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儲け主義"シロート業者"が介護事業を潰す

プレジデントオンライン / 2018年9月22日 11時15分

写真=iStock.com/Rawpixel

■「介護付」と「住宅型」は、何が違うのか

老後、「ラク」に暮らすため、高齢者住宅に入るという選択肢もある。両親が実家を売り、その資産を元手に2人揃って介護付き有料老人ホームに入居。結果、介護のプレッシャーから解放され、親子で気持ちが楽になったというケースもあるようだ。

「終の棲家」として選択肢に含まれる有料老人ホーム。入居を検討する前に、高齢者住宅の中においてどんな位置付けなのか、まずは基礎知識を理解しておきたい。

高齢者住宅には、大きく分けて「施設群」と「住宅群」がある。施設群は病院のカテゴリーに近く、全国ほぼ一律のサービスで、価格も同じ。対して住宅群は民間企業による営利目的の事業だ。

その住宅群の中で、高齢者専用の住宅として制度化されているのが、「有料老人ホーム」と「サービス付高齢者向け住宅(サ高住)」。介護支援専門員の資格を持つ経営コンサルタントの濱田孝一氏は、「厚生労働省と国土交通省の縦割り行政の産物。ほとんど意味はありません」と説明する。

「近いうち制度は統合されるはずなので、高齢者住宅選びにおいて、その違いを理解する必要はない。それよりも大切なのは商品・サービスの中身です」(濱田氏)

■有料老人ホームは「介護付」「住宅型」の2つある

有料老人ホームは、介護サービスによって「介護付」「住宅型」の2つに分かれる。「介護付」は、24時間365日、交代制で介護・看護スタッフが常駐する。継続的な切れ目のない介護サービスの提供が可能となるが、通所介護や通所リハビリなどの外部のサービスは使えない。

一方の「住宅型」は、事業者と結ぶのは入居契約、つまり住宅サービスのみ。介護・看護サービスについては、入居者個人と外部事業者との個別契約になる。サ高住もほとんどこのタイプだ。デイサービス、訪問リハビリなどの外部サービスを自由に選択できるが、介護・看護スタッフが常駐しているわけではないため、日々の体調変化に合わせて臨機応変に対応することが難しい。なかには同じ建物内で訪問介護の事業を行い、不正な「囲い込み」をする悪徳業者もいる。

「『介護付』でも施設のスタッフ数によって、サービスの手厚さは違うし、『住宅型』でも別料金で介護スタッフが常駐するところもある。その他、食事、生活相談など、サービスの中身は、業者によって千差万別と言えます」(同)

高齢者専用の住宅として制度化されている、有料老人ホームとサ高住。サ高住のほうが参入しやすいため業者の登録が急増している。

■悪徳業者よりタチの悪い、素人業者が急増

今、高齢者住宅には倒産ラッシュが起きている。2016年の老人福祉・介護事業者の倒産件数は初めて100件を突破。また、廃業や登録取り消しの申請をしたサービス付き高齢者向け住宅は263件にものぼった。濱田氏は「事業計画の甘さ、介護スタッフ不足などの要因が重なり、倒産や廃業がさらに増えることは確実」と予測する。

2016年の負債総額は94億600万円。倒産は負債5000万円未満の小規模事業者が全体の約73%、設立5年以内の事業者が半数を占めた。

「倒産が多い理由は、素人業者が多いから。『儲かりそうだ』という軽い気持ちで、介護に関する知識も経験も経営ノウハウもなく、他業種から安易に参入してくる。認識が甘いうえに意識が低く、ある意味、悪徳業者よりタチが悪い。個人的な感覚として、事業者全体の半分弱を占めるのではないでしょうか」(同)

自分が入居した有料老人ホームが倒産した場合はどうなるのか。有料老人ホームは「敷金・保証金」「一定期間の家賃の前払い」を含んだ入居一時金を払うのが慣習になっており、それが返還されないことがある。

「入居一時金は500万円を上限に保全することが法律で義務付けられていますが、守っていない業者も存在し、返還されないトラブルも起きています。また、有料老人ホームは利用権契約といって、借地借家法の適用外になるため、事業者が倒産すれば、出ていかざるをえません」(同)

一時金も戻ってこないうえに退去を迫られるとは、泣きっ面に蜂だ。こうした悪質な事業者の倒産に巻き込まれないためには、入居時の見分け方が何より大事になる。

「見分けるコツとして、「『大丈夫です。お任せください』『すぐ入居できます。細かいことは入居後に』などの美辞麗句、曖昧な説明が多い事業者は要注意。プロの事業者ほど介護の難しさやリスクを知っているので、できないことは『できません』と説明します。転倒への対策や、月額費用以外に必要な金額など、具体的なリスク・トラブル・対策の説明ができる業者なら安心です」(同)

そのほかにも、介護スタッフの人員やサービス内容について記載されている重要事項説明を開示しているなど、情報開示体制ができていること。そしてどの事業者にも現場の要となる施設長や管理者がいるので、彼らと面談で話して信頼に足る人間かを判断することも役に立つ。

介護付き有料老人ホームに入所するタイミングは、いつがいいのか。

「介護が必要になる前に入居する考えもあるようですが、自立高齢者の高齢者住宅と、要介護者の高齢者住宅は基本的に違う商品。小学校と大学のように、設備設計もサービスの中身も異なります。介護が必要になってから、介護システムの整ったところに入るというのが基本」(同)

1度入れば、住み替えは難しい。ラクな余生を送るためにも、事業者の比較や情報収集を徹底しよう。

▼いい高齢者住宅と出合うためのポイント
【時間と心に余裕を持って探す】
・不安と焦りからあわてて決めると、後悔するケースが多い
・ショートステイなどを活用しながら、余裕を持って検討する
【できるだけ多くの高齢者住宅を比較する】
・たくさん見るほどサービスや価格の違いについて理解できる
・「一目で気に入った」とその場で入居を決めない
【疑問があったら納得するまで確認】
・何度も見学し疑問点や不安があったら必ず質問する
・詳しい説明をせず、「お任せください」で乗り切ろうとする業者は要注意
【なるべく家族の住居の近くを選ぶ】
・望ましいのは、仕事や買い物の帰りに立ち寄れる距離
・頻繁に顔を合わせることで「家族の役割は変わらない」と考える

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濱田孝一(はまだ・こういち)
1967年生まれ。立命館大学卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。介護職員、社会福祉法人マネジャーを経て、介護ビジネス、高齢者住宅を中心に各種コンサルティング、講演を行っている。『「老人ホーム大倒産時代」の備え方』『介護の仕事には未来がないと考えている人へ』など著書多数。

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(経営コンサルタント 濱田 孝一 写真=iStock.com)

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