1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

博物館で見る親子が"ちょっと心配"なワケ

プレジデントオンライン / 2018年11月4日 11時15分

Getty Images=写真

せっかく出かけるなら、この機会を利用して、頭をよくしたい。でもお金はかけたくない──。そんな悩みを抱えているかた必読! 1日1000円以下で楽しみながら集中力、思考力、発想力を高める方法やスポットを紹介します。

■“遊び”の経験がものをいう

外遊びは、子どもの「頭をよくする」という点で2つのいいところがあります。

ひとつは、「目に見えないもの」を思い浮かべる力がつくこと。算数や数学の図形問題を解くときには、目に見えない「補助線を引く力」を求められることがあります。しかし、私は大学受験のための数学を指導しながらいつも思っていました。「補助線を引けば問題を解けることはわかる。でも、定評のある参考書も有名予備校の講師も、どうすれば目に見えない補助線が頭に思い浮かぶのかについては教えていないのではないか」と。

なぜ補助線が思い浮かばないのかについて突き詰めて考えると、ある仮説に行き当たりました。それは「その力を培うには“遊び”の経験がものをいうのではないか」ということです。

石を標的めがけて投げるにしても「こういう軌道をとるだろう」と投げる瞬間に思い浮かべます。バスケットボールやサッカーをしていれば、ボールを持っている選手が次にどこへパスを出すかというところから、数手先までボールの流れをイメージします。かくれんぼをしていても、「彼はいつも土手に隠れるけど、今日は裏をかいて小屋の中にいるのではないか?」と、見えない相手の動きを予測します。

■集中力がある人は、何が違うか

重要なポイントは、それを心の底から楽しむこと。脳科学者の茂木健一郎先生もおっしゃっていますが、ある作業を生き生きと繰り返し行うと脳は伸びます。つまり、生き生きと目に見えないものを想像する経験が、補助線を思い浮かべる力を伸ばすことにもつながるわけです。

この力は算数に限らず、物事の「本質」や「要点」をとらえたり、相手のいいたいことを過不足なく把握したり、アイデアを考えたりする場面でも活きてきます。“ない”ものを頭の中にくっきり“ある”ものとして描ける人は社会に出てからも活躍できるのです。

■川遊びに子どもを連れていくと、目の色や表情が変わる

外遊びのもうひとつのいいところは、人生に差がつく「没頭力」「集中力」が磨かれる点です。子どもに「期末テストの前くらいは集中して勉強しなさい」といくらいっても、集中できない子はたくさんいます。一方、集中できる子は、それまで何かに没頭した経験があるからスイッチを切り替えられるのです。

写真=iStock.com/Hakase_

子どもが集中できるのは、やはり“遊び”の中です。周囲の声も音も聞こえないくらいのめり込んでいる状況が一番いい。川遊びに子どもを連れていくと、目の色や表情が変わります。親御さんは「うちの子がこんなにいい顔をするなんて」と驚きの声を上げるほどです。

外遊びは、基本的にお金がかかりません。近所の公園だって十分です。ダンゴムシが丸まる様子を観察したり、飛んでいる虫を追いかけたり。子どもを夢中にさせる要素はいくらでもあります。交通費や時間をかける余裕があるなら、川へ出かけることをお勧めします。川は遊びの素材が無限にあります。水の中にチャプチャプと足を踏み入れるだけでも面白い。ツルツルすべるところを歩けばスリル満点。鉄砲水や増水などに気をつければ、おだやかな天候の日は家族そろって楽しめます。

外遊びとは対照的ですが、博物館や記念館へ足を運ぶのもお勧めです。著名な科学者の中には「修学旅行で見学した施設で刺激を受けたことが科学者を目指すきっかけになった」という方もいるそうです。

私も小学校の修学旅行で初めてプラネタリウムを見たときの衝撃が忘れられません。田舎に住んでいましたから、夜空に浮かぶ満天の星など珍しくありませんでした。しかしプラネタリウムという洗練された場所で大きな刺激を受けたわけです。北極星の探し方もそこで習ったことを鮮明に覚えています。

■医学部に行かせたいから「人体」展に子どもを連れていく

公的な博物館の常設展なら「高校生以下は無料」というケースも少なくありません。国立科学博物館や東京国立博物館などは、一日中、ヘトヘトになるまで楽しめます。ありとあらゆる切り口で展示されているので、何かしら子どもに引っかかるものが見つかることは大きな魅力です。親はぐったりしても、子どもは「また行きたい!」となるでしょう。マニアの人がこぢんまりとやっている博物館も見逃せません。その博物館をつくった人や、陳列している人の想いがあれば、子どもの心を動かすなにかに出合えるでしょう。

博物館などで見かける親子を見ていると、ちょっと心配になるケースがあります。それは、「勉強のために連れてきました」という雰囲気を醸し出す家族。親子げんかが始まり、子どもは「帰りたい」といい始める。もちろん将来、医学部に行かせたいからと考え、「人体」展に子どもを連れていくことは間違いではありません。大切なのはそこから先です。

「子どもの役に立つから」ではなく、親自身が「面白いから行こう」となるかどうかがポイントなのです。「人間の観察力ってすごいね!」などと、一緒に感激して、喜べるかどうかが、その後に子どもが伸びるかどうかの分かれ目。親の喜びが、子どもの可能性を広げるのです。

自然探検編
冒険、虫、植物、石、釣り、星……キャンプには全部詰まっている

■見えるのに釣れない魚をどう釣るか

自然探検を楽しむなら、「川上に向かってゆっくり歩く」ことがおすすめです。子どもにとっては大冒険感があります。「待って、待ってー」などと声を上げて、川の水に足を濡らしながら進むのが面白いんですね。川辺には、いろいろな虫がいます。植物も自生しています。石も落ちています。それらを事前に図鑑などで調べておいてもいいでしょうし、写真を撮っておいて家に帰ってから調べてもいい。場所によっては、上流からたくさんの化石が流れ着いているところもあります。見つけられたら一生の思い出になるでしょう。

川辺を歩き回ったら、今度は夕食をかけたゲームです。そのルールとは「釣れなかったらご飯のおかずはなし」というもの。このルールがあることによって、子どもの本気度が変わります。没頭力、集中力が全然違うのです。「魚が見えるのに釣れない。では、どうすれば釣れるか」と、見えない部分への想像力も鍛えられます。

もし釣れたら大喜び。私も経験がありますが、大人だってそれが忘れられないほどの思い出になるくらいですから、子どもにとっては一生ものです。釣れなくてもいい。親子で「醤油めし」を食べるのもおつなもの。家族の一体感を感じることができるうえ、後々何度もその思い出を語り合うことになるでしょう。アウトドアの経験があまりなければ、オートキャンプ場から始めてもいいでしょう。

夜になったら、地べたにゴロリと寝転んで空を見上げます。親としては、北極星と北斗七星の位置関係など、星に関する入り口のところだけでも押さえておきたいところ。「天の川は北から南へ流れていて、ベガ、デネブ、アルタイルが夏の大三角形をつくっているんだよ」などと説明してあげられればベストです。子どもの目には、そうした親の姿がかっこよく映りますから。

星といえば「流れ星」を見たいという子どもはたくさんいます。これを叶えるのは意外に簡単。星がよく見える場所であれば、20~30分、夜空を見上げていればひとつは見られる可能性が高いです。

天体望遠鏡がなくてもかまいません。月のクレーターや土星の輪を見れば、たしかにインパクトがありますが、それよりも、最初は肉眼で星座を探したり、流れ星に願いを込めたりして一緒に発見を楽しんでみてはいかがでしょうか。

国立科学博物館、かつやま恐竜の森、アクアマリンふくしま、さいたま緑の森博物館、科学技術館=写真提供

(1)国立科学博物館/国立の唯一の総合科学博物館
東京都台東区上野公園7-20●入場料 一般・大学生 620円、高校生以下無料
「『生き物』に関する情報が集まっています。何度見ても飽きない常設展示に加え、毎回異なる『特別展』の規模は全国トップ級です」
▼行く前に読みたい!
『科学のアルバム』シリーズ/著者は巻による●あかね書房●価格は巻による/「科学に含まれるほぼ全分野を網羅。興味を持ったテーマから世界を広げてください」


(2)かつやま恐竜の森/本格的な発掘体験ができる!
福井県勝山市村岡町寺尾51-11●入場料 無料
「恐竜好きは必見のスポット。化石掘りの体験(有料)は本格的で、道具は借りられます。併設の福井県立恐竜博物館(有料)も大迫力の展示が満載」

▼行く前に読みたい!
『小学館の図鑑NEO』シリーズ/著者は巻による●小学館●価格は巻による/「図鑑としてはもちろん、欄外コラムも面白い。DVDがついているものも多いので、音や動きの知識を得ることができます」


(3)アクアマリンふくしま/裸足で生き物に触れる!
福島県いわき市小名浜字辰巳町50●入場料 大人 1800円、小学~高校生 900円
「磯、干潟、浜辺を再現した屋外エリアがタッチプールとなっており、裸足で入って生き物に触れられる。水族館の裏側を見学できる無料のバックヤードツアーもおすすめです」

▼行く前に読みたい!
『自然図鑑─動物・植物を知るために』/さとうち藍 著、松岡達英 イラスト●福音館書店●1600円+税/「生物に出合うための方法と、観察するための方法を解説。本当にそうなんだろうかと屋外へ出て、生き物を観察したくなります」


(4)さいたま緑の森博物館/古きよき里山を歩く
埼玉県入間市宮寺889-1●入場料 無料
「『となりのトトロ』の舞台のモデルの1つといわれる狭山丘陵の雑木林や湿地を含む里山を歩けます。園路には樹木クイズがあり、約20種類の樹木について知ることができます」

▼行く前に読みたい!
『今森光彦の昆虫教室 とりかた・みつけかた』/今森光彦 著●童心社●1750円+税/「わかりやすい、見やすい、面白い、の3つがそろっている虫好きのための本です」


(5)科学技術館/参加体験型の展示を楽しもう
東京都千代田区北の丸公園2-1●入場料 大人 720円、中学・高校生 410円、4歳以上の子ども 260円
「身の回りのことが知りたい、実験をしたい、となったらここがおすすめ。実験イベントも豊富で、身の回りの技術・テクノロジーのしくみを理解しやすい」

▼行く前に読みたい!
『センス・オブ・ワンダー』/レイチェル・カーソン著、上遠恵子 訳●新潮社●1400円+税/「神秘さや不思議さに目を見はる感性を失わないでほしいという著者の願いが伝わってきます」

地方歴史編
「本丸を攻めるぞ!」という視点ひとつで具体的に観察できる

■なぜ、こんなことを人間はするのか

歴史など人文系については2つの視点から考えてはいかがでしょうか。ひとつは「歴史の面白さを知る」、もうひとつは「社会課題について思考する」。

前者については、『城の攻め方・つくり方』(中井均監修/宝島社)などの本を参考に、城の本丸を攻めるつもりで見学するのがお勧めです。私も子どもを連れて実践してみました。盛り上がります。城は全国各地に存在していますので、アクセスしやすいのも魅力。お金だってあまりかかりません。

城に着いたら「本丸を攻めるぞー!」と声を上げてスタートしましょう。子どものワクワク感が高まり、ノリノリになります。「そんな歩き方をしていたら、物陰から敵が出てきて後ろから斬られちゃうよ」などと会話も弾みます。

城には区切られた空間が複数あることによって、侵入する敵を少しずつ減らす構造になっている。石垣の勾配で敵の侵入を防いだり攻撃しやすくしたりしているなど、イラストで見るのとは違い実感を伴うので、歴史を身近なものとしてとらえられるようにもなります。「攻める」というひとつの視点を持つだけで、城を具体的に観察するようになるわけです。一方、「立派なお城だね」と漠然としかいわない親に連れられていっても子どもの印象には残りません。

■「あらゆるものには功罪の両面がありうる」

高学年なら「人間は、なぜこんなことをしてしまうのか」という社会課題と向き合うことも大切です。たとえば「水俣病資料館」を訪ねるのもいいでしょう。大切なのは、善悪という二値的な判断をすることではありません。「あらゆるものには功罪の両面がありうる」という認識を養うことです。

悪人と見られている人だって、本当は、お金を儲けて家族の喜ぶ顔が見たいと考えていただけかもしれない。子どもがいろいろな方向から、多角的に考えるようになれば、精神的にも大人へと成長するきっかけになるでしょう。「どうして?」という想いが痛切に心にひっかかり、“考える”ことの大本が育まれるからです。そうした経験の積み重ねは、読解力や思考力を伸ばすうえでも欠かせません。

中学生になると、子どもも忙しくなって一緒に出かける機会も減ります。「これが一緒に出かける最後のチャンス」という覚悟で、親から子へ、問題意識の持ち方や身の回りにある物事の面白がり方を伝えてほしいものです。

彦根観光協会、野島断層保存館、関ケ原観光協会、長岡市、田野畑村教育委員会、水俣病資料館=写真提供

(1)彦根城/国宝天守を誇る名城!
滋賀県彦根市金亀町1-1●入場料 一般 800円、小・中学生 200円
「城下にはのちに大老として名を馳せる井伊直弼が失意の日々を過ごした屋敷「埋木舎」がありこちらも必見です。1人の人物をいろんな角度から見るという経験をするためにもおすすめです」
▼行く前に読みたい!
『城の攻め方・つくり方』/中井 均 監修、かみゆ歴史編集部 編集●宝島社●830円+税/「必ずしも有名でない城跡にも工夫と存在理由があるとわかり、城の見方が深まります」


(2)野島断層保存館/実際の断層をそのまま保存
兵庫県淡路市小倉177●入場料 大人 700円、中学・高校生 300円、小学生 250円
「阪神・淡路大震災の震源にある記念館。実際の断層を目の当たりにし、災禍を乗り越えて復興した人間の営みの偉大さに感じ入るきっかけになるでしょう」
(3)関ケ原/合戦を追体験しよう
岐阜県不破郡関ケ原町の中央部一帯(古戦場跡地)●入場料 無料
「風景自体が歴史の風韻を帯びていて、ただならぬ何かを感じさせてくれます。各陣地から見下ろす関ケ原盆地の光景は昔からさほど変化がないと思われるので、当時の武将や将兵になったつもりでたたずんでみては」

▼行く前に読みたい!
『地図で訪ねる歴史の舞台 日本』/帝国書院編集部 編集●帝国書院●2000円+税/「都市や古戦場などをピックアップした記事が、ストーリー感満載で旅心を刺激します」


(4)河井継之助記念館/幕末の風雲児の生き方とは
新潟県長岡市長町1丁目甲1675-1●入場料 大人 200円、高校生・大学生 150円、小・中学生 100円
「河井継之助は開戦には反対の立場でしたが、交渉決裂とともに武士という立場上やむなく徹底抗戦を選び劣勢続きの旧幕府軍の中で気を吐きました。歴史の陰陽、その両面を感じることができます」

▼行く前に読みたい!
歴史漫画『タイムワープ』シリーズ/チーム・ガリレオ 著 イラストは巻による●朝日新聞出版●各1200円+税/「戦国時代の合戦に参加するなど、冒険心を満たすしかけがいっぱい。大人が読んでもハマります」


(5)水俣病資料館/負の歴史から学ぶ
熊本県水俣市明神町53●入場料 無料
「発展には功罪の両面があります。周辺にはチッソの工場排水口あとも残っていて、負の歴史を追体験できます」

▼行く前に読みたい!
『はっけん! NIPPON(にっぽん)地図と新聞で見る47都道府県』/グループ・コロンブス構成・文 古谷充子 絵●PHP 研究所●3200円+税/「情報があえて雑多に羅列されていて、眺めているだけでわくわくしてきます」


(6)田野畑村民俗資料館/歴史の脇役にもドラマあり
岩手県下閉伊郡田野畑村田野畑128-9●入場料 一般 300円、高校生・大学生 200円、小・中学生 150円
「三閉伊一揆(1847、1853年)の資料を展示している資料館。この一揆は、農民側の主張が全面的に認められたという意味で画期的なものでした。歴史の脇役がひっそりと、しかし重厚なドラマを展開していました」

▼もっと学びたい人には
『琉球戦国列伝─駆け抜けろ! 古琉球の群星たち!』
/上里隆史 著、和々 イラスト●ボーダーインク●1500円+税/「沖縄を知る入門書としてうってつけ。これを入り口にして県内各地の城跡などを巡ってみましょう」


『世界のともだち』シリーズ/著者は巻による●偕成社●各1800円+税/「各国の小・中学生を主人公にして、日常風景を写真とともに紹介。世界に目を向ける第一歩としておすすめです」

----------

高濱正伸(たかはま・まさのぶ)
1959年、熊本県生まれ。「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を主軸にすえた学習塾「花まる学習会」代表。東京大学農学部卒、同大学院修士課程修了。『子育ては、10歳が分かれ目。』など著書多数。
 

----------

(「花まる学習会」代表 高濱 正伸 構成=小澤啓司 撮影=尾関裕士 写真=Getty Images、iStock.com 施設、本の解説=川幡智佳、狩野 崇 写真提供=国立科学博物館、かつやま恐竜の森、アクアマリンふくしま、さいたま緑の森博物館、科学技術館、彦根観光協会、野島断層保存館、関ケ原観光協会、長岡市、田野畑村教育委員会、水俣病資料館)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください