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20歳まで子供は"うつ"を言葉にできない

プレジデントオンライン / 2018年10月7日 11時15分

写真=iStock.com/sdominick

マンガ家の田中圭一氏が自身をはじめ各界著名人のうつ病体験を記した『うつヌケ』が15万部超のベストセラーを記録した。いまや国民病といわれるうつ病に、どう向き合えばいいか。精神医療の第一人者が、ストレスの多い現役世代にアドバイスを送る。

■生真面目で責任感の強い人は注意

実は「うつ病とは○○である」というはっきりした答えはありません。いまだに病気の本体や原因はよくわかっていないのです。1つの「病」だというより、実際はうつという心の痛みのために起こる辛い状態の総称、と考えたほうがわかりやすいでしょう。

ただ、最近の脳科学の発達によってうつ状態のときは脳内神経伝達物質と呼ばれるセロトニンやノルアドレナリンが減少しているのではないかと考えられるようになっています。しかし、単に神経伝達物質の異常だけではなく、神経のネットワークに変化が起こっている可能性も指摘されています。

発症のきっかけは、両親など大切な人を失う喪失体験、転勤や昇進など環境の変化、職場の人間関係、病気や体調の悪化です。

ただ、こうした強いストレスにぶつかったときの気分の上下は、皆さん普段から経験していますね。

うつはある意味で、イヤなことに出合ったとき、いったん退却して精神的な態勢を立て直すための適応的な反応ともいえます。

■男性はアルコール依存症になりやすい

適応的な反応でも、それが行きすぎるととても辛くなります。生活にも支障が出てきます。そうしたときには医学的な治療が役に立つという意味で、病気と呼んでいます。

一般に、生真面目で責任感が強い人はうつ病になりやすいといわれます。しかし、うつ病は誰でもかかるもので、その人にとって苦手な状況におかれたときに発症すると考えたほうがいいでしょう。

人間関係を大切にする人は、仕事の成績よりも職場の人間関係の挫折が重くのしかかりますし、パフォーマンス重視の人は業績が落ちると気分も落ち込みます。たまたま「当たりどころが悪かった」だけで、誰でもうつ病になる可能性があるのです。

また、女性は男性の倍以上、うつ病になりやすいことがわかっています。業績をあげてもなかなか評価されない「ガラスの天井」に象徴される社会的な要因や、月経や妊娠・出産などによるホルモンの変化があることに加え、女性は「思考」を通じてストレスに対処しやすく、ストレスが心の中にたまりやすいという傾向があります。

一方、女性に比べて「行動」でストレスに対処することの多い男性は、そのためにアルコール依存症になりやすいことが知られています。

ただし近年では、女性の社会進出が進むにつれて、こうした男女差は小さくなってきているという国際的な研究結果も報告されています。

誰でもなる「うつ状態」は病気?
1:やる気が出ないときどうするか

日常的な軽い落ち込みから、うつ病と診断されるまでの症状は、地続きで変化しています。ですから「ここからがうつ病」と明確に一線を引くことはできません。たとえば、両親や親友と死別したときに、数カ月間落ち込むことは病気なのでしょうか?

これまで「死別反応」については、眠れない、食べたくない、などうつ病の症状を示していたとしても、少なくとも「後を追いたい」など不穏な言動がない限り、当たり前のこととして周囲がそっと見守ってきました。

精神科医のバイブルともいわれる米国の「精神障害の診断と統計マニュアル(DSM)」でも、これまで死別にともなう「うつ」については、例外的に病気と診断してはいけない、という除外基準がありました。ところが、2013年に改訂された最新版DSM-5では、死別反応を「うつ病」の範疇に入れ、2週間経っても改善の様子が見られないときは、うつ病と診断できるとし、医療の介入を認めたのです。これに関しては、世界中の精神科医から非難の声が相次いで、病気かどうかは最終的に精神科医が判断する必要があるという但し書きがつきました。

もっとも、病気と診断されようがされまいが、身近な人と死別したときの人間の反応に変わりはありません。ひどく辛くて生活に支障が生じるようだと医学的な治療が役に立ちます。その一方で、回復のためには、時間とともに病的な気分や行動を少しずつ克服していく自分の力も大切です。

■「重さと時間と経過」を見ること

死別のような大きな体験でなくても、私たちは失恋や転勤、昇進などの小さな喪失を日常的に経験しています。うつ病の患者さんでなくても、気分が沈み込むことは日常的にあります。こうした軽い落ち込み、つまり「うつ状態」を、安易に「うつ病」と診断するべきではありません。

一般的には、気分の落ち込みなど典型的な症状が2~3週間続いたら「うつ病」を疑います。ただし、この2週間というのも根拠があってないようなもので、私がよくお話ししているのは「重さと時間と経過」を見ること。

たとえば、仕事上のミスで落ち込むことは誰でも経験しますね。それでも、数日経てばまた頑張ろうと思えてきます。しかし、徐々に抑うつ気分や眠れないなどの症状が悪化し、あるいは全く立ち直る気配がない場合は、医療機関を受診したほうがいいでしょう。

熱があっても、少しずつ下がっているなら様子見ですが、そこからさらに上がるようなら、病院の診療や薬が必要になる――「うつ病未満」と「うつ病」を見分けるのも同じことなのです。

「重さと時間と経過」に注意し、とにかく辛くて何もする気が起きない、仕事や家事、睡眠や食事といった基本的なことに支障が出ているなど、明らかに生活に悪い影響が生じている場合は、医療の手を借りたほうがいいでしょう。

ここまできたら病院の手助けも
2:「うつ病」かもしれないと思ったら

うつ病には、次にあげる9つの典型的な症状があります。

(1)抑うつ気分。憂うつで何の希望もないという気持ちです。いまにも泣き出しそうな表情や、やつれた雰囲気からまわりの人が気づくこともあります。
(2)興味や喜びの喪失。いままで楽しんできた趣味や活動に興味を持てず、性的な関心や欲求も減退します。
(3)食欲の減退、または増加。食欲が低下し、体重が減ることも珍しくはありません。逆に甘い物や、特定の食べ物ばかりを欲しがるケースもあります。
(4)睡眠障害。不眠または過眠のことです。不眠はうつ病の典型的な症状。
食欲と睡眠という人間にとって大切な欲求の障害が2週間以上続くようなら、専門医を受診したほうがいいでしょう。
(5)精神運動の障害。はっきりわかるほど、身体の動きが遅くなり、口数が少なくなります。逆に焦燥感が募って、落ち着きなく動きまわる人もいます。表面的には元気そうに見えるので注意が必要です。
(6)疲れやすさ、気力の減退。
(7)強い罪責感。何の根拠もなく自分を責めたり、過去の出来事を思い出してくよくよ悩むようになります。
(8)思考力や集中力の低下。
(9)死への思い。うつ病が重くなると、気持ちが沈み、辛くて辛くて「死んだほうがまし」という考えが頭から離れなくなります。自責の念から「自分なんかいないほうがいい」と突然、死にたいという衝動に襲われることも。

初期の段階でまわりが気づきやすい症状は、ぼんやりして笑顔が減った、食欲が明らかに落ちている、などでしょう。ビジネスパーソンが朝なんとなく朝刊を読めなくなる「朝刊症候群」や、夜中に目が覚めて、寝床の中で悶々と思い悩む「午前3時症候群」も手がかりになります。

先にあげた(1)か(2)のどちらかを含めて、5つ以上の症状が2週間以上続くようなら専門医を受診しましょう。

明らかに辛そうなのに、本人が「これくらいのことは何でもない」と頑張りすぎていることもあります。そんなときは家族が「重さと時間と経過」を観察して、リングサイドからタオルを投げ入れることも必要です。

▼自分では気づけない! うつ病のはじまり
日常行動:口数が少なくなる/イライラしている
人間関係:付き合いが悪くなる/気弱になる
仕事:仕事が遅くなる/集中力が低下する/ミスが増加する/遅刻・欠勤が増える
身体症状:睡眠障害/食欲低下/全身倦怠感/肩こり
出典:大野 裕『最新版「うつ」を治す』
これをやったら悪化する
3:やっていいこと、悪いこと

心と体を休めるように、という心身からの警告がうつ病です。ですから治療中は「ラク」が一番。働いている人は、上司に相談して仕事を調整するようにしてください。家事や育児も家族の手や業者のサービスを頼んで負担を減らすようにしましょう。

少し疲れが取れてきたら、興味があることや、以前好きだった活動を再開してみてください。やりがいを感じたり、気持ちがラクになる行動を少しずつ増やしていくことは「自分にもできることがあるんだ」という発想の転換につながります。いつものように仕事や家事ができていないのに楽しむようなことをするなんてと罪悪感を抱くかもしれませんが、うつ病の場合は楽しい時間そのものが治療です。

体を動かすことも気分をラクにします。体を動かすと気分が変わるというエビデンス(科学的根拠)もあります。散歩など、簡単なことから始めてみてはどうでしょうか。ただし、歩きながらあれこれ心配事を反芻してしまうと、少しも気持ちがラクになりません。散歩中は風を感じたり、道端の草花に目をやったりするなど、散歩という「いまの行動」に集中しましょう。

■眠れないときは「いずれ眠れるさ」と開き直る

もう1つ大切なのは、生活のリズムを整えること。朝は決まった時間に起きるようにしてください。布団で悶々としていないで、思い切って起き上がって太陽の光を浴びるようにします。どうしても起き上がれないときには、カーテンを開けて部屋を明るくするだけでも違います。

夜は眠くなってから、布団に入りましょう。布団に入ったら寝る、という条件反射をつくるためです。15分以上眠れないときは、そのまま輾転反側せずに、いったん布団から出てゆっくりと時間を過ごします。再び眠くなってきてから、また布団に戻りましょう。それでも眠れないときは「いずれ眠れるさ」と開き直ることも大切です。

また、「書く」という作業は自分を客観的に見ることにつながるので、日記をつけることもお勧めです。日記があれば「数週間前は起き上がれなかったのに、いまは散歩に行けている」など、後から第三者的な目で確認できます。気分の波があることを客観的に理解できると、うつの揺り戻しがきても、むやみに焦らず、徐々に自分を取り戻していく力になります。頭の中だけで悪く考えすぎていないかどうか、もう1人の自分がチェックするのも役に立ちます。ただ、毎日何か書かないといけないと自分を縛りすぎると辛くなるので注意してください。

一方、やってはいけないことの筆頭は飲酒。特に気晴らしや睡眠薬がわりに飲むのはよくありません。アルコールはむしろ眠りを浅くしたり、気持ちを沈み込ませる作用があるので、かえって眠れなくなってしまいます。依存症のリスクがあるほか、うつ病の再発リスクも高まります。

このほか、テレビや本で暗い話を見ると、自分の責任のように思ったり、自分と重ね合わせて辛くなったりすることがあるので注意してください。

▼これがうつ病の「9大症状」だ!
(1)抑うつ気分
(2)興味や喜びの喪失
(3)食欲の減退または増加
(4)睡眠障害不眠または睡眠過多
(5)精神運動の障害口数が少なくなる、声が小さくなる、あるいは焦燥感が高まる
(6)疲れやすさ、気力の減退
(7)強い罪責感根拠なく自分を責める、過去のささいな出来事を悩む
(8)思考力や集中力の低下
(9)死への思い
出典:大野 裕『最新版「うつ」を治す』
周囲が気をつけなければいけないこと
4:励ましてもいいのですか?

身近な人がうつ病になったら、どう接すればいいのでしょうか。よく「頑張って」は禁句だといいますね。確かにうつ病の患者さんに対しては、あまり励まさないことが原則です。

こんなはずではないと一番焦っているのは患者さんです。こうしたときに励まされると、抜けだそうともがいている自分を頭から否定されたように感じてしまいます。肯定も否定もせず、淡々と話に耳を傾けるだけで、患者さんの気持ちはだいぶラクになります。

一方で「心配しているよ」という気持ちを率直に伝えたほうがいい場合もあります。家族だからこそ、言葉によるコミュニケーションに意味があるのです。そのときは「眠れていないようだけど」など具体的に何を心配しているかを伝え、できるだけ穏やかな言葉づかいで話すように心がけてください。同時に何が問題かを一緒に考えて解決方法を探そう、と伝えましょう。

■時には患者さんから離れて1人の時間をつくる

もう1つ、たとえば配偶者がうつ病と診断されたときには、自分も妻や夫という役割の前に1人の人間だ、という点を心にとめておいてください。「妻(夫)としてこうするべきだ」と思い込んでしまうと、お互いに辛くなります。むしろ「自分はここまでしかできない」と一線を引き、周囲に助けを求めながら、時には患者さんから離れて1人の時間をつくるようにしましょう。

うつ病の治療には長い時間がかかることがあります。ですから、配偶者や家族も患者さんに振り回されず、自分の生活を守ることを含めて、自分ができることを客観的に見ることのできる距離感を保つことが大切です。

適度な距離感は、患者さん自身のためにもなります。心配のあまり、干渉しすぎると「自分はダメ人間だ」「負担をかけて申し訳ない」と自責の念を募らせかねません。うまくいかないことがあれば、患者さんのペースに合わせて話を聞き、そのつど、対応を考えるといいようです。

■子供は「抑うつ状態」をうまく言語化できない

近年は子供のうつも増えています。

子供は「抑うつ状態」という抽象的な気持ちをうまく言語化できません。うつや絶望感といった複雑な感情を言葉で表現できるようになるのは、だいたい20歳前後といわれています。

したがって子供のうつ病に気づくには、大人以上に行動に目を向ける必要があります。遅刻が多い、成績が落ちた、学校に行く時間になってお腹や頭が痛くなる、などが頻繁に見られるようなら気をつけて見守ることが大切。

さらに注意したいのは、中高校生の非行です。言葉にできない抑うつ的な気分を問題行動という形で表現していることがあるからです。

ところが、周囲の大人は背景に目を向けず、表に現れた問題行動だけを責めてしまいます。そうするとますます「理解してもらえない」という絶望感にとらわれ、最悪の事態が起こる可能性もあるので注意が必要です。

子供のうつ病は、児童精神科や児童・思春期外来など専門医を受診したほうがいいでしょう。

▼ここに気をつけよう! うつ病「べからず」集
●本人
・飲酒しない:依存症の危険、再発の誘因
●周囲
・心配しすぎない:患者が「周囲に負担をかけている」と感じてしまう
・励ましすぎない:患者の焦りを誘ってしまう
・原因を追求しすぎない:結局は患者を責めることになる
・心配を伝えるなら解決策とセットで:穏やかに言う、具体的な手助けを提示する
出典:大野 裕『最新版「うつ」を治す』
「指導」するだけでは防げない
5:「部下が自殺!」となる前に

あなたの職場でも、うつ病の人が増えているのではないでしょうか。部下がうつ病の兆候を示したら、すぐに適切な対応をとらなくてはいけません。

参考になるのは、大手広告代理店の電通で1991年に起きた入社2年目の男性社員の自殺事件です。00年3月の最高裁判決で「過労による自殺」と認定されました。

判決では、仕事の負荷が原因でうつ状態が悪化していることを上司が「認識」していながら、負担を軽減するために仕事の量を調整するなどの適切な措置をとらなかった点を指摘し、電通と上司側の安全配慮義務違反を全面的に認めています。

上司は男性の変調に気づきながら、仕事の量を減らしたり他の社員に振ったりするなどの対策をとらなかったのです。

裁量権がある中堅社員ならまだしも、若い社員は「仕事に穴をあけ、迷惑をかける」ことへのおそれが先立ちます。具体的な改善策が提示されない限り、逆に追い詰められてしまいます。管理職は、この問題に真剣に取り組まなくてはいけません。

ケアする際は「WHY(なぜ)?」で始まる質問で原因や理由を追求しないこと。というのも、「なぜこんな問題が起きたんだ?」という問いには、暗に相手を責めるニュアンスが含まれているからです。

そうではなく、「HOW(どのように)」で始まる質問を投げかけ、どのようなプロセスで問題が起こったのかを客観的に振り返り、どのように解決していくかを一緒に考えていけるといいでしょう。

上司だけではなく同僚も、何か様子がおかしいと気づいた時点で、一緒に具体的な解決策を探そうと、本人に声をかけることが大切です。

このとき「最近、調子が悪いんじゃない?」という抽象的な問いかけをするのではなく、

「仕事がたまっているけど、無理をしていない?」
「顔色が悪いけど、眠れているの?」

などと、具体的な根拠を示しながら心配していることを伝え、場合によっては受診を促しましょう。

うつ病は誰でも発症する可能性がある一方で、対応を誤ると致死的な経過をたどる怖さがあります。しかも、一般的な理解とは異なり、「明らかな自殺の兆候」というものはありません。

うつ病のときは衝動や不安を抑える力が弱くなっているので、突発的に自殺を選んでしまうリスクが高いのです。こうした事態を防ぐためにも、日頃から一人ひとりの業務量や立ち居振る舞いに気を配りましょう。

トヨタ自動車の有名な「カイゼン」の原点は「変だと思ったら、ラインを止める」という意識でした。私は職場のうつ病対策も同じことだと思います。些細な問題で生産ラインを止めることを恐れず、危機を未然に防止するチャンスとしてください。

▼電通事件(1991年)の教訓
×:帰宅してきちんと睡眠を取り、それで業務が終わらないのであれば翌朝早く出勤して行うように
○:仕事を分担する社員の確保など具体的な案まで提示する!

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大野 裕(おおの・ゆたか)
認知行動療法研修開発センター理事長
1950年生まれ。慶應大医学部卒。同大教授、国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター長を経て現職。『最新版「うつ」を治す』ほか著書多数。
 

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(認知行動療法研修開発センター理事長 大野 裕 構成=医療ジャーナリスト・井手ゆきえ 撮影=大杉和広 写真=iStock.com)

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