石破氏起用を避ける安倍首相のお友達政治
プレジデントオンライン / 2018年9月27日 9時15分
■各紙は「石破氏を閣僚には起用しない方針」と報じる
次の焦点は人事である。自民党総裁選で連続3選を果たした安倍晋三首相は10月初旬、内閣を改造し、新たな自民党役員を決める。
各紙の報道によると、内閣改造では麻生太郎副総理兼財務相と管義偉官房長官の留任を決めている。これに加え、日米の閣僚級による貿易協議を担当している茂木敏充経済再生相、北朝鮮問題を抱える河野太郎外相、ロシア経済協力相を兼務し北方領土問題解決にあたっている世耕弘成経済産業相の3閣僚を留任させる。
党役員人事では岸田文雄政調会長と二階俊博幹事長を続投させる方針だという。
問題は石破茂元幹事長の人事である。
いまのところ、安倍首相は石破氏を閣僚には起用しない方針だと報じられている。総裁選中に憲法改正や経済政策を巡って考え方の違いが明確になり、石破氏の起用による内閣不一致という事態を避けたいのだという。
しかしこれは表向きの理由にすぎない。政策面で多少の違いがあるのは当然だ。安倍首相は総裁選で己に立ち向い、そして肉薄した石破氏を恐れているのではないか。
政治家の器の大きさは、考え方で相反する人物をどこまで起用できるかで決まる。いま安倍首相という政治家の鼎の軽重が問われている。
■党員票の45%を取られる「健闘」を許した
永田町では、安倍首相は総裁選で勝ったとはいえ、石破氏に“健闘”を許したという見方が強い。
安倍首相は国会議員票では80%という票を得ながら、37都道府県の党員票では55%しか獲得できなかった。
前回の2012年の総裁選で石破氏は党員票の55%を獲得し、安倍首相の出鼻をくじいた。今回も45%と安倍首相に迫っている。
この結果、石破氏を「ポスト安倍の最右翼に躍り出た」と評価する向きもある。安倍首相は石破氏を黙らせることができなかった。石破氏は安倍首相にとって目の上のタンコブなのだ。
安倍首相は9月28日に国連総会が開かれた米国から帰国し、10月1日の月曜日に党役員人事を決め、2日に内閣改造人事を行う見通しだ。
人事の調整は難航するだろう。安倍首相を支持する自民党5派閥を中心に入閣を期待する国会議員は多いのに反し、ポストは限られているからである。
■「安倍政治はすでに限界と言わざるを得ない」
9月21日付の新聞各紙は、前日に行われた自民党総裁選について一斉に社説を掲載した。今回はこのうち朝日新聞と読売新聞の社説を読み比べてみたい。
朝日社説は大きな1本社説で、「3選はしたものの」「安倍1強の限界明らかだ」との見出しを掲げる。安倍首相を嫌う朝日らしさが滲み出ている。書き出しも手厳しい。
「1強の弊害に真剣に向き合わず、異論を排除し、世論の分かれる政策も数の力で強引に押し通す。そんな安倍政治はすでに限界と言わざるを得ない。さらに3年の任期に臨むのであれば、真摯な反省と政治姿勢の抜本的な転換が不可欠である」
「すでに限界」「転換が不可欠」とまで言い切っている。社説としては、かなり強い調子だと言っていいだろう。
次に朝日社説は「『品格』なき締めつけ」との小見出しを付け、こう書く。
「表の論戦を極力避けようとする一方で、水面下では首相を支持するよう強烈な締めつけが行われた。『〈石破さんを応援するなら辞表を書いてやれ〉と言われた』。石破派の斎藤健農水相は首相陣営から、そんな圧力をかけられたと明かした。『官邸の幹部でもある国会議員から露骨な恫喝、脅迫を受けた』と、フェイスブックに書き込んだ地方議員もいた」
斎藤農水相の発言に対し、安倍首相は「もしそういう人がいるんであれば、名前を言ってもらいたいですね」と応じた。斎藤氏は、結局、圧力をかけた人物の名前を公表しなかったが、この内閣改造で農水相を交代させられる見通しだという。一体ウソをついたのはどちらなのだろうか。
■「『権力は腐敗する』というのが歴史の教訓」
朝日社説はさらにこう書いている。
「『権力は腐敗する』というのが歴史の教訓だ。それだけに、強い力を持った長期政権においては、謙虚に批判に耳を傾け、自省を重ねる姿勢が欠かせない。危惧するのは、首相にその自覚がうかがえないことだ」
「権力は腐敗する」。同感である。権力の腐敗を食い止めることができるのは、国民の目であり、世論である。その世論を追い風に権力に立ち向かうのが、ジャーナリストだ。
「引き続き政権を担う以上、その前提として求められるのが、問題発覚後1年半がたった今も、真相解明にほど遠い森友・加計問題に正面から取り組むことだ」
「首相に近い人物が特別扱いを受けたのではないかという疑惑。そして、公文書を改ざんしてまで事実を隠蔽する官僚。国会は巨大与党が首相をかばい、行政監視の責任を果たせない」
「こんな政治をたださねば、悪しき忖度もモラルの低下も歯止めが利かなくなる。その悪影響は社会の規範意識をもむしばみかねない。問題のたなざらしは許されない」
今年、朝日新聞は公文書改竄のスクープで新聞協会賞をものにした。うぬぼれることなく、ジャーナリズムの役割を果たし続けてもらいたい。
■「『安倍1強』への不満があることを認識せよ」
次に読売新聞の社説。「長期的課題で着実な成果を」と大見出しを掲げ、小見出しで「信頼回復へ謙虚な姿勢で臨め」とくぎを刺す。
この見出しを見る限り、安倍政権擁護の読売社説にしてはかなり中立だ。同じ保守だからといって安倍政権を持ち上げるだけでは社説としての意味も価値もない。このことに読売社説も気付いてきたのかもしれない。
「国会議員票は8割を得て圧勝したが、党員票は6割に届かなかった。『安倍1強』への不満があることを十分に認識し、首相は党内融和に努めることが大切だ」
この部分も肯ける。「安倍1強」の勢いに乗って周囲に圧力をかける姿勢に反省を求めているからだ。
さらに前述した石破氏について言及する。
「石破茂・元幹事長は地方や中小企業重視を掲げ、善戦した。今後も一定の発言権を維持しよう」
ここもその通りだ。安倍首相や安倍政権はもはや、石破氏を無視することはできない。
■「ポスト安倍」についてどう考えているのか
続けて読売社説は「長期政権の総仕上げを迎える。首相は自らの責任を自覚し、これまで実現できなかった課題に取り組むべきである。社会保障制度改革や財政再建、憲法改正などが重要なテーマとなろう」と指摘する。
そのうえで「企業の業績や雇用状況は改善したが、好調な収益を賃上げにつなげ、拡大した個人消費が業績を押し上げるという『経済の好循環』は実現していない」と訴え、「アベノミクスの成果と問題点を検証し、弱点を補って経済を安定的な軌道に乗せる。それによって、財政への過度な依存が改善され、金融緩和の出口戦略を描くことが可能になる。その環境を整えることが首相の責務である」と主張する。
いずれも納得できる。そのうえで読売社説は最後に「次世代の人材育てたい」(小見出し)と主張する。
「首相には『ポスト安倍』の育成という課題もある。有為な人材に内閣や党で枢要なポストを任せ、経験を積ませねばならない」
「次世代を担う人材が切磋琢磨することで、自民党の活力は高まる。それが政権浮揚につながろう」
「ポスト安倍」の育成は重要な課題だ。そのためには、目の前の石破氏の人事をどう扱うかが焦点になる。読売社説は石破氏の人事についてもっと突っ込んでほしかった。安倍首相は「『安倍1強』への不満」を認識できているだろうか。来週の人事に注目したい。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)
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