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三井物産社長「同業他社は競合にあらず」

プレジデントオンライン / 2018年9月5日 9時15分

三井物産 社長 安永竜夫氏

これからビジネスマンはどう変わるべきか。「プレジデント」(2018年4月30日号)では、特集「いる社員、いらない社員」で、大企業のトップ29人に「人材論」を聞いた。今回は、三井物産の安永竜夫社長のインタビューをお届けしよう――。

史上最年少で社長に就任して3年。最初の決算では創業以来初となる赤字に転落したものの、2017年には見事にV字回復を成し遂げた安永竜夫社長。あらゆるビジネスが変革期を迎えている今、独自の働き方改革と人材育成制度の整備を通じて、世界で働く社員の意識改革を図っている。

■「競合はもはや同業他社ではなく、世界のメジャープレーヤーだ」

──2016年を「働き方の革新元年」として、変革に着手されています。その狙いを教えてください。

三井物産のビジネスは実に多種多様で、地球の裏側にいる相手と仕事をしている部門もあります。私も中近東やロシアを担当した期間が長かったのですが、会社に朝一番に来ても(時差の関係で)相手がいない。忙しくなるのは夕方からです。また中近東は日曜日が平日で、どんどん報告や連絡が日曜日に入ってくる。こうなると必然的に現地の仕事時間に合わせて働かざるをえません。こうした部署ごとに異なる事情を働き方に反映させるために、まず会社が、働く時間、場所などに自由度のある制度を用意し、あとはそれぞれの部署が、その範囲内でベストな働き方を考えてくださいという形を導入しています。

──性別や国籍、家庭環境の違う人材が一緒に働くことによる相乗効果の創出にも取り組まれています。

これはもう後戻りできません。特に海外の事業会社、現地法人で活躍しているローカルスタッフの才能をいかに発掘し、教育し、三井物産パーソンとしてさらに活躍できるように育成するかというのは、当社の重要な課題になっています。

当社は連結従業員数が約4万2000人で、そのうち日本国籍の人は約1万7000人と、圧倒的に外国籍の人が多い。かつて彼らの多くは日本人のサポート役であったものの、今は海外の関係会社等で幹部になることも多く、名実共に「君たちが主役だ」と言っています。というのも三井物産の競合先はもはや同業他社ではなく、それぞれの業界における世界のメジャープレーヤーなんです。彼らと戦うには各地の事情を熟知し、場を仕切っていける人間が必要です。反対に日本の若手には、「君たちの競争相手はもう同世代の日本人じゃない、世界中の若者が競争相手だ」と言っているところです。

■「知識だけでは人は絶対に動かせません」

──世界のメジャー相手の競争に勝つために、安永社長が考える優秀な人材とはどんな人でしょうか。

一言で言えば「場の支配力」を持っている人間です。ビジネスの戦略を決めて、それをアクションプランに落とし込み、自分の周りの人を動かし、場を自分流につくり上げ交渉を仕切る力を持っていること。これは修羅場や土壇場を経験して初めて身につくものです。一番いいのは客先に飛び込んでいくことです。そこで知識ではなく智恵を身につけ胆力を養う。知識だけでは人は絶対に動かせません。最近ではセキュリティの問題などもあり東京では飛び込み営業が難しくなりましたが、地方では厳しいお客さんのところに若手社員が飛び込んで身をもって学べる環境がまだ残っています。冷や汗をかくこともあるかもしれませんが、真剣勝負に身をさらすことで、覚悟と責任感が生まれます。また海外でも、新興国の熱気あふれる若者の中で揉まれる経験を積ませることができます。頭が柔らかいうちに、修羅場や土壇場を経験させることで、プロ意識を持った強い「個」になってもらわないといけない。そのために、三井物産で長年行われている修業生制度を含めた若手の海外派遣制度を再整備しました。

──ご自身のレベルアップを図るために実践したことを教えてください。

私は若いうちから自分が責任者だったらどうするかを常に考えながら仕事をしていました。そして、30代の課長代理の頃には部長のつもりで交渉事をまとめていました。というのも交渉の席で「東京(の本社)に聞いてみる」と言った瞬間、「話ができる相手を連れてこい」ということになる。それでは仕事は進まないし、自分の成長にも繋がりません。とはいえ自分の権限を超えたところで仕事をするには、どこまで踏み込んでよいか、どこまで譲歩してもよいかといった「ネゴ代(のめる条件の幅)」を事前に把握しておかねばなりません。契約上の条件が複雑に絡んでいる案件では「星取り表」をつくって、相手にAを取られたらBとCを抱き合わせでのませて最後は相打ちにするぞ、といった細かい交渉プランまで頭に叩き込んで臨む必要がある。当然社内に応援団が必要で、交渉に臨む前に綿密な準備を社内で行っておく必要がある。そういうことを若いときからやることで、人を動かし、場を動かす智恵と胆力が鍛えられました。

──その安永社長にとって、今の人材を評価する基準とは?

重要なのは仕事にオーナーシップ(主体性)を持つことです。自分が担うべき役割を理解していて、時間通りに成果をあげ、結果責任を果たすこと。職種や年齢を問わずこの主体性を持っていれば、評価に値します。

■三井物産は市場を切り拓く「ジャングルガイド」

──社内から新規事業プランを吸い上げる取り組みも始めていますね。

試みとしてやっているのが、社内で随意にチームをつくり業務時間の20%を自由な事業テーマに使える「かるがもワークス」という活動です。チームとして取り組んだ事業プランと会社が向かう方向性が合致すれば、その新しい事業の萌芽を会社の事業として採用する。例えば、毎日、穀物のトレーディングをしている社員が、この制度で衛星ビジネスを考える、といったことが起きています。また、起業する意思のある社員を後押しする「社内起業制度」も始めました。この制度では、社員は自己資金も投入します。今は新しいビジネスの種が突然変異で出てきうる時代。担当するビジネスラインの中で、昔からの関係性の延長で仕事をしているだけでは生き残れません。

──変えるべきところは変え、会社の根幹部分は伝統を貫く、というメリハリのある育成方針が窺えますね。

三井物産は新しいビジネスを生み出し、市場を切り拓いていく「ジャングルガイド」であることは昔も今も変わりません。獲物を射止めるための“道具”が変わっただけで、仕事のマインドセットやネイチャーは同じです。つまり私たちは常に「戦う集団」であらねばならない。だから強い個をつくることは必須であり、それが三井物産のDNAと言えます。

▼QUESTION
1 生年月日、出生地

1960年12月13日、愛媛県今治市
2 出身高校、出身大学学部
愛光学園、東京大学工学部
3 座右の銘、好きな言葉
人事を尽くして天命を待つ
4 座右の書
『坂の上の雲』司馬遼太郎
5 尊敬する人
会社の上司・先輩
6 私の健康法
ゴルフ・ジム・カラオケ

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安永竜夫(やすなが・たつお)
三井物産 社長
1960年、愛媛県生まれ。83年東京大学工学部卒業後、三井物産に入社。プロジェクト業務部長、経営企画部長、執行役員機械・輸送システム本部長を経て、2015年4月より現職。

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(三井物産社長 安永 竜夫 構成=大島七々三 撮影=的野弘路)

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