1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

大谷翔平の「目標」にダメ出しする理由

プレジデントオンライン / 2018年9月26日 9時15分

突出した能力でファンを熱狂させる米大リーグ・大谷翔平。高校時代にその実力を培ったとされるユニークな目標達成ツール。それを考案した「張本人」に、ビジネスの場での活かし方を語っていただいた。

■“大谷マンダラ”にダメ出しする理由

「オープンウィンドウ64(OW64)」は、私が考案した教育法、いわゆる原田メソッドで最初に使うツールです。大リーガー・大谷翔平君が高校1年生のときに書いたOW64が「大谷マンダラ」などとメディアで取り上げられました。

大谷君のOW64に「すごい!」「よく書けている」と皆さん驚きますが、まだまだ改善の余地があり満点ではありません。高1の作品としては素晴らしいですが、正式な書き方の基準としてはギリギリ合格といったところでしょうか。どこがどうダメなのかは追って述べることとし、まず原田メソッドについてお話ししましょう。

原田メソッドは、OW64のほか長期目的・目標設定シート、日誌、習慣形成のためのルーティンチェック表をツールとするセルフマネジメント法。目的・目標を達成していく過程によって人間力を養い、成果・パフォーマンスを確実に発揮できる自立型の人材・組織をつくるのが狙いです。

20年間の教師経験に基づいて、私が独自のメソッドを開発したのは、今から15年ほど前ですが、スポーツ選手ばかりでなく、むしろ企業のほうが導入に積極的で、国内で約430社、延べ8万6000人がこれを活用しています。さらに近年は海外からの引き合いも多く、世界19カ国に広まっています。

これほどまでに原田メソッドが普及した背景には、求められる人材とその教育のあり方が、世界的に大きく変化していることがあります。

従来の日本の学校教育は、知識の暗記を重視し、点数や偏差値、順位で人を評価してきました。しかし、知識や情報が即座に得られるIТ時代の今は、知識の蓄積より、知識や情報をどう使いこなすかのほうが重要になります。つまり知の編集・編纂によって問題解決を図ったり、新しいものや仕組みを生み出す力がより重視されるのです。

私は、前者の教育を過去思考インプット型、後者を未来志向アウトプット型と呼んでいますが、世界の教育先進国はすでにアウトプット型にシフトしています。立ち遅れている日本も、2020年の大学入試改革をひとつのターニングポイントと見なし、アウトプット型の教育へシフトし始めています。

原田メソッドはまさしくそのアウトプット型の教育法であり、海外で広く認められている理由もそこにあります。

■人の頑張りを後押しするものとは何か

目標を設定しても達成できない。あるいは目標達成のために何をしたらよいかわからないという方が多いと思います。それは、そもそも目標の立て方に問題があるからです。

「未来の目的・目標の4観点」という図をご覧ください。目的・目標を「有形=形のある」「無形=形のない」軸と「自分」「社会・他者」軸とで4つに分割してあります。

一般に目標を立てるときは「自分」にとっての「形のある」目標が突出しがちです。「売り上げ20%アップ」などがそれに当たります。

しかし、「自分・有形」の目標には、これと対を成す「社会・他者」への「無形」の目標が存在します。たとえば「業界を元気にする」とか「同僚や部下の励みにする」といったものです。

この2つが明確になれば、「自分・無形」「社会・他者・有形」のほうも、たとえば前者は「仕事に自信と誇りを持つ」、後者は「お客様の暮らしを楽しくする」という具合に見えてきます。

今の50代以上の世代は「自分・有形」の目標一本でやってきました。お客様の満足より売り上げ優先、家族が仕事の犠牲になるのもやむなしといった猛烈社員がモデルでした。

しかし、現在は企業の社会的責任が問われ、若い世代は自分の仕事の社会的な価値を重く見ますし、仕事と同様に家族も大事にしたいと望んでいます。

目標を立てられずに悩んだり、目上の人から「夢がない」などと叱られた経験のある人は、その目上の人も含めて「自分・有形」の目標のみに目を向けていたのだと思います。そもそも、「自分・有形」の目標一本では、人間そう頑張り切れるものではありません。むしろ、家族・同僚やお客様の喜び、さらに仕事にやりがいを感じる感情が、人の頑張りを後押しするのです。

「自分・有形」の目標一本では、目標を達成できなかったときの心のダメージも大きいのですが、4観点の目標設定だと、仮に目標が達成できなかったとしても、そこに向上の足跡を確認でき、自分を肯定的に受け止めることができます。この自己肯定感は、人が困難を克服しようとするとき、とても重要な役割をします。4観点で目標を立てることが大切なのは、それゆえです。

さて、OW64です。マンダラチャートとも呼ばれるこのワークシートは、4観点の目標を自身(または自身を含めた集団)の指針とし、自らの思考と行動の動機づけをしていくものです。ここではほかのツールは省いて、OW64のつくり方のみを説明しましょう。

■マンダラの構成に大切な「時計回り」

OW64は、8×8=64のマスに、目標と行動目標を書き込んでいきます。図は、ある外食チェーンの店長たちによるOW64です。

まず、シートの中心に、あなた(またはあなたを含む集団)が、なしえたい目標をひとつ書きます(図中1)。

次に、その真上のマスから時計回りに、目標の実現に必要な要素を8つのマスに書き込みます(図中2)。これは真言密教においてマンダラを構成する際の、大切な回り方です(後述)。この8マスの要素を「基礎思考」と呼びます。基礎思考で好ましいのは、先に述べた4観点の目標がバランスよくちりばめられていることです。加えて、考え出すときは8つだけで済ませず、10個、12個と余分に考えて、その中から重要度の高いものを選び、優先順位をつけて8マスに落とし込むことです。

次にこの8つの要素を、放射状に伸ばした先の9マスの中心に写し、その達成のために行う行動目標を、同様に時計回りに残りの8マスに書き込んでいきます(図中3)。

この8×8=64の行動目標を「実践思考」といいます。実践思考とは、その言葉を聞くと行動やその場面がイメージできる表現で、数値目標や期日を加えるなど、できるだけ具体的な行動目標にすることが肝心です。

冒頭の“大谷マンダラ”にダメ出しするのは、この行動目標の具体化という点がまだ十分でないからです。あいまいな単語や、抽象的な行動目標に終わっている部分がまだ多いのです。

ここでは「~する」「~させる」など、言葉を行動として表現することが重要。人の心理がより能動的になるからです。

ちなみに、大谷君の高校3年生最後のOW64は、非の打ちどころのない100点満点のマンダラでした(非公表)。彼は日本ハム時代もOW64を活用し、おそらくロサンゼルス・エンゼルス入団後も続けていて、故障者リスト入りした今は、再起を目標としたOW64でその実現に邁進しているはずです。

■グループで、より真価を発揮する

OW64に酷似する真言密教のマンダラは、人間の思考を図形化したものだそうです。チベット僧が真ん中に書くテーマは「世界平和」。瞑想の中でマンダラの構成を考え、日々の修行の中で行動に移し、順番に開いてゆくことで真理に到達する。その聖なる図がマンダラであり、前述の時計回りも含めた構成上のルールがあるようです。

OW64も、自分では気づいていない夢や願いを掘り起こし、形にするものです。夢や願いをかなえる心の地図と言っていいでしょう。これに基づく詳細な設計図が長期目的・目標設定シートであり、その成果を確認するツールが日誌とルーティンチェック表です。

OW64は、もちろん1人で取り組んで効果があるツールですが、グループやチームでやると一段と大きな効果を発揮します。皆で、個々がつくったOW64を見せ合うのです。

よく最初の8マス、基礎思考が埋まらないという方がいますが、悪いことではありません。空白がある分だけ、まだその方に掘り起こされていない伸びしろがあるということです。考えを外に出すのに不慣れで、気づきが足りないだけというケースが多いのです。

そういうときは「ほかの人のシートで、いいなと思う言葉があったら、もらいなさい」とアドバイスします。試験ではありませんから、ほかにいいものがあれば、どんどん取り込んでいく。これを「知の移植」と呼びます。

グループの場合、個々のOW64を見せ合いつつ、グループ全体のOW64をつくります。すると、互いに徹底してパクることで「知の移植」が活発に起こり、目標とそれを実現するためのプロセスが共有されていきます。それがグループの目標達成力を高めます。

なでしこジャパンが世界一になったのも、ラグビーの日本代表が強くなったのも、この目標とプロセスの共有がなされていたからこそ。企業が関心を持つのも、相応の魅力があるからです。1度試してみてください。あなたがまだ気づいていない自分の願いと成すべき行動が、マンダラに描き出されるはず。あとは実践あるのみです。

----------

原田隆史(はらだ・たかし)
原田教育研究所社長
1960年、大阪市生まれ。公立中学の陸上競技部をたびたび日本一に導いた「原田メソッド」で注目。著書に『一流の達成力』(共著)ほか多数。
 

----------

(原田教育研究所社長 原田 隆史 構成=高橋盛男 撮影=浮田輝雄)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください