安倍3選で"小泉大臣"がウワサされるワケ
プレジデントオンライン / 2018年8月6日 15時15分
■信賞必罰の首相方針に「猟官運動」がインフレ化
安倍氏は今回の総裁選を非常に重視している。権力闘争の厳しさを誰より知っているため、少しでも力を緩めると足をすくわれると思っているからだ。そのあたりは既報の「"だったら密談でやる"安倍首相の開き直り」で詳しく紹介しているので参照いただきたい。
その厳しさは、総裁選後の人事にも表れる。信賞必罰。応援してくれた人物には厚遇し、応援しなかった人物は干す。その大方針は揺るがない。
7月26日付の読売新聞によると、安倍氏は6月18日夜、東京・赤坂の日本料理屋で岸田文雄氏と会った際「(総裁選に)出たら、処遇はできないよ。私を応援してくれる他の派閥に示しがつかない」と、恫喝に近い形で不出馬を迫った。この通告が決め手となって岸田氏は7月24日、「不出馬、安倍氏支援」を表明している。
安倍氏は、知人を厚遇して「お友達内閣」などと批判されるが、厳密にいうと親しい議員を重用するのではない。自分のために働いた議員を登用するのだ。
今、総裁選で安倍氏を推すことが決まっているのは安倍氏の出身派閥・細田派と二階派、麻生派の「主流3派」と、安倍氏支援を打ちだした岸田派の4派所属議員が、人事を心待ちにすることになる。もはや安倍氏を支持しただけではなく、「より早く、より深く」安倍氏を支援しなければ重要ポストは得られないということで、猟官運動のインフレが進んでいる。
一方、玉砕覚悟で安倍氏に挑む石破茂元幹事長率いる石破派のメンバーたちは、当分冷や飯を食う覚悟を決めている。
■79歳の二階幹事長は「最近、会話が通じにくい」
具体的な人事予測を紹介していこう。焦点は党運営の要役・幹事長人事。二階俊博幹事長はいち早く安倍氏3選支持を訴えた。3選を果たせばMVP級の論功だ。
ただ二階氏も79歳。「最近、会話が通じにくい」「会議で居眠りしている」などのささやきも漏れる。幹事長の激務に耐え続けられるかどうか。来年、統一地方選、参院選も控えている。仕事はさほど忙しくないが名誉は残す形で副総裁に横滑りするのではないか。
副総裁は「お飾り」の印象があるが、実力者がつけば権勢をふるうことができる。二階氏の師匠でもある金丸信氏は77歳で副総裁に就任、「ドン」であり続けた。副総裁を打診されれば二階氏も受けるだろう。
後任幹事長は誰か。岸田氏は「出たら処遇できない」と言われて総裁選出馬をやめたのだから、当然自分が幹事長候補と期待しているのだろう。しかし、そう簡単にはいかない。永田町では竹下亘総務会長の就任説が根強い。額賀派から衣替えした竹下派は幹事長へのこだわりが強い。田中派の流れをくむこの派閥は、幹事長を独占して「キングメーカー」であり続けた。幹事長ポストを取ることが名門派閥復活の一里塚となる。
もし亘氏が幹事長になれば、兄で元首相の登氏に続き、兄弟で幹事長ということになる。党史上初の「快挙」だ。ただ、ここへきて竹下派が石破氏支援に傾いてきている。その場合は「竹下亘幹事長」は難しくなるだろう。
■「謹慎」が解けて、甘利氏、小渕氏が復権か
政調会長には意外な人物・甘利明氏が本命として浮かぶ。安倍氏の盟友の1人ではあるが16年1月、政治とカネの問題で経済財政担当相を辞任。以来、「謹慎」を続けてきた。昨年の衆院選も経て「みそぎ」も済んだということだろう。いきなり入閣すると国会で追及されるので、取りあえず党首脳として復権を目指すシナリオだ。
「みそぎ」といえば14年10月、同じく政治とカネの問題で経済産業相を辞任した小渕優子氏も、今回の人事で復権を目指す。
■麻生財務相の続投はなさそう
内閣の方に目を向けてみよう。麻生太郎氏は副総理、菅義偉氏は官房長官にとどまるだろう。ただし麻生氏は兼務していた財務相からは離れるのではないか。
麻生氏は「森友」問題での文書改ざん、財務次官のセクハラ問題など省内で不祥事が相次いだにも関わらず辞任せず、批判を一身に受けた。麻生氏も77歳になった。世界を飛び回るのは、つらい。
後継の財務相候補は誰か。ここでも岸田氏の名が上がる。外相、党政調会長を経験した岸田氏は財務相になれば、経歴だけみれば「首相への準備完了」となる。しかし岸田氏は今、このポストにはつきたくないはずだ。不祥事続きで批判にさらされる財務省を立て直すのが容易ではないことは言うまでもない。それに加え、次の財務相は消費税を巡り難しい対応を迫られる。消費税は来年10月に8%から10%に上がることになっている。
■「次の財務相」は消費増税の戦犯にされる
ただし、その最終判断をするのは安倍氏だ。予定通り上げる方向で準備をしておいて、来年の参院選を前に上げるのを凍結する、と宣言する可能性は今も残る。
その際、国民や財務省内の混乱を回避する極めて難しい仕事は財務相にのしかかる。予定通り10%になれば「消費税を上げた財務相」として批判にさらされ、凍結されれば後始末に追われる。どちらに転んでも損な役回りとなる。
石破氏はもちろん、総裁選出馬に意欲を見せ続ける野田聖子総務相も、党や内閣の枢要ポストからは外される。ただし安倍氏は、挙党態勢という形だけは取り繕おうとするだろうから、自分以外を推した議員の中から、何人かは閣僚ポストにつけるだろう。石破氏、野田氏を推す議員たちは、この「枠」にいちるの望みをかけることになる。
■中立を貫けば、「小泉大臣」が誕生か
注目の小泉進次郎・党筆頭副幹事長について触れておこう。彼が石破氏支持を明言して選挙戦に臨めば、安倍氏圧勝の空気を一変させる可能性があることは既報の「安倍総裁3選を阻止するただひとつの方法」で触れた通り。当然、安倍氏も小泉氏の動静には神経をとがらせている。もし小泉氏が安倍氏を支援しないまでも中立を貫けば、論功として閣僚に抜てきすることも十分ある。
とはいえ、小泉氏は父・純一郎氏のDNAを引き継ぐ頑固者だ。「閣僚ポストで一本釣りされる」というような情報が流れることは不本意に違いない。逆に石破氏支援を鮮明にするきっかけになるかもしれない。
「3選」前提の浮ついた人事情報が、安倍氏楽勝という総裁選の構図を崩すという皮肉な展開になることが、あり得ることは指摘しておきたい。
(プレジデントオンライン編集部 写真=時事通信フォト)
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