"終活美容"で有終の美を飾りたい女性心理
プレジデントオンライン / 2018年8月23日 9時15分
■驚異の美肌の50代女子が密かに通うエステ
いくぶん暑さは弱まったが、夏の日差しと紫外線の対策で女子たちは日々、苦悩している。それは若い人だけではない。アラフィフ、アラカンも同じだ。顔や腕、手、脚にシミができるのは嫌だが、外出はしたい。テニスもゴルフも、できればビーチやプールにも繰り出したい。
そんな欲張り女子たちは、塗る、飲む、被る、覆う……とさまざまな対策を立てる。つまり、日常的に顔を中心に日焼け止めクリームを塗ることはもちろん、「日焼け止め」の効果が期待できるサプリメントを習慣的に飲み、つばの広いサンバイザーを被って自転車にまたがる。
女たちは、なぜそんなにも顔肌ケアにお金をつぎ込むようになったのか。
特に、人生で4回くらいお肌の曲がり角を曲がった筆者と同じ50代は、もう必死である。シミだらけはみっともない、という心情は痛いほどわかる。メイクしてもフォローしきれないことがあるからだ。しかし、懸命に何重にも顔肌対策をする理由は他にももっとあるのではないだろうか。
そんなことを考えながら、ファンデーションを厚塗りしてランチに出向くと、面食らった。久しぶりに会った同年代の友人は、なんと「素肌」で登場したのだった。ファンデーションを塗っていないのである。
■なぜ、スッピンの素肌がそんなに美しいのか?
ああ、そうだった。彼女はあるときから美しさが増していった。そして、今も肌にシミ・しわがほぼなく、少女のようにハリツヤがあるのだ。
「ねぇ、何かやっているの?」
この数年の間、筆者は会うたびに彼女にお肌ケアの方法を聞いてきた。だが、彼女はその質問を笑顔ではぐらかすか、スルーしてきた。でも、今年の夏はそんな対応は許さない。筆者のただならぬ気迫に押されたのか、彼女はついに白状した。ファンデーションをやめて、ある器具を使った美容サロンにせっせと通っているというのだ。それこそが、憎らしいくらいに素肌が美しい秘密だった。
筆者はそのサロンの名前を知っていた。別の知り合いもそこに通っていたからだ。その知り合いは私より年上で、かつてはファンデーションをきっちりと塗る派だったが、いつの間にか“変身”していた。
「ねぇ、そこへすぐに連れて行って」
■美しい素肌を求め東京・代官山の美容サロンへ
ランチ後、友人とともに東京・代官山にあるそのサロンへ直行した。高性能のイオン導入器を使って、無感覚に、毎日、肌の深部まで美容液を届けるというお手入れ法がこのサロンの特徴。すっかり鈍くなってしまった肌の新陳代謝を促し、沈着しているメラニンを動かし、肌全体をシミができにくい環境にするというのだ。サロンは全国各地にあり、30年の歴史がある。
長年、このサロンに通っていた事実を隠し通していた友人はどこか誇らしげに言う。
「これ(イオン導入器)は、高価なエステを毎日自宅でやっているようなもの。ちなみに、通常のお手入れでは、どんないい美容液を使っても顔のほんの表面、角質層までしか届いていないのよ」
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代官山のサロンオーナーの宮久安紀子さん(53歳)は、顔立ちがもともと美形な上に、50歳を過ぎているというのに生まれたての赤ちゃんのような素肌だ。なのに、粉もチークも何も塗っていないという。
うそでしょ。「触ってもいいですか」。初対面なのに、つい、言ってしまった。だって、同い年として驚かざるを得ないのだ。
ええ、どうぞと頬を向けてきた宮久さん。恐る恐る人さし指で少し触れると、ハッとした。恐ろしくみずみずしく、また弾力に満ちた頬だった。ふだんのケアで血色がよみがえるので、チークは不要だという。こんな肌に筆者もなれるのだろうか。
■サロンに通う人の多くがノーファンデの理由
聞けば、このサロンはこれまで肌に散々お金をかけていた人たちが最後にたどり着く聖地のような場所とのこと。来る人来る人、50代以上の方でもみなノーファンデだ。みな肌が艶々している。
サロンでは、正しいクレンジングとあわ洗顔の仕方を習い、器具を使ってひととおりお手入れもできる。お肌の知識もいろいろと教えてくれる。
宮久さんの話を筆者はメモした。
<50代は日ごとに老化していく/顔の毛穴は20万個/肌を引っ張るとコラーゲンが伸びてしまう/歳をとるとシワにファンデが入ってヨレる/杖頬をつく習慣があると、シミに繋がる/肌をこするとキメが磨耗する/キメの摩耗は乾燥の原因になる/シミ・シワなどすべての肌トラブルの始まりは乾燥からとも言われている……>
そして、このサロンに通うと、ほとんどの人がファンデーションを塗らなくなる謎を宮久さんは次のように解説した。
「ファンデーションを塗ると、肌本来のツヤが隠れてしまいます。多くの女性はファンデに加え、肌の透明感を出すために粉などはたき、加齢とともにシミを隠すためにコンシーラーを使ったり、下地を使ったり塗り重ねするようになります。しかし、それにより、かえって老けてみえる可能性があるのです。隠すために塗っているファンデが、逆にシワに入りこんでシワを強調してしまうことがある。ファンデで毛穴をふさぐと、トラブルの原因になる場合もある。パフ、チークのハケなどで肌を刺激することにより、シミができやすくなるリスクもある。目の下、ほほ骨のあたりにシミができやすい女性は、擦っていることが原因かもしれません」
だから、あれこれ塗りたくるのではなく「素肌」本来の美しさを呼び起こそうとしているのだ。
■数週間後「何かやっているでしょう?」と言われた
私の場合、数週間で「結果」が出始めた。久しぶりに会った友達に、いきなり「何かやっているでしょう。顔色のトーンが上がっている気がするけど」とうれしいツッコミが入った。そうなると習慣とはおそろしいもので、もう私の中にファンデを塗るという行為は消えてしまった。
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この“素肌教”に入信して1カ月半。ずっと気になっていた目の横のしみが薄くなり始めた。シミはごく小さいものだ。自分しか気づかないレベルのものだが、確実にある。そのシミが、確実に薄くなってきたことに、ひとりほくそ笑んだ。
以上の一連の話を周りの同世代の女子にすると、みんな耳がダンボ状態になる。そして、筆者が友人に言ったように、「そのサロンへ今すぐ連れて行ってほしい」と口をそろえる。
なぜ、人生後半に差し掛かった女子たちは、こんなにも素肌磨きに関心があるのか。そしてそこにお金をつぎ込むのに躊躇がないのだろうか。
はたと気づいたのだ。いまさら恋を始めようというわけでもないのに、なぜキレイでいたいのか。それは、「終活」としての美肌作りが始まっているのではないか、と。
■50代は「終活」としての美肌作りを始める年代
女性の寿命は86歳。この先もっと延びることが確実視されている。病気がなくなれば、120歳まで生きられるという説もある。途方もなく長い話だ。
だが、人生半ばも過ぎると、「後半」について考え始める。年金生活が始まる老後生活のさらにその先。自分はどう老け、死んでいくのだろうか、と思いを巡らす。
以前、本欄で「介護される日に備えて下半身脱毛をするマダムが増えている」という話を書いた(「中年女子の『下半身脱毛』介護される日に備えて」)。自分を介護してくれるスタッフが男性であれ、女性であれ、下のお世話を全面的に委ねることになった時、あまり面倒はかけたくない。短時間でささっと済むような状態にしておきたい。そう考えると、毛は邪魔だ。そんな内容だった。
自分で取材して書いておきながら、そのときはまだ、信じがたい部分があった。しかし、この話題が今は女性たちの間で持ちきりである。
親の介護をする人も多い50代。すると、いろいろと「現実」が見えてくる。もし、自分が介護される側になったら、下の世話はちゃんとしてもらえるだろうか、という不安からの脱毛と同様に、毎日やっている美容についてもふと心配になる。
自分が介護施設などに入居したら、いちいち自分でファンデーションなど塗ることはないだろう。また介護ヘルパーさんにきれいに塗ってもらえるなんてこともないだろう。介護施設や病院の住人になったら、当然スッピンだ。
そのとき自分は「キレイ」をたもてるだろうか。ならば、今からスッピンを磨こう。そんな発想が筆者を含むアラフィフ以上の女子の中で無意識に湧き上がってくるである。
■棺の中では、死に化粧より素肌で「勝負したい」
人生の最後、いよいよ棺に入るとき、人々にさらしているのは、首から上。顔だけだ。死に化粧もいいが、今から磨いておけば、素肌で勝負できるのではないか。「有終の美」を飾ることができるかもしれない。
“素肌教”の50代の仲間は筆者にこうつぶやいた。
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「介護されるとき、棺の中にいるときはもうすでに自分は無力。だからこそ今から、いつそうなってもいい準備をしたいのよね」
そういえば、明治生まれの祖母と暮らしていた頃、お風呂に一緒に入ったことが何度かあった。祖母は、長風呂だったが、必ず出る前に顔を水で洗っていた。寒い冬もだ。
私はなぜかと聞いたことがあった。すると祖母はすかさず私に言った。
「死に顔がキレイになるから」
人生が長くなった今、女性たちは、いつまでもキレイにしていなければならなくなってしまった。美に脅迫されて生きているともいえるが、美を追究したいのが女性のサガでもある。今後、「終活美容」がはやりそうである。
(女の欲望ラボ代表、女性生活アナリスト 山本 貴代 写真=iStock.com)
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