏は「金氏とはいつからの友人なんだよ!」というくらい柔らかい雰囲気を出していたね。ほんと達者だよな~。

(略)

■G7会合をあそこまで罵った米大統領はかつていなかった

世界最強の国であるアメリアの大統領が、東アジア最貧国の北朝鮮の指導者に対して、あそこまで丁寧な態度振る舞いをとった。

それに比べて、オバマ前大統領のような人間は、北朝鮮くらいの国の指導者にわざわざアメリカ大統領様が会う必要はないと感じることが多い。ここがトランプ氏のような人間との決定的な違いなんだよね。

キレイごとが好きなオバマ前大統領タイプの人は、普段は「人間は平等だ!」とか言っておきながら、人間の「格」というものを気にする人が多いよね。トランプ氏のようなタイプの人間は、そんなものよりも交渉の成果を重視する。

トランプ氏は金氏をバカにしたような態度は一切取らなかった。全世界が注目している会談において、威勢のイイことは全く言わなかった。とにかく丁重に対応していたことが、こちらに伝わってきた。

そんな態度振る舞いの中でも、トランプ氏らしさをふんだんに盛り込んだ。

金氏が話し終わった後に、トランプ氏は親指を立てるポーズ。やり過ぎにならない程度に、金氏の肩や背中に触れるコンタクト。昼食にはハーゲンダッツのアイスクリーム。金正恩がハーゲンダッツのアイスクリームを食べている姿を想像するだけで笑ってしまう。そして散策途中で、アメリカ大統領警護車両「ビースト」の内装を自ら紹介。

金氏を丁重に扱うんだけど、決して神格化しない。自分を優位なポジションに見せるのではなく、相手を抱き込みながらお互いに庶民目線まで降りてくる。金正恩も普通の若者やんか、という印象を世界に振りまいた。

対して、その直前に参加していたG7首脳会談は、とっとと早めに切り上げた。「時間の無駄だ」と言い放った。権威ある(と自称インテリには思われている)G7会談について、ここまで罵ったアメリカ大統領なんてかつて存在しない。しかも「G7首脳宣言は認めない!」、議長国であるカナダ首相のトルドー氏には「弱虫め!」とツイッターで悪態をついた。その上で、金正恩氏との会談でのあの態度振る舞い。もちろん、トルドー氏が自分を強く見せるためか、G7首脳宣言にかこつけて議長声明としてトランプ氏批判を強烈に展開したことに対して、トランプはやり返したんだけど、カナダ首相に対するあの悪態が、金正恩氏に対する丁重さをさらに引き立たせていた。

そして金正恩氏との会談後は、これでもか! というくらいのお世辞の連発。さらに電話番号の交換。世界に向けて、金正恩氏がトランプ氏と対等に渡り合っている様子が発信されることを十分織り込んでのトランプ氏のあの対応。北朝鮮も自国内で、金氏がトランプ氏と対等に渡り合っているような映像をプロパガンダとしてガンガン流すだろう。

でもトランプ氏はお構いなし。これから激しく厳しい交渉をしなければならない相手に対して、まずは自分のキャラクターを全力で売り込む。これから北朝鮮の非核化が本当に進むかどうかなんて誰にも分からない。それでも最後はトップ同士で話を付けることができるような環境だけは整えておく。これこそが国家の指導者、政治リーダーの役割だ。

こんなことは自称インテリたちが1万人束になってもできないことだね。

(ここまでリード文を除き約3100字、メールマガジン全文は約1万字です)

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.108(6月19日配信)を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【トランプ式交渉術〈1〉】“お坊ちゃん流”じゃダメ! 「脅し」と「お世辞」でつくる人間関係》特集です!

(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 写真=朝鮮通信/時事通信フォト)

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