なぜ、政府の災害対策は後れを取ったのか
プレジデントオンライン / 2018年7月26日 15時15分
■イタリアは1日で、避難所環境を整備
中国・四国地方を中心に襲った西日本豪雨の死者は210人を上回り、約4700人が避難生活を続けている(2018年7月16日現在)。ここ数年では最大規模の被害を残す大惨事となった。
そもそも日本は豪雨や地震、土砂崩れなど自然災害が多い。質の高い防災対策や、災害が起きたあとに被害の拡大を防ぐ減災対策を講じるべき国だろう。だが、日本赤十字社の植田信策医師は「根本的に自然災害後の対応、特に組織的な対応の仕方について、日本政府には東日本大震災から改善が見られない」と指摘する。
植田医師は避難所環境整備のスペシャリスト。東日本大震災、熊本地震などの災害現場で避難所の改善に従事し、現場を見続けた。西日本豪雨でも岡山県倉敷市で被災者救援をするため現地に入っている。
植田医師は日本の災害対応の問題点として「関連死」の多さを挙げる。熊本地震では、避難後に亡くなる関連死の人数は直接死の3.5倍だったという。「避難生活が続くと、体調を崩す方が増えてきます。高齢者に顕著ですが、感染症にかかったり、寝たきりが続き歩行困難になったり。ケースは様々ですが、共通の原因として避難先の整備に時間がかかってしまうことが挙げられます」。
足腰の弱った高齢者にとって和式便所は使いづらい。植田医師は「避難所では洋式に統一すべき」と主張するが、十分な数が確保されていない避難所も多い。また食事も、避難所で出される炊き出しや弁当では栄養バランスに偏りが出てしまう。そもそも若者と高齢者では必要な栄養素が異なるが、考慮はされていない。
植田医師は同じ災害大国であるイタリアの例を挙げる。
「イタリアでは国の市民保護局が、トイレ整備やボランティア派遣など災害時のインフラ整備や意思決定をしています。そのため、災害発生から24時間以内に、避難所に洋式トイレが設営され、キッチンカーが手配されます。キッチンカーでは栄養バランスのよい食事が提供されています」
西日本豪雨も含めて日本の減災対策でとくに遅れていると植田医師が指摘するのが避難所で強いられる雑魚寝だ。
「河川氾濫被害が起きた場合、河川に沈殿していた泥や生活排水が混じった土の粉塵が被災地を飛び交うことになります。雑魚寝をしていると土の中に混じった嫌気性の菌が肺に入り、感染症を引き起こしやすい。床から30センチ以上離れた高さで寝る必要があります。避難所によっては段ボール製の簡易ベッドが導入されていますが、それも災害発生から時間がかかっています。ちなみに、2012年のイタリア北部地震では、避難所にエアコン付きのテント村が災害から1日以内に設営されました。同じ災害大国なのに、日本ではインフラとして最優先で整備すべきTKB(トイレ、キッチン、ベッド)が、ないがしろにされています」
なぜ日本では災害発生後の対策が遅々として進まないのか。植田医師は「災害時の対応責任が各自治体の裁量に任せられている点が大きい」と話す。
「日本は地方分権という名のもとに、広島県で起きた災害は広島県、岡山県で起きた災害は岡山県の各自治体の首長が責任を担う。となると、避難所の整備が進んでいる自治体とそうでない自治体の差が生まれてしまううえ、連携も取りづらい。例えば、同じ災害に遭っているにもかかわらず、ベッドが整備されている避難所と未整備の避難所が出てくるわけです。すべての判断は首長のリーダーシップに委ねられてしまいます」
また植田医師は、「もしこれを国防に例えれば、おかしなことがわかるはず」と説明する。
「有事でミサイルが飛んできたときに国民の生命が脅かされたら、国が対策を取るのは急務です。しかし、それが自然災害となると、その責務をそれぞれの自治体が担う。これは国民の生存権を脅かすものではないでしょうか」
毎年のように大災害が起きる日本。植田医師は「災害対応を専門とする省庁の検討が必要です」と話す。
(編集者・ライター 鈴木 俊之 撮影=鈴木聖也)
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