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三越伊勢丹社長"私の半分は間違っている"

プレジデントオンライン / 2019年1月17日 9時15分

三越伊勢丹ホールディングス 代表取締役社長 杉江俊彦氏

これからビジネスマンはどう変わるべきか。「プレジデント」(2018年4月30日号)では、特集「いる社員、いらない社員」で、大企業のトップ29人に「人材論」を聞いた。今回は、三越伊勢丹ホールディングスの杉江俊彦代表取締役社長のインタビューをお届けしよう――。

■最初に配属されたのは"傍流"のリビング部門

売上高1兆2534億円(2016年度実績)で百貨店業界トップの三越伊勢丹ホールディングス。17年4月に社長に就任した杉江俊彦氏は、社内での対話を重視する路線を貫く。「爆買い」に象徴されるインバウンド需要が一巡し、アマゾンをはじめとするネット通販の台頭も著しい。そうした厳しい環境下、自社の強みをフルに発揮して状況を好転できるかどうかは、一人ひとりの社員の肩にかかっている。

――百貨店業界は「上意下達」の伝統が長らく続いてきました。そうしたなかにあって、杉江社長は対話重視や人材を大切にする姿勢を強く打ち出していらっしゃいます。それらは、ご自身の仕事のなかで涵養されてきたものなのでしょうか。

入社して最初に配属されたのは、食器や雑貨を取り扱うリビング部門でした。実は、当時の百貨店は婦人服が花形部署で、リビングはいわば傍流だったのです。しかし、逆に上下関係は比較的ゆるやかで、間に入る人も少なく、とても風通しのよい環境でした。直属の上司は「部下が腹落ちしないかぎり、仕事は上手く進まない」といっていて、私もその考えを基本的に継承しています。

また、大きな仕事も任せてもらえ、百貨店に長年勤めていて一回も改装に携わったことのない人がいるなか、幸運なことに私は合計4回も担当してきました。そのうち2回がリビング部門で、2年目に松戸店に異動になり、リビングのフロアの改装にかかわりました。しかし、どうしても上手くいきません。数年後に新宿本店のリビングの改装にも携わりましたが、やはり力不足で満足のいく結果は得られませんでした。

――とはいうものの若いときの失敗は、得てして成長の糧になります。

なぜ成功しなかったのかに気づいたのは、営業企画部(現・営業戦略部)に移ってからのことでした。そこで初めて何事にも理論的な裏付けが重要で、そのために必要なデータを収集・分析し、仮説を組み立てていくという手法を学んだのです。それを活かして「ファッションの伊勢丹」との評価を得るようになった新宿本店1階フロアの大改装、そして地下食品フロアの改装の成功に結びつけることができました。

■現場にしかない判断に必要なデータ

――杉江社長はデータを重視されることで知られています。そのデータは決して無味乾燥なものではなく、きっと人と密接な関係にあるものなのでしょう。

何か物事を判断する際に最も重要なのは、現場にある本当に生きたデータに基づくことです。経営戦略本部にいたとき、定休日の是非について議論を進めるなかで、定休日の看板を見てガッカリしてお帰りになるお客さまが少なからずいらっしゃることは、現場の声からもわかっていました。

しかし、定休日の是非を検証する具体的な数字がありませんでした。そこで食品部門のケーキ売り場のマネジャーを呼んで話を聞くと、バースデー用ホールケーキの販売個数が平日は約600台、土日祝日には約1000台にもなることがわかりました。つまりこの時点で、平日に定休日を設けていると、少なくとも600人のお客さまの不便につながっていると推測できたのです。

――そうしたデータを引き出すためにも、杉江社長は日頃の対話を重視しているのですね。

このような貴重なデータ収集の場面で必要なのは、自分が持っている生のデータをストレートにあげてくれる人材です。定休日を認めてきた上司の顔色を窺って、「廃止につながるようなマイナスのデータは仕舞っておこう」などと忖度する人材ではダメなのです。

私のデータ活用の目的は、自分の判断が間違っているかどうかを検証することです。新規事業の将来性や成功の可能性を示す際に、都合のよいデータ分析を切り貼りすることがありますが、それは誤ったデータ活用法といえます。なぜなら、いくらでも加工ができて、裏付けにはならないからです。私はよく「私のいうことの半分は間違っている」といっており、それを検証する生のデータをダイレクトにあげてくれる人材を重んじたいのです。

■伊勢丹新宿本店に真の強みが存在

――一方で、ネット通販という強敵の猛攻にさらされています。

当社も電子商取引(EC)を強化しています。とはいえ、大手ネット通販と同じことをする気はありません。百貨店の強みを活かしたECを構築しないかぎり、厳しい競争には勝ち残れないと考えているからです。

では、何が当社の強みなのでしょう。まず、世界の一流ブランドの商品知識を豊富に持ったバイヤーや、日々の接客でお客さまのニーズを直接感じ取っている販売員が数多くいることです。彼ら彼女らの「リコメンデーション力」をネット上に反映していくことは、とても強力な武器になるはず。しかし、それだけではまだ力不足なのです。

――そこで必要とされる人材とは。

「コーディネート力」を兼ね備えた人材です。伊勢丹新宿本店は世界のファッション(婦人服・洋品)と雑貨に関しては最強だと自負しています。一流ブランドの最新の商品の大半が、アジアでは最初に入ってくるからです。もちろん、それら最先端の商品について、入荷と同時にネットで情報発信を行いますが、そのときに他のネット通販と一線を画すのが、コーディネート力なのです。

たとえば、ファッショナブルな婦人靴が海外から入荷したとします。そうしたら、それに合う服やバッグ、アクセサリーなどをコーディネートして情報発信を行うのです。そのためには婦人靴売り場の担当者は、自分の担当以外の売り場に足を運んで、さまざまな商品知識の蓄積に研鑽を積む必要がある。それをやり切った人材こそが真のコーディネート力を身に付けて、リアルとECの両面で「1+1≧2」という付加価値のアップに貢献できるようになっていくのだと考えています。

▼QUESTION
1 生年月日、出生地

1961年2月15日、東京都
2 出身高校、出身大学学部
慶應義塾高等学校、慶應義塾大学法学部
3 好きな言葉
日々是好日
4 最近読んだ本
『ローマ人の物語』塩野七生
5 尊敬する人
──
6 私の健康法
ジムでのトレーニング

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杉江俊彦(すぎえ・としひこ)
三越伊勢丹ホールディングス 代表取締役社長
1961年、東京都生まれ。83年慶應義塾大学法学部卒業後、伊勢丹に入社。2012年三越伊勢丹ホールディングス取締役常務執行役員経営戦略本部長、16年取締役専務執行役員経営戦略本部長に。17年4月より現職に就任。

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(三越伊勢丹ホールディングス 代表取締役社長 杉江 俊彦 構成=田之上 信 撮影=渡邉茂樹)

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