本棚に参考書ズラリ、なぜ成績が悪いのか
プレジデントオンライン / 2018年6月26日 11時15分
■その子は、小さい王様だよ
「西村先生、聞いてください! この前、初めて訪問した家庭なのですが、子供の態度が悪すぎです! 私が説明したら『ふむふむ』と答えるんですよ。『わかったら、ハイ、でしょう』とたしなめたら、『ハイ、ハイ』。大人を舐めています」
興奮気味に報告してきたのは、家庭教師歴2年のS(30代)だった。前職は大手進学塾の塾講師で、算数の指導力はピカイチ。教えたことを素直に聞く子であれば、必ず成績が伸ばす力を持っている。
「その子の親は、経営者ですか」
私は、Sに聞いた。
「はい。まだお会いしていませんが、父親が経営者だと聞いています。母親は専業主婦です。すごい豪邸で、大理石でできた玄関、クルマも高級輸入車でした」
Sの話を聞き、私はこう返した。
「その子は、小さな王様だよ」
■父親をコピーしたような子供
中学受験をするなら、大手進学塾に通うのが一般的だ。しかし、大手進学塾は成績上位者のレベルに合わせてカリキュラムを作るため、ついていけない子が続出する。家庭教師は、そういう子たちの受け皿になっている。
ついていけない子の成績を短期間に上げるのは難しい。学習の取り組み方、本人の性格、そして家庭環境を含め、あらゆる要素を分析しながら、勉強法を改善していく必要があるからだ。いくら優秀な学生でも、バイトで務まるほど甘くない。
経験もあって指導力のある、プロ家庭教師がマンツーマンで教えるため、授業料は安くない。おのずと経済力のある家庭が顧客となり、経営者の家庭にお邪魔することが多い。経営者の家庭にうかがうと、「会社の王様」である父親をコピーしたような子供、つまり「小さな王様」と出会うことがある。「ふむふむ」と答えたSの教え子は、小さな王様の典型だ。
小さな王様は、教師に対しても上から目線で、「教わっている」というより「勉強をしてやっている」という態度だ。「子は親の鏡」というが、横柄な態度をとる子の親は、子供の見ている前で、そういった態度をとっていることが多い。たとえば、部下や業者に対して偉そうな態度をとると、子供も他人を舐めるようになる。
成績が一番伸びる子のタイプをご存じだろうか。それは、私たちが教えたことをとりあえずやってみる子だ。素直な子が、最も伸びる。小さな王様は、その真逆。プロ家庭教師が相当力を入れて指導しても、かなり厳しい道のりになる。
小さな王様が出現する以外にも、経営者の家庭には、いくつかの特徴がある。
■形だけ、教育熱心な母親たち
経営者家庭の最大の特徴は、父親が忙しく、家にほとんどいないことだ。そして、もうひとつの大きな特徴は、母親が専業主婦で、教育熱心ではあるが形だけということ。以前、私が指導したAくんの家庭がそうだった。
エレベーターまである豪邸に住むAくんの子供部屋には、巨大な本棚があった。そこには、書店のようにズラリと参考書が並んでいる。ありがたいことに、私の著書もすべて揃っていた。母親がどれだけ参考書や問題集を買ってきても、Aくんの学力は伸びずにいた。
母親は、「うちの子の成績が上がらないのは塾のせい」と転塾を繰り返させたり、「こんな問題もできないの!」と荒い言葉で子供を罵ったりと、心の不安定さを露呈していた。父親不在で、子育てを任されたというプレッシャーから来ているのだろう。教材を買い漁って、自分の不安をかき消していた。
私は、まず母親を「デトックス」しなければいけないと思った。
■母親が変われば、子供は変わる
私は、母親を言葉で労うことから始めた。「お母さんはいつも頑張っていますね」「こういうところに気づけるなんて、すごいですね」と、何度も繰り返すうち、母親の表情に変化があった。その変化をすかさずキャッチし、今なら私のアドバイスに耳を傾けてくれるだろうと思い、こう言った。
「学習には、何をやらせるのかとどのようにやらせるのかの2つの要素があります。Aくんにはやるべきことは十分すぎるほど残されています。でも、当の本人は勉強に対してやる気が起こらず、その時間が苦痛だと思っている。このような状態では、成績は伸びませんよ。まずは、Aくんの気持ちを勉強に向かわせることです。勉強は楽しくなければ続きません。お母さんにとっては『こんな問題はできて当たり前』でも、少しでもできるようになったら、大げさに褒めてあげてみましょうか」
母親は半信半疑の様子だったが、「はい」と言ってうなずいた。
しばらくして、子供に変化が現れてきた。母親の言動や表情の変化に過敏だった子供に余裕が見え始めたのだ。授業のたびに、子供によい兆候が見て取れた。授業で教える内容を、次の塾の模試での点数アップに絞った効果もあり、Aくんの成績は少しずつ上がっていった。母親から私にアドバイスを求めてくるようにもなった。
母親の気持ちが落ち着いただけで、Aくんには大きな変化が現れた。もしこの親子に第三者が介入していなければ、Aくんの中学受験は不本意な結果になっていただろう。
■計画も、結果も求めるコンサル社長
父親不在によって母親がおかしくなるケースがある一方、父親が介入しすぎてうまくいかないケースもある。私の経験では、コンサル系の会社を経営している父親に多いのが、かかったお金に対し、すぐに結果を求めるタイプだ。また、学力をどう伸ばしていくつもりなのか、計画を出すよう要求してくる。Bくんの父親もそうだった。
もちろん、私たちは入念にプランニングする。しかし、ビジネスとは違い、相手は小学生だ。そうそう計画通りにいくものではないことをBくんの父親はわかってくれなかった。
家庭教師といえば、子供部屋で授業を行うイメージを持たれるが、私たちはリビングやダイニングのテーブルを使う。教師は生徒の隣に座り、向かい側には親に座ってもらう。リビングやダイニングで行うのは、その家庭の様子が最も伝わる場所だからだ。また、親に同席してもらうのは、プロの教え方を学び、親自身に実践してもらいたいからだ。Bくんの父親にも、同席を求めた。
父親は、授業には関心があるものの、向かいには座らなかった。広いLDKの遠く離れたソファに座った。テーブルには小型カメラを設置し、モニターを通じて、私の授業を観察するという。どんな形であっても、授業を観てもらうことは大歓迎だが、録画されていると思うと、少々やりづらいものがあった。
■父親の口癖は、はやくやれ! 全部終わらせろ!
Bくんの勉強量のわりに、成績が伸び悩んでいた。雑な字で書かれた回答用紙を見て、原因がすぐにわかった。聞いてみると、日ごろから、父親から「はやくやれ」「全部終わらせろ」と言われ続けていた。その結果、「アタフタ学習」になって、じっくり考え、丁寧に解答を書くことができなくなっていた。こういう子には、とにかく丁寧に解き、丁寧に書くことを何度も教え続ける必要がある。場合によっては、ひらがなを書く練習から始めることもある。
Bくんの場合も、Aくんと同様、親が変わらないかぎり、改善は望めないと判断した。私はモニターを見ている父親に伝わるように、その子の回答用紙を見ながらこう言った。
「あれ! 式は合っているのに、どうしてこの答えになったんだろうね。これは単純な計算ミスだよ。Bくんはちゃんと解き方がわかっているのに、残念なミスだなぁ! こういうミスをするのは、はやく解こうと思って、焦っている子なんだよ」
おおげさに言いながら、「本当は学力があるのに、それを潰しているのは、あなたなんですよ!」と、父親に向かって無言で訴えた。Bくんによると、その日を境に父親は「はやくしろ!」と言わなくなったそうだ。
■成績が伸び悩む理由は、たいてい「家庭環境」
ビジネスで成功した人には、大学受験でも成功した人が多い。受験成功者の多くは、猛スピードでガシガシと覚えて、合格を勝ち取る。受験勉強の肝は「スピードと効率」だと思い込み、子供にもそれを要求する。
しかし、小学生には「知識の体系化」が必要で、それには時間を要する。かけたお金に対し、すぐに結果が出るようなものではない。ちょっとコツを教えただけでグンと伸びる子もいるが、たいていはゆっくり育てたほうが、「幹の太い木」になって、のちに多くの花が咲く。
成績が伸び悩んでいる子の多くは、親の過度な関与など、家庭環境が問題であることが多い。そのことを家庭教師はよく知っている。経営者の家庭ほど、親の問題が出やすい。こじれた状況を改善できるのは、家庭に入りこんで指導する家庭教師にしかできないと自負している。もちろん、家庭教師にもうまいへたはある。できる家庭教師の見抜き方なども、紹介していきたいと思っている。
(プロ家庭教師集団「名門指導会」代表 西村 則康 石渡真由美=構成 iStock.com=撮影)
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