三菱自動車CEO「部下は上司から、上司は部下から学びなさい」
プレジデントオンライン / 2018年8月6日 9時15分
■自動車産業は今、「100年に1度の大変革期」
自動車産業は今、「百年に1度の大変革期」と言われているように、非常に大きな転換期を迎えています。それは、世界中の市場でさまざまな環境規制が導入・強化されており、その対応として、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)などの電動化技術の開発が行われているからです。
また、IT技術の進展に伴って、自動車においても自動運転やコネクテッドカーなどのテクノロジー革命が起きています。既存の自動車メーカーによる内なる競争ではなく、異業種からの参入による新たなライバルも加わり、自動車産業そのものが大きな環境の変化の中にあります。加えて最近は「働き方改革」が盛んに言われ、従業員と会社の関係も変わりつつあります。
私たちはそうした転換期の中で、危機感と葛藤を抱きながら、モビリティ社会の実現に取り組んでいるのだということを、基本的な意識として持っています。つまり、自動車産業に携わっていること自体が、テクノロジーや働き方の革命そのものであって、社会にも個人にも大きな変化をもたらしているということです。この取り組みに対する評価は現時点では拙速にすぎるので後世に譲るとしても、こうした命題をかかげながら、変化を余儀なくされる世の中を生きているのだという認識がないと、働き方や意識の改革も先に進まないと思います。
もっとも、そうした環境変化に対する問題意識の捉え方は、世代間によって大きな違いがあることも確かです。誤解を恐れずに言うと、若い人たちは、私たちのような戦後間もない昭和生まれの世代と違って、人間的な喜怒哀楽をあまり外に出さないように見えますし、マイホームやマイカーなど、我々の世代が持っていた欲望もあまり持たず、淡々と自動車産業の環境変化に向き合っているように見えます。
■若い人は、メールで職場が殺風景になることに危機感がない
また若い人たちは、ITの活用に対するスタンスも我々の世代とは違います。例えば、みなさんの会社で、隣の席の人にまでメールを打って連絡するようなことはないでしょうか。たしかに、メールにはいい面があります。相手との面倒なアポイントの調整がいらないので、時間の有効活用ができます。また、相手の顔色や表情を見ないほうが、言いたいことをストレートに伝えられるという面もあります。ただ、一方通行なので、メールの表現によっては人を傷つけていることがあってもわからないし、人間関係が希薄化することにもなりかねません。私たちの世代では隣の席の人にメールを送ることは考えられませんが、ITに溶け込んでいける若い人たちは、メールによって職場が殺風景で機械的になっていることに、危機感を感じていないようです。
しかし、IT化するだけで本当にいいのかという問題意識は、絶えず持っている必要があると思います。もちろん、例えば自動車会社の完成車検査などは、IT化によって透明化され、利便性も向上していることは間違いありません。ですから、IT化によって仕事のやり方を変えることを躊躇したり、恐れたりする必要はありませんが、変えてはいけないもの、あるいは変えながらも残していく大切なものは必ずあるはずです。人間の目や力で正しく判断し処理しなければいけない部分は、守っていかなければなりません。
■世代間ギャップは意識改革で埋める
当社は、過去の不祥事を繰り返さないためにも、その原因が何であったのかをしっかり認識をしておかなければなりません。先般、開発拠点のある岡崎製作所に「過ちに学ぶ研修室」を開設したのもそのためです。
ただ、先輩が持っている貴重な経験を部下へ教え、伝えるということも簡単ではありません。それは、そもそもコミュニケーションに使う言葉1つ取っても、昔とは違うからです。例えば、社内の書類などは、最近は英語を多く使うようになり、日本語の書き方がまったく参考にならなくなりました。それに、社内用語も簡単に使えなくなりました。例えば「KY」という言葉。世間では「空気が読めない」という意味ですが、当社の社内用語では「危険予知」の意味です。社内の文書でも3文字以上のカタカナ表記では最後の「ー」を省略し、例えば「リスキー」を「リスキ」とするルールがありました。先輩が持つ経験を部下に伝えていくには、そういったコミュニケーションのローカルルールから変えていく必要があると考えています。
そしてやはり大事なのは、メールばかりで連絡や決裁をするのではなく、直接お互いの顔を見ながらコミュニケーションをするということです。当社は年内に今の本社から新しいビルに引っ越す予定ですが、オフィス内での風通しをよくするために、上下階の移動にはエレベーターではなく階段を利用するような造りにしたり、休憩時間に社員が集まるカフェテリアも設けたりする予定です。これらの案は、若手の社員たちが、プロジェクトチームを編成して提案したものです。
■若い社員は、時に直属上司を飛び越して部長や役員に直談判
また、上下の風通しのよい会社にするには、中間管理職の役割が極めて重要です。職場で若い社員が手本とするのは、直属の上司だからです。上司が部下にとって頼りになるか、親身になって話を聞いてくれる人かといったことで、部下は変わります。上司は部下の教育者であると同時に、部下を守ってやる守護神でもなくてはなりません。直属の上司が、面倒見が悪く、上ばかり見て仕事をして部下を育てることをしないと、その部下も会社に対して不平不満を持つようになるでしょう。
最近の若い社員の中には、直属の上司が話にならないと思うと、いきなり飛び越してその上の部長や担当役員にまで直談判しにやってくる人がいます。それでは秩序が乱れてよくありません。上司のレベルを上げることがいかに大事かということにもなります。
では、会社の風通しをよくする中間管理職はどんな人かといえば、まず明るくて好奇心のあふれる人、家族を大事にして親孝行ができる人だと思います。この業界はまだ男性が中心の社会ではありますが、子育てが終わって職場に復帰してきたような経験豊かな女性から学ぶことも多く、男性のように余計なことを考えすぎず、現状を素直に受け止めて正しく判断する能力は頼りになります。ダイバーシティを推進して、より透明性の高い会社をめざすために、女性を積極的に登用することも、上司と部下のコミュニケーションをよくすると思います。
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三菱自動車工業CEO
1949年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。72年三菱商事入社。主に自動車部門に携わり、執行役員・自動車事業本部長を経て、2004年6月三菱自動車に移り、常務。05年に取締役社長。17年から現職。
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(三菱自動車工業CEO 益子 修 構成=福田俊之)
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