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子の障害年金なしには成立しない老後設計

プレジデントオンライン / 2018年9月4日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/taka4332)

「障害年金」は病気やけがで生活や仕事などが制限される場合に支給される公的保障だ。だが、同じ病気でも症状によりお金が出るケースと出ないケースがある。ファイナンシャルプランナーの浜田裕也氏が、50代の夫婦から「発達障害からうつ病になった無職の30歳長男」について相談を受けたところ、親亡き後の家計構築について「支給されるかどうかわからない障害年金」をアテにしていたことがわかった。浜田氏が示した解決の方法とは――。

■30歳無職の長男が小遣い受け取り拒否をする理由

私は社会保険労務士・ファイナンシャルプランナーとして、ひきこもりの子供をもつ家族や支援者を対象にした講演会を全国で行っています。講演会の内容はお金の話が中心で、子供の生活設計の立て方、国民年金や障害年金などについても解説しています。

その日も家族向けの講演会を終えて退室しようとしたとき、あるご夫婦から声をかけられました。

「うちの長男の障害年金について相談したいのですが……」

聞くところによると長男は現在30歳で無職。一日のほとんどを家の中で過ごしているようです。立ち話である程度うかがった後、ご夫婦に私の連絡先をお伝えし、後日ご相談を受けることになりました。

当日、父親(55)は仕事のため、母親(54)ひとりでいらっしゃいました。

家族の希望で、今回は長男の障害年金について相談したいということで、そのことについて長男本人の了承も得ている、ということでした。

【家族構成】
父 55歳 会社員
母 54歳 専業主婦
長男 30歳 無職 今まで働いた経験なし

現在は父親の給与収入のみで生活しています。財産は、戸建住宅と現金預金が数百万円。今回は家族の生活設計の相談ではなく、長男の障害年金の相談だったので、あえて深追いはしませんでした。

次に長男に関してです。長男は現在30歳で無職。兄弟姉妹はいません。うつ病を患い月に2回ほど通院しています。通院しない日は一日中家の中で過ごしています。

家族のお金が減ることが不安なためか長男はお小遣いをもらうことを拒否しており、欲しいものを買うこともほとんどないそうです。親御さんとしては、体調がよいときに買い物などに出かけて行って少しでも社会との接点をもってほしいと思っているようです。

■漢字を書くことが苦手で、忘れ物が多かった

私はさらに過去のこともうかがいました。

長男が小学生の頃、漢字を書くことがものすごく苦手で、何度練習しても書くことが難しかったとのこと。また、学校の宿題をよく忘れたり、忘れ物が多かったりして先生によく注意をされてしまったようです。また、それらが原因で友達にからかわれることも多かったとのことでした。

その様なお話が当時同居していた義理の母(ご主人の母)の耳にも入り「あなた(母親)のしつけがなっていないからだ」「甘やかしすぎだ」「このまま大人になったら一番困るのはこの子だ。あなたが何とかしなさい」などと厳しい叱責を受けることもしばしば。

ご主人からも「もっと厳しくつけないとだめだ。俺は仕事で忙しいからお前がなんとかしろ」などと言われてしまい、母親は八方ふさがりになってしまいました。

■20代後半で「発達障害が原因によるうつ病」と診断された

家族からのプレッシャーで長男に厳しく当たることも増え、時には手をあげてしまうこともあったそうです。そのようなことが続いたためか、長男はいつしか学校に行かなくなってしまい、そのままひきこもるようになってしまいました。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/leodaphne)

「長男が不登校になった後、どこかに相談に行ったり病院に連れて行ったりするという発想そのものがありませんでした。いつの間にか家族は長男に対して見て見ぬふりをするようになってしまい、それがとても苦しかったです……」

当時を振り返る母親はとてもつらそうでした。

状況が変わったのは長男が20代後半を過ぎた頃。何気なく見ていたあるテレビ番組で発達障害のことを知りました。ひょっとしたら長男もそうかもしれない、ということで、家族で長男を何とか説得し、初めて病院へ行くことになりました。

診断の結果は、発達障害が原因によるうつ病。長男はうつ病を発症していました。

今でこそテレビや書籍、インターネットなどで発達障害の情報がたくさん発信されるようになり世間の認知も広がりつつありますが、当時は発達障害などの情報は手に入りづらかったように思われます。

そのため、周りから「親のしつけがなっていない」「本人にやる気がない」などといわれてしまうことも多かったことでしょう。このように本人や家族すら気が付かず、周りから「怠けている」「やる気がない」などと厳しいことを言われ、また「自分は何て駄目な人間なんだ」などと自分で自分を責め続けた結果、うつ病を患ってしまうケースは本当によく見受けられます。

■「うつ病だから障害年金がもらえるということですよね?」

長男の現況をうかがった後、私は障害年金の概要についてご説明することにしました。

障害年金は、病気やけがによって生活や仕事などが制限されるようになった場合、現役世代の方も含めて受けることができる年金、とされています。障害年金の対象となる病気やけがは、手足の障害などの他、精神障害、がん、糖尿病などの体の内部の障害も対象になります。精神障害であれば主なものに、統合失調症、うつ病、認知障害、てんかん、知的障害、発達障害などが挙げられています。

すると母親は言いました。

「長男はうつ病だから、障害年金がもらえるということですよね?」

これはよくある質問のうちのひとつです。私はできるだけゆっくりとした口調で説明するように努めました。

「いえ、残念ながらうつ病の診断がついたからといって、必ずしも障害年金がもらえるわけではありません。あくまでもその病気によって、どの程度生活や仕事が制限されるかによるからです」

そう説明すると、母親はよくわからない、というような表情をしました。

それはごもっともだと思います。

そこで、母親もイメージが持てるように、脳梗塞が原因で肢体障害になってしまったケースで説明をすることにしました。

■「どれくらい重い症状なら障害年金がもらえるのでしょうか?」

AさんもBさんも脳梗塞で意識を失ってしまい病院に運ばれたとします。二人とも手術で奇跡的に助かり、その後、意識が戻りました。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Marilyn Nieves)

Aさんは手足に多少のしびれが残りましたが、リハビリをすることによって仕事に復帰できるくらいにまで回復しました。一方、Bさんは半身まひの状態になってしまいました。以前のように仕事をすることも日常生活を送ることも困難になってしまいました。

AさんもBさんも脳梗塞が原因で体にしびれやまひが残り、いわゆる肢体障害になりましたが、Aさんは障害年金を受けられるような状態になっている可能性は低く、Bさんは障害年金を受けられるような状態になっている可能性が高いと思われます。

同じように考えていただくと、例えばうつ病と診断された方でもうつの程度が軽い方と重い方がいらっしゃいます。うつ病と診断されたからといって、必ずしも障害年金がもらえるというわけではないのです。

「じゃあ、どのくらいの症状であれば長男は障害年金がもらえる可能性が出てくるのですか?」

こちらもよくあるご質問です。そこで私は次のようなアドバイスをしました。

■障害年金が認められくても担当の医師を責めない

例えば、子供を診ている医師に聞いてみるという方法があります。医師には次のように聞いてみるとよいでしょう。

「障害年金の請求をしようと思います。症状は障害年金がもらえるくらい重いのでしょうか?」

すると医師は「そうですね。障害年金を請求してみてはどうですか?」や「ちょっと症状が軽いと思われるので、もう少し様子をみましょう」といった返答をすることが多いです。

明確な答えがもらえることは少ないですが、何かしらの返事はもらえると思います。ただし、ひとつだけご注意いただきたいことがあります。

それは障害年金が認められなかったとしても担当の医師を責めない、ということです。

担当の医師の助言により障害年金を請求してみたけれども認められなかった、というケースはよくあります。結局は、請求してみなければ年金がもらえるかどうかはわからない、ということなのです。担当の医師の助言があったからといっても100%ではない、ということは覚えておいてください。

「わかりました。今度担当のお医者さんに聞いてみます」

母親はそう言いました。

■「月約6.5万円だと長男の生活費はまったく足りないです」

「仮に長男に障害年金が出たとすると、いくらになるのでしょうか?」

母親は目線を下に移し、少し言いにくそうにそう質問をしました。

確かにお金の話は質問しづらいかもしれません。しかしとても大事なことです。私はできるだけ具体的な金額を出しながら説明するようにしました。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/StockGood)

長男は国民年金に加入している間に初めて病院に行ったので、国民年金から支給される障害基礎年金に該当します。ただし、障害年金をもらうためにはさまざまなハードルをクリアする必要があるので、必ずしももらえるわけではありませんのでご注意ください。

障害基礎年金は1級と2級があり、症状の重いほうが1級です。うつ病で1級が認められるケースはほとんどなく、2級になることが多いです。もちろん2級より軽いと判断された場合は障害基礎年金をもらえません。

障害基礎年金は2級であれば年額で77万9300円、月額にすると約6万5000円になります(2018年度の金額)。

「月で約6万5000円だと、将来の長男の生活費はまったく足りないですよね……」

母親は心配そうにつぶやきました。

■子供に残したいお金は2000万~3000万円

今回のケースに限らず、親亡き後の子供の生活費は公的年金の収入だけでは足りない、という家庭は多いように思われます。

そのため、親御さんが足りないお金をできるだけ準備してあげる必要があります。ざっくりしたイメージですが、子供に残してあげたいお金はだいたい2000万円から3000万円ほどです。もちろんこの金額は子供の収入や生活のしかたによって変わりますので、必ずしもその金額が必要になるわけではありません。

「そんな金額が準備できるかどうか自信がありません……」

親御さんが全額を準備するとなると戸惑ってしまうことでしょう。そこで私はある家族のエピソードをご紹介しました。

かつて私が担当したある家族では、将来の見通しを立てた後、障害年金のお金の使い道を話し合いにより次のように決めました。

月2万円を子供ご本人の小遣いに、残りの4万5000円を貯金にする。なお、このようなお金の使い道は親御さんがトップダウンで決めるのではなく、子供とよく話し合って決める、というところが大切だと思います。

仮に今後も障害年金を受けることができたものとし、月4万5000円の貯金を30年間続けたとすると、4万5000円×12カ月×30年=1620万円になります。親亡き後のお金の心配をしている家族にとってはかなりの金額になるといえます。

■数字(金額)も交えて家族で話し合うことが大切

このような見通しは「たられば」なのであまり意味がないとおっしゃる方もいます。確かにこのようにうまくはいかないかもしれません。しかし、親子で将来の見通しについて話し合う、ということはとても大切なことだと考えています。なぜなら、親御さんだけでなく子供も将来のお金に関して強い不安を抱えているケースがよく見受けられるからです。

全額準備できそうにないので親子で何も話し合わない、となってしまうと、毎日漠然とした不安を抱えて過ごすことになってしまいます。漠然とした不安はどんどん大きくなっていき、家族にのしかかってくることでしょう。話し合っても不安自体はなくなりませんが、あえて不安をはっきりさせてしまうことで、家族に前向きな気持ちが生まれる可能性も期待できます。

ポイントは数字(金額)も交えて話し合う、ということです。数字として見える化すると、親子で目標とする数字を意識し、いろいろな対策も実行しやすくなるからです。

「障害年金が出る出ないにかかわらず、今回のことをふまえて家族で将来のお金の見通し立てることも検討してみてくださいね」

「わかりました。そうしてみます」

気持ちの切り替えができたためか、母親の表情からは前向きな力強さが感じられました。

■障害年金の請求手続きは時間と労力がかかる

最後に私は障害年金の手続きをするうえで知っておきたいポイントや注意点などを説明しました。また、すべての書類をそろえるまでには何度も病院や年金の窓口に行くことになり、時間と労力がかなりかかるのでその覚悟も必要です、というお話もしました。

「私は専業主婦なので時間はあるのですが、やっぱり厳しいと思いました。長男の請求はお願いしても大丈夫でしょうか?」

※写真はイメージです(写真=iStock.com/inspired_by_the_light)

長男の障害年金の請求は母親が代理でするか、私のような専門家に頼むか、どちらにするか悩まれていたとのこと。今回の相談の後、どちらにするかは母親が決めてよい、と事前に家族で話し合っていたそうです。結果、今回は私が長男の障害年金の請求を代行することになりました。

ひきこもりの家族のご相談を受けていると、少なからず精神疾患を発症してしまっているケースも見受けられます。もちろんすべてのケースで障害年金がもらえるわけではありませんが、子供の生活設計を立てるうえで障害年金も検討事項のひとつになると考えています。

(社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田 裕也 写真=iStock.com)

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