グーグルも帰還“渋谷”でITは爆発するか

プレジデントオンライン / 2018年9月14日 9時15分

9月13日に開業した大型複合施設「渋谷ストリーム」(写真=時事通信フォト)

かつて「ビットバレー」と呼ばれた渋谷に、再びIT企業が集まりだした。六本木に移転していたグーグルは2019年までに渋谷へ移転。またミクシィ、サイバーエージェント、GMOも渋谷駅前にオフィスを移す。渋谷は米国の「シリコンバレー」のような“IT集積地”になれるのか。法政大学大学院の真壁昭夫教授は「金融面での支援や研究教育機関の招聘など、解決すべき課題はまだ多い」と分析する――。

■グーグル帰還で盛り上がる“ビットバレー”再興の機運

東急電鉄や東急不動産など東急グループが再開発を進めている渋谷に、国内外のIT企業が回帰している。特に、9月13日に開業した大型複合施設「渋谷ストリーム」には、グーグル日本法人が入居する。それを受けて、“ビットバレー”の再興を通した渋谷の活性化に期待する市場関係者もいる。

ビットバレーとは90年代後半から2000年代前半にネットエイジ(現:ユナイテッド)社長の西川潔氏が提唱したムーブメントだ。“渋”=ビター、“谷”=バレーをつなげた「ビターバレー」に、デジタルデータの単位である「bit(ビット)」をかけた造語からその名が付いた。

ビットバレーが生まれた背景には、渋谷をIT集積地として世界に影響を与えてきた米国の“シリコンバレー”のようにしたいという国内IT企業などの考えがある。もともと、渋谷は若者向けのファッションやエンターテイメントの発信地とみなされてきた。東急は、そこにグーグルなどの大企業や、ITなどのスタートアップ企業を誘致し、渋谷が起業や新しいテクノロジー開発の場となることを目指している。それが実現すれば、街全体の活力が高まるだろう。具体的には、渋谷を往来する人の数が増え、店舗の売り上げが増加するだろう。それは、商業施設の賃料の増加などを通して同社の収益獲得につながる。

今後、IT先端企業の取り組みは経済成長に無視できない影響を与えると考えられている。渋谷が国際的に注目されるIT産業の拠点となるためには、東急グループなどの企業が政府と連携し、周囲の状況が変化してもITを中心に多くの企業が渋谷に居続けたいと思える環境を整備できるか否かが重要だろう。

■ITベンチャーの黎明期を支えた渋谷

東急にとって渋谷はホームグラウンドだ。それに加え、渋谷はわが国のIT企業の多くが黎明期を過ごした街だ。1990年代のなかばから2000年初め、渋谷にはサイバーエージェント、ディー・エヌ・エー(DeNA)といった、当時のITベンチャー企業が多く拠点を構え、“ビットバレー”と呼ばれた。その時期は、米国でITへの期待が高まり“ドットコム”と名のつく企業なら何でも株価が上昇すると言われたITバブル膨張の時期でもあった。

ITバブルの熱狂の中で、渋谷はわが国のIT企業のメッカとして注目を集めたともいえる。一時、渋谷にグーグルやアマゾンといった米国のIT企業が国内の事業拠点を置いたことも、「渋谷イコールIT企業の多い街」との見方を支えた。それが、若者ファッション情報などの発信地としての渋谷のイメージと融合し、多くの人を渋谷に引き付ける要素になったと考えられる。当たり前だが、その街を訪れる人が増えれば、街は活気づく。それは、企業の進出などを受けて消費や投資が喚起され、域内で生み出される付加価値が増大するということだ。

■オフィス不足で六本木や五反田に企業が分散

しかし、2000年代前半頃からIT企業などが渋谷から六本木などに拠点を移し始めた。その大きな理由は、渋谷のオフィス事情だろう。他の地域に比べ渋谷のオフィス物件は小規模なものが多かった。企業の事業規模が拡大するにつれて、適正な規模のオフィスを構えることは自然なことである。宿泊施設が少ないことの影響もあるだろう。

加えて、近年は渋谷でのオフィス不足から賃料が高騰し、大企業は六本木や目黒に、スタートアップ企業は賃料の低い五反田周辺に拠点を移した。五反田ではフィンテック関連などのスタートアップ企業が連携して一般社団法人五反田バレー(五反田バレー)を設立した。五反田バレーは、わが国のユニコーン企業(企業の評価価値が10億ドル(1100億円程度)を上回る未上場のベンチャー企業)を生み出す拠点となることを目指している。

■“渋谷帰還”は必ず実現させなければならなかった

渋谷から他の街に企業が拠点を移すに伴い、渋谷駅の利用者数も減少した。この状況に東急グループは危機感を募らせてきた。同社は事態を挽回するために渋谷の再開発を進めている。現在の計画では、2022年までに1350億円が投じられる。

渋谷の特徴は、若者が多いことだ。サッカーワールドカップの際に多くの若者が集まるのは、その顕著な例だ。渋谷の「SHIBUYA 109」や原宿などのセレクトショップの存在は、ファッションなどを中心に多くの若者を国内外から引き付けている。それは、もともと渋谷に備わってきた強みといえる。

東急は“若者の街 渋谷”に、最先端のネットワーク・テクノロジーの発信や起業の街としてのイメージを付け加えたい。まさにビットバレーの再興だ。そのためには、多くの人が直感的に「渋谷はITの街だ」と思ってしまうシンボルの存在が欠かせない。

それが、グーグル日本法人の“渋谷帰還”の実現だった。東急がITの要素を取り込んで渋谷再開発を進める上で、グーグルの存在は何としても実現させなければならないものだった。また、東急は渋谷にスタートアップ企業の拠点として使える施設の整備を進めてきた。それは、北京やシンセン、シンガポールに肩を並べるテクノロジー拠点としての街づくりといってよい。

■最先端テクノロジーと文化の発信地へ

人工知能などの開発を進める上で、IT企業は関連するテックカンパニーが多く拠点を置く場所でビジネスを行った方がよい。その考えから、渋谷ではサイバーエージェントなどのIT企業が“シブヤ・ビットバレー”プロジェクトに取り組んでいる。目指すことは、ユニコーン企業の育成や渋谷で働く楽しさを人々に伝えることだ。

渋谷は楽しいと思う人が増えれば、人の往来の増加とともに様々なアイディアが渋谷に集まるだろう。それは、IT先端企業が従来にはない発想を取り込んで、新しい製品やビジネスを創造していくために不可欠な要素である。徐々に、渋谷は最先端テクノロジーと文化の発信地としての性格を備えつつあるようだ。

■シリコンバレーにスタートアップが集まる理由

ただ、そうした取り組みによって渋谷がテクノロジー産業の中心になると断言することはできない。重要なことは、状況が変わっても渋谷がIT企業などから事業の場として選ばれていくか否かだ。

それを考えるキーワードが“集積地”である。集積地とは、何かが集まって積み重なる場所のことをいう。米国のシリコンバレーがITの集積地となってきた背景には、様々な要素がある。世界最先端レベルの研究拠点(スタンフォード大学など)と、金融(ベンチャーキャピタル)の存在は、スタートアップ企業の成長を支えるために欠かせない要素だ。人々の“アニマルスピリット(成功などを求める血気)”の違いもある。

ITを中心に最先端のテクノロジーの実用化を通して成長を目指すことが、シリコンバレーの文化=そこに暮らす人々の生き方になっているといっても過言ではない。それは、経済環境などが変化しても脈々と受け継がれてきたものだ。今後も、その価値観が次世代に受け継がれていくのだろう。

■渋谷が“IT集積地”になるために必要なもの

このように考えると、ビットバレー再興を通して渋谷が国際的に知名度の高いIT集積地となるには、さらなる取り組みが必要だろう。理論的に考えれば、ベンチャーキャピタルなど金融面から起業を支援することは欠かせない。加えて、世界的な研究者や研究・教育機関を招くことも検討されるべきだろう。政府やビットバレー再興を目指す企業が国内の大学などとの連携を強化していくことも考えられる。

東急や国内IT企業がビットバレーの再興を目指すには、それくらいの発想があってよい。スタートアップ支援のための優遇税制を自治体や政府と協議することも考えられる。企業と政府や自治体の連携は不可欠だ。その結果として渋谷で海外のITスタートアップ企業がビジネスを行うようになれば、「ヒト」「モノ(アイデア含む)」「カネ」がそこに集まるようになるだろう。東急やIT企業がダイナミックな発想でイノベーションを目指すことを期待したい。

----------

真壁昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

----------

(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫 写真=時事通信フォト)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング