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東京五輪期間ヤバいのは有楽町線・京葉線

プレジデントオンライン / 2018年10月2日 9時15分

午前8時台の混雑が激しい東京の地下鉄。緩和は進むのか。(時事=写真)

■午前6~9時の間、乗車率200%の電車は50%以上増える。

2018年7月9日から8月10日までの約1カ月、首都圏では東京都の旗振りで「時差Biz」の取り組みが行われた。800社以上の参加企業が、時差通勤や在宅勤務を導入。鉄道会社は早朝を中心に臨時列車を走らせた。

小池百合子東京都知事は時差Bizを働き方改革の1つに位置付けているが、もう1つ、大きな目的がある。それは2020年東京オリンピック・パラリンピック期間中の混雑対策だ。いまの状態で五輪を迎えると、ラッシュ時に首都圏の鉄道網が乗客増に耐え切れず、都心の主要な乗換駅で大混雑が発生する可能性が高いのである。

首都圏の毎朝の通勤客は約800万人。一方、五輪の観客は、もっとも多いと想定される日に会場の8割が埋まったとして、65万人と考えられる。800万人に65万人が加わっても、10%増にも満たない。あまり影響はなさそうに見えるが、実はそうでもないのである。

五輪の観客増は鉄道網にどれほど影響を与えるのか。観客のうち半分は自宅から、半分は宿泊施設から観戦に向かうと仮定して、シミュレーションを行った。

その結果、やはり朝の時間帯が要注意であることがわかった。午前6~9時の間、乗車率200%の電車は50%以上増える。ちなみに乗車率100%は座席が埋まり、吊り革やドア横の棒を乗客が使っている状態で、200%となると、ほぼ身動きできない。

混雑する場所は2パターンある。まず危険なのは、競技場の最寄り駅と、そこにアクセスする路線。この混雑の主役は観客だ。競技場の最寄り駅では、新国立競技場や東京体育館に近い千駄ヶ谷駅は確実に人でごった返す。また、競技場が多い臨海部にアクセスするりんかい線やゆりかもめ、埼玉スタジアム2002につながる埼玉高速鉄道は、1日の輸送量が2倍になる。

ただ、これらの路線はもともと利用客がそれほど多くない。競技の開始と終了に合わせた観客の波に注意すると、むしろ怖いのは、新木場駅でりんかい線に乗り換えられる、有楽町線や京葉線だ。両線は普段から通勤客が多いうえに、有楽町線は便利なので都内各地から観客が集中し、京葉線は沿線に宿泊施設が多い。どちらもかなりの混雑になる。

■乗降客増加、東京駅10%、新宿駅20%、永田町駅20~30%

もう1つ、通勤客が普段から乗り換えに使う都心の主要な駅が危ない。シミュレーションによると、朝ラッシュのピークに合わせて観客が現れ、短期間であるが、東京駅は約10%乗降客が増す。同様に新宿駅は約20%、永田町駅は20~30%増える。

増える乗客の中には、混雑した駅の利用に不案内な人が多い。それなりに流れている高速道路もちょっとしたトラブルで車間距離が詰まって渋滞が始まるように、駅でも人と人との間が詰まって歩く速度が落ちると滞留が始まってしまう。大規模な乗換駅では普段から改札やエスカレーターの付近で滞留が起きているが、五輪中の朝はそれがホームや駅構内に広がる可能性がある。ホームが混雑して電車の乗り降りに手間取ると、電車が遅延し始める。首都圏の鉄道網は大混乱だ。

これらの混雑に対して、駅や路線を増やすなどのハード面の対策をとるのは現実的ではない。長期的に日本の人口は減っていくのに、五輪中のピーク時のためだけに巨額の投資をするのは費用対効果が見合わないからだ。行うべきはソフト面での対策である。

競技場最寄り駅とそこにアクセスする路線の混雑に対して考えられる対策は、まず場所の平準化、つまり競技場にごく近い駅だけでなく、周辺駅から歩いてもらうことだ。たとえば新国立競技場は、新宿駅も最寄り駅として利用する。酷暑の中、約20分歩いてもらうためには、暑さ対策を万全にする、推奨する最寄り駅と競技場までの間に関連イベントを開いて寄り道をする楽しみを増やすなど、さまざまな工夫が必要ではある。しかし、うまくいけば競技場周辺の混雑は緩和される。

そして、時間の平準化も重要だ。たとえば競技開始前にイベントを行う、チケット番号で入場時間を制限する、競技終了後、屋台などを出して立ち寄れるようにするといった対策ができれば、競技の前後に集中する観客を分散できるはずだ。

問題は乗換駅のほうである。競技場周辺で平準化に成功しても、乗換駅での混雑緩和効果は限界がある。乗換駅では五輪観客側ではなく、通勤客側で対応する必要があるだろう。具体的には、混雑が予測される日は休業する、混雑駅を利用しないよう自宅やサテライトオフィス勤務をお願いする。単純に聞こえるかもしれないが、これ以上に効果的な手段は考えられない。

ただ、五輪中の休業は対症療法的である。理想的なのは、ビジネスパーソンが働き方を変えて、その結果として時差通勤をしたり、通勤そのものをなくしてしまうことだろう。そうすれば五輪期間中だけでなく、恒常的に混雑が緩和されて、生活のクオリティも高まっていく。

■週の半分をリモートワーク、通勤自体をなくすという案

さて、これから検証されるであろう時差Bizの成果についてもふれておきたい。このような取り組みを短期間の結果で評価するのは難しい。しかし時差Bizという目新しい名前がついてはいても、通勤時刻だけに注目すると、何十年も前から取り組んでいる時差通勤である。これまで時差出勤によってラッシュ時の混雑は緩和されたとはいえず、名前を変えたからといって、急に成功するとは思えない。

どうしてこれまで時差通勤が浸透しなかったのか。最大の理由は、当の乗客が時差通勤するメリットを感じられないからだろう。

時差通勤の主流は出社時間を前倒しする早朝通勤だ。後ろにずらすのと違い、前倒しは時間に限界がある。いつも午前8時に家を出る人なら、せいぜい7時がいいところだ。路線や乗る駅にもよるが、7時台では座れないことが多い。8時台より混み具合はましであるものの、睡眠時間を1時間削るだけの価値があるのかどうかは微妙なところだ。自分が前倒しで電車に乗ると、いつも乗っている電車の混雑が緩和されて、ギリギリまで布団で眠っている人が結局のところ、得をするというジレンマもある。これでは疲れた体に鞭打って早起きするのがバカらしくなるに違いない。

これよりは、時間を後ろにずらす時差通勤を提唱したほうがまだいいだろう。後ろなら、ピークから1時間遅くなっただけで座れる可能性は高くなるし、そもそも前倒しと違って限界がなく、2~3時間遅れでもいい。

しかし、このように時間をずらして出社したとしても、社内での仕事の連携、勤務時間の算定、成果の評価など企業の働く環境を整えていかないと、「個人が勝手にやっているだけ」になってしまう。

時差通勤はメリットがわかりにくい。そして時差通勤がうまくいかないのは、そもそも何時に出社すると楽なのかという狭い枠組みで考えているからである。自分たちの働き方のクオリティをいかに高めるのかという大きな枠組みで考えれば、仕事の仕方が変わり、通勤の在り方が変わってくる。たとえば職種によっては週の半分をリモートワークにして、通勤自体をなくすというのもいいだろう。働き方の全体像から入り、結果として通勤が楽になるという流れで思考しないと、時差通勤は定着しないと思われる。

東京の鉄道の混雑は異常である。ヨーロッパの研究論文に、「最近、電車の混雑がひどい。なんと座れなくなったのだ」という一節があった。私たちは混雑に慣れてしまい感覚が麻痺しつつあるが、乗車率200%のようなありえない空間に身を置いていることを、もう1度思い出したほうがいいい。無理のない生活をするために、いまこそ働き方そのものから見直すべきである。

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田口 東(たぐち・あずま)
中央大学理工学部教授
1951年、千葉県生まれ。東京大学工学部計数工学科卒業、工学博士。三菱重工業、東京大学、山梨大学を経て、中央大学理工学部教授。交通ネットワークを対象とする数理解析に興味を持つ。

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(中央大学理工学部教授 田口 東 構成=村上 敬 写真=時事)

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