「カジノ誘致」に成功するとトクする理由
プレジデントオンライン / 2018年7月5日 9時15分
■オリンピック後「唯一」の経済活性化装置
政府は、カジノを含む統合型リゾート(IR)実施法案を4月27日に閣議決定し、国会へ提出する方針を固めた。与党は今国会における成立を目指す。IR区域認定数は最大3カ所となる見込みで、横浜、大阪、長崎など日本各地で誘致に向けた検討が進められている。
政府が認めているのは、カジノを含む特定複合観光施設。シンガポールのように、カジノを主要施設の一部として捉え、レジャー、ビジネス、エンターテインメントを含む統合型リゾートとして設計することが想定されている。
そもそも、今、日本でカジノ設立を進めることにどのような意義があるのだろうか。東洋大学国際観光学部准教授の佐々木一彰氏は次のように解説する。
「都市部につくる場合は国際都市間競争に勝つため、地方につくる場合は地方創生のためというように、設立地によって主要な目的は異なりますが、どちらにも共通するのは、雇用の創出を伴う景気の浮揚策になることです。2020年開催の東京オリンピックを2年後にひかえ、今は景気もよく、世の中全体が人手不足になっています」
「とはいえ、オリンピックが終わった後の景気は不透明。そのうえ、AIの進化と浸透により失業者が出るともいわれている状況です。これらの課題の解決策のひとつとして期待されているのが、カジノを含む統合型リゾートの設立なのです。さらに、外国人旅行者の増加と、それに加えてカジノでの消費、すなわち“客単価”のアップも期待されます」
■カジノができると新しい経済圏が生まれる
カジノは単なる「ギャンブル好きのための施設」ではなく、経済を活性化させる装置ということだ。であるならば、カジノに行かない人にとっても経済的な影響があるはず。個人や家計にはどのような影響を与えるのだろうか。
「大きく分けて3分野、(1)雇用創出、(2)自治体サービスの向上、(3)産業振興です」(佐々木氏)
佐々木氏によれば、カジノを含む統合型リゾートが設立された場合、新しい経済圏が生まれることが見込まれる。シンガポールのカジノをもとに分析すると、その仕組みはこう予想される。まず、カジノを中心に、飲食店やホテル、スーパーやコンビニなどが建設される。すると、それらの施設で働く従業員が必要となり、制服のレンタル、おしぼりや割り箸といった消費財など、施設に関連する産業がその地域で生まれることになる。
「既存の地元産業を駆逐するのではないかという反対派の意見もありますが、重要なのは、地元の産業もその中に入っていくこと。地元や、日本の経済活性につながらないのであれば、カジノは設立するべきではありません。極端な話をすると、東京・銀座にカジノビルを建てれば儲かります。しかし、それでは社会的な波及効果がない。観光客を誘致して、その恩恵を周りにも受けさせなさいというのが今度のIR法案なのです」(佐々木氏)
■セキュリティ、クリーニングなどの「ノンゲーミング雇用」
新たに生まれる雇用には、ディーラーなどカジノのゲームに直接関わるものだけではなく、セキュリティ、クリーニングなど「ノンゲーミング雇用」も多く含まれる。若者や定年退職後の高齢者、結婚・出産などの事情で仕事を辞めた女性の働き口もそこに生まれることになるのだ。
「カジノや併設のホテルでは特にホスピタリティやサービスが重視されますが、海外の事例をみると、従業員のための教育機関を用意して、経験のない人でも働けるようにしていくと思われます。働く人に向けた託児施設なども設けられるでしょう。ダイバーシティ化も進むことになります」(佐々木氏)
IRからの税収によって地元の自治体が潤い、住民への行政サービスが向上することも十分考えられる。福祉、文化保護、街の美化、観光などの面で、還元が期待される。
さらに、カジノ設立による副産物も見込まれている。「たとえば施設への入退場に顔認証が採用されるなど、日本の技術を活かす場所が新たにできます。さらに“世界最新のハイテクIR”としてパッケージ化して、海外へ輸出することも考えられます」(佐々木氏)
■不動産、都市部なら売らずに持つ手も
地価への影響はどうだろうか。不動産鑑定士の浅井佐知子氏は次のように解説する。
「カジノを中心とした開発でその周辺地域が活性化していくのであれば、地価・住宅価格が上昇する可能性は大いにあります。地方にカジノができた場合、新駅ができるなどインフラが整備されて便利になることで、土地や住宅の価格を決定するための条件である快適性や利便性が上がり、地価の上昇が見込まれるのです。ただし、地方の不動産市場は土地に余裕があるため、都市部に比べると、値上がり幅は小さくなります」
■地価が跳ね上がるのは、誘致が成功したタイミング
また、風紀を乱したり騒音を出したりする施設は、不動産用語で嫌悪施設と呼ばれ、地価を下げる要因となりうるが、「カジノは嫌悪施設とみなされず、地価への悪影響はほとんどないと考えられます。他のギャンブルと異なり、カジノは一般的に“お金持ちがする優雅なゲーム”といったポジティブなイメージがあります。また、カジノは統合型リゾートの中にある施設の屋内に設けられるため、騒音の心配もありません」(浅井氏)。
気になるのは、売り時、買い時だ。もしもすでに持っている土地がIR周辺にある場合は、いつ頃売るのがいいのだろうか。
「価格が跳ね上がるのは、誘致に成功し、設立が決定したタイミング。着工時にはいったん落ち着くでしょうから、オープンの前後1年あたりが、売り時の目安の1つとなります。概ね、そのあたりまでは上昇基調になるといえるからです。ただし、その先は、株価と同じで予測が難しい。たとえば、六本木ヒルズ周辺は開業から15年以上経った今も、地価が上がり続けている。IRができるのが都市部ならば、売らずに保有をおすすめします」(浅井氏)
購入する場合も底値を見極めるのは難しいが、開発による街の利便性の向上を“先物買い”するのは検討の余地大だ。
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産業の輸出
「入退場の顔認証システム」など、日本の技術を活かす場所が増えるだけでなく、「世界最新のIR」をパッケージ化しての海外輸出にも期待がかかる。
新規雇用創出
ディーラーなどのほか、清掃、警備、飲食関連など、妻の再就職先、パート先に適した雇用が多数生まれる。
地価・住宅価格上昇
再開発により地価が上がる可能性が大きい。都市部の不動産の場合は、施設開設後も値上がりが続くことも予想される。
自治体サービスの向上
施設からの多額な税収が、福祉、文化保護、街の美化、観光など、住民の生活の質向上につながるものに使われる可能性大。
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東洋大学国際観光学部准教授
専門はホスピタリティ産業とゲーミング産業。著書に『カジノミクス』(共著)など。
不動産鑑定士
浅井佐知子不動産鑑定事務所代表。著書に『世界一やさしい不動産投資の教科書1年生』。
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(ライター 吉田 彩乃 撮影=丸山 光 写真=iStock.com)
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