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名門・開成中が"専業主夫"を出題した理由

プレジデントオンライン / 2018年8月26日 11時15分

『木曜日にはココアを』(宝島社)の中の第2章「きまじめな卵焼き」の文章が開成中で出題された

私立中学の入試問題で「複雑な家族関係」をテーマにした出題が増えている。東大合格者数トップの開成中では今年、問題文に「専業主夫」が登場した。名門女子校の桜蔭中でも3年前に「ジェンダーの壁」がテーマになった。中学受験専門塾ジーニアス代表の松本亘正氏は「名門私立でも『父はサラリーマン、母は専業主婦』という家庭が減っていることが影響しているのだろう」という。いま難関校を目指す小学生には、どんな常識が求められているのか――。

小学生が「父:専業主夫、母:キャリアウーマン」を読解

2018年、開成中学の入試問題に「インスタグラム」という言葉が出てきたことが、塾関係者の間で話題になっている。

問題文で取り上げられたのは、小説『きまじめな卵焼き』(青山美智子著)。主人公は幼稚園児の子供を持ちつつ、夫に家事と育児をすべて任せて、仕事中心の生活を送るキャリアウーマンだ。「専業主夫」の夫は、自作の絵をインスタグラムに投稿しており、それがきっかけで個展を開くことになった。夫が数日間留守にするため、主人公は子供の弁当を作ることになる。だが、子供の好物の卵焼きが、どうしてもうまく焼けない。そこから、自分のアイデンティティがゆらぎ、夫の個展が失敗することすら望むようになる――。

問題文では、「絵なんか売れないで。誰にも認められないで」という部分に線が引いてあり、主人公の気持ちを問うている。中学受験の最難関校は、小学6年生に「大人の視点」を持つことを求めているのだ。

この開成中の物語文は2つの点で特徴のあるものだった。

(1)専業主夫とキャリアウーマンの母という家族構成であること。
(2)インスタグラムが物語文の中にも登場したこと。

■「離婚」や「母子家庭」を扱った出題も目立つように

※写真はイメージです(写真=iStock.com/kohei_hara)

まず、(1)について。近年の中学受験「国語」では、物語文に登場する人物・家族の構成が複雑になっている。重松清の短編小説『卒業ホームラン』のような典型的な家族像での親子愛をテーマにしたものは減っていて、「離婚」や「母子家庭」を扱った出題も目立つ。

たとえば、2008年の駒場東邦中の問題文でも取り上げられた『タイドプール』(長江優子著)は、次の一節から始まる。

「インターホンがなったのでドアをあけたら、お母さんがとどいていた」

物語のテーマは、小学5年生の女の子と、父の再婚相手「マコさん」とのかかわりだ。主人公は次第に、マコさんが朝はいわゆる「継母」(血のつながりのない親)で、夜は「マコさん」(大人の女性)だと気づく――。そんな複雑な家族関係が、中学入試の素材として当たり前のように使われているのである。

■子供に「ジェンダーの壁」を考えさせる御三家中

そして今回の開成中の問題は、「専業主夫の父とキャリアウーマンの母」という点で、近年の傾向をさらに進めたものだと言える。問題文には次のような一節もあった。

「クライアントの名前や顔は一度会ったら絶対忘れないし(中略)大勢の人の前でプレゼンすることも、部下のミスのフォローも、私は誰よりもうまくこなせる自信がある」

主人公は、家事や育児は苦手でも、会社での仕事ぶりには自信をもっている。だが夫が絵で認められつつあることで、その自信にどれだけの価値があるのか不安になる。「私がこの家にいる意味ってなんなんだろう」というアイデンティティの揺らぎを、小学生に読み解かせようとしているわけだ。

ちなみに、この物語はその後、次のように展開する。

夫は、個展を開催する京都から電話をかけ、卵焼きのアドバイスをした上で、妻に優しく語りかける。「がんばったね、素敵なお母さんじゃないか、ちっともダメじゃないよ。朝美のそういうまじめで純粋なところ、好きだよ」。主人公はその言葉に救われ、「輝也の絵、たくさんの人に見てもらえるといいね」と言えるようになる。

きっかけがあって、マイナスからプラスに変化するという構造はオーソドックスだ。しかし、“ジェンダーの壁”というテーマは、小学生には難しいだろう。このテーマは「女子御三家」のひとつである桜蔭中学でも2015年に取り上げられており、難関校を中心に増えている。

次に、開成中の国語の物語文に(2)「インスタグラム」という言葉が出てきたことについて。これも最近の傾向で、インターネットに関する言葉が中学受験の世界でも増えている。

■桜蔭中の試験では「ツイッター」という言葉も登場

たとえば2018年の桜蔭中の国語では、『ひとまず、信じない。情報氾濫時代の生き方』(押井守著)というエッセーが取り上げられ、「インターネットにおいて、フェイクニュースができあがってしまうこと、そして広がってしまうことの理由について、本文をふまえてくわしく説明しなさい」という問題が出た。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/AdrianHancu)

問題文には、ツイッターの投稿もだれの投稿かによって情報の信頼度が異なることや、そもそも何らかの意図をもったニセ情報である可能性も捨てきれないとある。

中学受験の国語の問題で「情報リテラシー」に関する問いは定番ではあるものの、フェイクニュースを流す意図まで、小学生に説明させる時代になっているのである。

今や、インターネットのことを知らずに、中学受験に臨むことはできない。ましてや、桜蔭中の入試問題では「ツイッター」に注もついていないのである。小学生が当然知っている語彙として出題されている。

前出の開成中の入試問題では「インスタグラム」や「フォロワー」に注があったが、これもいずれはなくなっていくだろう。

ちなみに「フォロワー」の説明は「読者登録をしている人」となっていた。別の男子校では2018年の入試問題で「投稿者を支持・応援している人たちのこと」と説明していたが、フォロワーとは必ずしも「支持・応援している人」とは限らないので、開成のほうがより的を射た表現と言えるだろう。

■「フォロワー」「LINE」の意味を子供に教えるべき

※写真はイメージです(写真=iStock.com/rvlsoft)

これから中学受験をする子は、注釈に頼らずに、こうした言葉の意味がわかるように準備しておきたい。前提知識の有無によって、明らかに理解に差が生じるからだ。

小学生がスマートフォンをもっているとは限らないだろう。それでも「ツイッター」「インスタグラム」「フォロワー」「LINE」といった言葉の意味は、親が子にきちんと説明しておきたい。

入試問題は時代を映す鏡でもある。「語彙力を増やそう」とはよく言ったものだが、どの語彙を覚えさせるかも変化しつつあるのである。

(中学受験専門塾ジーニアス代表 松本 亘正 写真=iStock.com)

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