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QR決済が中国並みに普及するための条件

プレジデントオンライン / 2018年8月2日 9時15分

写真=iStock.com/alexsl

■「決済」は銀行からIT企業にしみ出してきた

世界的に“決済革命”と呼ばれる動きが進んでいる。わが国でも、QRコードを使った決済制度の確立に向け産学官の連携が強化されている。今年7月、経済産業省は産学官からなる「キャッシュレス推進協議会」を設立。QRコードの規格統一や電子レシートの標準化などの議論を始める。政府はキャッシュレスによる決済比率を2025年までに40%に高める目標を掲げている。

これまでわたしたちは、おもに現金で買い物をしてきた。しかし、その当たり前の行動が変化しつつある。現金を使わない“キャッシュレス”の発想が、わが国でも増えている。

決済とは、モノの売買など、取引を行うことによって発生した債権と債務を貨幣(お金)やモノの交換によって解消することをいう。当たり前だが、決済が約束された通りに成立しないと、取引は成立しない。決済は、経済の円滑な運営のために、重要な役割を持つ。

わが国の決済制度において重要な役割を果たしてきたのが銀行だ。背景には、戦後の復興期から今日に至るまで、“間接金融”が重要な役割を果たしてきたことがある。しかし、情報分野での先端テクノロジーの開発と実用化が進むにつれ、銀行が一手に担ってきた決済サービスは、IT先端企業など他の業界に浸み出している。それに伴い、わが国でも決済のデジタル化を目指す考えが増えている。

先端分野でのテクノロジー開発とともに、従来にはない発想を実現しようとする、新しいプラットフォーマー(ビジネスや取引の基盤を提供する企業)などの増加が見込まれる。それに伴い、わが国の決済のあり方、考え方も大きく変化していくだろう。

■今、注目を集めるQRコード決済

最近、国内のさまざまな場所で、現金を使うのではなく、スマートフォンなどを使って、代金の支払いを済ませられるようになった。現金を使った支払いによらない決済を“キャッシュレス決済”という。中でも、QRコードを用いた決済方法が注目されている。

なぜ、QRコード決済が注目されているかといえば、それが、従来の決済方法よりも手軽で便利だからだろう。

これまでわたしたちがなじんできたキャッシュレス決済はクレジットカード払いだ。ネット通販からコンビニでの買い物まで、さまざまな場面でクレジットカードが使われている。ローンを活用することもでき、カードの利用者にとっては便利だ。

■コストの低さも魅力

一方、クレジットカードの利用を受け入れる店舗側は、クレジットカード会社に対して“加盟店手数料”を支払わなければならない。手数料率は業種によって異なる。3%程度の業種もあれば10%近いものもある。また、カード決済の場合、毎月末で支払金額を確定し、翌月の決められた日に決済が行われるなど、実際の資金回収に時間がかかる。

ほかには、「スイカ」や「パスモ」などの非接触型ICカードを用いた支払い方法もある。だが、この方式ではカード情報を読み取る専用の機器の設置が必要だ。小規模事業主の場合は費用負担が重いため導入が進みづらい。

これらに比べて、QRコードを用いた決済は、さほどコストがかからない。利用者はまず、必要なアプリをスマートフォンにダウンロードする。その上で、ユーザーの情報が記録されたQRコードを店に示したり、店側が用意したQRコードを読み込んだりする。そのQRコードとクレジットカードなどをひも付けることで決済をする。店舗側は、専用の読み取り機器を設置する必要がない。

■中国や東南アジアで普及進む

QRコード決済の普及が進むのは中国や東南アジアだ。中国では、阿里巴巴集団(アリババ)や騰訊控股(テンセント)などのIT企業がサービスを提供し、それが常識になっている。人民網日本語版が2016年5月に報じたところによると、中国都市部に住む消費者1000人へのアンケートでは、回答者の98.3%が「過去3カ月以内にモバイル決済を利用した」と答えたという。そればかりか、決済サービスは海外にも進出している。初期コストや決済手数料の低さが、大きな魅力になっている。

こうした動きが、日本の決済制度に変革をもたらしている。LINEは、2014年からQRコード決済を含むキャッシュレス決済を展開してきたが、今年7月には今後3年間の手数料無料化を発表した。その狙いはオンライン上での決済サービスを提供し、ユーザーに関するデータの確保と活用だ。そのほか楽天やヤフー、NTTドコモなどもQRコード決済を展開している。

■キャッシュレス決済の利用は拡大する

今後、わが国において、QRコード決済に代表されるキャッシュレス決済の利用は増大していくだろう。

まず、ユーザーにとって重要なことは、その手軽さと便利さだ。すでに国内の個人消費に占めるキャッシュレス決済額の割合は20%程度に達した。わが国は、諸外国に比べて現金を用いた支払いを好む人が多いと言われる。

それでも、インターネット経由での買い物の増加やスマートフォンの利用者の増加とともに、現金を用いずに支払いを済ませたいと思う人は増加してきたのである。この傾向は続くだろう。中国などからの観光客にとって、モバイル決済は当然だ。それも、わが国におけるQRコード決済をはじめとするキャッシュレス決済の普及を支えるだろう。

■変化への対応を求められる銀行勢

一方、企業側にとっても、キャッシュレス決済の普及は見逃せない変化だ。キャッシュレス決済は、顧客の口座情報などを読み取るなど、決済のデジタル化に他ならない。それによって、モノやサービスを提供する企業は、個々人の行動に関するデータを入手できる。それを分析することで、企業は、従来は知られてこなかった消費者の行動様式を把握することができるだろう。それは、新しい商品の開発や、サービスの提供、起業増加など、社会のダイナミズムを高める可能性を秘めている。

これは、決済のサービスが銀行の外に流れ出つつあることといえる。この変化は、わが国の決済制度を支え、牛耳ってきた銀行業界には脅威だろう。変化に対応するために、銀行勢もさまざまな取り組みを進めている。たとえば、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、みずほFG、三井住友FGはQRコードの規格統一で合意し、他行にも参加を呼び掛けている。

■銀行とIT企業の連携も進む

加えてMUFGは、テンセントとも提携している。決済データは、すでに行われた「過去の消費行動」に関するデータだ。一方でSNSのデータは今まさに行われている「現在の消費行動」のデータだ。これを用いることで、MUFGは訪日客がどのようなモノやコトを欲しているか、潜在的な需要を把握しようとしている。それは、銀行が新しい収益チャンスを獲得するために大切だ。

すでに三井住友FGはクレジットカードやモバイル決済など、複数の決済手段に1つの端末で対応するシステム開発に着手し始めた。この取り組みは、オンラインの決済処理サービスを手掛けるGMOペイメントゲートウェイと共同で進められている。

今後もわが国の銀行は、キャッシュレス決済のニーズやデータの取り込みのために、IT先端企業をはじめさまざまな企業と連携していくだろう。これは、新しいテクノロジーが経済を変化させ、企業競争を促進する良い例だ。

■個人情報の保護も含めたルール作りを

こうした取り組みを進める上で欠かせないのが、個人情報の保護だ。SNS大手フェイスブックが個人情報を不正に第三者に提供していたようなケースが起きてはならない。この点で、わが国の産学官の連携によって、デジタル社会が進む中で、ユーザーが安心できる情報管理のルール、コンプライアンスの考え方などがまとめられ、実務に落とし込めるとよい。

その点で、経産省が設置した「キャッシュレス推進協議会」の役割は重要だ。期待したいのは、国内だけでなく、欧米など海外の産学官との連携だ。経済はグローバル化している。規格を議論し、まとめる上では、国内の発想だけでなく、海外の発想にも対応しなければならない。推進協議会がその発想に基づいて議論を進めることができれば、法制度の面で、わが国が世界のロールモデルになれる可能性はあるかもしれない。それくらいの意気込みが必要だ。

同時に、わが国は、現金を用いた決済の必要性も冷静に検討していくべきだ。大規模な自然災害が発生した際、電力の供給が寸断される可能性がある。その場合、ネットワークテクノロジーを用いたキャッシュレス決済は使えなくなる恐れがある。その際は、現金が必要だ。キャッシュレス決済のリスクにも備えておくべきだろう。

(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫 写真=iStock.com)

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