学校に携帯代金を払わせる"モンペ"の手口
プレジデントオンライン / 2018年8月5日 11時15分
■モンスターペアレンツに疲労困憊な先生が増えている
筆者は私立中学校を取材する機会が多くあるのだが、そのたびに「先生という職業は大変だな」としばしば感じる。その責任の重さに対して、給与や労働時間、心労の度合いが余りにアンバランスに思えるからだ。
その原因のひとつは、保護者の「過剰な要求」にあるのではないだろうか。ある中高一貫校のベテランの先生が、ある日、筆者にこうこぼしたことがある。
「学校は旅行会社じゃありません。でも、今の保護者は学校から各種オプション付きのパッケージ商品を購入したと勘違いしているんです」
つまり、学習面は当然のこと、健康、生活、人間関係、しつけにいたるまで、子どもに関するありとあらゆることは学校任せで、うまくいったら“お買い得”、うまくいかなかったら“学校のせい”という意味だ。
わが国では「お客様は神様」という過剰な顧客サービスが、一部のクレーマーを増長させているという意見がある。同様に、少子化で保護者から選んでいただく立場になっている私立学校には、こういう悩みを抱える先生が増えているように思う。
このとき考えたい概念が「モンスターペアレンツ(モンペ)」だ。モンスターのように学校にクレームをつける親(ペアレンツ)のことを意味する。筆者は大まかに2種類の「モンペ属」が生息していると推察している。
■平気で「携帯代金を負担してください」という親
ひとつが「コスパ重視の金換算属」だ。
先日、中学受験塾の先生が嘘のような話を教えてくれた。
「『志望校に入れなかったのは塾の指導法が悪かったのだから、かかった費用を返金してほしい』と真顔で保護者に何度も訴えられ、お引き取りいただくのに大変、苦慮したんです」
これと同じような「金返せ」と主張する保護者の話はよく耳にする。
例えば、ある小学校では保護者から校外学習(草花観察)について、こんなクレームがあった。
「わが子が草木でかぶれて、皮膚科に通うことになったのは、事前のプリントに『長袖、長ズボンを用意せよ』と書かれていなかったせいである。学校に落ち度があるのは明白。よって、治療費と傷が残るかもしれないので慰謝料を払え」
また、ある中学では宿泊学習を風邪で欠席した生徒の親から「不参加なのだから、全額返金せよ」というクレームが届いたそうだ。
さらには、ある高校の先生からはこういうことを聞いた。「校内では携帯電源オフ」という校則に違反したので、その生徒の携帯を没収したところ、親が取りに来ないので預かっていた。すると1カ月後に親が現れて、先生にこう告げたそうだ。
「この1カ月分の携帯料金は(携帯が学校にあったのだから)学校で負担してください」
世の中にはいろいろな考えの人がいる。先生方も、何をどう説明すべきか、頭を悩ませることだろう。
■筆者の度肝を抜いたモンペ「ワースト5」
ふたつめのモンペは「わが子可愛や、愛は盲目属」だ。
わが子を大事に思いすぎて、周りが全く目に入らないタイプである。
筆者の度肝を抜いた「ワースト5」は以下のものだ。
2 合唱祭の指揮者の人選が(わが子でないのは)おかしい。選考基準の開示を求める。
3 大学の単位が取れていないのは担任である教授のせい。教授が責任持って、未履修の単位を取らせるべく(わが子に)働きかけてほしい。
4 数学がわからないのは先生の教え方が悪いので、あの先生を辞めさせてほしい。
5 卒業アルバムにわが子の写真が少ないのは不公平。よって回収し、新たに作り直すべきだ。
これ以外にも、「行事の日程を変えろ」「荷物が重すぎる」「宿題を出せ」「出すな」といった要望があり、一部の学校では「言った者勝ち」という状態になっているそうだ。
しかも今は、直接、子どもと関わっている担任の先生を飛び越えて、いきなり校長や教育委員会、さらには文部科学省に直談判する保護者も増えているという。
もちろん、しかるべきときには、学校に「物申すこと」は必要だ。大多数の保護者は、学校に不満を抱いていたとしても、どんな事例から「物申すべきか」と判断に迷うこともあるだろう。
これは「人間関係」で判断するのがいいと思う。わが子に「人間関係」のもつれが予想される場合、現場の先生の手を借りなければ、整理できないからだ。その場合、学校に「物申す」のではなく、「相談」に行くことになる。
■教師に「モンペと思われない交渉術」のポイント5
学校から「モンペ」と思われれば、さまざまなデメリットがある。「モンペと思われない交渉術」のポイントを5つあげてみたい。
1 突然押しかけない
学校の先生は例外なく多忙である。必ずアポを取り、常識的な時間に行く。特に、いきなり「今日、行くので、待っていろ」という態度で勤務時間外の夜遅くに行ってはいけない。先生にも都合があり、自分がされて嫌なことは、先生も嫌なのだ、という想像力を働かせよう。
2 怒りを教師にぶつけない
親がやってしまいがちな行動は、怒りのあまりに、その気持ちをダイレクトにぶちまけてしまうことだ。これは百害あって一利なしである。怒りをぶつけられたほうは攻撃されたと錯覚するので、すぐ防御に回ってしまう。防御に回れば、手助けする気持ちの余裕がなくなる。そうなれば、冷静な話に持ち込み、「戦利品」を獲ることはほぼ不可能になる。
■親は「わが子かわいさ」でしばしば暴走しがち
3 自分の子どもだけが“被害者”であるという思考をいったん捨てる
大抵の親はわが子の話をうのみにしてしまう。わが子の話だけが真実だと思い込むのだ。筆者から言わせれば、子どもは100%、自分に都合の良い事しか言わないのである。それは、子どもは俯瞰で物事を見ることができないからだ。
特に一方的に被害者だと主張して、気に入らない相手の退学や出席停止を学校側に求めるという「無理」は止めたほうが賢明である。
まずは冷静になることだ。そのうえでニュートラルな立場から、この問題はどう映るのか、という点に絞って交渉したほうがいい。
4 時間泥棒にならない
大抵の先生は“聞く耳”を持っている。しかし、保護者の態度いかんで“聞く耳”を閉じてしまう。例えば、Aという出来事があり→Bという問題で悩んでいるので→Cという解決法を提示され、その日はいったんお開きになったとしよう。
「やれやれ、一件落着」と教師が腰を上げようとした瞬間に、再び、延々と「Aという出来事」から戻る「無限ループ親」が出現するのだ。間違いなく、先生の「うんざり指数」はマックスになる。現実には、カウンセラー役をつとめざるをえない先生は多いが、教師は親の無料カウンセラーではない
「先生は人生の貴重な時間を自分のために割いてくれているのだ」という態度で臨む親には、先生という人種はとてつもなく親切である。
5 物は言い方次第、伝え方次第ということを学ぼう
ある時、中学校でイジメが露呈した。その時、被害者の親は学校に怒り心頭で現れ、担任教師に開口一番、こう言った。
「そのイジメをしている非常識な家庭はどういう家庭だ? 住所と家族構成を教えろ」
このひとことが担任の態度を硬化させてしまった。先生はこう言った。
「個人情報保護法の観点から申し上げられません」
そして、先生は親身とは程遠い対応になってしまったという。やはり、大人としてあるべきモノの言い方と振る舞い方というものがあるのだ。
先生が何らかの加害者であるならば別だが、そうではない中立な立場ならば「絶大なる協力者」というポジションに就いてもらわなければならないのだ。そのためには敬意を欠かしてはいけない。
さらに言えば「完全勝利」を狙わないということを挙げておこう。相手ありきの交渉事に完全勝利はない。つまり、あらかじめ落としどころを決めておく「作戦」が必要なのだ。
親は「わが子かわいさ」でしばしば暴走しがちだ。「自分がいて、人もいる」という社会の当たり前を今一度、確認して、気持ちを落ち着かせよう。要点を絞って相談するなら、先生や周囲の人たちは、必ずあなたの協力者になるはずだ。
(エッセイスト、教育・子育てアドバイザー、受験カウンセラー、介護アドバイザー 鳥居 りんこ 写真=iStock.com)
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