安倍首相の考える「国民の敵」とはだれか
プレジデントオンライン / 2018年8月24日 9時15分
■全米350以上の新聞社がトランプ氏に一斉反論
「ジャーナリストは国民の敵ではない」
米トランプ大統領が自らに批判的なメディアを「フェイク(偽)ニュースを流す国民の敵だ」と呼ぶことに対し、全米の350以上の新聞社が8月16日付の社説で一斉にそう訴えた。350紙の中には2016年の大統領選挙でトランプ氏を支持したメディアもあった。
一方のトランプ氏は、同日、ツイッターに「フェイクニュース・メディアは野党だ。私たちの偉大な国にとってとても良くない。だが、われわれは勝利する」などと書き込んだ。間髪入れずに反論したところを見ると、一斉社説にかなり悔しい思いをしているのだろう。
トランプ氏は自分の言動に異議を唱えるものすべてを「国民の敵」と言い放つ。民主主義国家、アメリカの大統領とはとても思えない姿勢だ。
このメディアの動きに対し、米上院は同日、「メディアは国民の敵ではない」と宣言する決議を満場一致で採択した。米国のジャーナリズムや議会は、トランプ氏と対峙する姿勢を打ち出している。
■特定の報道機関のバッシングを繰り返す安倍首相
一方、日本の状況はどうだろうか。「安倍1強」のなか、安倍政権に驕りや緩みが目立っている。だれの目にもそれは明らかだ。
安倍晋三首相とその周囲を巡っては、「忖度」から生まれるさまざまな疑惑が取り沙汰されている。だが、それを厳しく追及するメディアは一部にとどまっている。
これに対し、政権側はメディア批判を繰り返している。安倍首相は今年2月、学校法人「森友学園」問題に絡んで、国会答弁でたびたび朝日新聞を批判した。自民党参院議員のフェイスブックにも朝日新聞を「哀れ」と書き込んだ。特定の報道機関のバッシングをする様子は、トランプ氏の振る舞いに通ずるところがある。
メディアにとって欠かせないのは、権力に対する真っすぐな反骨精神と事象を正しく捉えて真実を見抜く力である。そしてこの2つの基礎となるのが、良心と良識である。良心と良識に基づき、日本のメディアも米国のように歩調をそろえるべきではないか。沙鴎一歩は日本のメディアの良心と良識に期待している。
■都合の悪い現実をねじ曲げ、自画自賛したがる傾向
8月18日の土曜の早朝、まだインクの匂いの残る新聞各紙を開くと、毎日新聞と朝日新聞が米国の「一斉反論社説」のニュースを社説のテーマに取り上げていた。
毎日社説は「メディア敵視を改める時」(見出し)との主張をトランプ氏に投げかける。
「『自由の国』の米国にあって、これほど報道をおとしめたがる大統領がいただろうか」と書き出し、「異例の事態である。それだけ米国のジャーナリズムが危機的状況にあるということだろう」と指摘する。
そのうえで毎日社説は、こう書く。
「米国憲法でも保障された『報道の自由』は、健全な民主主義社会にとって欠かせない要素だ。連帯して危機感を訴える米国のメディアに、私たちもエールを送りたい」
日本の毎日新聞が、350を超える米国の新聞社の動きに参加しようと声を上げた。そんな毎日の姿勢を評価したい。メディアの危機だ。他の日本のメディアも追従すべきである。いまや「右だ」「左だ」などと主張を異にしている場合ではない。
続けて毎日社説は指摘する。
「トランプ氏のメディア敵視は、同氏が第三者の批判を嫌い、独断的に行動したがることと裏表の関係にあるようだ。都合の悪い現実をねじ曲げ、自画自賛したがる傾向も就任当初よりさらに強くなっている」
「第三者の批判を嫌う」「独断的に行動する」「自分にとって都合の悪い現実をねじ曲げる」「自画自賛が強くなる」。いずれもトランプ氏の性癖をみごとに表現している。
■ナチスによるユダヤ人迫害と同じだ
毎日社説の解説と指摘はこう続く。
「この『一斉社説』は有力紙ボストン・グローブが全米に呼びかけて実現した。同紙の社説は自由な報道に対するトランプ氏の『持続的な攻撃』を批判し、マイアミ・ヘラルド紙はジャーナリストに対する敵意を、第二次大戦時のナチスによるユダヤ人迫害にたとえている」
「いずれも説得力がある。大手のニューヨーク・タイムズ紙は『一斉社説』に参加し、ワシントン・ポスト紙などは個別性を重視して加わらないという違いも出たが、報道への危機感は広く共有されている」
多くの新聞社が社説で一斉にトランプ氏を批判する。これこそ、ジャーナリズム精神を生んだアメリカの新聞だ。
■「倫理観を欠いた政治はひたすら劣化するしかない」
だが、有力紙のワシントン・ポスト紙が参加しないところがやや気になる。
1971年、ベトナム戦争に関する米国防総省(ペンタゴン)の極秘文書がニューヨーク・タイムズ紙によってスクープされる。いわゆる「ペンタゴン・ペーパーズ」報道だが、このときワシントン・ポスト紙はすぐに追従報道し、そのときの取材力がニクソン大統領を失脚させるウオーター・ゲート事件のスクープに結び付いた。
あのワシントン・ポストのジャーナリズム精神はしぼんでしまったのだろうか。それともトランプ氏に関する大きなスクープを狙って深く潜行しているのか。
毎日社説は最後に日本の政治に言及する。
「メディアを攻撃することで、都合の悪い報道の正当性を損なおうとする。そんな政治家の姿は日本でも見られるが、倫理観を欠いた政治はひたすら劣化するしかない」
「『一斉社説』から改めて見えてきたのは、批判に耳を貸さずに突っ走る超大国の危うい姿だ。その危うさは人ごとでも対岸の火事でもない」
「倫理観を欠く政治」「批判に耳を貸さない姿」「対岸の火事ではない」と訴える毎日社説に賛成する。
■言論と報道がなければ、民主主義は成立しない
朝日新聞の社説も、毎日社説と同様、一番手の扱いである。
冒頭で朝日社説は「社会の中に『敵』をつくり、自分の支持層の歓心をかう。そんな分断の政治が招く破局は、世界史にしばしば現れる」と書く。
「歓心をかう」とは、人に気に入られるように努めるときに使われる言葉だ。中間選挙が近いだけにトランプ氏は中間層の支持者らの歓心をかうのに懸命だ。メディアを敵にして分断を図る。これが民主主義の国、アメリカの大統領の行為だろうか。
朝日社説は主張する。
「明確にしておく。言論の自由は民主主義の基盤である。政権に都合の悪いことも含めて情報を集め、報じるメディアは民主社会を支える必須の存在だ」
言論と報道の自由があってこそ、民主主義が成り立つ。言論と報道がなければ、民主主義は成立しない。
先進国ならだれもが理解しているはずである。それをこともあろうにアメリカが喪失しようとしている。
■中国、フィリピン、トルコ、そして日本の危機
朝日社説は「報道への敵視や弾圧は広がっている」として中国の言論弾圧、フィリピンやトルコのメディアの閉鎖を挙げた後、日本の危機に触れていく。
「米国の多くの社説がよりどころとしているのは、米国憲法の修正第1条だ。建国後間もない18世紀に報道の自由をうたった条項は、今でも米社会で広く引用され、尊重されている」
「その原則は、日本でも保障されている。『言論、出版、その他一切の表現の自由』が、憲法21条に定められている」
「ところが他の国々と同様に、日本にも厳しい目が注がれている。国連の専門家は、特定秘密保護法の成立などを理由に『報道の独立性が重大な脅威に直面している』と警鐘を鳴らした」
私たち国民は、この朝日社説の指摘を真剣に考える必要があると思う。
■読売や産経もこの問題を取り上げるべきだ
さらに朝日社説は「自民党による一部テレビ局に対する聴取が起きたのは記憶に新しい。近年相次いで発覚した財務省や防衛省による公文書の改ざんや隠蔽は、都合の悪い事実を国民の目から遠ざけようとする公権力の体質の表れだ」と具体例を挙げ、こう指摘する。
「光の当たらぬ事実や隠された歴史を掘り起こすとともに、人びとの声をすくい上げ、問題点を探る。そのジャーナリズムの営みなくして、国民の『知る権利』は完結しない」
まったくもってその通りである。
ところで朝日社説は前半でこう書いている。
「米国の多くの新聞や雑誌が、一斉に社説を掲げた。『ジャーナリストは敵ではない』(ボストン・グローブ紙)とし、政治的な立場や規模を問わず、結束を示した。その決意に敬意を表したい」
繰り返すが、他の日本の新聞社も社説に取り上げるべきである。特に「右寄り」「政権擁護」などと批判されることの多い読売新聞や産経新聞が何を主張するか。読んでみたいところだ。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)
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