池上彰が解説「ブスの人生は損」は本当か
プレジデントオンライン / 2018年7月27日 9時15分
■「容姿採用」がまかり通っていた時代
アメリカの大学教授ダニエル・S・ハマーメッシュ氏は、著書『美貌格差-生まれつき不平等の経済学』(東洋経済新報社)において「美人はそうでもない人よりも生涯約3000万円得をする」という調査結果を発表しています。
お隣の韓国は、外見による所得格差が非常に顕著な国のうちのひとつです。“整形大国”とも呼ばれ、美容整形手術の経験がある女性は4割以上もいるそうです。しかも、術後の事例写真を見ると、どれもよく似た印象を受けます。
韓国女性はなぜ、整形手術をしてまで同じような顔にするのでしょうか。その理由で最も多いのは、採用試験のためだそうです。韓国の就職ポータルサイトの調査によると、「容姿が面接試験の結果に影響する」と答えた企業の人事採用者が、なんと84%もいました。韓国政府もこの風潮を問題視し、企業側に能力重視の面接試験を導入させる措置を取っていますが、なかなかうまくいかないのが現状のようです。
容姿重視の採用だと、美人というだけで待遇のいい企業に入社できますから、必然的に金銭面で得をすることになります。実は、日本でも容姿重視の採用が堂々と行われていた時代がありました。例えば、1960年代の新聞の求人広告には、「美人ウエートレス募集」といった見出しが躍っています。採用条件も「身長157cm位、20歳前後、スマートな美しい方」と、ほぼ容姿の項目ばかりです。
また、1983年の新聞記事には、ある大手企業が全国の営業所に通達していた、女性社員採用基準の文書が掲載されています。そこには「採用不可の女子として(1)ブス、絶対に避けること(2)チビ、身長140センチ以下は全く不可(3)カッペ、田舎っぺ(4)メガネ」と明確に記されていました。
これはすぐさま社会問題となり、当時の国会でも議論されたほどでした。しかし、このような容姿重視の採用が、少なくとも30年前には存在していたことは事実です。企業の人事採用担当者が、ほぼ全員男性だったことも一因でしょう。こういう採用がまかり通っていたころは、確かに「美人は仕事でも得をする」といえたかもしれません。
■着実に増えつつある女性管理職
しかし、時代は大きく変わってきています。なぜそう言えるのかというと、管理職になる女性社員が年々増加しているからです。
2003年、男女共同参画推進本部において、『2020年までに女性管理職の割合を30%まで引き上げる』という目標が示されました。実際、管理職になる女性社員は年々増加し、例えば係長クラスの女性は、平成元年(1989年)には全体の4.6%でしたが、平成27年(2015年)には17%にまでなっています。
しかし、目標の30%にはまだ足りません。そこで、国は女性の活躍をアベノミクスの成長戦略のひとつとして位置づけ、2016年に「女性活躍推進法」(正式名称「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」)を制定しました。
この法律の基本原則には、「男女の職業生活と家庭生活の円滑かつ継続的な両立が可能となることを旨として」とあります。女性がより活躍するには、採用機会の拡大、管理職への昇進などがもちろん必要ですが、バリバリのキャリアウーマンばかりを養成することがこの法律の狙いではありません。むしろ、ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)を見直し、女性の意志が尊重される働き方ができるような社会的環境を整えることを目的としています。
従業員301人以上の企業では「女性活躍推進法」に対応する計画を実施し、公表することが義務づけられました。このような企業ぐるみの努力で、女性管理職の割合は将来的にもこのまま上がり続ける可能性が高いでしょう。
実際、資生堂は2017年のデータでは女性管理職が30%を占めていますし、毎日新聞社の新人記者は2016年に女性の方が多くなりました。私自身もテレビの収録などで、女性スタッフの方が多い現場にもよく遭遇しますし、企業関係者から「入社試験を実施すると女性の方が圧倒的に優秀だ」という話もよく耳にします。今はまさに、時代の過渡期なのでしょう。
■「女性が女性を採用する」時代が来る
女性管理職が増えれば、人事担当者や採用担当者にも女性が増えますね。女性が女性を採用する社会になれば、容姿よりも能力が重視されるはずです。
人は見た目が大切だという部分はたしかにあるかもしれません。でもそれは、単純に「美人」かどうかということではないと思います。能力重視の社会になれば、生き方に自信が持てる女性が増える。身につけたスキルを生かし、与えられた仕事を生き生きとこなしていれば、自然と周りを魅了するような笑顔がにじみ出てくるものです。それが“見た目”として評価される時代は、すでに幕を開けています。
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ジャーナリスト
1950年、長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、1973年NHK入局。報道記者や番組キャスターなどを務め、2005年よりフリーに。出版、放送など各メディアで活動する。名城大学教授、東京工業大学特命教授、東京大学客員教授、立教大学客員教授ほか。近著に『池上彰の未来を拓く君たちへ』(日本経済新聞出版社)『池上彰の世界の見方 朝鮮半島』(小学館)、『池上彰の世界から見る平成史』(KADOKAWA)ほか多数。
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(ジャーナリスト 池上 彰 瀬戸珠恵=構成)
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