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人生のスランプから救われる魔法の言葉

プレジデントオンライン / 2018年9月24日 11時15分

岐阜県立岐阜商業高校野球部監督 鍛治舎 巧氏

言葉がけひとつで仕事も人生もうまく回りだす! スポーツ、教育における第一人者が実践していることとは。
魔法の言葉:褒めるタイミングを逃すと、泥沼にはまり込む
鍛治舎 巧

スランプに陥った選手、伸び悩んでいる選手へのアドバイスの秘訣は、シンプルにすることです。袋小路に入り出口が見つからず困っているわけですから、複雑な話をしてもますます迷うだけ。出口を一点に絞ることが大事です。そして何より重要なことは、目標を実現できたと見たら、“間髪入れずに褒める”こと。「やったじゃないか! 今、できたな!!」と。これは本人に“できた”という手応えを確実に認識してもらう狙いが1つ、さらに「監督は自分のことを常に気にかけて見てくれているんだ」とわかってもらう狙いがあります。褒めるタイミングを逃すとどうなるか──。選手は、泥沼にはまり込んでしまう。

これは、上司と部下の関係でも同様です。昔であれば、部下が目標をクリアしたり、ちょっとした課題を克服しても、上司は心でニンマリしながらも素知らぬ顔をしていましたよね。「あいつもなかなかやるな」「よくできるようになったな」という想いを口には出さず、心にしまい込んでいた。でも、今の若者には、それでは伝わりません。

私はパナソニックの専務役員として国内・海外に数百人の部下がいました。少年野球を通して日本一を目指す中学生とも長く接してきました。直近では春夏の甲子園で優勝を目指す高校生の指導にあたっています。その経験から言えることは、マネジメントの“肝”は、中高生に対しても、ビジネスパーソンに対しても一緒だということです。

野球では、一定レベル以上のチームになると、エースだったピッチャーが2番手、3番手に落ちたり、4番バッターが打順の下位に落ち、やがて代打に回るといったことも珍しくありません。そこから立ち直るのは非常に難しい問題です。本人の頭の中に「自分はエースだ」「自分は4番だ」という思い込みがあるからです。それを払拭するには、ライバルを絶えず投入し、多少過大に褒めてでも、その存在を意識させ、本人に不動のエースや4番と思い込ませないようにすること。「彼らに勝ち続けないと今の座は危ない」という状況に追い込み、考える暇を与えないことです。会社の場合、ベテランなのにあまり力を発揮できなくなり、ポジションも上がらないというケースがあります。そうした人には、役割をしっかりつくってあげること、つくらせてあげることが大事です。モチベーションを上げるための策を講じないと、組織は停滞します。価値観の異なる、様々な人のバラバラな目標を、ロジックとして組み合わせ企業活動に生かすことが大事です。

そのためには組織をマネジメントする者が、子供、選手、部下たちを「オール」で見るのではなく「イーチ」、つまり個々人それぞれに目を向ける姿勢が大切です。選手たちが練習前の準備運動をしている間、ベンチでただ眺めていたり、コーヒーを飲んでいるような監督ではダメ。選手の間に入り込み、たとえ100人を超す部員数でも、一人ひとりに、1日1回は声をかけるよう心掛け、その反応に気を配ることです。それは時として「今日はいつもと違う。ケガをするかもしれない」などと感じることにもなり、当人にいつも以上の心配りをすることで、リスク回避できることに繋がることがあるわけです。

魔法の言葉:“平等にえこひいき”すれば、みんな伸びる
高濱正伸

人はどういうときに大きく成長するのか──。答えは“えこひいき”をされたときです。「私はみんなに対し平等に接します」という学校の先生がいたとすれば、親御さんも子供たちも「いい先生でよかった」とホッとするでしょう。でも、ただ平等に接するだけでは1年後、「クラスの誰も伸びなかった」という事態を招きかねません。これに対し、「“平等”に“えこひいき”している」とコメントした人がいます。バレーボール全日本女子の中田久美監督です。中田監督といえば、選手たちに緊張感のある厳しい練習を求め、時に激しい言葉をぶつけることでも知られています。しかし、それだけの指導であれば、実力がありプライドが高く、個性派がそろうトップ選手たちをまとめあげるのは難しいはず。しかし、“平等”と“えこひいき”という一見矛盾する言葉を合わせて実践することにより、その選手たちをまとめあげていたわけです。ここに、人を育てるための本質があります。

「花まる学習会」代表 高濱正伸氏

私は小学6年生のある日、体罰も厭わない先生に呼び出され、戦々恐々としていました。すると先生は「おまえはちょっとモノが違う。勉強がすごくできるようになるよ。旧帝大にだって行けるはずだ。自習をしてくれば、見てあげるぞ」と言うではありませんか。悪い気がするはずもありません。

単純なもので、「僕はそうなんだ」と思い込み、バンバン自習して、毎日先生のところへノートを持っていく。それを先生はろくに見もしないで、「よし」と言いながらハンコを押す。でも、その「よし」という言葉や、特別扱いを受けているという感覚が嬉しくて、自習する教材がなくなるほど勉強し尽くしました。自分の意思でやっているから、1問もズルせず、丁寧に時間をかけて解いていく。だからものすごく学力が伸びたのです。中学入学直後の学力テストでは県内で1、2位を争うほどで、偏差値は90台でした。

ただ、大人になってから同級生と酒を酌み交わしていると、その同級生が「じつは俺、6年生のときに“えこひいき”されていたんだ」と打ち明けるではありませんか。先生は、同級生全員に同じようなことをやっていたのです。勉強だけでなく、書道、絵画、スポーツなど子供たちそれぞれに合わせた“えこひいき”をしていたようです。

つまり、人を育てる側に立つなら、“戦略的なえこひいき”を考えるべきです。3人の子を持つ、あるお父さんは「ひとりっ子作戦」を思いつきました。真ん中の子が、どうもグズって宿題をやらない。そこで、上の子と末っ子を1週間実家へあずけ、真ん中の子と両親だけでディズニーランドへ行ったり、散歩をしたり、そしてご飯を食べ、お風呂に入り、川の字になって寝起きした。それだけで劇的に変化しました。真ん中の子としては、愛情が上の子や下の子にばかりいって、自分に向いていないという想いがあり、それがグズる原因になっていたのです。

“平等にえこひいき”することは、大人にも有効です。「最近、元気がないな」という部下がいたら昼食に誘い出し、一対一の時間をつくります。込み入った話をする必要はありません。「元気がないことに気づいてくれた」と、部下に伝わってさえくれれば、回復への足がかりとなるのです。

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鍛治舎 巧(かじしゃ・たくみ)
岐阜県立岐阜商業高校野球部監督
同校でエースとして1969年の春のセンバツに出場。早稲田大学卒業後、松下電器産業(現・パナソニック)に入社。2006年役員、常務役員、専務役員を歴任。85年から10年までNHKの野球解説者として高校野球の実況放送に携わる。18年より現職。
 

高濱正伸(たかはま・まさのぶ)
「花まる学習会」代表
1959年、熊本県生まれ。「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を主軸にすえた学習塾「花まる学習会」代表。東京大学農学部卒、同大学院農学系研究科修士課程修了。『子育ては、10歳が分かれ目。』『「メシが食える大人」に育つ子どもの習慣』など著書多数。
 

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(岐阜県立岐阜商業高校野球部監督 鍛治舎 巧、「花まる学習会」代表 高濱 正伸 構成=小澤啓司 撮影=熊谷武二、尾関裕士)

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