大金持ちトヨタが1000億社債発行の理由
プレジデントオンライン / 2018年8月20日 9時15分
■キャッシュ豊富な「トヨタ銀行」がなぜ“借金”をするのか
日本を代表する企業であるトヨタ自動車――。同社が「トヨタ銀行」とも呼ばれるのは、1兆8311億円(2017年3月期)という純利益を稼ぎ、手元に豊富な資金を抱えているから。同期の現金と定期預金の合計額は4兆776億円で、中位の地方銀行の預金量とほぼ同水準である。
そのトヨタが17年6月2日払い込みで合計1000億円もの社債を発行して注目を集めた。設備投資への充当が目的だが、「4兆円を超える現預金があるのなら、そこから手当てしても十分に残るはず。社債を発行する必要があるのか」と思うのも道理だろう。
■タダ同然で、銀行から借り入れるよりも断然お得
そんな疑問にまず金融市場の観点から答えてくれるのがBNPパリバ証券投資調査本部長の中空麻奈さんで、「17年の社債発行額は16年と同様に12兆円を超えた。日本銀行の異次元の金融緩和で、いまは有利な利回りで発行できる。一方、米国・欧州が引き締めに転換し、国内市場にも金融引き締めへの転換、金利の先高観も漂い始めた。それなら、いまのうちに少しでも多くの資金を社債で調達しようという心理が、トヨタをはじめ各社の財務担当者の間で働いたのだろう」という。
その際にトヨタが発行した3年債の利回りは0.001%。100万円調達しても、1年間の金利はわずか10円だ。それゆえ「タダ同然で、銀行から借り入れるよりも断然お得」と評される。でも、資金の調達なら株式の発行でもできる。なぜ、社債なのか?
「業績が悪くなれば配当が無配になり、倒産すれば株式自体が無価値になる。そのため株式での資金調達は、利回りや元本が保証されている社債や銀行融資と違い、高いリスクを負っている。それだけに株主の期待収益率は当然高くなり、ある調査によると日本企業の場合は10%ともいわれる」と公認会計士の林總さんはいう。結果、株式を発行する企業はそれに応える必要があり、割高なコストの資本となってしまう。
■企業にかかるROAの圧力
もちろん社債や銀行借り入れにも利回りや金利というコストがかかる。それら社債や銀行借り入れ、そして株主資本などの金額に応じて加重平均した調達コストを「WACC(加重平均資本コスト)」という。つまり、会社が必要とする資金すべてを調達するコストで、企業が最も気にするものだ。
そのWACCと密接な関係にあるのが、資産を使いどれだけ効率よく稼いだかを見る「ROA(総資産利益率)」。「総資産=負債+純資産」であり、WACCで調達した資金の使い道が資産なのだ。つまり資金の出し手には、「自分たちの資金でどれだけ稼いでいるか」を測る指標となる。
「そこでもしもWACCが5%なら、それ以上のROAを稼いでくれという圧力が企業にかかる」と林さんは指摘する。だから少しでもWACCを下げるため、調達コストの低い銀行借り入れや社債発行を選択しようという心理が働くわけで、トヨタも例外ではない。ある意味で異次元緩和は、その背中を押したともいえる。
また、グローバル化に伴う企業姿勢の変化に注目する公認会計士の山田真哉さんは、「電気自動車や自動運転化などの最先端の技術を取り込むため、有望なベンチャー企業があれば躊躇なくM&A(買収・合併)を行い始めた。その切り札が手元の豊富なキャッシュで、万が一の際には社債で機動的に確保できるようにしておくのだ」と話す。
その意味で社債市場との“常日頃の付き合い”も重要であり、中空さんは「償還期を迎えたら、同規模の社債を新規に発行して機関投資家などの顧客をつなぎとめておくのが普通。でないと、いざ発行したくても買い手が見つからないという事態になりかねない」という。
トヨタがコンスタントに社債を発行してきた狙いの1つもそこにあるのだ。マイナーなイメージのある社債だが、財務戦略上とても重要であり、トヨタの巧みな社債活用術にぜひ範をとりたい。
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BNPパリバ証券投資調査本部長
公認会計士
外資系会計事務所、監査法人勤務を経て1987年独立。著書に『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?』など。
公認会計士
中央青山監査法人などを経て、現在は芸能文化会計財団理事長を務める。『女子大生会計士の事件簿』など著書多数。
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(プレジデント編集部 伊藤 博之 撮影=宇佐見利明 写真=時事通信フォト)
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