日経ブランドを傷つけるFTの低レベルさ
プレジデントオンライン / 2018年9月13日 15時15分
政治に対する主義主張をほとんどしない日経新聞。かたや、たしかに高級紙であるが英国の左派系メディアであるフィナンシャル・タイムズ(FT)。日経がFTを買収してから約3年。はたしてうまく2紙は融合しているのか。米国政治に詳しい早稲田大学の渡瀬裕哉招聘研究員に聞いた。
■トランプ政権下では「景気回復・低失業率」という事実
現在、世界中のメディアがリベラル化しており、トランプ政権への反発を強めている印象を受ける。様々なメディアの立場から同政権の運営・政策について賛否はあって当然だと認識しているが、それらはファクトに基づいて語られるべきだ。もちろん何かを述べるということは、その話者のイデオロギーとは無縁ではない。しかし、自らが述べる内容の偏りを認識した上で相手に伝える努力も必要だろう。
私は2016年12月「プレジデント」の誌面でインタビューに応えて、トランプ政権の経済政策を分析した結果、好景気が持続していく見通しが高いことを述べさせてもらった。
結果として、16年米大統領選挙から約2年を経た現在でも、米国経済は長期間にわたる景気回復・低失業率を実現している。さすがにそろそろ景気が反転する可能性があったとしても、この好景気はトランプ政権の減税政策・規制緩和政策が後押ししたことは疑いようがない。
一方、17年1月の日経新聞に掲載されたFTのコラムニストの記事タイトルは「『米国第一主義』は間違い」。内容は17年のダボス会議における習近平中国国家主席の発言とトランプ米大統領の発言を比較し、習を持ち上げながら、トランプと側近の通商政策の考え方を批判したものだ。
もちろん既にTPPから撤退に言及していたトランプに対して懸念を示す気持ちもわからないでもないが、習も通商政策の実態として両者ともに肯定できるものではない。
また、18年7月の「トランプ氏、貿易戦争招く」という記事では、冒頭から、
というコラムニストの無益な批判から始まる。
■FTの論調はリベラルなイデオロギーがかなり強い
博士号を持たない修士のコラムニスト(ただし、世銀のエコノミスト経験を持つ著名経済ジャーナリスト)が、学士のみだがグローバル経営者として成功してきたトランプを馬鹿にする構図に辟易する。また、米国大統領の立場であればいくらでも有能な人材を登用できることも忘れるべきではない。
FTの同記事中でも指摘されていたが、トランプの対中貿易戦争は、中国による米国の知的財産権を侵害する制度を変更すること(強制的な技術移転阻止)を目的として掲げている。米国は貿易黒字の大部分を知財収入に頼っているため、中国の知財制度の変更は必須の課題であり、中長期的な将来を見据えれば問題解決に着手するのは当たり前だ。
この環境においてはハイテク産業への補助金は輸出補助金とほぼ同様のものであり、それらをターゲットにした通商政策を取ることも道理にかなっている。少し考えればわかることでもイデオロギーに目を曇らせれば見えなくなる。そして、巨額の関税戦争は中国側が耐えられないため、対中貿易戦争はいずれ収束していくだろう。
日本で最も購読されている経済新聞である日経新聞がFTを買収して約3年が経つが、日経新聞の若手記者が書く冷静な論調とFTの扇情的な論調の間にはかなり差がある。FTの論調はリベラルなイデオロギーがかなり強いものであり、トランプ政権側に一定の道理があったとしても、それをなかなか認めようとしないだろう。彼らはいつまで経ってもトランプ政権のせいで世界が崩壊することにしたいはずだ。
日経新聞がトランプ政権の印象に関して日本のビジネスパーソンに与える影響は大きいと思う。そのため、日経の論調がFTによって他の国内紙のように劣化することは問題である。何よりも同新聞の読者が日本や米国の経済が悪くないことを最も実感している層であるに違いない。
(早稲田大学招聘研究員 渡瀬 裕哉)
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