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発達障害「困ってないなら診察不要です」

プレジデントオンライン / 2018年9月23日 11時15分

(左)茂木健一郎氏(右)桑原 斉氏

天才脳科学者の茂木健一郎氏と、人気ドクター桑原斉氏。高校と大学の同窓でもある2人が、熱く語り尽くす。

■「小学校入学初日から椅子に座っていられなかった」

【茂木】昨今メディアでも「発達障害」の言葉をよく見かけるようになりました。今日は、能力の凹凸やこだわりの強さなどの発達障害ならではの特性が、人間の創造性に影響を与えることはあるのか、社会とどう折り合いをつけるのかといったことを解き明かしたい。

【桑原】壮大なテーマですね。エピソードを中心にお話ししますが、よろしくお願いします。

【茂木】最初からぶちまけてしまいますが、僕は「発達障害」という言葉自体に違和感を抱いている人間です。もちろん研究の重要性は理解していますし、実際に困っている人を診察されている先生のような方は非常に尊敬しています。ただ、診断される側のマインドが問題で、例えばわが子に診断が下ったとき、必要以上にパニックになり、将来を悲観してしまう親御さんも多いですよね。まるで烙印を押されたかのように落ち込む人がいて、でもそもそも「自閉スペクトラム症(ASD)」という言葉からもわかるように、本来人間の特性は「スペクトラム(連続体)」であり、「正常」と「障害」の明確な線引きなどできないはずですよね。

【桑原】おっしゃることは、よくわかります。僕のところには、幼児から80代の方まで多様な方が診療に来られますが、皆さん非常に深刻な面持ちですよね。診断を受けてショックを受ける方や怒りだす方もいます。ただ、なかには診断を受けて「ほっとした」という方が多いのも事実です。特性を知ることで、苦手なこと、得意なことを知り、日常生活や対人関係を工夫することができますから。

【茂木】実はね、僕は小学校入学初日から椅子にきちんと座っていることができず、先生から「退屈しちゃったかな?」と尋ねられて赤面した人間なんです。2年生の頃には、よく宿題を忘れて教室の後ろで座らされていましたが、同様によく叱られる女の子と2人、今度は教室の後ろで粘土消しゴムとかで遊び始めてしまうのでまた怒られるという悪循環で。ところがその女の子、2学期からは特別支援学級に行ってしまったんですよ。つまり、僕もかなりグレーだったということです。いまだに僕は講演会や会議でじっとしていることができませんし、先日は児童精神科医の方に「子どもの頃、発達障害と診断されませんでしたか」と尋ねられました。おそらく今の時代に生まれていたら、診断名が出て就学前相談が必要だったでしょうね。

【桑原】なるほど、なかなかですね。ただ茂木さんはそれを上回る頭の良さがあるから、そこでカバーできてきたのではありませんか。

■偏りがあっても、ほかでカバーできれば「障害」ではない

【茂木】確かに自分でいうのもなんですが、勉強は抜群にできました。授業は全く聞いていませんでしたけど(笑)。だから多少変わり者でも、「できる奴」でやってこられたのかも。でも僕自身理学部卒業で、理系の大学で教えたりしていましたが、似たようなタイプは多かったです。好きな女の子の前で自分の研究を滔々と語って止まらない奴とか(笑)。

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)●1962年生まれ。東京学芸大附属高校、東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。『脳と仮想』で第4回小林秀雄賞受賞。近著に『すべての悩みは脳がつくり出す』(ワニブックスPLUS新書)。

【桑原】発達障害のことを僕らは神経発達症と呼びますが、その診断基準の「DSM‐5」には非常に重要なことが記されています。それは「その症状で本人が困っていれば診断する」ということです。だから例えば茂木さんのように、致命的な偏りがあっても、ほかの能力でカバーできていれば「障害」ではないんですよ。

【茂木】今、「致命的」とおっしゃいましたね(笑)。僕、先生のところに診療に行ったほうがいいかも。

【桑原】先生が診察に見えても、僕はこういいますよ。「困っていないから診断は必要ないです」と。

【茂木】でも困っていますよ。僕は会議や資料の存在意義がわからず、興味もないからほとんど聞いていない。人から「いったじゃない」といわれても、記憶にないことは多いです。

【桑原】そこで謝れます?

【茂木】もちろん、そこは謝りますよ。

【桑原】なら大丈夫です。困った事態になりそうでも、ちゃんと対処する術を身に付けていれば問題ないです。

【茂木】面白い。そういうことか! 僕はアインシュタインが大好きなんですが、彼は5歳過ぎまでほとんど喋れなかったそうですね。学校生活にもなじめず、大人になっても奇行が多かった。現代なら完全に困った奴ですが、でも実はそんな面があったからこそ、強烈な創造性を発揮できたのではとも思うんです。

【桑原】アインシュタインがASDだろうというのは有名な話ですが、彼はASDでなくても相対性理論にたどり着けたのか。コミュニケーションの不得意さや強いこだわりがあったからこそ、当時の常識を無視して能力を発揮できたのか、あるいは天才ゆえにASDの特徴があっても関係なく成功できたのか。本人を診察できない以上、真実はわかりません。

【茂木】彼はまだ喋れないときに、大人の会話をじっと聞いて、自分の中でリハーサルしていたと語っています。これもASDの特徴ですか?

【桑原】それはむしろ対処法ですね。SST(ソーシャルスキルトレーニング)といって、臨機応変な対人関係が苦手なASDの人向けにロールプレイなどを用いてトレーニングするんです。でも、それを自ら編み出して1人で実践するというのは、やはり天才ですよ。

【茂木】結局脳の役割って「適応」じゃないですか。アインシュタイン少年が自ら適応方法を編み出していたというのは、ちょっと感動的ですね。

■「一番の元凶は日本の学校教育制度にある」

【桑原】学校や会社でも、私たちはノンオフィシャルな場で雑談を交わすことで、人間関係を培い情報を集めますよね。そこが苦手というのは、結構大変なことなんですよ。

桑原 斉(くわばら・ひとし)●精神科医 1974年生まれ。東京学芸大附属高校、東京大学医学部卒。東大病院を経て現在、本郷東大前こころのクリニック、メンタルクリニック・ダダ勤務。やさしい人柄から発達障害児の保護者の人気を集める。

【茂木】でも一方で、僕はさまざまな業界のトップランナーの方にもお会いしてきましたが、何かを成し遂げる人というのは、やはりどこか規格外の人が多いですよ。約束の時間から必ず1時間は遅刻する、会社のパソコンを年に3回なくす、思ったことをいって炎上するなどさまざまですが、彼らがそういった面を幼少期から直そうと暮らしてきたら、今ある彼らの成功はあったのかなと思うんです。まつもとゆきひろという世界中で使用されている「Ruby」というプログラミング言語の開発者がいますが、学校時代の数IIIの成績は1だったそうです。

【桑原】どこかの分野は突出してすごいけど、ほかの分野が全くダメという人に、どこまでオールマイティに社会に適応すべく頑張る必要があるのかということですね。

【茂木】結局僕は、一番の元凶は日本の学校教育制度にある気がしてならないんです。勉強についていけない子、逆に学校の勉強が簡単すぎてつまらない子、そもそも学校という場の集団行動になじめない子、彼らを無理に「普通」にする努力を学校や親はしますけど、そんなのは無駄な努力で、さっさとホームスクーリング(学校に通わず、自宅を中心に学習すること)などほかの選択肢に切り替えたほうがいいんですよ。

【桑原】昨今は障害のある子も通常学級でみんな一緒に勉強していこうという「インクルージョン教育」も提唱されていますが、一見いいように見えて、当人にとってはメリットより弊害のほうが大きいこともありえます。どのような教育環境が本人にとって適切かは簡単にはわかりませんが、十分な情報に基づいて本人や家族が選択できることが重要じゃないかと思います。

【茂木】みんな一斉にヨーイドンでスタートし、みんな一緒にゴールインしようという日本社会ならではの同調圧力が教育現場にもはびこり、大人になっても苦しんでいる人は多いと思う。だってアメリカでは、学校ではなく自宅で勉強する子は200万人単位でいて、むしろオーダーメードの教育を選べることでアイビーリーグに合格する優秀な人間もたくさん出ていますよ。飛び級や留年も普通ですしね。同学年が一斉に同じ速度で歩んでいくという“理想”はむしろ特殊で奇異ですよ。

【桑原】2017年“障害者差別解消法”が施行され、発達障害を含め学校教育などで合理的配慮が必要な人に対しては学校側がきちんと対応することが義務付けられました。本人の努力だけでなく、むしろ環境を調整して、本人の能力を十分に発揮できるようにしようというのがその主旨です。

【茂木】教育・働き方・生き方、もっと柔軟な多様性が必要ということですね。アインシュタインはもともと天才だった。ASDだろうとなかろうと。彼の特性を無理に抑え込んでいたら、もしかしたら相対性理論は生まれなかったかもしれない。

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▼発達障害(神経発達症)は主に3タイプ
ASD:自閉スペクトラム症
SLD:限局性学習障害
ADHD:注意欠如・多動性障害
先天的な脳機能の特徴により、強いこだわりや独特のコミュニケーション、感覚過敏などの特性がある。

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(脳科学者 茂木 健一郎、精神科医 桑原 斉 文=三浦愛美 撮影=横溝浩孝)

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