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都と国の"受動喫煙防止"どちらが正しいか

プレジデントオンライン / 2018年7月3日 9時15分

東京都の受動喫煙防止条例の成立後、記者団の取材に応じる小池百合子都知事(写真=AFP/時事通信フォト)

■違反者には5万円以下の過料という罰則付き

6月27日、東京都議会での受動喫煙防止条例が賛成多数で成立した。従業員を雇う飲食店で、原則、屋内禁煙を求める。違反者には5万円以下の過料という罰則付きの条例だ。

一方、国会で審議されている健康増進法改正案では、受動喫煙の防止について店舗面積を基準としており、小規模な店は対象外としている。国の法案と都の条例では、都条例のほうが厳しい。都条例は段階的に施行され、2020年4月までに全面施行される。

たばこの受動喫煙防止をめぐり、都と国の規制が違ってしまったのは、なぜなのだろうか。

■安倍政権との正面対決を避けようという小池知事らしさ

東京都が最初に条例の考え方を公表したのは昨年9月のことだった。その後、国の健康増進法改正案と対象施設の区分などで食い違いが出た。

このため今年2月、予定していた都議会定例会への条例案提出を見送った。4月にあらためて「従業員がいれば原則禁煙」の条例骨子案を発表した。国の改正案との整合性を図ろうとした。

それでも都条例と国の改正案との違いは残った。都条例は労働者や子供を受動喫煙から守ることに力点を置き、国の法案に上乗せする形で規制を加える検討を進めた。

都の受動喫煙防止条例は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた小池百合子知事の目玉施策だ。安倍政権との正面対決を避けようという小池都知事らしさが、いかにもにじみ出ている。

■都民ファーストや公明党が賛成、自民が反対の構図

都条例の対象は、都内の飲食店の約85%に相当する13万軒以上になる。

たばこを吸わない人が増えるなかで評価する声は多い。ただ一部の飲食店は売り上げの減少を心配しており、戸惑いや反発の声もないわけではない。今後どのように違反を取り締まるかも課題のひとつである。

国の法案は飲食店について、資本金5000万円以下で客席面積100平方メートル以下は、例外的に喫煙を認めるとしている。

しかし都条例は面積ではなく、あくまでも従業員がいるかいないかで区別される。従業員を雇っていない店は、「禁煙」と「喫煙」を選択できる。

都条例は、小池都知事を支持する都民ファーストの会や公明党などが賛成した。小池都知事への対抗勢力、自民党は「小さな飲食店の雇用状況は、流動的でしかも確認が困難だ。従業員の有無で判断するのは、実効性がない」として採決でも反対した。

これに対し、小池知事は本会議終了後「国より厳しいが、世界ではもっと厳しい国がある。今後分かりやすく周知し、必要な支援を進めたい」と説明した。

■「東京が全国のけん引役に」と毎日

今回の東京都の受動喫煙防止条例を、各紙の社説はどう捉えているだろうか。

まず毎日新聞の社説(6月28日付)。冒頭で「人口でも飲食店の集積でも突出している東京が踏み出した意味は大きい」と書き、後半で「飲食店が最多の東京で、厳しい条例が施行されれば影響は大きい。都がけん引役となり、この条例が全国標準となることを期待したい」と都条例を評価する。見出しも「東京が全国のけん引役に」である。

厚生労働省の推計だと、受動喫煙で年間に1万5000人もの人が死亡している。受動喫煙の被害は甚大だ。たばこはかなり以前から「百害あって一利なし」と非難されてきた。そこを考えれば、都条例でも防止策は完璧とはいえない。

毎日社説は「喫煙専用室を設けても煙は漏れることがある。『完全禁煙』でなく不十分との指摘はあるが、受動喫煙を防ぐ対応としては現実的だろう」とも書く。

だが、沙鴎一歩は反対だ。「完全禁煙」にすべきだ。従業員の有無にもかかわらず、飲食店はすべて禁煙にするのが正しい。喫煙専用室を設けたからといってそこを出入りする客がいる限り、煙は必ず漏れる。煙の大半は目には見えない。煙を知らないうちに吸い込むことでたばこを吸わない人の体がむしばまれていくのは、避けなければならない。

かつて沙鴎一歩もたばこを吸っていた。20年以上ほど前、ニコチンガムを使ってなんとか禁煙に成功した。実際、たばこはうまい。お酒を飲んだときや食事後は格別だ。しかし非喫煙者が他人のたばこの煙で発がんの危険性にさらされる理不尽さは納得し難い。

■「規制対象が45%」の国の改正案は甘い

毎日社説はこうも指摘していく。

「世界保健機関(WHO)などが進める『たばこのない五輪』の実現を迫られての条例だ」

「もっとも、五輪は都内だけで開かれるわけではない。条例の趣旨を広げるためにも、会場となる他県も同様の対応を考えるべきだ」

「政府も受動喫煙を防ぐ健康増進法改正案を策定し、国会で審議中だ。しかし、政府案は自民党が中小規模の店舗に配慮するなど抵抗した結果、都条例に比べて規制がゆるい。客席面積100平方メートル以下で個人などが営む既存の店は喫煙が可能で、規制対象も45%ほどだ」

毎日が指摘するように、「規制対象が45%」という国の改正案は緩すぎる。

6月27日付のプレジデントオンラインでは、「がん患者へのヤジを許す安倍総裁のおごり」という見出しを付け、国会の参考人に「いいかげんにしろ」とやじを飛ばした自民党の国会議員を厳しく批判した。審議は受動喫煙対策を強化する健康増進法改正案をめぐるもので、呼ばれていた参考人は肺がん患者だった。受動喫煙に対する与党、特に自民党の考えの甘さが、そうした非常識な国会議員を生むのだ。

■「国際水準に近づくための一歩」と日経社説

次に日経新聞の社説(6月28日付)を読んでみよう。

見出しは「受動喫煙対策を着実に進めよ」と平凡だが、国の姿勢を厳しく批判している。

「例外のほうが多くなる政府の改正案は、国民の健康を守るという本来の役割を果たしているとはいいがたい。国の案がここまで緩くなったのは、自民党から強い反対論があったためだ。客足が遠のき売り上げが減少するという、飲食業界の反発は強い」

飲食店業界は自民党議員らの票田となっているのだろう。その票田を守るために規制が緩くなるようでは本末転倒だ。日経社説が指摘するように国民の健康を守るという本来の役割をどう考えているのだろうか。

■たばこの害を他人に押しつけることは許されない

続けて日経社説は指摘する。

「都は受動喫煙対策の意義を丁寧に説明し、専用室の設置補助などを通じて理解を求める努力をしてほしい。公共の喫煙場所を増やすのも大事だろう」

「飲食店など人が多く集まる場所すべてに屋内全面禁煙を義務づける法律を持つ国は55ある。政府案より対象を広げた都の条例は、国際水準に近づくための一歩だろう。着実に実績を積み上げたい」

禁煙に成功した話を前述したが、禁煙すると、コーヒーがうまくなる。体の調子も良くなる。仕事にも前向きになれる。

たばこは発がん物資だ。体に悪い。繰り返しになるが、たばこの害を他人に押しつけるような「受動喫煙」は決して許されない。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=AFP/時事通信フォト)

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