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「亭主元気で留守が良い」の科学的な根拠

プレジデントオンライン / 2018年7月11日 9時15分

夫を亡くしたシニア女性はいきいきと暮らしているのに、妻を亡くしたシニア男性は幸福度が低い――。最新の研究は、定年後の夫婦の意識が男女であまりにも違うことを浮き彫りにしている。たとえば60代以降の男性は幸福度が上がるのに、女性の幸福度は下がる。妻を亡くした夫の死亡リスクが1.3倍に上がるのに、妻は不変。こうした男女差の原因とは何か――。

※本稿は、村山洋史『「つながり」と健康格差』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。

■夫在宅ストレス症候群の証明

性別、年代別の幸福度をインターネットで調査した研究があります。それによると、男性は40代で最も低く、それ以降、年代が高いほど幸福度の平均値は徐々に高い傾向がありました。

40代は、一般的に中間管理職的な役割を担う時期であり、仕事の大変さなどが大きく関係していそうです。50代では、役目が変わったりして、その大変さが少し緩和されるために幸福度が少しだけ高いのかもしれません。

60代以降は、定年退職して、それまでの仕事のストレスから解放されたので幸福度が高いのでしょうか。もしかすると、夢見た定年退職後の生活を実現している可能性もあります。

では、女性はどうでしょうか?

なんと、女性は、60代以降は年代が高いほど、それまでの年代と比べて幸福度が低い傾向にあったのです。60代以降で幸福度が高くなる男性とは正反対の傾向です。まさに、主人在宅ストレス症候群を支持する結果といえそうです。

別の調査結果でも、同じような傾向が示されています。全国の60~74歳の高齢前期の人を対象とした研究では、夫が就労している女性は、就労していない、あるいは配偶者がいない女性に比べて幸福感が高いという結果でした。つまり、夫が仕事をしていない場合(定年退職している場合も含む)には妻の幸福感が低く、働いている場合には高いということです。

■60歳で逆転する夫婦のパワーバランス

夫が就労している場合には、その分の稼ぎがあるから幸せでいられるという理由もあるかもしれません。しかし、本人と配偶者の就労状況の組み合わせによって幸福感を比較してみると、「妻本人も夫も就労」のいわゆるダブルインカムの状態よりも、「妻本人は非就労で、夫は就労」の場合の方が幸福感が高かったのです。

まさに、「亭主元気で留守が良い」が実証されているといってもよいでしょう。

一方、男性は、「自分が働いていようがいまいが、妻が働いていようがいまいが、妻がいれば幸せ」という状況が見えました。本人および配偶者の就労状況に関わらず、配偶者がいる男性は、配偶者がいない男性よりも幸福感が高いという結果だったのです。

夫婦のパワーバランスも気になるところです。夫婦間でどちらの意見が通りやすいかを質問したところ、図のように、50~59歳では、「いつも夫」と「だいたい夫」を合わせた、夫の意見が通りやすいと回答している人の割合が多いのですが、65~69歳では逆転し、妻の意見が通りやすいという割合が多くなっています。

これらの結果は、高齢期の入り口で経験する定年退職という一大ライフイベントが夫婦関係に及ぼす影響を顕著に示しているといえます。この時期には、夫婦は次に挙げるような変化を経験します。

■4つの変化が引き起こす深刻なギャップ

(1)生活や社会関係の変化

どの年代でも、その時に応じて幅広く社会関係を築くことができる女性に対して、定年を迎えて高齢期に入った男性は、それまでの生活や人間関係が一変してしまいます。その結果として、頼る相手が妻だけになり、その依存的な関係性が夫婦の力関係を変えてしまいます。

一方で、女性はこれまで築いてきた生活が夫の定年退職によって崩されるかもしれないという危機感を抱きます。これも夫婦間のギャップを生むことにつながります。

(2)収入の変化

家庭の稼ぎ手だった頃に比べると、一般的には定年退職後は収入が減少してしまいます。収入が減ることで、これまでとは暮らし方を変化させないといけない部分もあるでしょう。また、男性は稼ぎ頭というポジションを失うことによって、家庭内での地位が変化しがちです。

(3)病気などによる体調の変化

年齢を重ねるに従い、様々な病気や障害を持つリスクは高まります。親の介護が一段落しても、配偶者の介護の可能性が出始めるわけです。男性の平均寿命は、女性に比べて短いことを考えると、男性の方が早い時期に大きな病気を患いがちです。

体調の悪化は、男性の妻への依存度を加速させ、夫婦の勢力図を書き換えているのかもしれません。

(4)目標や価値観の不一致

子どもが小さい時期には、子育てを夫婦の共通の目標として、一緒に頑張る、あるいは役割を分担することが可能です。しかし、子どもが手を離れてからは、子育てのような夫婦の共通の目標を見つけにくいといわれます。

また、それに伴って夫婦で話し合う機会が少なくなってしまうと、それぞれの価値観にずれが生じていることにも気づきにくくなってしまいます。

■死別しても離別しても女性は動じない

婚姻の影響が男女によって違うのではないかという予想もできます。

結婚している状態は比較的分かりやすいのですが、結婚していない(非婚)状態と一口にいっても、色々な状態が混ざっています。一般的に、「未婚」(結婚したことがない)「死別」「離別」を区別して考えます。

ここで紹介する研究は、40~79歳の約9万人の日本人男女のデータを用い、婚姻状況がその後の死亡率にどう影響するかを調べたものです。婚姻状況は、調査した時点で結婚しているか(既婚)、過去に死別しているか(死別)、過去に離婚しているか(離別)、これまで結婚したことがないか(未婚)を尋ねています。さっそく、図を見てみましょう。

まず、男性です。最も死亡のリスクが高いのは未婚者でした。既婚者に比べ、死亡のリスクは約1.9倍です。次に、死別者と離別者ですが、総死亡のリスクは、それぞれ約1.3倍と1.5倍であり、未婚者に比べると低いものの、それでも死亡リスクが高くなっていました。

一方の女性でも、未婚者は最も死亡のリスクが高いという結果で、既婚者に比べて約1.5倍高くなっていました。

しかし、死別と離別を見てみると、男性とは異なる傾向がありました。死別と離別の死亡のリスクは、両方とも約1.0倍であり、結婚している人と同じレベルでした。つまり、結婚していても、死別しても、離別しても、女性の将来の死亡率は同じだということです。

ちなみに、配偶者の死後、残された方が後を追うように弱り、亡くなってしまう事象は、「Widowhood effect」(未亡人効果)とも呼ばれ、世界中で広く知られています。

未亡人効果を含む、死別、離別の死亡率への影響が、女性よりも男性で強いことを報告しているのは、日本のこの研究だけではありません。実はメタ分析によっても報告されており、男女の違いは世界共通のことなのです。

■生活力の差、ネットワーク力の差

死別、離別の死亡率への影響が男女で異なる理由の第1は、生活力の差です。女性は、たとえ死別、離別しても、家事など自分で生活をしていくスキルがあります。配偶者がいなくなったとしても、そのスキル自体は変わりません。一方で男性は、自分で生活するスキルがない場合が多く、死別、離別してしまうと、生活が乱れ、食事や生活リズムといった生活の質が落ちてしまい、不健康に陥ってしまった可能性があります。

『「つながり」と健康格差』(村山 洋史著・ポプラ社刊)

第2に、少なくとも日本では、死別、離別した女性は、そういった男性に比べると遺族年金をはじめ、様々な制度の保障を受ける機会が多くあります。そういった経済的な保障を受けやすいという要素も、死別、離別した女性の死亡率の低さに影響していると考えられます。

第3に、ソーシャルネットワークの男女差が挙げられます。先にも触れたように、男性は、定年退職後に人間関係が一気に希薄化してしまう傾向があります。そんな中、頼みの綱である妻と別れてしまっては、周りの助けを得ることもできず、実際の生活は立ち行かなくなる危険があります。

加えて、気持ちが安らぐ存在である妻を失くした心理的ダメージはかなりのものでしょう。男性は、女性に比べて喪失経験のダメージを引きずりやすく、うつの発症率が高まることが知られています。これらの状況は、間違いなく健康に悪い影響をもたらします。

かたや女性は、友人とのつながりや地域を通じたつながりが比較的強く、死別や離別によって女性のソーシャルネットワークの量自体はあまり影響を受けないといわれています。夫と別れた後も、変わらず人とのつながりを持てていることで、必要な時にサポートを得られることも多く、また気晴らしや楽しみを見つけるチャンスも多いでしょう。こういった特徴が、死別や離別のマイナスの影響を緩和しているのです。

(東京大学高齢社会総合研究機構・特任講師 村山 洋史)

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