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橋下徹「球児を甲子園洗脳から解放せよ」

プレジデントオンライン / 2018年8月1日 11時15分

写真=iStock.com/PeteMuller

間もなく始まる第100回「夏の甲子園」。野球のみならずスポーツ全般を盛り上げる国民的行事だが、その裏には大きな不条理が存在する。橋下徹氏は、こうした“甲子園問題”の改革こそ日本のスポーツ界を改革するための「センターピン」だと喝破する。プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(7月31日配信)より、抜粋記事をお届けします――。

(略)

■スポーツ問題の根源は甲子園にあり!

甲子園はこれまで徹底的に球児の青春物語を中心とする「きれいごと」ばかりを強調してきた。その結果、高校野球や学校スポーツの世界で蓋をされてきた「負の問題」が何も解決されずに放置され、今それが爆発し始めているのではないか。最近大きな話題になった、日本大学のアメフトタックル事件や、女子レスリング日本代表のパワハラ事件の問題の根っこも、結局高校野球の甲子園大会にあるように思えてならない。

僕が高校スポーツ、学校スポーツの問題を考えるようになったのは、市長時代に起きた大阪市立桜宮高校バスケットボール部の部員自殺事件がきっかけだった。それは顧問の暴力的指導に耐えかね部員が自殺をした事件だった。ずいぶん批判も受けたが、僕は桜宮高校の入試をストップして、学校を立て直すことを最優先した。その立て直しの過程で、元巨人軍のエース、桑田真澄さんに講演会を開いてもらい、大阪の学校のスポーツクラブの指導者を集めて話をしてもらった。

その場で桑田さんが話したことで、今も忘れられないことがある。桑田さんは、「日本の学校スポーツのもともとの源流が、野球である」と語るとともに、その野球指導の根幹には、旧日本軍の「兵士養成プログラム」があると言われたんだ。

僕もそのタイミングで、日本の学校スポーツの歴史について徹底的に勉強した。高校野球の歴史を調べると、戦時中の軍事教練が、その練習方針や精神面に大きな影響を与えていることは事実だった。朝日新聞がもっとも嫌う、旧日本軍の軍事教練が、高校野球の部活動の根本にあることがわかり、そこから僕は学校スポーツの問題、もっといえば日本スポーツの問題の根源が、甲子園にあると考えるようになった。

桜宮高校の改革も、この「兵士養成プログラム」からの脱却を目指した。既存のシステムや考え方を「改善」するのではなく、まるっきり新しく「改革」するとき、必ず大きな賛否両論が起こる。それは改善というのは、みんなの合意をとりながら、少しずつ物事を修正していく作業だけど、「改革」とは、体制そのものやそこに関わっている人々の意識を根本から変える作業だからだ。

(略)

■38度超の屋外でなぜ試合を強行するのか?

そもそもスポーツとは何なのか。学校スポーツとは何のためにあるのか。スポーツで勝つことの意味は何なのか。ここを改めて考え直し、これまでの意識を根本的に変えなければ、桜宮高校の改革は不可能だと僕は考え、そのための支柱として、全日本女子バレー元監督の柳本晶一さんを特別顧問に招聘した。

その柳本さんが桜宮高校に植え付けようと始めたのが、「プレーヤーズ・ファースト」という意識・理念だ。この言葉はその文字通り、「選手第一主義」を意味する。勝ち負けよりも、選手が心の底からスポーツを楽しみ、スポーツを通じて成長し、人生を豊かなものにしていけることを第一に考え、指導者は選手をサポートすることに徹するという考え方である。「兵士養成プログラム」からの完全なる脱却である。

この「プレーヤーズ・ファースト」の理念から見ると、今の高校野球および甲子園には、非常におかしなところが沢山ある。いまだに「兵士養成プログラム」を引きずっているとしか思えないところが多々ある。

第一に、毎年真夏の炎天下で、あれだけの過密日程で長時間の試合を行うこと自体がありえない。特に今年の夏は、日本各地で連日最高気温38度を超える、異常な暑さが続いている。熱中症で多くの人が病院に搬送され、何十人も亡くなっている。常識的に考えても、これだけの暑さの中で、無理して試合を行う理由は何一つない。プレーヤーズ・ファーストの観点から合理的に考えれば、ドーム球場を使えばいいだけの話だ。甲子園の近くには京セラドームもある。屋内で試合を行うことになれば、選手だけでなく、観戦する多くの観客にとっても身体的な負担を大きく減らすことができる。

(略)

炎天下での試合問題に加えて、甲子園大会では試合の密度も大問題である。現在のプロ野球では、ピッチャーは一回登板すれば、中5日は原則休養することになっている。それだけ投球がピッチャーの肩・肘に与える負担は大きく、連投すれば選手生命が極端に短くなることが、科学的に明らかとなっているからだ。しかし高校野球では、一人のエースが何試合も続けて連投することが珍しくない。

成長過程にある高校野球の投手が、連日肩や肘を酷使して投げ続けることで、将来の選手生命を縮めている、という指摘は昔からあった。これもプレーヤーズ・ファーストの理念で考えれば、明日にでも改めるべきことだ。「1試合投げたら1週間は登板できない」「1試合に○○球以上は投げられない」といった、投球規制のルールを定めればいいだけの話だ。

こうなると、投手を何人も抱えることができる学校は少ないだろうから、必然大会日程は長期的なものになる。しかし選手第一に考えるなら、それでいいはずだ。灼熱の真夏に、わずか2~3週間で優勝校を決定する方式にする理由は、夏休みという期間を使って、大会を一気に盛り上げようとする運営者側、広報者(メディア)側の都合しか思い浮かばない。

さらに穿った見方をすれば、夏の甲子園(選手権大会)と春の甲子園(選抜大会)という二つの大会を1年の間に無理やり行うために、真夏の間に選手権大会を完結させているとしか思えない。まさに夏は朝日新聞、春は毎日新聞の権利を守ることであって、これは朝日新聞ファースト、毎日新聞ファーストになっている。

■朝日・毎日は子供たちを救うため直ちに立ち上がれ!

いつも「子供たちの権利を守れ!」と声高に主張し、最近の社説では「炎天下の運動には注意を払え!」とごもっともなことを言っていた朝日新聞と毎日新聞なんだから、両社ですぐに協議し、子供のことを第一に考え、夏・春の2大会を1大会に統合し、1年ぐらいかけてじっくりとトーナメント戦を行うように改めるべきだ。それだけで、選手の健康面の問題のほとんどが解決できるし、夏・春の大会を1大会にまとめることくらい、朝日新聞や毎日新聞の利益のことを横に置けば、明日にでもできる簡単な改革だ。今でも夏の大会は朝日新聞が主催、毎日新聞が後援、春の大会は毎日新聞が主催、朝日新聞が後援となっている。そうであれば朝日新聞、毎日新聞が共同主催者となって1年に一つの大会を開催するように改めることなど、朝飯前の改革だ。

(略)

大人の社会では「働きすぎ」が問題になり、国も働き方改革を推進して、朝日新聞や毎日新聞も労働者の権利をもっと守れ! と主張している。残業規制にインターバルの導入、休日・有給の確保。大人の社会では室内温度が28度を超えるところでの労働は禁止となっている。それならば、高校球児にも「働き方改革の精神」を適用すべきだ。

(略)

40度近い気温の中で、過密日程で行われる今の甲子園大会は、高校球児にとって、憲法18条で禁じられている「苦役」に相当すると言っても過言ではない。朝日新聞や毎日新聞の青春ドラマ仕立てのきれいごとはもう十分だ。このきれいごとによって蓋をされている高校野球大会の負の問題点を本気で解決するべきだ。甲子園大会の負の部分を解決すことによって、学校スポーツに対する国民の意識も一気に変わり、そこでやっと日本の学校スポーツは「兵士養成プログラム」から脱することができる。朝日新聞、毎日新聞は、子供たちを救うために今すぐ立ち上がって、甲子園大会を抜本的に見直せ!

(略)

(ここまでリード文を除き約3000字、メールマガジン全文は約1万3000字です)

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.113(7月31日配信)を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【緊急提言! 夏の甲子園】猛暑・連戦・丸刈り強制……朝日新聞は高校球児を“甲子園洗脳”から解放せよ》特集です!

(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 写真=iStock.com)

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