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貯金2400万を取り崩す母娘"起死回生案"

プレジデントオンライン / 2018年9月29日 11時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/middelveld)

78歳の母と49歳娘の2人暮らし。母は老人ホームへの入居を望むが、娘は引きこもり気味の無職で、施設に入れば家計が維持できない。どうすればいいのか。相談を受けたファイナンシャル・プランナーが提案した「活路」とは――。

■「私が老人ホームに入っても、長女の生活は大丈夫ですか」

ファイナンシャル・プランナーの私は、ひきこもりの子どもを持つご家族からの相談を多く受けています。その中で、ひきこもりの子が今後、就業できなくてもなんとか生活していけるようにアドバイスをしていますが、逆に、私が教えられることもあります。

例えば、山本(仮名)さん母娘です。父親は3年前に他界し、現在は78歳の母親と49歳の長女の2人暮らし。長女は仕事をしておらず、母親の老齢年金と父親の遺族年金(合わせて年205万円)、そして貯蓄(2400万円)を取り崩しながらの生活です。他に兄弟姉妹はおらず、自宅(持ち家)もあるので、父親が遺してくれた貯蓄で何とか生活はできていますが、そろそろ母親に介護が必要な状況になってきています。そこで、「老人ホームに入居しても、その後の長女の生活に支障はないか」という相談を受けたのです。

もともと長女は就職した後、結婚し、親としても一安心という状況でした。しかし、子どもができないうちに夫婦関係は破綻し、離婚しました。その後は仕事もうまくいかなくなり、転職を繰り返すようになってしまいました。

40歳になって実家に戻ってきたものの、折からの不況で就職活動はうまくいかず、無職の期間が長くなりました。そうなると、すっかり自信をなくし、就職活動にも身が入りません。50代を目前に、気がはやるばかりで、何も手につかない状態になってしまいました。まったく外出できないわけではないのですが、最近は家に閉じこもりがち。メンタルクリニックには通院していますが、障害年金に該当するほどではありません。それだけに、経済的には厳しい状況です。

■貯蓄2400万円を取り崩しながらの生活

<山本家(仮名)の状況>
母親:78歳。年金収入が月10万円。そろそろ介護が必要になっている。
長女:49歳。無職。離婚、退職をして、実家に戻る。無職期間が長引く。
・父親は3年前に他界。他に兄弟姉妹はいない。
・貯蓄:2400万円。持ち家に2人暮らし。

私は、ご家族からうかがった情報をもとに、将来の状況を推測し、家計のシミュレーションを行います。お子さんがひきこもりや無職の場合は、お子さんの平均寿命まで試算します。仮にお子さんが働けなくても、生活費に窮することなく生涯をまっとうできるかを確認するためです。

もちろん、親としては、立ち直って就職してほしいでしょうし、本人もそれを望んでいます。そうなれば悩みは解消に向かいますが、私は、「最悪の状況」になっても家計に支障がないかを見ていきます。

■長女が74歳となる25年後までに貯金は底をつく

山本さん母娘の希望は、母親が老人ホームに入居するというものでした。今はそれほど母親に介助の必要はありませんが、いずれ要介護度が高くなれば長女の負担は大きくなります。たとえ就職できても、介護の負担で仕事が続けられなくなるのではないか、と母親は心配しています。

裕福というわけではありませんが、持ち家と2400万円の預貯金があります。母親が老人ホームに入居して、毎月の費用がそれほど高くなければ、長女は仕事をしなくても自宅で生活できるのではないかと考えているようでした。しかし、シミュレーションをしてみると、それは厳しいことがわかりました(母親は91歳で他界、2人暮らし時の支出は月31.8万円、老人ホームの費用は月16.8万円、長女一人暮らし時の支出は月15万円、として試算)。

シミュレーションでは、母親の生活費については問題ありません。しかし、14年後に母親が91歳で他界した場合、長女が74歳となる25年後までに貯金は底をつくことが予想されます。まったく収入がなく、自分の老齢年金と親の遺してくれた貯蓄だけで生活していくのは困難です。

長女の生活を考えると、さらに多くの貯蓄が必要です。自立した人が入居するケアハウスであれば、月々10万円程度の負担で入居できるところもありますが、現在の状況ではもう難しそうです。

「入居費用が比較的安い特別養護老人ホームは、要介護3からが対象です。それまではなんとか自宅で頑張って、要介護3の認定を受けたら、すぐに入居希望を出すのがよいでしょう。特養は人気で、順番待ちをしている人も多いですが、最近は入りやすいところもあります」

■母親を自宅介護したら長女が90歳まで貯蓄がもつ

私はできるだけ費用がかからない方法を提案しました。その時、長女が言いました。

「私が介護をやって、ずっと家で暮らすのは無理なんでしょうか? 母親の介護ならなんとかできます。正直、今から慣れない仕事をするよりも介護のほうが、私もやれると思います」

思いがけない発言に、私はシミュレーションをやり直しました。今度は、介護保険での居宅サービスを利用しながら、自宅で暮らしていく場合です。介護サービスで賄えない部分は長女が介護します。現在の生活費に、介護保険の自己負担とその他の介護費用を上乗せします。

この場合、老人ホームと自宅で2人が別れて暮らすより安上がりです。シミュレーションでは、長女が90歳になるまで貯蓄がもつことがわかりました。母親が老人ホームに入居するケースと比べ、16年も貯蓄が長持ちする計算です。

■長女「母の介護を仕事と考えることはできないでしょうか?」

ただしシミュレーションでは、あくまで統計に基づいた数値を使います。そのため、多くの人の平均的な状況が反映されます。しかし、実際は個々のご家庭で状況は異なるわけです。親孝行のつもりで介護を引き受けても、やがて長女に無理がかかるのではないかと心配しました。私はこう言いました。

「これはあくまで平均費用を基にした計算上のことです。介護の費用は終わってみてはじめてわかるもので、自宅で介護するほうが高くつく場合もあります。介護の程度が重くなってから、介護疲れで施設を探すという人も少なくありません」

これに対し、長女はポツリと言いました。

「早く就職しなきゃっていうプレッシャーのほうが苦しいんです。母の介護を仕事と考えることはできないでしょうか?」

言われてみれば、確かにそうです。自宅での介護には給料がありません。しかし、自宅で介護をすることで支出を抑えることができれば、収入を得るのと同じ効果があります。必ずしも、就職していなければ仕事をしていない、というわけではありません。

母親は、長女が介護をしてくれるという気持ちはうれしい一方、本音では就職してもらいたいと考えているようでした。私は、母親の介護状態が重くなったときに長女が耐えられるかが心配で、その場は「慌てずに考えてみましょう」ということでおさめました。

■娘はヘルパー研修へ「人と話をし、明るくなってきました」

後日、母親に様子を聞くことができました。

「介護の技術を身につけると言って、娘はヘルパーの研修に行っています。毎日出掛けて、周りの人と話をすることで、明るくなってきたようです。介護は求人が多いっていうから、このまま就職しないかと、私は思っているんですよ。娘が就職したら? その時は、私は老人ホームに入りますよ。娘に収入があれば、大丈夫ですよね」

長女は、研修で得た技術で母親の介護をするのか、就職するのか、それはまだわかりません。しかし、少なくともなかなか就職できずに引きこもり気味であったのが、前向きな気持ちになってきたのは確かなようです。

(ファイナンシャルプランナー 村井 英一 写真=iStock.com)

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