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流れ星を人工で作る方法が企業秘密のワケ

プレジデントオンライン / 2018年9月25日 9時15分

イーロン・マスクや堀江貴文などの起業家・投資家が興味を示す宇宙産業。日本に世界で初めて、人工流れ星のビジネス化に挑戦する女性経営者がいる。ゴールドマン・サックスに勤めていた彼女が、宇宙ベンチャーをはじめた原点とは──。

■ホーキング博士が教えてくれた宇宙

【田原】岡島さんは人工の流れ星をつくってビジネスにしようとしている。宇宙や星に興味を持ち始めたのはいつからですか?

【岡島】宇宙に興味を持ち始めたのは、中学生のころです。『ホーキング、宇宙を語る』を読んで、宇宙ってすごいなと。宇宙といっても、星座はあまりわかりません。関心があったのは、ビッグバンやブラックホール。私たちが知っている物理の法則を超えた何かがあるというスケールの大きさに魅かれました。

【田原】東大の天文学科にお入りになる。何をやろうとしたんですか。

【岡島】最初は、宇宙がどうしてできて、どうなっていくのかという宇宙論を組み立てる勉強をしたかったんです。でも、理論は本当に頭がよくないとできなくて、私はついていけませんでしたけど(笑)。

【田原】でも、大学院に進んだ。院では何をされたのですか?

【岡島】研究テーマは観測的宇宙論。宇宙論はさまざまな理論で構築されていますが、その確からしさを観測で証明するのが観測的宇宙論です。

【田原】観測したら理論が間違っていることもあるわけだ。

【岡島】たまにそういうこともあります。だいたいは理論を裏付けるデータが出てきますが。

【田原】その分野はどの国が進んでいるんですか。

【岡島】アメリカです。天文学の研究は望遠鏡にお金がかけられる先進国でないと難しくて、中心はアメリカとヨーロッパ、日本です。

【田原】学生時代には起業をしていたそうですね。そのころから起業家になる選択肢も考えていた?

【岡島】学生時代の起業は完全に成り行きです。アルバイトを探していたら、ある会社から「理系だからプログラミングできるでしょ」と言われました。私はプログラミングができないので、仕事を受けて同級生に回していたら、それがけっこう評判がよかった。最初は任意団体でやっていましたが、次第に取引先が大企業や上場企業になってきて、法人格を取らざるをえなくなって。そうした流れで会社をつくったので、もともと起業家になろうと考えていたわけではありません。大学4年生のとき売り上げ1億円までいきましたが、院ではドクターに専念したかったので、その会社からは離れました。

ALE 代表取締役社長 岡島礼奈氏

【田原】院を修了して、ゴールドマン・サックスに入社する。どうして?

【岡島】研究者に向いてなくても、天文学に貢献したい気持ちは強く持っていました。そのときふと思い浮かんだのがファンドでした。天文学などの基礎科学研究は主に公的資金で賄われています。お金がお金を生むところを知れば、公的資金以外の道で自分も何か貢献できるんじゃないかなと思ったのがきっかけです。

【田原】ゴールドマン・サックスではどんなことをしていたのですか。

【岡島】東京のオフィスに勤務して、不良債権や投資案件についてエクセルでデューデリ(デューデリジェンス:資産調査)の資料をつくっていました。楽しかったですが、リーマンショックがあって大量の人が辞めざるをえなくなった。私もそれで退職。在籍は1年くらいです。

【田原】リストラがなければ辞めてなかった?

【岡島】いや、どちらにしても何年か後には辞めるつもりでした。そのころには流れ星をやろうと考えていましたから。

【田原】そこを聞きたい。岡島さんが流れ星に目をつけたのはいつですか。

【岡島】きっかけは獅子座流星群です。2001年は三十数年に1度の当たり年。当時は大学在学中でしたが、千葉の友達に車を出してもらってみんなで見にいきました。

【田原】それで感動して、流れ星を再現しようと?

【岡島】感動したのですが、イメージとは違いました。流星群というからシャワーみたいに降ってくるところを想像していましたが、実際は10分に1個、ポツンと流れる程度。それを見て、同級生たちと、「もっと一気に降ればおもしろいよね」「流れ星はチリくらいの大きさだから、人間でもつくれるんじゃないの」と妄想レベルで話していました。その妄想が頭から離れなくて、いつかやってみたいとずっと考えていました。

■ゴマ粒の大きさでも、明るく光る

【田原】ゴールドマン・サックスを辞めて、次はコンサルティング会社の立ち上げに参加する。流れ星を本格的にやり始めたのはいつからですか。

【岡島】11年にいまの会社を設立しました。本格的に始めたのはそのときからです。スタッフは私だけ。1人からのスタートです。

田原総一朗●1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。本連載を収録した『起業家のように考える。』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

【田原】1人で何から始めました?

【岡島】まずは研究開発です。首都大学東京の佐原宏典教授に協力していただいて、人工流れ星の研究を始めました。

【田原】基本から教えてください。さっき、流れ星はチリみたいな大きさとおっしゃった。そんな大きさで地上から見えるんですか。

【岡島】見えますよ。非常に速いスピードで大気圏に突入すると、ゴマ粒程度の大きさでも明るく光ります。私たちは天然のものより少し大きくて、約1センチの粒を飛ばして流れ星にします。

【田原】大きいからよく見える?

【岡島】単純にそうはいえなくて。粒の大きさよりも、原料に何を使うかが重要で、素材を工夫しています。

【田原】どんな工夫ですか?

【岡島】そこは企業秘密です。宇宙関連の技術は、特許で守っても意味がないんです。仮に真似されても、宇宙でやっていることだから特許侵害の証明が難しい。だから秘密にするしかなくて。

【田原】岡島さんの会社が成功したら、中国とかが真似するんじゃないかな。

【岡島】ありえますが、現実には難しいと思います。日本上空に流れ星を流すときは、オーストラリアから放出して約7000キロを15分で飛んできます。放出の角度と速度が少しでもズレると、流れ星を流したいところに流せなくなる。放出装置には精度の高い技術が必要なんです。粒は真似ができても、放出装置は簡単に真似できないんじゃないかと。

【田原】放出装置?

【岡島】人工衛星に放出装置をつけて、大気圏に向けて飛ばします。私たちはその人工衛星をつくっています。初号機には400粒を載せるので、ぜんぶで400回は流れ星を流せる。1回飛ばして見られる範囲は、約200キロ圏内。関東に飛ばせば、1度に3000万人の人が人工流れ星を見られます。

【田原】それはすごい。3000万人って、日本の人口の4分の1だよ。でも、空が明るい東京はどうだろう。

【岡島】マイナス一等星の明るさなので東京でも十分見られると思います。渋谷のど真ん中でネオンに目が慣れている状態だとわかりませんが……。少なくても千葉や埼玉、神奈川ではよく見えるはずです。

■流れ星で、町おこしをする

【田原】放出装置はロケットで宇宙に運ぶのですか。ロケットも自前?

【岡島】いえ、ロケットは外から調達してきます。

【田原】調達してくるにしても、ずいぶんとお金がかかるでしょう。

【岡島】そうですね。ロケットは、打ち上げの2年前から費用が発生します。人工衛星も部品から調達しなくてはいけないので、億単位でお金がかかる。両方合わせると、人工衛星一基打ち上げるのに十数億円。すでに2号機の準備も始めているのでさらなる投資が必要です。

【田原】そんなにかかるんだ。そんなお金どうやって集めたんですか?

【岡島】いまもまだ集めている途中です。いまのところ個人投資家さんが多いですね。

【田原】個人投資家ですか。科学的な実験として意味があるのはよくわかるけど、これはビジネスにならないでしょう。それでもお金を出すって、岡島さんの説得力がすごいのかな。

【岡島】いや、私たちはもちろんビジネスにするつもりです。それだけじゃなくて、いままで軍事中心だった宇宙空間を、日本のスタートアップがエンターテインメントで平和利用しようとしているのがおもしろいといって応援してくれる投資家さんも多いんです。

【田原】エンターテインメントですか。

【岡島】私たちは天然のものでは見えない景色をつくります。その景色を3000万人の人が見上げている。それってエンターテインメントになると思いません?

【田原】ビジネスになるということを具体的に教えてもらえますか。お金を出すお客さんは誰なの?

【岡島】2パターンがあります。1つ目は、流れ星を直接買ってくれるお客様。たとえば「星降る都市」というようなシティプロモーションをしたい自治体や、開会式などの式典や野外フェスで流れ星を演出に使いたいイベント主催者、あとは園内で星を毎週流したいテーマパークなどが想定されます。すでにいくつか打診いただいているところもあります。

【田原】なるほど。もう1つは?

【岡島】私たち自身がイベント主催者になるパターンです。200キロ圏内のあちこちで、流れ星とコラボして完成するイベントを開きます。アイデア段階ですが、たとえば野外で能をやっている方から、夜桜能みたいにコラボしてみたいという話をいただいたこともあります。

【田原】流れ星を売るとしたらいくらくらい?

【岡島】具体的な金額の話はまだ出ていませんが、ある企業の方から「1ケタ億円ならありかな」という反応をいただいたことはあります。

【田原】ロケットと人工衛星で十数億円とおっしゃっていたから、元は取れる計算ですね。

【岡島】まとめて数十粒という単位になると思いますが、一回20粒として、初号機は400粒積むのでイベント20回は可能です。

【田原】いくつか疑問があります。流れ星を買う目的の1つは集客だと思いますが、200キロ圏内どこでも見られたら、特定の都市やイベントに集客できないんじゃないですか。

【岡島】どこでも見えますが、場所によって見え方は変わります。たとえば花火大会も特等席は有料。それと同じように流れ星もベストスポットができるはずです。

【田原】もう1つ。雲がかかったらどうするんですか。

【岡島】飛行機で見るか、イベントを延期して別の日程に変えるか。人工衛星は在庫を持ったまま地球の周りをぐるぐる回っているので、日程をずらせば流れ星のほうは対応が可能です。

【田原】将来、技術的に改良して単価が下がれば、個人利用もできますか。

【岡島】誕生日プレゼントやプロポーズで流れ星を流せたらすごいですよね。いまロケット競争が始まっていて、さらにイーロン・マスクさんが挑戦しているロケットのリユースが確実にできるようになると、打ち上げのコストは大きく下がるといわれています。もちろん私たち自身もコストも下げたい。3号機は数千粒を搭載予定。将来は単価を下げて、一般の人に流れ星を届けたいです。

【田原】具体的に最初の流れ星はいつごろの予定ですか。

【岡島】18年度中にJAXAのロケットに乗せて初号機を打ち上げる予定です。安全審査が3回あって、最後の審査が18年8月。これに通ると乗せてもらえます。ただ、流れ星を流すのは20年春の予定。まだ少し先ですね。

【田原】えっ、打ち上げてすぐ流すわけじゃないんですか?

【岡島】いろいろ事情がありまして。JAXAのロケットは相乗りで、地上500キロくらいのところに打ち上がります。一方、流れ星を放出するのは地上400キロ周辺。宇宙空間でモノを放出した例がないので、国際情勢に配慮して宇宙ステーションのある400キロ周辺で放出することになりました。500キロから400キロまでは自力で降ります。500キロでも薄く大気があるので、パラシュートみたいなものを広げて大気抵抗を使って徐々に高度を下げるんです。それに1年かかる計算なので、20年の春になってしまう。

【田原】そんな計算ができるんですか。

【岡島】計算はできますが、不確定要素も多い。たとえば太陽活動が活発だと降りやすくなりますが、じつはいま太陽の活動があまり活発ではない時期です。

■JAL、ファミマのコラボの先

【田原】1回目の放出は見ものですが、どうやってみんなに知らせるんですか。壮大な実験なのに、僕はいままでまったく知らなかった。

【岡島】オフィシャルパートナーのJALとコラボして流れ星遊覧飛行をやったり、確定ではないのですが、同じくオフィシャルパートナーのファミリーマートの店舗に行くと人工流れ星のイベント情報がわかるといった仕掛けも考えています。

【田原】初号機が無事に400粒を流したとします。その後はどうする?

【岡島】人工衛星自体を巨大な流れ星としてショーにするのもいいし、実験スペースにして、新しい素材などの研究開発に利用してもらってもいいと考えています。

【田原】あくまで流れ星にこだわる?

【岡島】流れ星以外で、オーロラをつくるのもおもしろいかな。とにかく宇宙をエンタメ利用するというのがまず1つあります。それに加えて科学の役にも立ちたい。じつは流れ星が降る高層大気は、研究がまだあまり進んでいないんです。高層大気のデータが取れると、天気予報の精度が上がるなど、いろいろなことを社会に還元できる。そちらでもぜひ貢献していきたいです。

■岡島さんから田原さんへの質問

Q. 宇宙に興味ありますか?

僕にとって宇宙は遠い問題でしたね。子どものころ宇宙飛行士に憧れたという人も多いけど、アポロ11号が月面に着陸したとき、もう大人でしたから(笑)。あえていえば、僕にとって宇宙は哲学的な存在。たとえばビッグバンという現象に物理学的な関心はありません。しかし、もし本当にそういう現象があるなら、神の存在なんて信じられなくなってしまう。

いま堀江貴文がロケットの開発をしていますが、じつは彼と宇宙旅行の契約をしています。彼のロケットが完成したら、それに乗って地球の周りを回るんです。僕は何でも自分の目で見たい。実際に宇宙に飛んだら、何か哲学的な啓示が得られるかもしれないと期待しています。

田原総一朗の遺言:僕にとって宇宙は哲学だ

(ジャーナリスト 田原 総一朗、ALE 代表取締役社長 岡島 礼奈 構成=村上 敬 撮影=宇佐美雅浩)

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