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樹木希林の死に様が"カッコよかった"ワケ

プレジデントオンライン / 2018年9月19日 9時15分

2013年11月26日、ファッション誌「VOGUE」の授賞式に出席した女優の樹木希林さん。バラ柄のワンピースは40年以上前に夫の内田裕也さんにプレゼントされたものだという。(写真=時事通信フォト)

俳優の樹木希林さん(本名・内田啓子)が9月15日に死去した。75歳だった。樹木さんは2005年に乳がんの手術を受け、その後、全身にがんがあると公表していた。緩和ケア病棟や在宅医療で、進行がんの痛みの治療をしている廣橋猛氏は、樹木さんについて「格好いい死に方をされた」という。その一方で「樹木さんのような死に方は、備えがあればだれでもできる」とも話す。格好よく死ぬために必要な「3つのこと」とは――。

■誰だって樹木希林さんのようにカッコよく死ねる

数々の映画、ドラマ、CMなどで活躍された樹木希林さんが亡くなりました。存在感抜群の演技だけでなく、生き方から歯に衣着せぬ物言いまで、多くの人の心に残る方でした。

5年前に全身がんであるという告白をされるも、それからも変わらぬ様子で次々と映画などに出演され、「本当に末期がん患者なのだろうか」「全身がん告白は彼女なりのジョーク?」「体調が悪いといっても、彼女はまた飄々と仕事復帰するに違いない」などと思わずにはいられませんでしたが、お別れの日は突然やってきました。

訃報を耳にして、樹木さんは女優としても素晴らしかったけれど、死に方もまたカッコよかったなぁと思わずにはいられませんでした。そう感じた方は多かったのではないでしょうか。

では、どうすれば樹木さんのようなカッコよい最後を迎えることができるのでしょうか?

■1.最善を期待しつつ、最悪に備える姿勢をもつ

樹木さんは、以前から「人間はいつか死ぬ生き物である」と繰り返し発言されていました。人はいつか死ぬ。当たり前のことですが、皆さんは本当にそのことを認めているでしょうか。

考えてみれば当たり前のことでも、いざ年をとって老いを感じたり、なんらかの病気になったりしたとき、どうせ人はいつか死ぬのだからと割り切ることができるでしょうか。そんなに簡単にできるわけがありません。では、どのように認めればいいのでしょうか。

樹木さんは、「がんになって死ぬのが一番幸せだと思います。片づけしてその準備ができるのは最高だと思っています」とも発言されていました。がん患者になったことで、いつか死ぬということをリアルに考えることができ、そのために死に向けての準備ができるようになったというのです。

がんは日本人の第1位の死因であり、大切な人の命を奪う憎むべき病です。一方で、がんは心臓病のように突然死する病ではありません。そのため、本人だけでなく周りの人も、死に向けて準備できるのです。

■がん患者は亡くなる1~2カ月前まで元気に過ごせる

もうひとつ、がんについてお知らせしたい特徴があります。がん患者は亡くなる1~2カ月前まで元気に過ごすことができるのです。図にがん患者がたどる体力の軌跡を示しました。図をみてわかるように、ギリギリまで自分のやりたいことができるのです。

がん患者の死までの経過のイメージ(図版作成=筆者)

ただし最後は急激に悪化します。事前の準備が無いと、本人も周囲もショックが大きく、悔いを残すことにもなりかねません。

樹木さんは、いつ死ぬかは分からなくても、いつかそのときがくることを受け止め、いつ死んでもいいような生き方をされてきました。そのような心境になるのは簡単なことではありませんが、「最善を期待しつつ、最悪に備える」という心構えは、まねすることができるはずです。

「最善を期待する」とは治療が効果を発揮して、長生きできることを期待するということです。治療をあきらめる必要はありません。しかし死は必ずやってきます。「最悪に備える」とは、死に備えて準備をしておくという意味です。

■2.自分の死に方について考え、話し合っておく

樹木さんは、かつて「畳の上で死ねれば上出来」と語っていました。そして、その言葉の通り、自宅で家族に見守られながら亡くなられました。人の死に方はさまざまであり、病院で亡くなられる方もいれば、自宅で最期を迎えられる方もいます。どちらがいいかは人それぞれ、環境や価値観によっても異なります。ただ、樹木さんは、自ら自宅で亡くなることを希望し、それを実行されました。

死に方について前もって考えておかないと、急に体調が悪化したとき、自身で納得のいく死に方とはならない可能性が高くなってしまいます。

そのためには自分の希望を、家族などの周囲の人たちに、あらかじめ伝えておくことが大切です。心に中にしまっておくだけでは、いざそのときがやってきたとき、周囲に正しく伝えられないかもしれません。また、事前に伝えて相談しておくことは、家族にとってもあなたが死を迎えることの準備となるのです。おそらくはこのような話し合いがあったからこそ、樹木さんのご遺族も、本人の希望を最期まで支えられたのだと思います。

■3.人生において最も大切なものを知る

樹木さんはあるとき「もう治療はやめにする」と宣言されました。「ひとつひとつの欲を手放して、身じまいをしていきたいと思うのです」とも語っていました。詳細な病状はわかりません。治療の選択肢はまだ残っていたのかもしれませんし、無理な治療はしないほうがよい病状だったのかもしれません。

老いてくると、または病が進行してくると、人生の残り時間は限られてきます。昔はいろいろなことを両立できていたとしても、死期が迫ってくると体力的にそれは難しくなります。

たとえば、本来がん治療は働きながら受けられるものですが、体調が悪くなってくると両立は厳しくなってきます。そのようなとき、どちらか片方を優先し、もう片方をやや犠牲にする判断に迫られます。仕事よりも治療が優先という判断で休職される方も少なからずいます。

■「仕事を優先し、治療をセーブする」という判断もある

一方で、自分のやり遺した仕事を完成させることを優先し、治療をセーブする判断をされた方もいます。この選択肢は、治療と仕事だけに限りません。たとえば、趣味の時間や家族や愛する人と過ごす時間なども選択肢となるでしょう。

私が考える「いい死に方」をされてきた患者さんは、いずれもこの選択をしっかりとされてきた方ばかりです。限られた時間と体力の中で、自分の人生で最も大切なことを明確に判断され、その人らしい人生の締めくくりの時間を過ごされました。樹木さんも、おそらくは治療に明け暮れるよりも、女優としての仕事をできる限りやり遂げる道を選ばれたのではないでしょうか。

ここでもう1つ大切なのが、この価値観を理解して支えてくれる医療者との関わりです。1人の患者さんを紹介します。

■ダンスの発表会のため、治療を休んだ女性のケース

ある進行がんに対する抗がん剤治療を受けている方でした。趣味がダンスで定期的な練習や発表会をとても楽しみにされていました。しかし抗がん剤治療が長期化し、体力的には厳しくなっていました。

廣橋 猛『素敵なご臨終 後悔しない、大切な人の送りかた』(PHP新書)

あるとき、患者さんが目標としていたダンスの発表会が予定されていました。「どうしても、この発表会はやり遂げたい」「私には次の発表会があるかわからない」。患者さんが主治医に相談したところ、抗がん剤治療の延期を提案されました。「だって、あなたにとってはダンスの発表会がなにより大切でしょう。無理に治療して発表会が台無しになったら取り返しがつかない。治療は休んで、発表会が終わってからまたやればいいんですよ」。

主治医も患者さんが大切にしていることを理解し、自分らしく生きるための支援を提案したのです。このとき忘れてはいけないのが「痛みの緩和」です。この患者さんはがんの転移で、痛みを抱えていましたが、適切な医療用麻薬を使用することで、支障なくダンスに取り組むことができました。

恐らくは樹木さんが最期まで女優として生きることができたのも、こういった彼女らしい人生を尊重して支え、痛みの緩和を十分に行う医療者との関わりがあったからだろうと想像します。

■「素敵なご臨終」のために必要なこと

樹木さんのように、カッコよく死ぬためには、次の3つのことが大切です。

「最善を期待しつつ、最悪に備える」
「自分の死に方について考え、話し合っておく」
「人生において最も大切なものを知る」

私はこのように迎えた最期のことを「素敵なご臨終」だったと振り返ります。「素敵なご臨終」とはすなわち、患者さんのつらさが十分に緩和され、ご自身の生き方について納得し、そして患者さんのご家族も安らかな気持ちで見送ることができるような最期です。

緩和ケア医として3000人以上の患者さんの死に関わった経験を踏まえ、この「素敵なご臨終」についてもポイントを書籍にまとめました。本稿とあわせてご覧いただけましたら幸いです。

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廣橋 猛(ひろはし・たけし)
永寿総合病院がん診療支援・緩和ケアセンター長、緩和ケア病棟長
2005年、東海大学医学部卒。三井記念病院内科などで研修後、2009年、緩和ケア医を志し、亀田総合病院疼痛・緩和ケア科、三井記念病院緩和ケア科に勤務。2014年から現職。病棟、在宅と2つの場での緩和医療を実践する「二刀流」の緩和ケア医。「周囲が患者の痛みを理解することで、つらさは緩和できる」が信条。日経メディカルOnlineにて連載中。著書に『どう診る!? がん性疼痛』(メディカ出版)がある。

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(永寿総合病院がん診療支援・緩和ケアセンター長、緩和ケア病棟長 廣橋 猛 写真=時事通信フォト)

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