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「猛暑が続くほど経済にプラス」は本当か

プレジデントオンライン / 2018年8月15日 9時15分

「災害級」の猛暑が続いている。個人にとっては耐えられない暑さだが、日本経済にとってはホクホクのプラス材料になるという説がある。第一生命経済研究所の永濱首席エコノミストによれば、この猛暑には短期的に実質GDPを3000億円以上も押し上げる効果があるという。ただし、「猛暑特需」のあとには「反動減」もある。トータルではどうなるのか。永濱氏の分析を紹介しよう――。

■「ダンボールの販売数量」も大幅増加するワケ

今夏は「災害級」の猛暑が続いている。本稿では、猛暑が日本経済に与える影響を考察したい。結論としては、猛暑は暑さを凌ぐためにお金を使わざるを得ないため、短期的にはプラスだが、食料品の値上げやその後の反動減などのマイナスがあるため、トータルとしては大きな影響はなさそうだ。今回は、猛暑特需と反動減のメカニズムについて解説したい。

過去を振り返ると、2010年が観測史上最も暑い夏と呼ばれている。当時の気象庁の発表によると、6~8月の全国の平均気温は平年より1.64℃高くなり、1898年の統計開始以来、最高の暑さとなった。この猛暑効果で、2010年6月、7月のビール系飲料の課税数量は前年比2カ月連続プラスとなった。同様に、コンビニ売上高も麺類や飲料など夏の主力商品が好調に推移したことから、既存店前年比で7月以降2カ月連続プラスとなった。

また小売業界全体を見ても、7月の既存店売上高伸び率は猛暑の影響で季節商材の動きが活発化し、百貨店、スーパーとも盛夏商材が伸長したことで回復が進んだ。家電量販店の販売動向もエアコンが牽引し、全体として好調に推移した。

2010年は小売業界以外にも、猛暑の影響が及んだ。外食産業市場の全店売上高は7月以降の前年比で2カ月連続のプラスとなり、飲料向けを中心にダンボールの販売数量も大幅に増加した。また、ドリンク剤やスキンケアの売上好調により、製薬関連でも猛暑が追い風となった。

さらに、乳製品やアイスクリームが好調に推移した乳業関連も、円高進行による輸入原材料の調達コストの減少とも相まって好調に推移した。化粧品関連でも、ボディペーパーなど好調な季節商材が目立った。一方、ガス関連は猛暑で需要が減り、医療用医薬品はお年寄りの通院が遠のいたことなどにより、猛暑がマイナスに作用したようだ。

■冷菓や日傘・虫よけも、猛暑の年には好調

以上を勘案すると、今年の猛暑も幅広い業界に影響が及ぶ可能性がある。事実、過去の実績によれば、猛暑で業績が左右される代表的な業界としてはエアコン関連や飲料関連、目薬や日焼け止め関連のほか、旅行や水不足関連がある(図表1)。そのほか、冷菓関連や日傘・虫よけ関連といった業界も、猛暑の年には業績が好調になることが多い。

飲料の販売比率の高いコンビニや猛暑による消費拡大効果で、広告代理店の受注も増加しやすい。缶・ペットボトルやそれらに貼るラベルを製造するメーカー、原材料となるアルミニウム圧延メーカー、それを包装するダンボールメーカーなどへの影響も目立つ。

さらには、ファミリーレストランなどの外食、消費拡大効果で荷動きが活発になる運輸、猛暑で外出しにくくなることにより販売が増える宅配関連なども、猛暑で業績が上がったことがある。

一方、食料品関連やガス関連、テーマパーク関連、衣類関連などの業績には、過去に猛暑がマイナスに作用した経験が観測される。

■猛暑は家計消費全体にとっては押し上げ要因

そこで、過去の気象の変化が家計消費全体にどのような影響を及ぼしたのかを見てみよう。内閣府『国民経済計算』を用いて、7~9月期の実質家計消費の前年比と全国平均の気温や日照時間との前年差の関係を見た(図表2)。すると、両者の関係は驚くほど連動性があり、7~9月期は気温上昇や日照時間が増加したときに、実質家計消費が増加するケースが多いことがわかる。

従って、単純に7~9月期の家計消費と気温や日照時間の関係だけを見れば、猛暑は家計消費全体にとっては押し上げ要因として作用することが示唆される。

■過去最高の「猛暑効果」が出現する可能性がある

ただし、家計消費は所得や過去の消費などの要因にも大きく左右される。そこで、国民経済計算のデータを用いて、気象要因も含んだ7~9月期の家計消費関数を推計してみた。すると、過去20年のデータに基づけば、7~9月期の日照時間が全国平均で10%増加すると、同時期の家計消費支出が0.51%程度押し上げられる関係がある。これを気温に換算すれば、7~9月期の平均気温が全国平均で摂氏1度上昇すると、同時期の日照時間が10.5%増加する関係があることから、家計消費支出を約3186億円(+0.54%)程度押し上げることになる。

この関係を用いて今年7~9月期の全国平均気温が2010年と同程度となった場合の影響を試算すると、日照時間が平年比で17.1%増加することにより、今年7~9月期の家計消費は、平年に比べて5196億円(+0.9%)程度押し上げられることになる。

また、家計消費が増加すると、同時に輸入の増加ももたらす。このため、こうした影響も考慮し、最終的に猛暑が実質GDPに及ぼす影響を試算すれば、2010年並みとなった場合は、3168億円(+0.24%)ほど実質GDPを押し上げることになる。

つまり、今年は記録的に最も暑かった2010年を超えると予想されていることからすると、これを上回る過去最高の猛暑効果が出現する可能性がある。

■猛暑特需後の「マイナス成長」というジンクス

しかし、猛暑効果だけを見ても経済全体の正確なトレンドはわからない。猛暑の年は、夏が過ぎた後の10~12 月期に反動が予想されるからだ。過去の例では、記録的猛暑となった1994年、2010年とも7~9月期は大幅プラス成長を記録した後、翌10~12月期は個人消費主導でマイナス成長に転じているという事実がある(図表3)。

つまり、猛暑特需は一時的に個人消費を実力以上に押し上げるが、むしろその後の反動減を大きくする姿がうかがえる。猛暑で売上を伸ばす財・サービスは、暑さをしのぐためにやむなく出費するものが多い。また、猛暑で野菜や果物の生育等への影響が避けられないことや、家畜も夏バテすることから牛乳や卵の供給減も予想される。さらに、海水温の上昇により漁獲量の減少も想定されることから、食料品の値上げも避けられないだろう。

従って、今年も猛暑効果で夏に過剰な出費がなされれば、秋口以降は家計が節約モードに入ることが予想される。特に特需が大きければ大きいほどその反動は大きいため、今年の秋は過去最大級の反動が起きる可能性が高いといえよう。

なお、夏場の日照時間は翌春の花粉の飛散量を通じても経済に影響を及ぼす。前年夏の日照時間が増加して花粉の飛散量が増えれば、花粉症患者を中心に外出がしにくくなることから、今年の猛暑は逆に来春の個人消費を押し下げる可能性があることについても補足しておきたい。

■「異常気象」が消費税増税の先送りの理由に?

以上より、災害とさえ評価される今回の酷暑は、秋口以降の日本経済に思わぬダメージを及ぼす可能性も否定できないだろう。なお、今回の猛暑に関しては、例年より梅雨明けが早い異例の状況だが、一方で西日本を中心にかつてない豪雨災害も発生している。これらを「異常気象」という枠で捕らえると、さらなる経済へのマイナス効果も想定され、最終的には猛暑のみのケースと比べ異なる影響となる可能性がある。

異常気象の影響に関しては、猛暑の反動減もあり、秋口以降にかけて悪影響が目立つと見られている。しかし、その時期は奇しくも消費税率引き上げの最終判断と重なる可能性がある。今回の酷暑は災害との評価もある。従って、西日本豪雨や大阪北部地震の影響もあわせて、この夏の天変地異ともいえる異常気象は消費税率引き上げを先送りする理由になる可能性があろう。

災害で生産が低迷しているところに、景気にマイナス影響を及ぼす消費増税を行うのは適切ではないという判断がなされてもおかしくないからだ。消費増税の行方を見る上でも、今後も気象の動向から目が離せない。

(第一生命経済研究所経済調査部 首席エコノミスト 永濱 利廣)

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