惨敗した石破氏が意気軒昂になれる裏事情
プレジデントオンライン / 2018年9月26日 18時15分
■石破氏の表情は、敗者のそれではなかった
石破氏は敗北の翌々日の22日、地元鳥取県倉吉市で支援者を集めマイクの前に立っていた。
「選挙は終わった時から次の選挙が始まる。いつ何があってもいいようにしておく」
語気を強めて語る石破氏の表情は、敗者のそれではない。拍手する出席者も憔悴した様子は感じられない。
総裁選の結果をおさらいしておきたい。議員票は安倍氏が329票、石破氏が73票。党員票は安倍氏が224票、石破氏が181票。合計は安倍氏553票、石破氏が254票だ。安倍氏は3分の2以上の票を得て、石破氏は安倍氏の半分も取れなかった。議員票にいたっては得票率18%にとどまった。
総裁選に初めて挑戦する議員なら「善戦」と言ってもいいだろう。例えば今回の総裁選で出馬を目ざし、かなわなかった野田聖子総務相が「254票」を取れば健闘だ。しかし、石破氏は6年前の総裁選にも出馬しており、本気で首相の座を目指して活動していた。それで善戦といえる得票とはかけ離れている。
■政権寄りメディアも「石破氏健闘」を強調
にもかかわらず、マスコミ各社の報道は石破氏に好意的だ。総裁選の結果を報じる21日朝刊の見出しは「石破氏善戦 地方票の45%」(朝日新聞)「石破氏善戦 党員票45% 議員票も20上積み」(毎日新聞)、「石破氏健闘『次』狙う」(読売新聞)、「石破氏『ポスト安倍』望み」(産経新聞)、「石破氏 目標超す地方票」(日経新聞)など。
安倍政権に批判的な朝日、毎日の両紙が石破氏に好意的になるのは分かるが、安倍氏寄りの論調が目立つ読売、さらには総裁選期間中に石破氏を批判する記事を何度か掲載した産経まで石破氏に温かい見出しの記事が並ぶ。
おそらく、各紙が事前予測で、石破氏の得票がもっと低くなると予測していたため、整合性を取るために「石破氏健闘」と書かざるをえなかったのではないか。そんな「業界の事情」で、石破氏は得したといえる。
■石破派が「干される」のは、むしろ好都合
総裁選後の動きで石破氏にとって好都合なことがもう1つある。10月早々に行われる閣僚・党役員人事で、安倍首相が石破派を冷遇する方針を固めている点だ。「干される」のが、なぜ好都合かなのか。
総裁選で敗れた者にとって一番つらいのは、陣営を切り崩されることだ。安倍氏が石破氏の了解なしに石破派議員を閣僚に起用するようなことになると、石破氏はつらい。自分のグループが分断されるからだ。
安倍氏は当初、3選後の人事では、石破派から「1本釣り」することも念頭に置いていた。最有力だったのが斎藤健農水相を留任させる案だった。元経産官僚で政策通の斎藤氏の力量については、安倍氏も高く評価している。
だが、斎藤氏は総裁選期間中、「石破氏を応援するなら(大臣の)辞表を書いてからにしろ」と安倍陣営から恫喝まがいの圧力を受けたことを暴露した。この「告発」の結果、安倍陣営の強引な手法に世論の批判が高まったが、当然ながら安倍氏はじめ安倍陣営は、斎藤氏に対し怒り心頭だ。斎藤氏が留任する可能性は限りなくゼロになった。選挙期間中の経緯を考えれば留任を打診されても断るだろう。
おかげで石破氏は、自分の派閥を切り崩される心配がなくなった。安心して党内野党、反主流派のリーダーの役割を演じ続けることができる。
■党内からは「次は3年後ではない」の声
次の総裁選に向けて動き出すとしても、3年は長い。気の遠くなるような話だ。しかし、自民党内では「『次』は3年後でない可能性は十分ある」との声が、かなりある。
安倍氏は残る3年の任期で憲法改正や日朝・日ロ外交などに力を注ぐつもりだが、政権浮揚できる材料はあまり残っていない。制度上、4選はできないことから、次第にレイムダック(死に体)化していく懸念もある。
そんな情勢で来年夏に参院選を迎える。そこで敗北するようなことになれば、安倍降ろしの風が一気に吹く。
■国民に忘れられないように、党内で嫌われすぎないように
安倍氏の求心力の根源は「選挙に強い」ことだった。実際、首相に返り咲いた12年末以降、衆院選、参院選で勝利を重ね、安定政権を築いた。負ければ、一気に失速する。「参院選の敗北」は、改憲勢力が参院で3分の2を割り込むことを意味しており、憲法改正が遠のく。悲願の実現が絶望的となったら、政権はもろい。
そうなった時「ポスト安倍」候補の1番手は、間違いなく石破氏になる。それは参院選後の1年後に、くるかもしれない。
石破氏は「惨敗」したことによってポスト安倍のポジションを得つつある。そう考えると冒頭紹介した22日の「いつ何があってもいいようにしておく」という発言が重みを増す。
ただ反主流派が存在感を示し続けるのは難しい。ポストに恵まれないだけに騒がないと目立たない。逆に、何でも政権批判ばかりしていると、党内から、うとんじられてしまう。
国民に忘れられないように、そして党内で嫌われすぎないように。石破氏が反主流派のリーダーを演じるのは簡単な仕事ではないのも事実だ。
(プレジデントオンライン編集部 写真=時事通信フォト)
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