トヨタ式5W1Hはなぜを5回繰り返す
プレジデントオンライン / 2018年9月25日 9時15分
※本稿は、桑原晃弥『トヨタ式5W1H思考』(KADOKAWA)を再編集したものです。
■「掃除をしても、気づけば元通り」を解決したい
個人でも職場でも「いつの間にかものが増えていく」経験のある人は多いのではないでしょうか。ある時、「このままではダメだ」と断捨離や片づけに挑戦し、「ああ、これですっきりした」とほっとしたのもつかの間、それから半年、1年とたつうちに、ものは少しずつ増え、以前とあまり変わらない状態に戻ってしまうというのはよくある話です。
結果、「ものが増えるのはしかたがない、乱れてきたらまた整理整頓をすればいいや」と開き直ることになります。こうした繰り返しは個人ならともかく、企業の現場で整理整頓が「年中行事化」するのは褒められたことではありません。
できるなら「いつの間にかものが増える」ことも、「整理整頓の年中行事化」も避けたいものです。
ここで、トヨタ式5W1H思考を取り入れたスーパーマーケットの事例があります。スーパーマーケットといえば、かつては好調な売上げを誇っていたにもかかわらず、近年は競争の激化や景気の低迷といった影響もあり、売上げは伸び悩み、減収が続くケースも少なくありません。
A社も同様です。グループの数字は決して悪くないものの、スーパーの業績が伸び悩み、何とかかつてのような好調を取り戻せないかと考え取り組んだのが、トヨタ式を利用した店舗改善でした。
半年間、トヨタ式のコンサルタントに依頼してさまざまなノウハウを教わったのち、A社の社員数名がチームを組んで、店舗の改善に取り組みました。
■汚れるのにも、まっとうな理由がある
改善チームが最初に赴いたある店舗は、かつてはA社でもトップクラスの売上げを誇っていましたが、最近では競争の激化により減収が続いていました。チームが最初に取り組んだのが在庫の整理整頓です。社員総出でバックヤードの整理を行いました。
すると、「一体いつから置いてあるのだろう」という在庫がたくさんあり、在庫をどかすと床一面に埃(ほこり)がたまっていました。床の色が明らかに他と違う場所もあり、何年もの間、そこに置かれたままで、決して動かされることがなかったというのが一目瞭然でした。
もはや箱を開けたところで売り物になるとは思えませんが、こうした「決して売れることのないもの」もお金を払って仕入れたのはたしかであり、いわば「お金がそこに積まれていた」ことになります。
在庫には当然のようにお金がかかっています。在庫だから平然と積み上げ、埃をかぶったままにしておけますが、決して好ましいことではありません。
■徹底的に「Why?」を集める
そこで、「なぜ使わない在庫がこんなにたまるのか?」「なぜ好ましくない状態が放置されているのか?」を、パートを含む全従業員に問いかけました。徹底的に「Why?」を集めたのです。すると、次のような答えが返ってきました。
「自分たちの売り場は1階なのに、バックヤードは4階にある。重い荷物を持って4階まで上がったり、降りたりするのは大変だ」
「在庫の置き方が決まっていないから、ものを探すために時間もかかる」
「何がどこにあるかが一目でわかるようにしてほしい」
「新しく入った在庫を手前に積む人がいて、奥のものを出すためにいったん手前のものを動かして、ものを出した後、また積み直すという余計な手間がかかる。だからつい、奥の古い在庫は置きっぱなしになってしまう」
どれも現場で働く身としては、「それはそうだよな……」と思えるものです。
■年中行事化させない仕組み作り
A社はこれまでも在庫の削減を実現するために、整理と整頓を心がけてきました。年に2回程度は整理と整頓を行っていましたが、A社とトヨタ式の間には大きな違いがありました。
A社は整理と整頓は行うものの、「整頓された状態を維持するための仕組み」が欠けていたのです。そのため、いったんはきれいになるものの、新しく入った在庫については決まりごとがなく、つい置きやすい場所に置き、古い在庫が奥へ奥へと押しやられていたのです。
さらに次なる「Why?」として「なぜ整頓された状態を維持できないのか?」を調べたところ、理由は「忙しさ」にあることがわかりました。
担当者も、新しい在庫より古い在庫が手前に来るほうがいいことは当然わかっていましたが、忙しいとつい「取りあえずここに置いておいて、あとで直すことにしよう」と手前に置いてしまうのです。
しかし、現実には「あとで直そう」が実行に移されることはほとんどありません。
こうしたことを繰り返すうちに、せっかくの整理と整頓はぐちゃぐちゃになり、半年、1年とたった時に「さて、そろそろ整理と整頓をやるか」となってしまうのです。
大切なのは整理と整頓を年中行事にしないこと。そのためにはきちんとルールを決め、二度と整理と整頓を繰り返さなくてもいいようにすることです。
チームは不要な在庫を抜き出して、空いたスペースに定番商品や広告商品といった分類ごとに置き場所を決め、どの商品がどこにいくつあるかが見えるようにしました。
在庫が見えないと複数発注などのロスを生んだり、せっかくの売れ筋商品を在庫があるにもかかわらず売り損なうというミスを生みやすいからです。
■最初に狙った以上の結果が得られる
さらにチームは回転の速い商品は売り場の近くに置くことで、取りに行くとか、探す、運ぶといったムダを排除しました。また、当日納品された商品をどこにどのように置くかもきちんと決めることで置き方の混乱を防ぐようにしました。
こうした改善を積み重ねた結果、在庫が4分の1も削減されただけでなく、「探す」「運ぶ」「戻す」といったムダな作業も大幅に削減されることになりました。
仕事として当たり前のようにやっていることの中にはたくさんのムダが含まれています。A社はトヨタ式5W1H思考で課題解決に取り組み、汚れない職場を手に入れたのみならず、たくさんのムダを省いたことで店の売上げ、利益ともに増加に転じさせることができました。
「Why?」を粘り強く繰り返し、見つかった真因に対策を打っていくと、最初に狙った以上の結果を得られるのが、トヨタ式5W1Hのすごいところです。みなさんも、身の回りの「しつこい課題」を、トヨタ式5W1H思考で解決してみてはいかがでしょうか。
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経済・経営ジャーナリスト
1956年、広島県生まれ。慶應義塾大学卒。業界紙記者などを経てフリージャーナリストとして独立。トヨタ式の普及で有名な若松義人氏の会社の顧問として、トヨタ式の実践現場や、大野耐一氏直系のトヨタマンを幅広く取材、トヨタ式の書籍やテキストなどの制作を主導。著書に『トヨタだけが知っている早く帰れる働き方』(文響社)、『トヨタ 最強の時間術』(PHP研究所)、『スティーブ・ジョブズ名語録』(PHP文庫)、『1分間バフェット』(SBクリエイティブ)、『伝説の7大投資家』(角川新書)など。
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(ジャーナリスト 桑原 晃弥)
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