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ネスレ社長が「日報」を完全廃止した理由

プレジデントオンライン / 2018年9月30日 11時15分

ネスレ日本社長 高岡浩三氏

ネスレ日本史上最年少の30歳で部長に就任し、2010年に初の生え抜きの日本人社長となった高岡浩三氏。「キットカット」受験生応援キャンペーン、「ネスカフェ アンバサダー」など数々のイノベーションを生み出し、右肩上がりの成長を達成。その実績は、スイスのネスレ本社からもジャパン・ミラクルと評されている。

■イノベーションを生みだすフォーマット

新しい商品やサービスに求められるのは、イノベーティブかどうかというただ1点。そこで社長就任直後の2011年から社内で始めたのが「イノベーションアワード」です。年に1度、全社員から自ら実践した「イノベーション」をA4・1枚のエクセルにまとめて応募してもらう。今では年間5000件近い応募が集まります。

では、アワードの応募フォーマットと、一般的な企画書とでは何が違うのか。それは、頭の中で考えたアイデアやプランだけを出すのではなく、自分で実際にやってみた結果を、実行した過程とともに記載してもらい、提案してもらっているところです。

また、一般的に、新しい企画だと思って提出しても、「イノベーション」でなく「リノベーション」の企画になってしまうことが多い。ここで言うイノベーションとは、『イノベーションのジレンマ』でクレイトン・クリステンセン氏が提示した「破壊的イノベーション」のこと。

本書に書かれているもう1つの概念「持続的なイノベーション」はいわば改善で、顧客が気付いている問題を解決すること。私の言うリノベーションです。例えば、コーヒーの味をよくしよう、価格を抑えようというのはリノベーション。もちろん改良は大事ですが、結局は競合との価格競争に陥ってしまう。

■難しいのは「顧客が抱えている問題」を発見すること

対して、私が考える破壊的なイノベーションとは「新しい現実」の中で「顧客が抱える問題」を発見し、「解決策」を示すことです。そうして世の中になかった付加価値の高い商品やサービスを生み出す。アワードの応募フォーマットをさらに簡潔にしたA4・1枚の説明用フォーマットがあるのですが(図参照)、これはまさにその考え方に焦点を当てたもので、イノベーションを生み出すための考え方の訓練になるものなのです。

「新しい現実」を見つけること自体は難しくありません。なぜなら、現前とそこにあるわけですからね。難しいのは、「顧客が抱えている問題」を発見することです。顧客すら気付いてない、もしくは諦めてしまっている問題を発見する――それさえできれば、イノベーションはほぼ達成しています。

図は2016年にイノベーションアワードの大賞に選ばれた「ネスカフェ スタンド」の説明用フォーマット。イノベーションアワードの応募フォーマットを、さらに簡潔にしたものだ。「ネスカフェ スタンド」は、現在では25駅に店舗があり、関西を中心に、関東にも進出。

弊社が今注力している「ネスレ ウェルネス アンバサダー」を例にとると、新しい現実は「日本では、平均寿命が伸びているが、健康寿命とギャップがある」こと。では、「顧客が抱えているけど、諦めている問題」は何かというと、「自分に不足している栄養がわからない」「自分が将来どんな病気にかかる可能性があるのかわからない」ことだと発見した。よくわからないままサプリを摂ったり、自己流の健康法を行っている人が多かったのです。

そこで、インターネットで食事や生活習慣に関する簡単な質問に答えてもらったり、LINEで食事の写真を送ってもらい、食事分析を行うことで、その人に不足しがちな栄養素が入った抹茶やミルクのカプセルを提供するサービスを始めた。さらに、希望に応じてDNA検査や血液検査も自宅で簡単にできるサービスも始めた。このように、顧客の問題さえ見つければ、その「解決策」は自ずと見つかります。

■ビジネスがうまくいっているなら、報告書はいらない

そのため、私は「問題解決」より、「問題発見」を重視すべきだと常々主張しています。日本が、企業や教育の現場で問題解決能力ばかり重視しているのは、はっきり言っておかしいですよ。だからイノベーションが起こらない。顧客の問題発見こそが「仕事」で、ほかはすべて「作業」にすぎないと考えてほしい。

だから、ネスレでは報告書はありません。報告書を作成するくらいなら新たな問題発見に時間を割くべきだからです。社長に就任してから日報も廃止しました。売り上げなどの数字があれば、報告すべきことはそんなに多くないでしょう。ビジネスがうまくいっているなら、それでいい。私が報告してほしいのは、うまくいってない場合。なぜうまくいっていないのか。

報告は、口頭で30秒や1分で伝えるようにと言っています。結論や問題の要旨はその時間で十分説明できます。1分あっても伝えられないのは、報告者自身が、何が問題かわかっていないから。「帰れ!」と言って終わりです。どんな会議も、基本的には30分以内で終わらせる。パワーポイントのスライドは絶対3枚以上見せるな、できればないのが理想だと言っています。

今、短時間で生産性を上げる、働き方改革が国を挙げて推進されています。企画書にしろ、報告書にしろ、目的が不明確で時間を奪うだけならば、1度やめてみてはいかがでしょうか。

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▼報告書不要。口頭で簡潔に報告する
○:いい報告例
悪い報告があります。来月A社に納品予定の商品の件です。商品に使用する部品をB社に発注していたのですが、部品に不具合があり、当初予定していた8月15日の納品が難しい状況です。
結論と、問題の要旨が端的にわかる
×:わるい報告例
すみません、課長、ちょっとよろしいでしょうか。いま進めているA社への8月15日の納品に関して、昨日、B社の営業部の山本さんから電話がかかってきまして、生産ラインでトラブルがあったそうでB社からうちへの部品の納入が遅れてしまうそうなんです。それでA社に確認したら、「納期が遅れるのは困る」と怒られてしまいました。
一体何が言いたいんだ……

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高岡浩三(たかおか・こうぞう)
ネスレ日本社長
1983年、神戸大学経営学部を卒業後、ネスレ日本入社。2005年、ネスレコンフェクショナリー社長に就任。10年、新しい「ネスカフェ」のビジネスモデルを構築。同年11月からネスレ日本社長兼CEO。

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(ネスレ日本社長 高岡 浩三 構成=伊藤達也 撮影=熊谷武二)

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