橋下徹「靖国神社参拝よりも大事なこと」
プレジデントオンライン / 2018年8月22日 11時15分
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■クソの役にも立たない政治家の「ファッション強気」
国会議員は、外交問題になると、とにかく強気の姿勢を示す。弱腰だと支持が集まらないと思っているのであろう。まあこのような政治家の姿勢は世界共通のところもあるけど。
しかし、ほんと国会議員のこのような「ファッション強気」はクソの役にも立たないし、何の解決策も生まない。
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8月15日の靖国神社への参拝でも国会議員は強気の姿勢を示すのが好きだ。
もちろん国を守るために命を落とした方々へ、感謝と尊崇の念を表することは当然だ。これは世界各国共通のこと。このようなことが国をあげてきちんと行われることで、兵士も国のために命をかけて戦うことができる。
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しかし、靖国神社には敗戦国である日本に特有の問題がある。いわゆるA級戦犯が合祀され、中国・韓国が、日本の政治指導者が靖国に参拝することに対して猛烈な反発をするという問題だ。
僕も無責任なコメンテーター時代は、戦勝国が勝手に決めた戦犯というものに日本が従う必要はない、靖国参拝に反対するのは中国、韓国くらいで世界の多くの国は靖国参拝に賛成してくれている、などと主張していた。
ところが現実の政治を経験すると、無責任なコメンテーターの主張がそうは簡単には通らないことを目のあたりにする。
実際、あの安倍さんでさえ、一度靖国参拝しただけで、その後参拝していない。今では安倍内閣の閣僚全員が参拝しなくなった。何の責任も負っていない一国会議員のときには、あれだけ靖国参拝を強く主張していた稲田朋美さんも、責任を負う防衛大臣に就任した途端、靖国参拝は止めざるを得なかった。言い訳のためにわざわざジブチへ海外出張に行ったくらいだ。天皇陛下も靖国に足をお運びにならない。また、政治指導者は他国を訪問した際、その国の兵士を祀る墓地へ足を運ぶ。日本の政治指導者もアーリントン墓地などに足を運んで花を捧げている。これも世界で共通の常識。ところが、アメリカなどの世界に影響力のある国家の指導者は日本を訪れた際、靖国参拝をしない。
結局8月15日に、靖国神社に参拝をするのは、何の責任も負っていない国会議員だけである。彼ら彼女らが参拝しても、中国、韓国は猛反発しない。それは、そのような国会議員が参拝しても日本や中国、韓国にとって何の影響力もないと考えているからである。そしてそのような国会議員に限って、100人くらいの集団を組み、「みんなで靖国に参拝しよう!」と張り切って参拝する。中国、韓国から猛批判のある中、その批判をものともせず、自分たちは信念を強く貫いているんだと自己陶酔している。
あのね、一国会議員の皆さん。責任を負っていないあなたたちが、いくら参拝しようが中国や韓国は気にしていないの。だからそんな大げさに参拝しなくても、普通に行きなさいよ。別にわざわざ集団を組んで、示威する必要はない。そもそも死者を弔う参拝は、一人で静かに行うものなんじゃないのかね。本当に信念を貫くというなら、内閣総理大臣、首相になってからやってみろっていうんだ。
日本の国会議員の本当の責務は、内閣総理大臣、特に天皇陛下が靖国参拝されていない現実をしっかりと課題として認識し、参拝できるようにその課題解決策を考えることだ。
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■政府・自治体が「旧陸軍墓地」を放置していいのか?
そしてこの連中が、命を落とした兵士への尊崇の念を口にすることが、いかにファッションであるかを物語る一例がある。それは旧陸軍省墓地が政治行政から完全に見放されているという悲惨な現状だ。
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今年の5月は、大阪城周辺で、真田幸村巡りをした。有名な真田の抜け穴のある三光神社や真田丸跡(現・大阪明星学園)などを巡った。この三光神社を抜けると、そこには旧陸軍省真田山墓地がある。場所は大阪市天王寺区玉造。
僕は、知事・市長のときにここに足を運んだことはなかった。このような存在は何かの話で少し耳にしていたが、特段アクションを起こさなかった。この時点で、僕も靖国ファッション参拝者と同じ穴のムジナなんだよね。英霊に尊崇の念を表すべきという僕の言葉も、ほんとファッションだったなと痛感している。
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この旧陸軍墓地は、全国に80カ所ほどあるらしい。その名の通り、旧陸軍省所管の墓地で、兵士や軍属(軍に雇われた民間人)の墓がある。この大阪の真田山墓地は全国の陸軍省墓地の中でも最古・最大級のもの。大村益次郎が大阪に陸軍の拠点を作って、その流れからこの墓地が作られた。
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僕がこのメルマガで言いたいのは、この旧陸軍省墓地を日本政府や地方自治体が全くの放置状態にしているのはダメだろうということ。そして全国でも最古・最大級の大阪の墓地が放置されているということは国家の最大級の怠慢だ。僕は大阪府知事であり大阪市長であったのに、一度も訪問していない。僕自身も最大級の怠慢だった。
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■戦没者を祀る国立施設へ! 政治家は知恵を出せ、行動せよ!
戦後、この施設は、旧軍関連モノとして厚生省(現・厚生労働省)が所管しようとした。厚生省は遺骨収集事業や恩給事業、戦傷病者戦没者遺族等援護事業を所管していたのでその一環としてのことである。ところがGHQが待ったをかけた。この墓地を国が特別扱いしてはならない、端的にいえば国をあげて祀ってはならない、と。そして靖国神社の一宗教法人化に合わせて、旧陸軍省墓地は、財務省所管や厚生省所管の「普通財産」にされてしまった。
日本政府はGHQの睨みを恐れたのか、この旧陸軍省墓地からは距離を取り、地方自治体などへ譲渡したり、無償で貸し付けたりする形をとった。国の責任放棄、地方への責任の押し付けだね。他方、地方自治体も責任感なし。税を投入することなく、放ったらかし。その典型が大阪の真田山墓地だ。もちろん、この真田山墓地が一時、靖国関連施設のような形になっていたこともあり、憲法上の政教分離規定から、大阪府・市がお金を入れることができなかった事情もある。
それでも政治家や官僚が知恵を出せばなんとか方法を見つけることができたのかもしれないが、放ったらかしのままだった。そして墓地は荒れ放題。見かねた地域住民の皆さんや、企業の皆さん、仏教界の皆さんが力を合わせてお金を出し合い、ボランティア活動によってある程度の整備を行い、維持管理をして下さるようになった。
それでも税の投入なく、ボランティアだけで、あの広い墓地を維持管理するのは難しい。雑草も生い茂り、墓石は朽ちているものもたくさんある。ボランティアの皆さんの努力によって荒れ放題という状態を脱することはできているが、十分に整備され、手厚く祀られているとはとても言えない状況だ。なんとも寂しい状況。さらに納骨堂があるんだけど、これもボロボロ。耐震性も全く満たしていない古い倉庫という感じ。ここに特に日中、太平洋戦争で命を落としたとされる方々の遺骨もどんどん集められてきた。しかしきちんとした保管施設となっていないので、壁に乱雑な棚が設けられ、そこに無造作に骨壺が置かれている。そしてその棚が納骨堂の壁や柱を構成しているという、今では完全なる違法建築状態。
国のために命を捧げて、そして国からこの扱い。これはいくらなんでも酷すぎる。あまりにも酷すぎて、悲しくなった。もちろん知事、市長として何もしなかった僕の責任も痛感した。
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この真田山墓地にはA級戦犯は祀られていない。ゆえに首相や天皇陛下が参拝しても、中国、韓国からとやかく言われる理由は全くない。年間数千万円の維持費で今よりもはるかにきれいに整備できる。10億円もあれば立派な納骨堂に建て直すことができるし、その他のハード面の整備も大掛かりにできる。
国家の背骨のためには安いもんじゃないか。ちょっとした国や地方の無駄遣いを削れば、これくらいのお金は用意できるだろうし、国会議員の給料やボーナスを削るだけでも十分捻出できる。
自己陶酔に浸って靖国参拝している国会議員よ、国士気取りで強硬路線を貫く自称インテリたちよ、まずは大阪の真田山墓地に来い。そしてこの現状をなんとかするために知恵を絞って行動せよ。国のために命を落とした方々を、国をあげて祀ることができるような国になってからこその憲法9条改正論議だ。真田山墓地の整備に大した額のお金は要らない。国のために命を落とした兵士を国をあげて祀る国立の施設にすればいいじゃないか。政治家やインテリたちだけでなく、多くの国民の皆さんが足を運ぶ墓地にすべきだ。政教分離をクリアするやり方はいくらでもある。これこそ政治家の仕事だ。
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(ここまでリード文を除き約3500字、メールマガジン全文は約1万2100字です)
※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.116(8月21日配信)を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【今考える敗戦の意義〈2〉】旧陸軍墓地を荒廃から救え! 政治家の「ファッション強気」が有害な理由》特集です!
(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 写真=iStock.com)
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