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"頼みはトランプ劇場"安倍首相の情けなさ

プレジデントオンライン / 2018年6月14日 9時15分

しっかりと握手を交わした北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)とトランプ米大統領(写真=AFP/時事通信フォト)

■中身は空っぽで、「トランプ劇場」そのもの

史上最悪の外交・政治ショーだった。まさに「トランプ劇場」そのものだ。アメリカのトランプ大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の史上初の会談のことである。

2人の会談は6月12日、シンガポール南部のセントーサ島にあるカペラホテルで行われた。会談中にトランプ氏が「(正恩氏と)すばらしい関係を築く」と語り、正恩氏も「足かせとなる過去があったが、すべてを克服してここまで来た」と話した。

2人が関係改善に意欲を示したことは間違いないだろう。しかし最大の焦点は、北朝鮮の完全非核化に向けた合意のはずである。

これまで米国は「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」を求め、北朝鮮は「体制の安全の保証」を求めてきた。

■トランプ氏よりも正恩氏の方が一枚上手

トランプ氏と正恩氏は2人そろって合意文書の「シンガポール共同声明」に署名し、その場面をテレビが生中継した。2人が仲良く並んで署名するなど予想できなかった。見事な演出である。

署名後、トランプ氏はすぐに合意の中身を明らかにせず、「2時間後の記者会見で公表する」と記者団に述べた。じらして米朝会談を盛り上げようとしたのだろう。

しかしながら国際社会の期待感とは裏腹に、肝心の共同声明の中身は空っぽ。朝鮮半島の「完全非核化」をうたってはいるものの、具体的措置は皆無だった。

一方、米韓軍事演習の中止の可能性を確信した正恩氏の顔は、笑顔であふれていた。正恩氏は筋金入りの策士だ。あの若さで一国を背負って立つのだから当然かもしれないが、子供のころから海外で英才教育を受け、外交というものも熟知している。トランプ氏よりも正恩氏の方が一枚上手だった。

■北朝鮮は「拉致問題は解決した」との姿勢を崩さない

共同声明には非核化の具体的な行程や検証方法は盛り込まれず、今後の米朝の動きを待たなければならない。残された課題は多い。

記者会見でトランプ氏は日本人拉致問題を提起したことも明らかにしたが、共同声明には入らなかった。なぜだろうか。北朝鮮が「拉致問題は解決した」との姿勢を崩さないからで、現実には安倍晋三首相が繰り返す「日朝会談」など蚊屋の外なのだ。

記者会見でトランプ氏は「北朝鮮による非核化のプロセスが迅速に始まる」とも語ったが、共同声明には「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」は盛り込まれなかった。

その理由をトランプ氏は「完全非核化には技術的に長い時間がかかる」と語ったが、金正恩氏との会見前には、それについてひと言も話していなかった。

■トランプ氏は本気で北朝鮮を信用するのか

対北朝鮮への制裁は当面維持するとしたが、北朝鮮の核兵器の脅威がなくなれば解除するとも明らかにした。

共同声明では朝鮮半島の完全な非核化に加え、(1)新しい米朝関係の確立(2)朝鮮半島の持続的で安定した平和体制構築(3)朝鮮戦争の戦没米兵の遺骨収集で協力―を挙げた。

さらに記者会見でトランプ氏は休戦状態の朝鮮戦争(1950~1953年)に関し、「間もなく終結することを期待している」とも述べた。

本当だろうか。トランプ氏は何を根拠にそこまでいえるのだろうか。本気で北朝鮮を信用するのか。

■なぜトランプ氏は共同声明で譲歩したのか

トランプ氏と金正恩氏は犬猿の仲だった。北朝鮮がミサイルの発射を繰り返していた昨年夏には、お互いをののしり合っていた。

トランプ氏が「リトルロケットマン」とからかえば、正恩氏が「老いぼれ」とののしった。米朝会談の開催が決まった直後にも、開催が危ぶまれるほど衝突した。

それが今回の米朝会談では10秒以上も固い握手をして笑顔で世界中のメディアのフラッシュやライトを浴びた。

会談で正恩氏は「すべてを乗り越えてここまできた。会談の実現に努力をしてくださったトランプ大統領に感謝します」と話した。一方のトランプ氏は「とてもいい人だ。頭もよく、優れた交渉者で才能がある。自分の国を愛している」と褒めちぎった。記者会見でも「これから何度も会うことになるだろう」と述べ、「ホワイトハウスに招待するのか」という記者の質問に「当然だ」と答えていた。

ここで大きな疑問がある。なぜ、トランプ氏は正恩氏をもてなし、共同声明で大きく譲歩したのだろうか。

■「ベタ褒め」しかできない安倍首相の情けなさ

それにしても情けなかったのが、安倍首相である。

米朝会談が終わった12日夜、安倍首相はトランプ氏と電話会談した。その後、官邸で記者団に対し、トランプ氏が日本人拉致問題を正恩氏に話したことを受け、こう表明した。

「トランプ氏の強力な支援を得て日本が直接北朝鮮と向き合い解決する決意だ」

対話路線への転換を明確にしたものだが、安倍政権は拉致問題進展を目指し、正恩氏との首脳会談を視野に入れ、日朝協議への道を具体的に探る構えのようだ。

要はどこまでも安倍首相はトランプ頼みなのだ。本来なら安倍首相が独自で首脳会談への道を切り開くべきだった。小泉純一郎首相のときはそれができた。だから実際に拉致被害者らが帰国できたのである。

今回の米朝会談でトランプ氏がどこまで拉致問題の解決を正恩氏に話したかは不明だ。北朝鮮の狙いは、日本を蚊帳の外に置くことにある。トランプ氏もそれを知っている。トランプ氏が日本の拉致問題にこだわればこだわるほど、北朝鮮は逃げていく。

そうなると、トランプ政権のぜひが問われる11月の中間選挙の結果が危うくなる。

「ここはとにかく史上初の正恩氏との会談を実現し、より多くの米国民の支持を得るべきだ」

トランプ氏はそう考え、米朝会談に踏み切ったに違いない。

■日本の新聞はトランプ劇場にはだまされていない

幸いなことに日本の新聞はトランプ劇場にはだまされていないようだ。全国紙はいずれも6月13日付で1本社説を載せ、米国と北朝鮮との緊張は緩んだものの、「非核化に進展はみられない」などと批判していた。

たとえば読売新聞。「北の核放棄実現へ交渉続けよ」と主見出しを掲げ、サブ見出しで「『和平』ムード先行を警戒したい」と訴えている。

冒頭で「米国と北朝鮮が首脳同士の信頼関係を築く歴史的会談となった。緊張緩和は進んだものの、北朝鮮の非核化で前進はなかった。評価と批判が相半ばする結果だと言えよう」と分析し、「核保有に至った国に核を放棄させるのは極めて困難な目標である。その達成に向けて米国は粘り強い交渉を続けねばならない」と主張する。

終盤で読売社説はこう指摘する。

「声明には、トランプ氏が北朝鮮に体制の『安全の保証』を与え、米朝両国が『朝鮮半島の永続的な平和体制の構築』に取り組むことなどが明記された」
「金委員長が、体制の正統性をアピールし、国際的孤立から脱する材料に使うのは間違いない」
「懸念されるのは、トランプ氏が記者会見で米韓軍事演習の中止や在韓米軍の将来の削減に言及したことだ。和平に前のめりなあまり、譲歩が過ぎるのではないか」

その通りである。

■「体制の保証という念願の一筆を米大統領から得た」

朝日新聞も「非核化への重大な責任」という見出しを付けてこう批判する。

「最大の焦点である非核化問題について、具体的な範囲も、工程も、時期もない。一方の北朝鮮は、体制の保証という念願の一筆を米大統領から得た」
「公表されていない別の合意があるのかは不明だ。署名された共同声明をみる限りでは、米国が会談を急ぐ必要があったのか大いに疑問が残る」

この朝日社説も主張もうなずける。

■「ロシアゲート」がトランプ政権を揺さぶるか

そこで前述の大きな疑問だ。どうしてトランプ氏は共同声明で大きく譲歩したのだろうか。

米朝会談前に北朝鮮は中国とロシアに急接近した。中国とロシアを味方に付け、うしろだてにしようとたくらんだのだ。中国には正恩氏本人が直接訪問している。

これは沙鴎一歩のまったくの想像だが、北朝鮮は中国やロシアに近づくなかで大きな情報を得たはずだ。それはトランプ氏の弱点に違いない。想像を膨らませれば、それは「ロシアゲート」に関係した情報かもしれない。

ロシアゲートでは、現在トランプ氏の複数の周辺関係者が米司法当局から調べを受けるなど追及されている。2016年の米大統領選中に起きた選挙妨害にロシアが関与しているというもので、ニクソン元大統領が辞任するきっかけとなった「ウォーターゲート事件」になぞらえたものだ。トランプ氏の大統領辞任につながる疑獄事件に発展する可能性が指摘されている。

ロシアゲートが今後、トランプ政権を揺さぶることは間違いないと思う。ただ、たとえトランプ政権が倒れたとしても国際社会は北朝鮮に対する制裁を含めた監視を怠ってはならない。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=AFP/時事通信フォト)

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